**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1065回配信分2024年09月23日発行 中小企業の課題研究その3:親族後継者 〜脇を固める複数の役員がいるか〜 **************************************************** <はじめに> ・中小企業の後継者問題は、複雑だ。永年、筆者はこの課題に取り組んできた が、ひとつとして同じ事例はない。ご子息であろうが、従業員であろうが、外 部の第三者であろうが、所有と経営が一体である中小企業の承継問題は、なか なか一筋縄ではいかない。多くの周辺の利害関係者、親族関係者などの理解、 納得を得るのに時間がかかり、労力も多く要る。そこに、親子関係、兄弟関係 などの血族間の複雑な人間関係が絡み、糸がもつれると解きほぐすのに時間が かかる。代表者が高齢の場合、相続も関係してくると、非常にやっかいなケー スが多い。当事者同士の話し合いで片付かないと、我々外部の専門家のお出ま しとなるが、すんなり受け入れてくれるかは分からない。当方の提示する解決 策に後継者は意向を汲んでくれても、代表者が納得されない場合もある。 ・代表者に一生懸命説明しても、なかなか要領を得ない。それも道理で、後継 者への承継は創業者であるがゆえに、初めての経験だ。昭和40年代の後半に個 人事業で創業し、その後法人成りして、株式会社に改組した。以来、40年以上 代表者をつとめ、ようやく立派な業績を継続できる企業に成長できた。気が付 けば、70代の後半になり、後継者の長男も立派に育ってきた。創業当時から苦 楽を共にした専務は、昨年引退してもらった。今度は自分の番だが、長男を代 表者にするのはいいが脇を固め、彼を支える役員クラスの人材が誰もいない。 営業も経理も、実務を担当する管理職はいるが、役員クラスの人材はいない。 自分が創業してしばらくは独りで頑張ったが、限界を感じ、同級生や遠い親戚 のお子さんに入ってもらった。取引先の幹部を引き抜いた。 ・その役員たちも順次高齢になり、一昨年最後の役員である専務に引退を促し た。そして、役員は長男以外誰もいなくなった。自分が辞めるときには、自分 が招聘した高齢の役員はすべて始末をして後継者にあとを託すというミッショ ンは実現できたが、その次の世代を担う幹部スタッフの手当ては、後継者に任 せてしまった。後継者の長男は、高校までは地元だが大学は東京で、卒業して 就職したのも東京の企業だった。32歳で転職して、自分の会社に帰ってきてく れたが、地元に人脈は薄い。中学、高校の同窓会との付き合いも、卒業後地元 にいなかったこともあり、ほとんどない。先輩、後輩との付き合いも少ない。 ここ10年くらい、金融機関などの後継者グループの会に参加させ、世間との付 き合いも作ってきたつもりだったが、いかんせん実務が忙しく、そう簡単に人 間関係が構築できるものではない。 <規模が大きくなると複数の役員がいる> ・事業の規模にもよる。10名くらいの小規模企業なら、代表者一人の才覚で運 営は可能だろう。10名なら売上も2億円までか。事業所場所も当然一か所だ し、全員が揃って仕事をしている。朝も一緒、昼も一緒、仕事の終りも一緒 だ。半ば家族同然で、人間関係もできている。あうんの呼吸で仕事が進み、後 継者の長男も小さいときから従業員と一緒に暮らしているようなものだ。この 規模の企業なら、大勢の役員も必要ないし、商売の周辺の人達も気心が知れて いる。従業員の家族構成も分かっているし、その日の体調のよしあしも手に取 るようにわかる。朝の挨拶で、精神状態もすぐに読み取れる。従業員と経営者 が一心同体でできるレベルだ。これなら、長男に承継してもあまり心配ない。 ・失礼ながら、従業員が20名から40名、売上が10億から20億円前後の企業が一 番中途半端だ。ぎりぎり、一か所の事業所内に収まる規模だ。事務所と現場が 隣り合わせで、顔は全員見える範囲だ。しかし、業務は多岐にわたるようにな り、機能別に編成しないといけない。営業、事務、製造など、5名から10名前 後の部署が存在するようになる。何でもこなす従業員ではなく、その部署に張 り付いた専門職的な業務を担当する。部署ができると責任者が要る。売上も10 億円を超えてくると、社長業という仕事も増えてくる。金融機関との付き合い や、得意先との関係、仕入先との付き合いなど、現場業務から距離を置いた仕 事が増えてくる。デスクに座っている時間が少なくなり、外部へ出かけるつま らない?用事が増える。留守を預かる役員クラスの人材が必要になる。 ・おカネを預かる経理という部署に、一族親族以外の人材を貼り付けないとい けない。小規模のときは、母親か奥さんが担当して、できていた。しかし、10 億円企業になると、毎月1億前後のおカネが出入りする。これは、もうある程 度簿記、経理に精通した担当者でないとさばけない。給与だけでも月末に 1,000万円前後の振り込みになることもある。他人を信用して、任さないとい けない。しかし、会社のおカネを赤の他人に信用して任せてもいいものか。創 業家の家族のおカネの動きとも関連してくる。