**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1063回配信分2024年09月09日発行 中小企業の課題研究その1:人材確保 〜従来の募集・採用・面接では人は獲れない〜 **************************************************** <はじめに> ・多くの中小企業で人手不足の悲鳴があがっている。成岡の関わる企業でも同 じだ。業種、業界に関係なく、人手が足りていないという嘆きは、常に聞こえ てくる。会議の議題も、常にそのテーマが検討される。しかし、名案はない。 今回は、中小企業の人手不足に焦点をあて、どのように課題を解決すればいい かを考えてみたい。一朝一夕にはいかない課題だが、避けて通れない経営課題 だ。多くの中小企業で苦しんでいる、この人手不足問題。まだ、これが原因で 廃業、倒産、清算した企業は少ないかもしれないが、早晩重要な課題になるこ とは間違いない。某信用調査会社のアンケートやデータでも、人手不足の問題 がないと記している企業は少ない。以前のように、募集すれば集まり、そこか ら向いている人材を採用できるという環境は、二度と来ない。 ・人手不足と一概に言うが、もう少し問題を掘り下げてみよう。いくつかある だろうが、まず、募集しても応募がない。人材紹介会社からも、なかなか紹介 する、できる人材がないという。しかし、そうだろうか。言うことをそのまま 信用してはいけない。表面的な現象だけを言っているので、その奥の本当の理 由は分からない。自分自身で試行錯誤しないといけない。いまの時代、特に若 手の応募者は会社の業務に注目している。目先は給与や休暇、休日、勤務時間 だが、それだけではない。どのような内容の企業で、自分自身の成長を促して くれる企業体質かを見ている。それに応えられるだけの材料を提供していない といけない。文字だけではなく、画像、動画、在籍社員のコメントなど、「仕 事のやりがい」を訴求できていないといけない。社会的な存在価値、SDGsへ の取組などが、「見える化」されていないといけない。 ・ホームページも常時アップデートされ、更新されていないといけない。発信 できる材料があるか。提供できる価値のある素材があるか。探してもないな ら、作らないといけない。グループ活動、社会活動、ボランティア活動など、 世の中との関りをPRできていないといけない。単に仕事の面白さだけではな く、会社全体の雰囲気、空気、風土がわかるようなコンテンツをアップしてい るか。経営計画発表会や年度ごとの大きな行事、イベントの様子を見せないと いけない。若手社員の日常の業務の様子が、わかるような素材を集めて動画で 公開しておかないといけない。得意先からのコメント、社員のメッセージなど があればグッドだ。面倒くさいと思わずに、常に新しい情報を発信することが 大事だ。数か月間、何も更新されていないことがわかると、それだけで若手の 応募者がNGを出す。 <おカネではない価値観を共有できるか> ・募集面接の方法も再考する必要がある。以前から全く工夫もなく、同じよう な方法で旧態依然とやっている企業が多いのではないか。日程を合わせて会社 に来てもらう。事前に人材紹介会社から、履歴書、職務経歴書、応募動機など の資料が届いている。それを事前に見て、呼ぶ人を決める。そして、幹部数名 が面接する。入れ替わり、立ち代わり、それぞれが気の向いた質問をして、回 答をしてもらう。時間にすれば、1時間くらいか。いったん終わって、お引き 取り願い、面接した幹部で採用の可否を相談する。場合によっては、待遇など の条件の詰めで、再度来てもらう場合もあるだろう。数日後、紹介会社を通じ て、採用の可否を通知し、本人からの承諾の返事を待つ。おおよそ、このよう なプロセスではなかろうか。 ・企業によって、業態はさまざまであり、仕事の内容もひとつとして同じもの はない。どんな業務に就いてもらうかによって、求められる資質や能力は大い に異なる。それをたった1時間や2時間で判断するのは難しい。所詮、面接は お互いの化かし合いではないか。その限られた時間で、人となりを見抜くのは 至難の業だ。しかし、一期一会で判断しないといけない。ある意味、人生の岐 路、究極の選択だ。ならば、その企業ごとに独自の判断基準があり、独自の面 接手法があり、価値観を共有できるかを見抜かないといけない。そのために は、最大限企業側の価値観、経営理念、大事にしていること、代表者の企業経 営にあたっての重要事項などを懇切丁寧に説明しないといけない。そのほうが 優先する。資料も準備し、プロジェクターを使い、要領よく短時間で一生懸命 に説明する。 ・その企業が目指すものと、応募者の価値観が合うかどうか。ゲタは応募者に 預けられる。こういうものを目指している企業だから、共感できますか?と問 うてみる。確かに、表面的な条件、待遇も大事だ。それが判断の大きなキーに なるだろう。しかし、それだけではない。おカネで来る人は、おカネの不満が 起こるとさっさと辞める。賞与が減ったり、昇給に不満があったりすると、そ れが直接の原因で辞めることが多い。決して長く企業に貢献しようという想い ではない。事務仕事であろうが、製造の現場であろうが、配送の仕事であろう が、営業の仕事であろうが、企業の目指すものに本人のベクトルが一致しない と、難しい。