**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1064回配信分2024年09月16日発行 中小企業の課題研究その2:資金繰り 〜赤字を見て見ぬふりをするな〜 **************************************************** <はじめに> ・コロナ後の業績回復が芳しくない企業の特徴のその2は、ずばり「資金難」 だ。運転資金、設備資金の借入ができない。いや、過去の借入の返済ができて いないので、新規の借入ができない。ゼロゼロ融資の返済を含め、過去の債務 がまだ山ほど残っている。よく見れば、売上の倍近い借入がある。加えて、会 社のバランスシートには載っていないが、個人の借金もある。年齢的に住宅 ローンは流石に完済したが、会社に立て替えた個人のおカネの借入が残ってい る。これらを連結すると、借入総額は売上の3倍くらいに膨らむ。現在、超減 額返済に応じてもらっているが、金融機関からは返済額の増加を要求されてい る。言い方は丁寧だが、明らかに金融機関の姿勢に変化がみられる。局面は変 わった。 ・保証協会が付いている借入もあるが、担保もない裸の借入もある。当然、こ の借入の金利は飛びぬけて高い。利息全体を合計し、年間の総額を計算する と、社員一人分の人件費に相当する金額を払っていることに、愕然とする。自 分自身の年齢から考え、この借入の返済を続けることが残された余生のミッ ションかと思うと、やる気が失せる。長男は大手企業に勤務しているので、家 業を継ぐ気はなさそうだ。正式に会話したことはないが、正月やお盆に顔を合 わしても、その話しは切り出しにくい。結婚もして、住宅も買って、子供も二 人いる。奥さんも働いてはいるが、家計は楽ではなさそうだ。その長男に、 戻って家業を継いでくれとは言いにくい。どんどん時間が経過して、もうタイ ムリミットは越えた。 ・設備や建屋も、どんどん古くなる。新しい機械設備購入する以前に、屋上か らの雨漏り、建屋の修繕、外壁の剥がれなど、作業環境の悪化も目立つ。まだ 建屋や設備が新しいならいざ知らず、耐用年数を超えてくるとどうしても一定 期間での設備更新が必要になる。製造業でなくても、卸売業では倉庫、配送の 車両、小売業では店舗のしつらえなどにコストがかかる。これらは必要経費で あり、一定の収益から定期的にコストをかける必要がある。この更新を行わな いと、ある期間は収益が維持できるが、その後は事業が徐々に棄損する。顧客 が離れていき、気が付けば以前の顧客からの注文が半分以下になっていること に気づく。直接の原因は不明ではあるが、どうも現状の事業内容では顧客をつ なぎとめておく魅力に乏しいのだろう。 <長期借入は設備投資資金> ・つまり、事業を維持し、成長し、発展させていくには、一定の収益が必要で あり、一定期間ごとに投資が必要だ。そのためには、事業から収益を得て、そ の一部、またはかなりの部分を将来に対する投資を行う。短期間に集中して投 資のおカネがかかるので、足りないおカネは金融機関から借入をする。この資 金は長期で利益を生むから、長期で返済を組む。普通は5年から10年くらい か。設備も償却していくので、償却費用の範囲内の投資であれば赤字にならな ければ償却分の現金は浮くので、この資金で返済ができる。返済期間は法定耐 用年数くらいにしておく。新規の設備投資は、新たな収益を生む可能性がある ので、これは前向きな投資だ。やっかいなのは、設備が古くなって必要となる 更新の投資だ。これは投資というより、費用に近い。 ・この設備更新の費用、投資は、あまり利益を生むことは少ない。設備も10 年、15年となると、どこか傷んでくる。これと同じ理屈で、通常の運転資金と して一定の資金が必要だ。仕入れの支払い、給与の支払い、賞与、税金、保険 代など、一時期にまとまったおカネが必要となることが、ままある。この臨時 出費のおカネに余裕がないと、一時期に借入を起こすしかない。これを何回か 繰り返し、その間赤字になると、気が付けば多額の借入金が残っていて、年間 の売上に近い額になっていることにびっくりする。最初は予定通り返済をこつ こつしていたが、どこかで歯車が狂い返済が難しくなった。1か月分くらいな らまだしも、数か月分、半年分、1年分くらいの返済原資が手元にない。悪い ことに、そういう時期に大きな修繕が発生したりする。 ・この短期の運転資金まで借入するとなると、これは相当深刻な事態だと自覚 したほうがいい。何とか毎月、ぎりぎりの資金繰りで回していたところに、今 回のコロナショックが襲った。補助金や助成金で凌いできたが、これも、もう 限界だ。コロナ明けにお客さんが7割戻ってきても、苦しい台所は変わらな い。むしろ、以前より経営は苦しくなった。原材料の値上がり、電気代の高 騰、ガソリン代のアップ、従業員給料も上げないといけない。自身の報酬を減 らしぎりぎり食い詰めて、外部への支払いを優先する事態だ。家族はこの先の 見通しを非常に暗いと感じている。妻、子供の生活を考えると、止めるわけに もいかないし、他に商売替えをするわけにもいかない。