**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1057回配信分2024年07月29日発行 高校野球に学ぶマネジメント 〜チーム作りは企業経営と同じ〜 **************************************************** <はじめに> ・ようやく夏の甲子園大会の京都府予選が終わった。今年は長く、随分と楽し ませてもらった。母校野球部チームが、部員18名の弱小チームだったが、あれ よあれよという間に2回戦(1回戦は組み合わせ抽選の結果、試合なし)、3 回戦、4回戦と勝ち上がり、16年ぶりのベスト8に勝ち上がった。準々決勝で は地元京都の府立鳥羽高校と戦い、惜しくも敗れた。敗れはしたものの、3回 勝ってベスト8に残ったのは立派。前OB会長の小職も、初戦の山城高校戦は宇 治の太陽が丘球場に、3回戦の京都すばる高校戦、4回戦の京都両洋戦、準々 決勝の鳥羽高校戦は西京極のわかさ球場に応援に駆け付けた。やはり勝ち上が るとOBのボルテージは上がり、グループラインでのやりとりも熱くなる。 ・今年のチームの高校3年生は、中学のときに京都市の中学野球の大会で常に いい成績を挙げ続けたメンバーが8人残ってくれた。1年生と2年生が10人で 合わせて18名の少人数チームなのだ。他の私学の有力校のように50名以上のメ ンバーがいるチームではない。野球は9人でやるスポーツだが、練習は最低で もその倍以上の人数が要る。同じポジションに最低2名いて、切磋琢磨しない とレベルが上がらない。紅白戦もできない。守備位置についてランナーをつけ てのシートノックもままならない。レギュラーのメンバーで故障や負傷した選 手が出ると、途端に戦力が大幅にダウンする。スコアブックをつけるのも、マ ネジャー的な仕事をするスタッフも必要だ。9人いれば試合はできるかもしれ ないが、そういうものではない。 ・今年ここまで勝ち上がれたのは、エースの頑張りが大きい。2回戦は1対0 で完封。3回戦は7対0の7回コールド勝ちで参考記録ながら無安打無得点試 合を演じた。4回戦も1点を取られはしたものの8回コールド勝ち。3試合で 24回投げて失点は1点のみ。ディフェンスの強さで勝ち上がった。当たり前だ が、野球は多く点を取った方が勝つという球技だ。つまり、点を取らねば勝て ない。しかし、弱小のチームでそんな簡単にヒットが続くわけはない。連打、 長打で打ち勝つなら簡単だが、母校ではそんな打力のある選手を望むのは難し い。となると、いかに失点を防いで最少失点で切り抜け、少ない得点で逃げ切 るかという野球を選択せざるを得ない。となると、失点を最小限にできるディ フェンスの戦いになる。 <ポジション別に向いている選手を> ・野球は7割、8割が投手力と言われている。9回27個のアウトをいかに取る か。その間に、どうやって数少ないチャンスで得点を取るか。あまり打力がな いチームの場合、少ないチャンスをいかに活かして点を取り、最少失点で収め るか。常に監督はそういうことを考えている。しかし、予定通り、計画通りい かないのが野球だ。バントするところでできない。ストライクを見送り、ボー ルをバントしてファウルになり、挙句の果てに3バント失敗でアウトになる。 この場面なら絶対にバントで送らないといけないのに、走者を進められない。 想定通りいかないときに、どうするか。サインを急に切り替えて失敗すること も多い。初志貫徹でサインを変えないこともある。期待通りの結果が出ること は少ない。失敗、ミスの連続なのだ。 ・大事なことは高校3年の夏の最後までやり切ることだ。そのためには、部活 動も大事だが本業の勉学も励まないといけない。また、3年間健康でいること も必要だ。ケガ、故障もあるだろう。病気にかかることもある。ほとんど365 日部活動をやることになるので、家族のバックアップも要る。汚れた練習着、 試合用のユニフォームの洗濯は母親の協力がないとできない。グローブやスパ イクの手入れ、メンテナンスは自分の責任か。雨の試合や練習のあとの道具の 手入れは結構面倒だ。道具は高価なので、ほとんど予備はない。翌日までに乾 かして、普通に使えるようにするには、帰宅してすぐに後始末にかからない と、翌日間に合わない。本人一人でできることは限られる。ここでも、周囲の 強力がないと成り立たない。 ・学生が行う野球の場合、特に高校野球は3学年の生徒が混在する。3年生、 2年生、1年生の3学年の生徒が混じり合ってチームを構成する。ここで難し いのは、誰を、どのポジションにするか。一番わかりやすいエースナンバーの 1番ピッチャーを誰にするか。2年生で飛びぬけてすごい投手候補がいる場合 もあれば、3年生のピッチャーをやはり1番にするべきかと、相当迷うことが ある。このピッチャーの1番を誰にするのかが、チーム作りの基本になる。す んなり3年生のいい投手がいて、誰もが納得できるならいいが、監督がここを 迷いだすとチーム作りの基本である土台が揺らぐ。投手のつぎは、捕手つまり キャッチャーだ。身体が大きくどっしりしてお尻が大きく、肩が強いことが必 須だ。