**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1020回配信分2023年11月13日発行 阪神タイガーズ38年ぶりの日本一! 〜岡田監督のマネジメントから学ぶことは多い〜 **************************************************** <はじめに> ・いささか旧聞に属するが、去る11月5日の日曜日の晩、京セラ大阪ドームで わが愛する阪神タイガースが念願の38年ぶりの優勝を飾った。今年の日本シ リーズは非常に面白かった。手に汗握る接戦が多く、監督同士の駆け引きもあ り、見どころ満載だった。これくらい楽しめたのは久しぶりで、数年前のセ リーグ某球団とパリーグソフトバンクとの日本シリーズはセリーグ球団の4連 敗とあっけなく負けたケースもあった。今回は第7戦までもつれ、3勝3敗で の最終戦の決着で、大いに盛り上がった。38年ぶりだから、前回優勝したのは 1985年の昭和60年。この優勝を知っている世代は、年齢的には45歳以上の人達 だ。生まれてから今まで阪神の優勝を見たことがないファンが大半なのだ。 1985年の優勝の時と、今回は大きくチーム状況が違う。 ・前回の1985年昭和60年の優勝の時は、圧倒的に打力で勝った。ご存じの、掛 布、バース、岡田のクリーンナップがフル稼働し、巨人の槇原から甲子園であ の伝説のバックスクリーン3連発というドラマを見せてくれた。監督は吉田義 男氏で、岡田監督は5番で主にセカンドを守っていた。ピッチャーのエースが 誰だったか思い出せないくらいで、ほとんどの試合を打力でカバーして勝ち上 がった。たしか、最後まで広島カープとセリーグの優勝を争っていて、最後は 神宮球場でヤクルトと引き分けてセリーグの優勝を決めた。当時、小職は製造 メーカーから義兄の経営する地元京都の出版社に転職して2年目。当日は東京 に出張していて、セリーグの優勝は神田のビジネスホテルの部屋のTVで実況放 送を見ていた。22時からの定時番組の中に特別中継をはさんで劇的な場面を画 面で見ていた。 ・代表者の義兄は広島の出身で、当然広島カープの大ファン。成岡のデスクに トラのぬいぐるみが置いてあったので、通るたびにトラの人形を倒して行っ た。それを社員が面白おかしく見て笑っていた。会社はほとんどが京都人か関 西人だから、全員に近い人が阪神ファン。数名の隠れ巨人ファンがいたはずだ が、彼ら彼女らはひっそりと黙っていた。社員有志でセリーグ優勝のときに紅 白まんじゅうを配ったくらい喜んだ。代表者の義兄は受け取らなかったが。し かし、転職して2年目で重たいポストで重要な仕事を任されていたので、プロ 野球に関心を寄せている時間はそう多くはなかったので、あまりフィーバーし た記憶はない。比較的おとなしく、静かにセリーグ優勝の余韻に浸っていた。 <長らく低迷した暗黒時代が続いた> ・その年の日本シリーズはほとんど見ていない。当時ドーム球場はほとんどな く、気候はもう晩秋だったので試合は昼間にデーゲームで行なわれていた。 WEBでのリアルタイム中継なども当然ないので、仕事中は見ることができな い。この日本シリーズの間は、出張で静岡県に出向いていて、車で仕事先を 回っていた。ラジオで戦況を確認するくらいで、ほとんど記憶にはないが、や はりバースを中心にした猛虎打線の活躍により打撃で日本一を勝ち取った。仕 事に集中していた時期だったので、何勝何敗だったかも定かではない。いまく らい気持ちに余裕がなく、転職して新しい環境に馴染むのが精一杯だった。日 本一になったのは覚えているが、そう感激したという記憶はない。今回の優勝 とは雲泥の差がある。 ・その後阪神は、星野監督に代わり2003年にセリーグ優勝するが、日本シリー ズには敗れる。岡田監督も一度挑戦権を得たが、ロッテに返り討ちにあう。数 回のチャレンジ機会はあったが、いずれも一敗地にまみれた。その後ずっと日 本一には縁がなかった。セリーグの優勝もいつぞやの大失速などがあり、応援 はすれど結果がついてこない期間があまりに長かった。これほど不甲斐ない球 団も珍しいが、熱狂的なファンが多いことが球団自体を甘やかしているとも言 えるだろう。負ければ厳しく叱責し、反省を求め、しかるべくアクションを取 るように仕向けていない。関西にセリーグの球団がひとつしかないというのも 理由だろうが、負けても、負けても、甲子園は満員に近いお客さんを集めるこ とが球団を弱くしている。 ・一時期スカウトが自分たちの出身大学の後輩ばかりを指名して、新人の補強 が相当期間空回りしたことがあった。全く無名の選手をノーマークで指名し て、ドラフト1位が数年間全く活躍しない暗黒時代があった。さすがにこの体 質はクリアーされたが、このマイナスの影響は相当の期間続いたので、この間 本当に成績は低迷した。最下位にも数回なったはずだ。球団内部のゴタゴタも 多く、とかく野球以外のことが話題になる。フロント、監督、コーチ、選手の 間の信頼感、コミュニケーションも悪く、ゴシップ的な噂話がとかく俎上にの ぼる。