**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1061回配信分2024年08月26日発行 さあ、変われるか、自民党 〜古い体質からの脱皮は容易なことではない〜 **************************************************** <はじめに> ・8月中旬突然の岸田首相の自民党総裁選挙不出馬宣言から、約2週間経過し た。いろいろな人のいろいろな動きが激しさを増している。裏金疑惑の暴露か ら始まり、派閥の解体に至り、不十分な規制改革と続き、解散総選挙を行えな いまま、未練たっぷりの不出馬宣言となった。最大の後ろ盾だった大物政治家 からの協力、支援が断ち切られ、万事休すとなった。麻生派だけが派閥として 残り、他の5派閥は解散となった。世間の逆風をものともせず、派閥解散をし なかった麻生派の意地も感じられるが、この派閥解散の経過が物議を醸した元 凶でもある。事前の相談もなく、勝手に大事なことを決めたと言うことで、お 怒りを買ったというのが真相だ。しかし、派閥が形式上とはいえなくなったこ とで、自由度が増し、多くの憂国の士と思われる人が立ち上がった。 ・こういう風に書けば格好いいが、その実は裏取引、忖度、駆け引きで、多く の立候補予定者が立ち上がっているのが実態ではなかろうか。派閥解体から公 明正大な総裁選挙というなら、立候補予定者各位にはこの日本国を今後どのよ うに導く意志があるのか、それを聞かせてもらいたい。2050年には総人口が 8000万人になるかもしれない(いや、それより早くそうなるだろう)この日本 国の未来をどのように描いているのか。少子化は子育て支援では解決しない。 派閥という親分からの強制、しばりがなくなったのなら、ここは政治家各自の 矜持を見せてもらいたい。やりたいこと、やろうとすることは、こういうこと だ。自分が政治家になったときの志しを見せて欲しい。二世、三世の世襲議員 には、この矜持が乏しいように感じられる。もちろん、例外の人もあるだろう が。 ・具体的な公約と言うより、グランドデザインであり、グランドビジョンだ。 企業なら経営理念、社会的な存在価値、最近の流行言葉で書けば、「パーパ ス」だろうか。今後の向かうべき方向を指し示す経営方針だ。具体的な施策 は、この方針に基づいて決められるはずだ。なってから取ってつけたように考 えるのではなく、自分自身でどうしたいかを明確にしないといけない。企業経 営の代表者の交代、承継は突然起こる場合もあるが、一定の準備期間がある。 今回の自民党総裁選挙は多少準備期間が短い。裏金事件の発覚からこの総裁選 挙まで、実際には約半年か。日ごろからこれらの大きなグランドデザインを四 六時中考えている人は、そう多くない。日常は国会の各種会合に出て、党派の 勉強会に参加し、官僚からレクチャーを受け、週末には選挙区の各種行事に参 加する。これが日常だろう。 <未来の課題にどう向き合うのか> ・企業経営も似たようなものだ。毎日、毎日、地道な活動の繰り返しだ。一日 たりとも手を抜くことはできない。営業活動を地道に繰り返し、売上をコツコ ツ積み重ねる。それでも、何か問題が起こり、課題が山積みになる。どれから 手を付けていいか分からなくなり、方針が迷走し、打つ手がちぐはぐになる。 朝廷暮改が連続し、従業員からの信用、信頼感が次第に失せてくる。そうなる と製品の品質は劣化し、サービスレベルは低下し、トラブルが起こり、アクシ デントが頻発する。顧客からのクレームが増加し、必然的に売上は低迷し、赤 字が続く。資金繰りに困窮することになり、借入金が増加し、利息の払いが増 え、元金の返済にも支障を来すことになる。結果的に深刻な経営難に陥る。日 本国も同様の道をたどるのか。 ・最も懸念されるのは人口減少だ。これは深刻な問題だ。単純に言えば、その ままなら売上が減っていくことだ。生産に寄与してくれる年齢の人の数が減 り、生産に寄与しない、できない高齢者の数が増える。GDPも減少し、少しず つ貧しい国になっていくだろう。この対策には外国人の受け入れしかないの か。人口問題を扱ったベストセラーのように、うまく小規模の社会に縮むとい うのは理解できるが、ここまでになった国を簡単に縮むのは相当の苦労と工夫 と努力が要るだろう。何より、企業経営と同じですべての従業員に理解、納 得、共感を得ないといけない。高付加価値の製品を生み出すことに特化し、利 益率の高い収益構造に転換する。都市部への人口の集中から地方へ分散しない といけない。いま受けているサービスも次第にできなくなる。 ・一部の地方で某新聞の夕刊の配達ができなくなり、休止になるという告知が 出ていた。最近、郵便の配達も遅くなっている。封書を投函しても、なかなか 着かないという。24時間365日稼働しているコンビニも、早晩営業時間の短縮 を迫られるだろう。医療機関の診察時間も、公共サービスも、交通手段も、何 らかの対応を迫られるはずだ。いま、常識として受けている公共サービス、民 間サービスも、このままできるとは思えない。消費税は果たしてどこまで上が るのか。北欧のように、高福祉高負担なのか。教育費の無償化はどうなるの か。都市部と地方の格差を解消する方法はあるのか。