台所の中身も、お財布の中身 も、冷蔵庫の中身まで、公開しないといけない。紛らわしいことや公私混同は ご法度だ。経理担当役員という、大蔵大臣のような存在がいる。もう、身内で はカバーできない。ここで、そういう信用、信頼できる他人が必要となる。 <親族一族で役員になる人材がいるか> ・成岡が大手製造業から、義兄が経営する京都の中小企業に転職してきた当 時、その企業規模がちょうど従業員40名、売上12億円だった。小規模の家業か ら企業への転換点だった。当時義兄の社長が、どう思ったのか異業種にいた成 岡に目をつけて、ヘッドハンティングした。当時常務であった義兄の従弟のア ドバイスによるものだったと、あとで教えてもらった。当時の役員はその従弟 の常務だけ。義弟の成岡が入社し、実弟が親会社の印刷会社の副社長をしてい た。経理責任者に取引先大手銀行の支店長を迎え、出版事業の編集長に大手出 版社の編集者を迎えた。営業事務担当の責任者にも、メガバンクで次長だった 高卒ベテランを迎え、さらに義兄の大学でのクラブの同窓の人物を迎えた。次 のステップに上がるために、人材に多額の先行投資をした。 ・結果的に、その後10年間で売上が7倍に、従業員規模が8倍になった。拠点 も、東京、はじめ名古屋、大阪、福岡に支店を、営業所は札幌、仙台、広島に 設けた。物流倉庫も、南区、伏見区、滋賀県竜王に新設した。成長ではなく膨 張した事業は、バブル崩壊と共に急激に悪化し、資金繰りに行き詰まり、平成 8年に特別清算を申請し法的処理を行うに至った。基礎固めをせずに、土台が できていなかったうちに、上に家を建てたようなものだった。お恥ずかしい話 しだが、一族親族の役員で本当に経営の勉強を真剣にした者はいなかった。オ イルショック以降の高度経済の波に乗っかり、バブル経済で本社ビルの購入と いう不動産に手を出した。経営とは、そもそもどういうものかということを理 解していなかった。 ・大企業から出向で迎えた役員は、業績が悪化しだすと、あっという間にいな くなった。優秀な若手の社員は、将来性に見切りをつけ、さっさと転職して 行った。多額の資金を注入して買った本社ビルは数年で手放し、また下京区の 創業の地に出戻った。その後法的処理で倒産した。築城10年、落城3日のよう なイメージだった。落ち目になりだすと、ジェットコースターが坂を下るがご とく、商売は加速度がついたように悪くなる。毎日どんどん現金が出ていく。 止まらない。月末が、またすぐに回ってくる。何とかしのいだと思ったら、も う20日過ぎで、月末を乗り越えられるか分からない。当然、役員報酬は遅配に なる。いつ、払われるのか、全く見当がつかない。一回ならまだしも、これが 日常茶飯事になってしまう。 <次世代に託す準備が必要> ・後継者に後を託すなら、それなりの準備、段取りが要る。法務局で登記を変 えるだけではない。おカネは最悪借りればいい。設備も、買えるなら買えばい い。しかし、信頼できる人材だけはおカネでは買えない。中小企業は、どうし ても家業から出発し、その後発展した事業がほとんどだから、まず身内で信頼 できる人材がいるか、どうか。その人を口説いて事業の仲間に呼び入れられる か。なければ、縁のある人を探さないといけない。突然、思い立っても難し い。いつも、誰かいないか、誰かいないか、この部署のこの仕事を任せる人は いないかと、四六時中思っていないと見つからない。人材は、本当に縁のもの だ。これは代表者しかできない仕事だ。あるいは、想いを同じくする本当に信 頼できる側近のような人とだけ共有できる課題だ。 ・冷静に現在の従業員の年齢と部署の配置図を見て欲しい。あと数年で後継者 が代表者になったときに、誰が何歳になっているか。その人が、元気できちん と仕事をしてくれているだろうか。健康に問題がある人もあるだろう。親の介 護の心配がある人もいる。営業部門にいるが、どうも営業が合わないように感 じられる人もいる。女性の社員も、果たして全員がそのまま今後機嫌よく働い てくれているか、分からない。本人の問題ではないことで、止む無く退職に至 るケースもある。それも、相当の時間がある場合より、比較的時間がない場合 が多い。常に従業員の動向には気を配っておかないといけない。何より、日ご ろから距離を近く、短くしておかないといけない。年に数回の面談のときだ け、改まって、かしこまって面と向かって話し合うより、日ごろから気楽に会 話できるようにする。 ・まだ後継者が若いと、年配の幹部と会話が難しい。ときどきは、代表者も交 えて懇親会や会食の席を用意し、社員旅行などでフランクに本音の会話ができ るようにしないといけない。中小企業で50名以下の場合は、学校でいえば1ク ラスの人数だ。担任の先生は生徒のことを四六時中ウォッチする必要がある。 特に、若い後継者がトップに立つと、高齢の幹部より次世代に幹部になってく れる可能性が高い若手に気配りしないといけない。会社は生き物で、人間が事 業を営んでいる。いくら高価で優秀な機械を買っても、ロボットを導入して も、事業を営むのは経営陣であり、日常は従業員なのだ。事業を承継する際 に、一番心を砕くのは、この人と組織になる。