**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1021回配信分2023年11月20日発行 冬季賞与支給をきっかけに業績数字の公表を 〜数字で説明することで納得感を〜 **************************************************** <はじめに> ・夏日が続いた先月の終わりから、11月に入り突然真冬の寒さに突入した。秋 という季節がすっ飛んで、いきなりクリスマスシーズンになった。慌てて冬物 のコートや手袋を引っ張り出し、石油ストーブをトランクルームに取りに行っ た。これほど急激な気温の変動は、日常生活を大いにディスターブする。夏か ら秋をスキップして冬になるのは、春をスキップして冬から夏になるのと同じ か。これも地球温暖化、沸騰化のなせるわざか。アパレル産業や食品製造業な どで影響は大きいだろう。従来の常識が通用しなくなってきた。このトレンド がずっと続くのか、あるいはここ数年だけの傾向か。これを見誤ると、今後の 社業の運営方針に大きな影響を及ぼす。私見だが、この傾向はずっと続くだろ う。止まらない。 ・12月が近づくとカレンダーの残り枚数も1枚になり、何やら慌ただしい。そ こで経営者を悩ますのが冬季賞与の支給だ。昨今はコロナの第5類移行で、業 績のアップダウンが大きな業界が目立ってきた。観光業などはインバウンド需 要の復活で大忙しだが、人手不足の影響も大きいので業績の急回復にはつな がっていない。飲食業も思ったほど業績の回復が顕著ではない。落ち込んだ業 績が戻らないまま推移しているお店が多い。製造業も得意先の業界で大きな差 があり、半導体製造装置などは非常に好調だが、それ以外の業界の回復はまだ ら模様だ。為替の影響も大きく輸出がリッチな業界は比較的円安の恩恵を受け やすいが、原材料の輸入に依存している業界は非常に厳しい。加えて、食糧や 石油関係のコストも高止まりしている。 ・12月の冬季賞与の支給が近づき、今回はどうしようかと悩んでいる経営者の 方も多いはずだ。賞与支給対象期間の業績は確かによかった。しかし、この好 調な業績がいつまで続くか自信がない。自社の製品ではなく、得意先からの受 注品を製造加工しているので、得意先の業界も非常に不安定で浮き沈みが激し い。たまたま、この期間の受注は多かったが、果たしてこの好調が続くか不透 明だ。おそらく、来年の3月末の年度末へ向けて急激な落ち込みはないと思う が、その後の業績の見通しは立ちにくい。中国の景気も芳しくないし、中東で の戦争も一向に終わる気配がない。少子化が進行し、人手不足も顕著になって きた。ハローワークに求人を出し続けているが、応募は全然ない。工場長は60 歳を超えたので、あと数年で定年を迎える。後継者の育成が急務だが候補者が いない。 <従業員は実際の業績を知らない> ・これに近い状態の中小企業は多いはずだ。業績も以前のように右肩上がりで 伸びていくイメージはない。アップダウンを繰り返しながら、この20年の売 上、利益の折れ線グラフを書いてみると、確実に売上は漸減している。2000年 前後の売上を100とすると、昨年度の売上は80だ。リーマンショックやコロナ パンデミックがあったが、長い目で眺めてみると確実に業績は下降線になって いる。毎年、夏の賞与と冬の賞与を頑張って支給してきたが、今回も出せない ことはないが、その後の業績には不安が付きまとう。日本の企業の傾向では、 冬の賞与は夏の賞与より多少は多いというのが常識だ。冬の賞与は正月を迎え る「餅代」の意味があり、一時金としては夏よりも意味が重たい。従業員の期 待もあるし、その家族が待っている。 ・今までは、人数も少ないのであまり難しく考えないで、ほぼ全員同じような 月数を支給してきた。多少、勤怠や個人のパーフォーマンスに対し色をつけた ことはあるが、あまり大きな差をつけたことはなかった。どうしてこの金額に なったのかという説明はほとんどしなかった。最近では現金で支給することは なく、全額振り込みだから支給明細書を渡すだけだ。以前のように封筒に現金 を入れて手渡すことはない。紙きれ1枚が入っているだけなので、有難味が感 じられないだろう。今回から、簡単な社長メッセージを挿入し、その下に手書 きで自筆のコメントを記載しようと思っている。日ごろ、その従業員に対し感 じていることなどを自分で考えて書くことにした。意外と、やってみると時間 がかかり、悩んだ。 ・自社では全社業績の公開をしていない。年度ごとの事業計画、利益計画はな く、売上の目標だけを提示している。それも、がっちりした数字ではなく、お およその目標数字を示しているだけで月次でいくらを目標にしているかもな い。自分自身では、昨年や過去の実績、資金繰りから、これくらいが妥当だろ うという数字のイメージはあるが、それだけだ。従業員や幹部社員と共有し、 意思疎通したこともないので、従業員は現在の会社の業績、利益の状況、当然 資金繰りの実態などは知らないし、興味もないと思っている。社長自身と経理 担当者だけが悩んでいて、従業員と社長との間で情報の格差、落差は大きい。 