進も地獄、退くも地獄 の、蟻地獄状態でストレスも最高のボルテージに上がった。 <常に財務の数字を理解する> ・自分自身の年齢にも依る。50歳台なら転職も可能性はあるだろう。60歳台な ら相当難しい。しかし、永年慣れ親しんだ業務から、それなりの年齢で転職す るには相当の勇気が要る。むしろ、勇気より切羽詰まった事情の方が優先する のではなないか。待ったなしのおカネの事情が起これば、行動を起こさざるを 得ない。しかし、周囲に相談する人、有効な情報提供をしてくれる人がいなけ れば、一歩前に踏み出す勇気が起こらない。奥さんに相談してもらちがあかな い。地元の商工会、商工会議所に相談に行っても、対応してくれる人によって 温度差は大きい。税理士さんは報酬の未払金がたまっているので、そのような 相談もできない。四面楚歌で、悶々としているうちに金融機関から返済の催促 が来るようになった。 ・必要なことは、頭をフレッシュにして、自社の事業の財務数字を冷静に見つ めることだ。これが意外とできない。まず、日常数字の把握ができていない ケースが多い。財務数字はほとんど見ていない。年に一回の決算書さえ、棚や ロッカーにしまってほとんど見ていない。まして、毎月の試算表の数字を見 て、自社の財務内容をきちんと把握している代表者の方は少ないだろう。もち ろん例外はある。例外に属する人は、過去に資金繰りで痛い目に会った人だろ う。あるいは父親から経営を承継した際に、あまりに多額の借入金にびっくり して、その後返済や金利の支払いに困窮し、非常に苦労した方だろう。あるい は、一度事業を縮小、清算などのマイナスの経験をして、かなり骨身にこたえ た人だろう。 ・当職も取締役として在籍していた出版社が破産し、所有していた株券が紙く ずになり、その株式を一族から購入するのに多額の借入を子会社からして、借 金だけが残った。自宅も担保に入れ、権利書は金融機関が預かり、最後は競売 にかかったので、住んでいても落ち着かなかった。最後は少額で取り戻すこと ができたが、その際に財務数字がわかっていない、現状を把握していない、意 味を理解していないことがいかに大きなマイナス要素になるのかを身をもって わかった。それまでは、他人事だった。誰かがやってくれるのだろう、金融機 関は最後の最後は面倒を見てくれる、おカネを借りることは簡単だ、などとい う安易な考えしか持ち得なかった。ところが、現実はそう甘くなかった。その ことがわかったのは、相当あとになってからだ。 <方向を決める勇気を持つ> ・とにかく、資金がないと事業運営ができない。潤沢にある必要はないが、円 滑に事業を運営する運転資金は絶対に確保しておかないといけない。目安は月 商の何か月分か。ただし、定常的な支出以外に、年に一回だけの大口の支払い と言うのもある。例えば固定資産税、消費税などの納付。車両の税金や車検 代。保険金の年払いの支出。労働保険料の納付などは、毎月あるわけではな い。たまにあるので、忘れる。納付書が郵送されてきて、その金額を見て愕然 とする。忘れていたわけではないが、現在手元の資金がほとんどない状態で、 この支払は難しい。かくて、払わないといけないのだが未払金がたまりにたま り、とうとう税金や社会保険料も滞納しだした。自分の報酬も数か月遅れてい る。事業としては成り立たない状態に落ち込んだ。 ・事業継続の可能性は全くないわけではないが、現状成り立っていないのは明 白だ。このまま続けることは難しいが、どうすればいいか分からない。後継者 も定かではないし、このまま金融機関の返済で苦しむ余生は送りたくない。こ こまで頑張ってきたのに、最後に近づいてどうしてこのように苦労しないとい けないのか。しかし、すべては我がことの責任と思うことだ。誰が悪いと言っ たところで、現状が改善することはない。現状を変えるには、変えようという 勇気が必要だ。変えるには、一人では難しいだろうから、信用、信頼できるス タッフ、周囲のサポーターに声をかけて、正直に現状を把握し、抜本的な対策 を練る。ここで、痛みを回避し、適当に誤魔化すと後で痛烈なしっぺ返しをく らうだろう。いったん清算することも選択肢のひとつだ。 ・清算するには、清算するやり方がある。お葬式にはお葬式なりのやり方があ る。毎年やっていることなら要領はわかっているが、一生に一度の未経験の大 仕事となると、よくわかっている人のサポートが絶対に必要だ。経営、労務、 財務、法律など、総合的な支援が必要だ。日本では残念ながら、企業の存続を 前提にした中小企業支援策しかなかった。今後は、人口減少に伴い、社数が 減ってくるだろう。この日本に400万社弱の企業は、いかなこと多すぎる。事 業価値の高い企業に、それなりに事業譲渡、事業吸収も有効な選択肢だ。その 際に、どのような問題が起こるのか。個人の財産はどうなるのか。どこまでそ の影響が及ぶのか。今から準備しておかないといけないことは何か。多くのこ とを考えるには、頭の中を少し空けておかないといけない。何事も、準備が必 要だ。今日思い立って、明日はできない。