**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1019回配信分2023年11月06日発行 グランドデザインのない小手先の対応ではダメ 〜業績の悪い中小企業と同じ〜 **************************************************** <はじめに> ・9月の景気ウォッチャー調査の結果が出て、数か月ぶりに景気判断が悪化し ているという気になる結果が出ている。コロナ禍が第5類へ移行して以降、 ずっとこの指数が50を超えて良かったのだが、この9月の調査結果では指数が 50以下になり悪化したと言える。確かに5月の連休から夏くらいまでは、海外 からの観光客が増えて大いに観光業界などは潤ったはずだ。京都市内も、以前 に比較して大型の観光バスが走り、観光地の駐車場は休日など満杯になってい る。嵐山や清水寺などの有名観光地などは人であふれている。どうしてこれで 景気が悪いという判断が出ているのだろうか。少し実感と合わないかと思える が、要因を分析するとなんとなく納得できるようにも思える。 ・景気ウォッチャー調査とは、市場の動向を実感として把握するため、民間人 の多くの職種で情報を収集する目的で行われている。対象者は、理容師、タク シーの運転手、スーパーのマネジャーなど、一般人でより消費者に近いポジ ションにいる人たちが日常目にする事象から景気の実感を報告する。良くなっ た感触と、悪くなった感触を、それぞれ点数で実感をつける。この指標は他の 経済指標と異なり、現実の消費者に近い職業の人達が現在のリアルタイムで景 気の動向をどう感じているかの指標だ。また、コメントが多くレポートされて いて、それぞれの感想に実感がこもっている。この間のレポートでは、中古車 屋の社長さんのコメントに来店者が異常に少なく、初めての経験だったとのコ メントもあった。猛暑の影響もあるだろうが、高額消費に影がさしているのだ ろうか。 ・まず物価高。確かに、多くのモノの値段が上がっている。特に顕著なのは食 料品。今年の夏場の異常気象の影響もあるのだろうが、野菜の値段は高止まり しているようだ。従来ならレジでこれくらいの値段だろうと想像しても、それ より2,3割高い金額になるというのが主婦の実感だ。最近は現金で払わない から、なんとなくぴんと来ないようだが、確実に食料品、食品に関しての支出 は増加傾向になっている。となると、当然家計防衛に走るから、安いものに目 が行き、財布のひもは固くなる。加えて、電気、ガスなどのコストも高いまま だ。ガソリンの値段は少し下がった感はあるが、それでも以前に比べれば相当 高い。周囲を見渡しても、値段が下がったモノはほとんどない。支出は増加す るばかりだ。手元のおカネが減っていく。 <手元資金の防衛に走る> ・給料はそう上がっていないというのが実感だろうか。確かに最低賃金は1000 円を超えた。超えたが、実施は10月以降でまだ大きな効果は目に見えては表れ ていない。4月に賃上げは確かにあったが、それ以上に生活コストが増加し、 実質手取りは減っているように感じる方が多いだろう。中途採用者がなかなか 採用できないので、募集の給与水準を相当あげた企業は多くあるが、採用がう まくいかないので、募集の数字をいくら高くしても結果がついてくるのには時 間がかかる。パートさんの時給も、この10月から少しは上がった企業もある が、まだ103万円や106万円の壁が存在する限り、就労時間の調整は続く。結果 的に、最低賃金を上げても消費につながる所得の増加への効果は薄い。結局、 実質手取り収入は相当減っているのが実感だろう。 ・収入はそう増えていないのに、支出の増加は止まらない。企業財政でいえ ば、キャッシュフローがマイナスになり、手元現金がどんどん減っていく。そ の減り方が急で止まらない。毎月月末の銀行の口座残高を記録していると、お カネがどれくらい目減りしていくかが実感としてわかるはずだ。給与生活者 は、そう簡単に給与は上がらないし賞与で増えることを期待することになる。 しかし、給与も上がれば所得税と社会保険料も同時に上がる。給与が増えた恩 恵を感じることは少ないはずだ。支出を減らす、切り詰めるのも、なかなか難 しい。何かをやめるか、諦めて、その分支出が減ることを期待する。あるい は、捨てたり廃棄したりして、余分なモノを置かない。支出を減らすには、そ れなりの準備が必要だ。いきなり、今日思いついてはできない。強い意志を もって、相当の期間準備して、実行できることだ。 ・相当の期間が要るから、その間に気分が変わり、もったいなくなり、挫折す る。熟慮し、断行することをしないといけないが、熟慮すればするほど、やる 気がなくなり、中途半端な結論になる。結局時間がかかった割には、効果が少 なく、倦怠感だけが残り、次のステップに進むモチベーションが上がらない。 また、気が変わり、先に行動したことがムダになることが多い。これの繰り返 しになると、ほとんど実態は変わらない。変わらないまま、面倒になり、支出 はほとんど減ることはない。収入は増えないまま、支出だけがじわりじわりと 増えていく。1年間を通してみると、相当の手元資金が減っている。