**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1066回配信分2024年09月30日発行 中小企業の研究課題その4:従業員や外部第三者への承継 〜親族への承継以上に労力と時間が必要〜 **************************************************** <はじめに> ・仮に親族、一族の後継者がいなかった場合、次の考えるのは従業員または外 部第三者への承継だ。いずれにしても、他人になる。中小企業の所有と経営 を、外部の他人に引き継ぐのは非常に難しい。難しいというより、解決しない といけない課題が多い。最近では、これをビジネスにしている企業が続々とで きているが、実力、実績、内容など、ピンキリだ。特に、たまたま担当した人 の経験、実績、実力など、皆目分からない。自社のビジネスが、まだわかりや すい業界ならいいが、非常に珍しい業界のこともあれば、特殊な業界の場合、 いくら説明しても事業内容を理解してもらうのに、時間がかかるだろう。い や、時間をかけても、そもそも難しい場合もある。 ・事業価値の理解を数字に求めるのも難しい。数字以外の価値は、なかなか理 解してもらえないことが多い。希少価値という価値もある。伝統産業などは、 この部類だろう。京都は特にこの手の企業が多い。それらを総合してブランド や営業権、のれん代などと称するが、これに金額をつけるのは相当難儀だ。し かし、結局最終的にはおカネで解決するしか方法がない。この価値が株価に反 映されるのが理屈だが、現実にはそう簡単にはいかない。親族以外に承継する 場合、株式も承継するとなると何らかの金額を算定して値段を決めないといけ ない。これが中小企業の場合、引き継ぐのが従業員にせよ外部の第三者にせ よ、結構問題になる課題だ。税理士、会計士、仲介業者、FA代理人、弁護士な ど多くの専門家が跋扈する。 ・従業員に承継する場合、ある意味永く勤めてくれている従業員だと身内のよ うなものだから、逆にやり易い面と難しい面が混在する。従業員が50名までの 小規模企業なら、誰がみてもあの従業員のAさんが本命だと、ほぼわかってし まう。年齢、勤続、技量、立場、経験など、総合的に見れば本命はほぼ決まり なのだ。問題は、その本命のAさんがすんなり次の代表者を引き受けるか。気 持ちは引き受けたいが、果たして引き受ける条件が整うか。まず、最大の壁は おカネだろう。理屈からすると、所有と経営が一体だとすれば、中小企業の代 表者は最大の株主であるはずだ。最低51%、できれば3分の2、可能なら100 %株主でいることが大前提だ。そうなると、身内でない従業員のAさんが代表 者もしくはそれ以外の株主から株式を買うことになる。実際に、現金が動く。 <従業員に引き継ぐのも難しい> ・株価がいくらになるかは、その時の状態により違うので一概には言えない。 しかし、業績がそこそこで業歴が長い場合、資本金以上になる場合も多い。今 までの利益が蓄積されていると、資本金に繰越の利益を加算すると、資本金以 上になっている。仮に、資本金が10,000千円だった場合、30年の業歴で毎年平 均1,000千円の利益が出ていたとすれば、30年×1,000千円=30,000千円に資本 金の10,000千円を加えると、純資産だけで40,000千円になる。借入金が多くな ければ、最低でもこれくらいの株価になる可能性がある。もちろん、現在の代 表者の退職金を払い、いろいろな資産の査定を厳密にすれば変動はあるが、株 式を取得するならかなりの金額を用意しないといけない。果たして、それが準 備できるか。 ・一族親族の後継者の場合、株式の取得に関しては大きな税制面の優遇措置が ある。しかし、他人である従業員が、非上場の中小企業の株式を多額の資金を 投入して購入するというのは、現実的に可能だろうか。株式は非発行で、実態 はない。流通もしないし、売買も難しい。仮に業績が悪化すれば、紙くずにな る可能性もある。40,000千円というのは大金だ。