ワンバウンドを身体を張って止める勇気を持っている性格的なものも大 きい。 <運動能力だけではない> ・内野手に向いている選手で、まず遊撃つまりショートを誰にするかを決め る。肩が強く、フットワークが軽いすばしっこい選手がなることが多い。セカ ンドも同様で、この二遊間が決まると、あとはサードを誰にするか。ファース トまでの距離が遠いので、肩が強く、打球が強いので、身体に当ててでも止め るという性格的に強気の選手がいい。ファーストは、背が高くて左利きの選手 が選ばれることが多い。左利きの方が、送球を捕球してから次に投げるのに左 利きの方が有利なのだ。外野手は足が早く、強肩であることが要求される。内 野のような軽いフットワークは要らないが、左中間、右中間を抜けるような打 球をぎりぎりで捕球してくれれば、非常に大きい。また、外野手は打力を期待 されることが多い。 ・守備位置が決まれば、あとは打順をどうするかだが、これはその時々の選手 の調子、コンディションや、相手チームの投手が左か右かで、多少変わること はあり得る。普通は、1番バッターは選球眼がよく出塁率が高い選手をもって くる。2番はバントも多いので、小技がうまい器用な選手。3番から5番は走 者を返すことが求められるので、よく打つ選手を配置する。6番は先頭打者に なることが結構多いので、1番バッターに近い選手を選ぶか、5番の次によく 打つ選手を選ぶか。7番バッターは2番バッターに近い選手を置くことが多 い。投手を9番に入れる場合は、8番バッターは意外と重要なので、小柄でも 出塁率が高い選手が好ましい。あとは、左打ちか右打ちか。足が早いかで打順 を決める。 ・ベンチワークも重要な要素になる。ランナーコーチャーは専属の人を充てる ケースが多い。特に3塁コーチは、走者のホームへの突入、ストップの判断を する極めて大事なポジションだから、慎重に、かつ性格も考慮して決める。控 えの選手も、いつ、なんどき、何が起こるか分からないので、控えとはいえ、 常に試合に出ている気持ちでいないといけない。このベンチの雰囲気をどう作 るかは、監督の腕の見せ所だ。マネジメントで言えば、このチーム、部員をま とめるキャプテン、つまり主将を誰に指名するのかも非常に大きい。誰が考え ても納得できる実力のある選手を選ぶ場合もあれば、レギュラーではないが精 神的に全員の軸になる控えの選手を選ぶ場合もある。背番号10番が主将という チームも結構多い。これはこれで意味がある。 <チーム運営も経営と同じ> ・試合に勝つことも目的のひとつだが、教育の一環でやる部活動なので、原点 は教育だ。そういう意味では、試合に勝つことだけが目的ではない。日ごろの 練習を真面目に一生懸命やること、冬場の苦しいトレーニングをさぼらずにこ なすこと、春からのシーズンに向けての基礎体力の強化、そして毎日の練習と 紅白戦、練習試合、公式戦と続く。雨の日の雨天練習のメニューも考えておか ないといけない。選手個人ごとに能力、体力の違いは大きいから、選手に応じ た指導も必要だ。また、学年が3つ混じるから3年生と同じ内容の指導を1年 生にするわけでもない。部員数が50名を超えると、一人一人の指導にも目が行 き届かないようになる。監督一人でできる範囲は狭いから、OBや外部からの応 援のサポートチームの編成にも注力しないといけない。 ・外部スタッフという意味では、チームドクターがいれば安心だ。外部との折 衝を担当する総務マネジャーもいればそれに越したことはない。資金面の管理 も要る。部費、学校からの手当て、個人の負担、OB会や父兄会からの補助、後 援会のマネジメントなど、おカネに関わる多くの煩雑な業務をどうするのか。 グランドの設備も傷んでくる。バックネットの修理も要るだろう。機材の老朽 化もある。積立金の運用もしないといけない。遠征の費用負担などは頭が痛い 問題だ。名門のチームになると年間で相当多額のおカネの運営もしないといけ ない。会計担当のスタッフがいればいいが、そう簡単に引き受けてくれる人も いない。会計報告も必要だし、公明正大にやらないといけない。おカネのこと なので、何か間違いがあってはいけないが、税理士、会計士が担当してくれる 業務でもない。監督がこういう業務に得手ならいいが、必ずしもそうとは限ら ない。 ・生徒集めも仕事の内だ。母校は中高6年の一貫校だから、中学で軟式野球の 部活を経験した中学3年生のうち、何人が高校で硬式野球をやってくるかが大 きな課題だ。通常の高校だけの場合は、周辺の中学から、あるいは遠方の中学 から有望な選手を来てくれるように勧誘活動が必要だ。どこに、どのような運 動神経のいい選手がいるかなどは、一人では情報が入らない。各地に散ってい るOB連中がその情報源になる。日ごろから監督とOBの間で関係が深まっていな いと、こういう情報はなかなかゲットできない。常にいい成績を残そうと思う と、単に運動能力に長けた選手を集めただけではできない。総合力が必要だ。 企業経営と全く同じだろう。15歳から18歳の若い選手を3年間預かって、人生 で得難い期間において身体と心を鍛えるには、どうするかを常に監督は考えて いる。中小企業の社長と同じだ。