外国人選手がほとんど空振りに終わり、全く活躍せずに帰国した選手も 多い。大金をはたいて契約した助っ人が、ほとんど機能せずに球団を去ること が多かった。情けない話しだ。 <若手の成長株が活躍した> ・中小零細弱小企業が大きく飛躍するときは、何か大きな変化がないと難し い。矢野監督のあとの監督選びは難航したが、岡田監督の再登板で決着がつい た。果たして65歳の再登板の監督にどれくらい期待できるのか、ファンは疑心 暗鬼だっただろう。しかし、ユニフォームを脱いでからの長い期間で、多くの ことを勉強し、学んだ。プロ野球の監督はチームという組織の頂点だから、企 業で言えば社長に近い。まず、信頼できるコーチ陣を整備した。2軍監督だっ た平田をヘッドコーチにあげ、投手コーチ、打撃コーチに信頼できるスタッフ を配置した。選手起用はコーチ陣からの進言を承認し、誰に託すかの責任を持 たせた。戦略的な作戦は自分自身が決めるが、使う選手の優先順位はコーチの 進言に依るところが大きい。 ・グランドではあまり直接選手に声をかけない。ぼそっとあまりうまくない表 現で短い言葉のやりとりはあるが、多くは担当のコーチ陣に任せている。ブル ペンや練習での調子を報告させ、その進言に基づき決定する。最終の責任は自 分自身がとるが、進言したコーチは自分のコメントに最大限の責任を感じるこ とになる。野球はミスのスポーツだから、進言通りの結果が出ることは少な い。想定外、予想外のことが頻繁に起こり、都度の対処が求められる。一球ご とに状況が変わるから、多くのパターンの引き出しを用意する必要がある。瞬 時に意思決定し、サインでサードコーチに伝達し、それをサードコーチが選手 にブロックサインで伝える。いちいち迷っていたら、間に合わない。あらかじ め、状況を想定する「読み」が必要だ。 ・半年間以上、約140試合の長丁場だ。その間エースが故障したり、中軸がケ ガで欠場したりする。どのチームもそうだが、開幕戦を戦ったメンバーがずっ と活躍できるのではない。ベンチの控え、2軍の若手などの底上げがないと戦 えない。当初活躍を期待された中軸選手が期待外れで、あとで出てきた若手が 活躍することは多い。ドラフトで上位の選手が活躍するより、育成にダメ元で 取った若手が急激に伸びることがある。育てながら勝ち続け、勝ちながら育て るのは至難の業だ。多くの他球団を見ていると、この世代交代がうまくいかな い、いかなかったチームが低迷する。一度低迷期に入ると数年は這い上がれな い。しばらくBクラスで我慢することになる。阪神タイガースも、この暗黒時 代が長かった。開幕時点の予想で優勝候補にはなかなかノミネートされなかっ た。 <来年は慢心が敵か> ・この優勝で選手の年俸がアップし、慢心が芽生えるのが怖い。昭和30年代の 後半から40年代は、あの栄光の巨人軍のV9時代だ。セリーグで9年連続優勝 し、日本シリーズを9年連続勝ち続けた。確かに、ONという、王、長嶋という 二枚看板があり、ドラフトもまだあまり機能していない時代だから、有望な選 手は巨人に入団することが多かった。V9の最後、昭和48年のセリーグ優勝は 最終戦の阪神巨人戦で決着がつくという劇的な幕切れだった。これ以外にも相 当危ない優勝もあり、日本シリーズも際どい勝利も数多くあったが、それでも 9年連続勝ち続けた。当時のスタメンのメンバーを思い出すと、ピッチャー以 外はほとんど固定メンバーだった。相手投手が左か右かで、外野の一人くらい が変わるのが普通だった。 ・今年の阪神タイガースもメンバーをほぼ固定して戦った。企業経営からする と、このポジションを固定するのがいいのか、どうかは難しい問題だ。人数の 少ない中小零細企業では、何でもありで多くの複数の業務を兼ねることにな る。専門的になる必要はないが、器用になんでもこなさないといけない。その 仕事に気が向かないなどと悠長に構えている暇はない。人数が30名以上になっ てくると、ある程度業務を分担しないと回らない。経理は経理、営業は営業な どと切り分けないと、かえってミスが起こり錯綜する。こうなると、なかなか 社内での部署の異動が難しくなる。営業をやってみたがどうも不得手で、じゃ あ経理の部署に異動さすかといえば、ことはそう簡単ではない。セリーグの某 球団は、これをやって失敗した。 ・試合ごとに一塁を守ったり、外野をやったり、三塁になったり。頭が混乱し て、打撃に集中できない。守っている間は、実はいろんなことを考えている。 位置取り、ランナー、アウトカウント、点差、回、相手の打順などで多くの要 素が複雑に変化する。組み合わせが無限にあり、カンピューターで考えている と非常に疲れる。三者凡退で終わると、考えることが少ないから次の攻撃でア グレッシブになれる。守っている時間が長いと、フィジカルよりメンタルで疲 れ、次の攻撃の際にスイッチが入らない。今年の阪神タイガースは守り勝っ た。先発投手も中継ぎも抑えのピッチャーも防御率は抜群だった。打撃はいま いちだったが、選んだ四球の数と盗塁は多かった。このスタイルで来年度も戦 えるか。もう、来期に備えた戦いが始まっている。