大きな買 い物をしたわけではないのに、びっくりするくらいのおカネが流出している。 そのうちに、永年使用の家電製品の大物が故障し、買い替えないといけない羽 目に陥る。財政がさらに窮屈になる。 <誰も国のグランドデザインを示さない> ・いま国会で所得税の減税や給付に関して議論がされている。たまに、TVで国 会の予算委員会などの番組を見ることがあるが、生活実感のない国会議員と閣 僚、首相のやりとりを聞いていて、とても庶民の生活と縁遠い感じがしてなら ない。確かに、国防や外交などの課題は重要であることは間違いないが、庶民 の生活実感にもう少し近い議論、討論をして欲しいものだ。与党も野党も、二 世議員が多いという事情があるかもしれないが、どうしても近いところの利害 関係者の意見に動かされてしまうのだろう。また、そのような議員を選挙で選 んでいる有権者、我々にも問題がある。平成になり、バブル経済がはじけてか ら約30年、この間日本経済は低迷し諸外国との格差はどんどん拡がった。残念 ながら。 ・先日野党の某氏が国会で質問していたが、1990年のバブル期と比較すると、 2020年前後における日本の経済指標は諸外国に比べて軒並み大幅にダウンして いる。多くの要因があると思われる。為替の円安もその一因だろう。多くの原 材料や食料品を輸入に依存するので、円安の影響は大きい。この間、二回の大 震災もあった。毎年、多くの地域で豪雨や台風による災害被害も頻発した。天 変地異による復興、復旧に多くの国費が投じられたが、とりあえずもとに戻す ことで、新しい産業が勃興したのではない。最近でこそ、多くのスタートアッ プ企業の輩出が目立つが、まだ世界と互角に戦えるビッグネームの企業はな い。いずれそのうちに出てくるだろうが、まだ当分時間がかかりそうだ。 ・何より、少子化、高齢化のピッチが想定以上に早く、その対応が後手に回 り、膨張する医療費や介護費用におカネが投じられ、投資効果が思わしくな い。企業でいえば、設備が老朽化したので設備更新に資金が投じられ、新しい 事業価値を生むビジネスに前向きな資金が使われていない。しかも、費用のう ち多くを国債の発行、つまり借金でカバーしているので、返済と金利だけでも 膨大なコストがかかっている。過去の借金の累計は膨大で、企業で言えば売上 をはるかに超えている。個人資産の貯金が多額にあり、これを加味すると借金 に対しては何とかカバーできている。中小企業なら、代表者の個人資産や貸付 金で資金が回っている状態だ。個人の土地、建物が担保に入っているから何と か資金繰りが回っている。ある意味、危険な状態だ。 <業績の悪い中小企業と同じか> ・小手先の減税や給付なども含め、これからの日本は避けて通れない少子高齢 化、農業従事者の減少、地球温暖化による環境対策、30年以内に起こる確率の 高い大災害など、多くの不安定要素がある。すべての政党、国会議員を含む政 治家や公務員、民間企業も含め、今後の世代の人は不安だらけだろう。我々の ように団塊の世代の少しあとの世代は、高度成長とバブルの恩恵を受け、その 後のバブル崩壊の痛手も被り、多くのいい時期と悲惨な時期を味わってきた。 いまの現役世代の人達は、失われた30年を体験し、成長を感じた時期が少な い。これでは将来に希望、期待が持てないのは当然であり、いまの生活が苦し いと乗り越えようとするパワーが湧いてこない。少子化の原因は若者世代に将 来不安があるからだ。だから、結婚しない、できない、子供つくらない。時限 立法の所得税減税では効果がない。 ・新しい資本主義というよくわからない造語を掲げて、所得減税と給付で所得 の増加を目論んでいるが、どうも庶民にはぴんと来ない。くしくも、10月から インボイス制度の導入も始まり、少額零細事業者にとっては厳しい環境になっ た。物価高で給与の増額が追い付かず、目先のキャッシュフローの改善も必要 だが、5年先、10年先、30年先のグランドデザインがない。特に若い年代層に は無党派層が多いので、どの政党が政権についても自分たちの将来像を見せて くれないという不満がある。どうせ年金はあてにならない。自分で防衛策を考 えるしかない。NISAもあるが決定的なパワーはない。目先も示しながら、将来 像も見せて欲しい。そういう腹の据わったリーダーがいない。誰でも同じに見 えるから選挙の投票率が極端に悪い。 ・スェーデンやスイスのように高福祉、高負担をとるか。消費税もべらぼうな 税率だが、教育費はゼロ、医療費も少なく、高齢者の社会保障は充実してい る。スイスでは働く人の多くはフルタイムではない。求人募集の記載に何%の 時間を働くのかを書くという。60%なら週に3日、80%なら週に4日だ。ほと んどの人がパートタイムで働いている。以外の時間は美術学校に通う人もいれ ば、健康増進に汗を流す人もいる。健康寿命が長いから、働くことができる期 間も長い。介護離職も少ない。2030年、2050年にどういう国のグランドデザイ ンを描くのか。業績の悪い中小企業では、社長が売上のことしか言わない。と りあえず今期の売上数字だけを掲げて、従業員に達成を求める。それでは会社 の未来が見えないので、離職者が増える。国がいまやっていることは業績の悪 い中小企業と同じではないか。