免許証を返納した高齢者 の足の確保手段はあるのか。認知症の高齢者が増加する対策はできるのか。火 葬場が足りない地方都市はどうするのか。 <後退か前進か> ・急にすべての課題が解決できるわけはない。しかし、負担を強いる方向も正 直に言わないといけない。選挙になればとってつけたような同じレベルの公約 を並べるが、本気で対策を考えているのか。政治資金の問題だけがクローズ アップされているが、それは多くの課題のうちのひとつだ。選挙制度、憲法改 正、安全保障なども重要な問題だ。社会保障も、このままで継続できるとは誰 も思っていないだろう。年金はどうなるのか。消費税を含めた増税はどうなる のか。現状の10%の消費税率は、いつくらいに、いくらまで上がるのか。選挙 になると増税を封印して、美辞麗句ばかり並べる政治家はお引き取り願わない といけない。不都合な真実は、不都合なりに、正直に言わないといけない。言 うべき責任がある。 ・しかし、今回の自民党総裁選挙は注目だ。ほとんどの候補者が60歳以上だ が、いま出馬を取りざたされている若手は40歳台が二人いる。これからの未来 を託すなら、若い世代に交代するのもいいだろう。しかし、老練でベテランの 政治家は、そう簡単に若手に世代交代してもらっては困る。自分の大臣の順番 が来る前に若手に世代交代されると、自分の大臣の椅子が飛んでしまう。自分 の損得を考えると、とても許容できない。冗談ではない。派閥というしがらみ がなくなった総裁選挙を、今まで見たことがない。そもそも派閥とは、親分を トップに担ぎ出すための組織なのだ。あるいは、岸田政権のように小派閥の トップを院政のようにお神輿に乗せて、自分たちがコントロールするための仕 組みなのだ。今回はその派閥がほぼなくなった状態での異例の選挙だ。これは 見ものだ。 ・候補者に名乗りを挙げるには、20名以上の国会議員の推薦人が必要だ。仮に 11名が立候補するとなると、200名以上の推薦人が要る。自民党の国会議員は 現時点で370名弱だから、半分以上の国会議員が誰かの推薦人になることに計 算上はなる。完全に党内は分裂し、支離滅裂になる可能性がある。なので、多 くの議員は誰が勝馬になるのかを注視している。勝ち馬に乗らないと、仮に別 の人を推薦して負けた場合、冷や飯を食わされることになる。結局、最終的に は旧派閥のボスたちが集まって、談合、調整が行われるだろう。こうなると、 出直し自民党というキャッチフレーズが使えない。逆効果になる可能性があ る。この状態を誰が大岡裁きをするのか。自由闊達に議論するのは勝手だが、 党利党略で総裁が選ばれると、またぞろ旧態依然とした古い体質の自民党に逆 戻りしかねない。 <体質を変えるのは容易ではない> ・簡単に言うが、体質を変えるというのは大変なことだ。時間もかかるし、強 い意志がないとできない。筆者自身もタバコを40歳超えたときに止めるのに、 大変苦労した。それまで何回も禁煙に挑戦し、挫折した。しかし、近所で一緒 にテニス仲間のMさんから京都マラソンへの出場参加を勧められ、練習した時 にこれでは走れないと悟った。そこから数年かけて、マラソンを走るためにタ バコを止めた。以来、現在まで30年近く継続できたのは、体質改善、生活習慣 改善の強い意志があったからだ。また、目標がはっきりしていた。年間6回マ ラソン大会に参加し、目標タイムをクリアーする。具体的な数字も掲げ、10キ ロごとのラップタイムの設定もした。練習方法も工夫し、マンネリにならない ように毎朝のランニングメニューも工夫した。 ・一人だからできたのかもしれないが、これを複数の人間のいる組織に浸透す るのは大変だ。組織のトップは宣教師のようなものだろう。毎回、毎回、目指 すところをわかりやすい言葉で伝え続けないといけない。一回や二回の説明で 浸透するわけがない。また、その唱える目標、ビジョンに共感を持ってもらわ ないといけない。その時に聞いただけで納得したのは、理解できたとは言えな い。分かりやすいフレーズで、どこに行くのかを明確に示さないといけない。 迷走すると、組織は混乱する。分かりやすい目標を設定し、そこに至る道筋を 示し、苦しい努力を明示して、やればできるという気概を起こすようにしない といけない。リーダーのやるべきことは、この目標を明らかにし、先頭に立っ て組織を引っ張ることだ。さらに、どうしてその目標を達成しようとするのか を、きちんと説明することだ。 ・日本の現行の制度では、残念ながらトップを選ぶのは間接選挙だ。国会議員 を選び、その選ばれた議員の多い政党の党首が国会で首班指名を受けて、総理 大臣になる。アメリカのように、各州で大統領選挙の代理人を選んで、代理人 が大統領を選ぶという方式ではない。日本のような方式は諸外国にもあるが、 どうも隔靴掻痒の感がしてならない。いきなりのトップの直接選挙は難しいに しても、もう少し身近な方法はないか。しかし、とりあえず、今回の自民党の 総裁選挙は、脱派閥の中での選挙であり、注目だ。本の表紙が変わっただけに なるのか、中身まで変わるのか。本当に新しい政党に脱皮するのか。脱皮に失 敗すると、死ぬ生物もいる。逆に脱皮を契機に大きく成長することもできる。 正念場のドラマが始まった。冷静に、そして、きちんと行く末を見定めたい。