年末向いて、いま手元資金がいくらあって、今回の冬の賞与でいくらくらい出 せるのかをわかっている人は社長を除けば皆無だ。 <労働分配率がいくらか> ・以前から賞与や賃上げの際に、この悩みは大きく、気分が落ち込んでストレ スがたまる。悩んで知り合いに相談してみたり、ネットで調べたり、書籍や雑 誌で情報収集をしてみた。その結果、ひとつの解決策として会社規模の大小に かかわらず、従業員に会社の業績の情報公開をすればいいとの結論に行き着い た。最低、売上の進捗状況、昨年度との比較、今年に掲げた目標数字との乖離 などは知らせるべきだ。さらに、その下にある原価、経費などを差し引いた利 益の額まで見せられれば見せたほうがいい。しかし、ここで大事なのはいきな り数字を見せても分からない。予備知識もなければ、興味関心もないかもしれ ない。そこで、まず基本的な数字に関することを知ってもらうための勉強会を 始めた。 ・売上の中身の説明から始まり、数回実施した結果、全員が理解できたとは思 えないが、一部の幹部社員は売上、原価、経費、利益の構造はおおよそ理解で きたようだ。思い切って、人件費の総額も示すことにした。誰が、いくら、と いう個人ごとの数字は当然非公開だが、役員報酬を含め全社の人件費の総額の 数字は見せることにした。さらに、月次の給与と賞与との総額の内訳も明示し た。大事なことは、誰がいくらもらっているかではなく、会社が生み出してい る売上、付加価値に対して、いくらくらいの人件費がかかっているかを知るこ とが大事だと思った。人件費総額の数字を示した時の反応は意外だった。自分 の月例給与の手取り額と比較して、そんな多額の人件費が支払われているのか という疑問を持つ人が多かった。 ・人件費総額には、月例給与、賞与、アルバイト社員に支給する雑給、社会保 険料の会社負担、退職金の掛け金と仮にその時期に払ったなら退職金、税理士 さんなどへの顧問料、福利厚生費などがすべて含まれる。それに、当然役員報 酬。通勤交通費は非課税であり、人件費には含めない。これらすべてを合計す ると、相当な金額になる。月次でもらっている手取り金額からは想像がつかな い。この人件費総額が売上や売上から変動費を引いた付加価値額に対してどれ くらいの割合を占めているのかが重要だ。この付加価値額に占める人件費の割 合を「労働分配率」という。少々聞きなれない言葉だが、この「労働分配率」 が自社はどれくらいかを知っておくことは非常に重要だ。あるいは、過去10年 くらい遡って、以前はどれくらいで現在はいかほどかを紐解いておく。 <総額原資を決めて配分を考える> ・一般の製造業などでは労働分配率は50%前後、小売業、卸売業では60%前 後、サービス業では60%強ぐらいだろうか。高い業種では医療機関は給与その ものが高いので70%〜80%になることもある。この労働分配率を一定にするな ら、賞与をいくら払えば付加価値額はいくらくらいないといけないかが自動的 に計算できる。賞与を増額するなら付加価値額を増加させないといけない。売 上を伸ばすか、変動費を下げるか。変動費を下げるのはなかなか難しいので、 売上を伸ばすことを考える。しかし、果たして賞与の増額に見合う売上増加を 実現できるか。このロジックは、今回の賞与以外、来年の賃上げの時にも応用 できる。いずれにしても、従業員の方々はこんな難しい理屈は日常考えていな い。考えずに目先の業務に集中して仕事をしている。 ・賞与をいくらにするのかは、まず総額の原資がいくら捻出できるかだ。昨年 に比較していくらというのではない。もらうほうは、前回、昨年に比較してい くらだが、経営的には原資がいくら確保できるかだ。賞与の基本は会社業績だ から、業績がこの該当期間どうだったかを真剣に考える。原則的には過去を踏 襲する必要はなく、期間の業績で判断する。そして、従業員に売上、原価、粗 利、経費、利益の構造をきちんと教えて、付加価値、人件費、労働分配率とい う経営指標をレクチャーする。全員が完全に理解するというのは難しいだろう が、わかってもらえるように経営者自身が勉強して、解説し、理解してもらえ るように説明する。人に説明し、わかってもらうには相応の時間と努力が要 る。しかし、これを惜しんではならない。自分自身で説明する。 ・賞与原資総額が決まれば、各自への配分を決める。営業部門は数字で業績が 把握できるから比較的わかりやすい。製造部門は生産高、出来高、時間当たり の生産性など、これも数字である程度業績が把握できる。難しいのは管理部門 などの売上を生まない部署だ。いわゆるコストセンターの部署だ。これは全社 の業績で判断する。部門の業績は評価指標を決めておかないといけない。作業 ミスの数、クレームの数、手戻り時間数などだ。そして最後は経営者自身の評 価枠を作っておく。月次給与または基本給に月数を乗じた金額に評価部分を加 算する。そして、紙きれではなく評価の結果を記載した書面をベースに支給前 後で本人に説明をする。支給することより、この評価を伝えることが大事だ。 賞与支給時は格好の従業員との対話の機会だ。積極的に活用する心掛けが必要 だ。