見かけ上の、表面上の待遇、条件がいい会社はごまんとあるだろ う。おカネで勝負するのは、中小企業では難しい。 <入社までに接触できる時間を多く作る> ・採用通知から、実際の入社までの期間をどうするかも大事だ。最近では、辞 めるときに残っている有給休暇を消化して退職する人が多い。権利だから構わ ないが、筆者はあまりこれを「良し」としない。月末まで在籍して、一生懸命 後のために引継ぎ仕事をして、間を空けずに次の仕事に変わるのが望ましい。 仮に、一定期間があるのなら、その間にどういう勉強をしておいて欲しいかと いうことをオーダーしておけばいい。権利だから使わないと損だという損得勘 定で考える人は、果たして次の企業に対するロイヤリティを保てるだろうか。 また、次の企業に採用が決まってから、今の企業を辞めるのに相応の時間がか かるのが普通だ。すぐに辞めて次に行けるというのは、いまの企業で責任ある 仕事をしていない証拠ではないか。長くて半年、短くて3か月くらいないとお かしい。辞めてから、すぐに来て欲しい。 ・その期間、時間を合わせて会社に来てもらい、代表者と接触する時間を持つ ことが大事だ。その際に、代表者から創業から今に至る経過や、苦労したこ と、うまくいかなかったことなど歴史的な経過を共有する。その経過から現在 の経営理念が生まれ、事業の目的が明確になり、目標が設定され、目指すべき 方向がある。単なる仕事の内容より、これからどうしようとしているのか、そ のために何を大事にしているのか、やること、やらないことは何か、など経営 者の頭の中を可能な限りオープンに伝えることだ。そこに応募者に関わって欲 しいと伝えることだ。業務の手順は入社してから聞けばいい。それより、この 時期でないと聞けない代表者からの話しを聞いてもらうことだ。それに共感で きれば、少々の入社後の苦労は大丈夫だ。ここをしっかりやることが大事だ。 ・条件、待遇、勤務時間、休暇日数などは定量的な数字だから、きちんと伝え ればいい。誤魔化したような、適当な説明をすることはダメだ。少々厳しい条 件も正直に伝えることだ。不信感を持たれるのが一番悪い。他社に比較してマ イナスの部分もあるだろう。ハンディのあるところはきちんと説明する。納得 はしないかもしれないが、説明を省略してはいけない。また、複数の面接者か ら違う説明をすることもいけない。上司により解釈が異なると、違う説明にな る。特に、部署により残業の扱いや勤務時間に関しては、違いが生じることが ある。営業部門と事務部門では、業務内容が大きく違うから、別々の給与形態 をとっているケースが多い。その理由、背景をきちんと説明することが大事 だ。決して、誤魔化したような回答はするべきではない。 <会社の空気・風土・文化が大事> ・入社後のフォロー、一定期間を開けた研修も大事だ。「フォロー」と簡単に 書くが、これはなかなかやっかいだ。ひとつの方法として、業務上の悩みは直 属の上司が面倒を見るとして、社内の生活面や過ごし方、休憩時間、季節ごと の服装など、細かいことに相談にのる「メンター」という兄貴、姉貴分の人を 特定しておく。組織上の上司に聞きにくいことは多くある。それはメンターと いう役割の人が担う。組織上の上司とメンターとは緊密に連携を図っておくこ とが大事だ。中途採用者は、以前勤務の企業での経験があるから、どうしても 新しい職場に最初馴染めないことが多い。ここが新卒者と異なるところだ。そ して、1か月、3か月、6か月、1年というスパンで一定時間数の研修を行 う。仕事はやってみないと分からないことが多いので、一定期間実務経験を積 んでからの研修は大事だ。 ・福利厚生の部分でも、気を配る必要がある。仕事一辺倒、数字だけが仕事に なると、殺伐とした雰囲気になる。ときにはリラックスし、社内の他部署の人 間との交流も必要だ。いろいろな性格や気性の人達が社内にいることを知るだ けでも意味がある。思い付きで都度やらないで、秋に運動会、年末に忘年会、 春に年度計画発表会、夏に納涼旅行など、定期的に行う行事をおおよそ決めて おけばいい。幹事役を比較的若手の社員に任せて、上司は見守ることだ。運動 会などは平日を一日潰して充てるべきだろう。一日を充てるのはもったいない が、この一日を有効に社内の融和と懇親を図る目的で使うなら意味がある。そ の分の売上が減った分は他の日で取り返せばいい。それより、社員、従業員の 相互の融和を図り、結束を強化する方に意味がある。半日身体を動かし、半日 は懇親会にする。 ・つまり、中途採用社員のエンゲージメント、やる気、会社へのロイヤリティ を高めるには、条件、待遇、勤務時間、休日休暇も大事だが、上記のような会 社が持っている「空気、風土、文化」をいかに伝えるかが大事なのだ。徹底し た掃除、清掃活動。地域周辺へのボランティア活動。文化活動や体育系クラブ 活動など、一見売上に直接結びつかない活動が大きな意味を占める。あとは、 人間関係をうまくマネジメントすることだ。職場の雰囲気が原因で辞めること は非常に多い。表面上の理由は別に言うだろうが、本音は上司や同僚、職場の 仲間と意思疎通ができないことだ。そういう症状や兆候はすぐわかるはずだ。 放置しないで、気が付けばすぐにアクションを取る。四六時中目配り、気配り する。縁があって一緒に働くことになった人だ。いかに、縁のあった人を大事 にするか。徹底しないといけない。