一軒の家が買える金額だ。資 金がなければ、借金して買うことになる。果たして、金融機関がおカネを貸し てくれるだろうか。自動車や家の購入にはローンがあるが、中小企業の株式の 購入にローンが組めるだろうか。奥さんに言えば、反対するだろう。従業員と して取締役になり、報酬が増えるのは歓迎するが、借金してまで株式を買うの は、どうも納得できない。 ・他の従業員が納得してくれるだろうか。古参の社員も数名在籍しているし、 自分より勤務年数が長い社員や、年上の社員も多くいる。自分は社長が目をか けていてくれて、信頼もしてくれているが、社員全員がこぞって賛成するかと いえば、そうではないだろう。近い将来、自分が代表者になったら、退職して いく若手の社員もいるだろう。現在の社長が、どのような立場で会社に関わる のかも、未知数だ。さっと手を引いて引退するのか、あるいは現在と同じよう に会社に出てくるのか。完全にいなくなると困るし、さりとて毎日会社にいる と現状と何も変わらない。肩書は社長が会長になっただけだが、机の配置も周 辺の様子、風景も全く変わらない。目で見て、何も変わらないと、まだ社長の ままでいるようだ。 <株の値段をつけるのも難しい> ・従業員が難しければ、廃業するという選択肢もある。あるいは、事業を続け たいなら、外部の他人に引き継いでもらうという選択肢もある。外部の他人と はいえ、知り合いの方の企業ならアプローチもできるだろう。しかし、それも ないとなると、全く候補者は見当たらない。そうなると、誰かに頼んで探して もらうことになる。従業員はいわば身内のようなものだが、外部の第三者とな ると全くの他人になる。全くの他人の中から自社の事業を引き継いでもらうと なると、相応の時間も費用もかかるだろう。また、代表者がそのような意向で あるとか、動きを従業員にはあまり知られたくない。社長が会社を売るつもり だ、などという良からぬ噂が流れると、士気に影響する。また、外部の関係者 にそういう風評が流れることも良くない。 ・このマッチングをビジネスや生業にしている企業が最近多くある。成岡も、 6年間京都府の事業承継・引継ぎ支援センターで責任者をしていたが、この マッチングは非常にエネルギーのかかる大仕事だ。大企業は株式が流通してい るし、値段もついて取引されている。中小企業の株式は流通していないので、 値段のつけ方が難しい。一定の法則やルールはあるものの、評価はまちまち だ。単純な計算では出てこない。業績が芳しくない場合は、金額がつけられな い場合もある。債務超過の場合は、理屈上はゼロ円になり、借金付きというこ とになる。その企業の事業価値の評価は、決まった方程式はない。ゼロ円で も、多くの上場企業と取引口座があれば、それを大きく評価するときもある。 ・あるいは、多くの顧客名簿が魅力だというケースもあるだろう。若手の従業 員が多く在籍していれば、そこに価値があると認める企業もあるだろう。製造 業なら広い土地を所有しているなら、その資産に価値を見出す企業もある。相 手の企業の物差しは様々だ。単純に売上が増えるという理由も当然ある。非常 に稀な事業を営んでいる事業者の場合、その希少価値を絶やしてはいけない と、引き受ける企業もあるだろう。引き受けた後、同じように事業が営めるか が問題だ。ほとんどの場合、全く同じように事業が運営できるケースは珍し い。引き受けた企業が、さらに事業に磨きをかけて事業価値を高めることがで きるのか、逆に棄損して事業価値を落とすのかは、紙一重だろう。慎重な事業 運営が必要だ。 <早くから承継を意識する> ・従業員が引き継ぐにしても、外部の第三者に引き継ぐにしても、相応の時間 がかかる。過去の経験では、最短の時間は半年。最長の期間は3年間くらい だった。最短の半年のケースは、業績も立派、借入金は実質なし、業歴も長 く、文句のつけようもなかった。通常行う資産査定も簡単で、ほとんど手間は 要らなかった。しばらく、先代の代表者に残ってもらい、数年後に完全に引退 された。逆に、3年以上かかったケースは、二転三転。代表者の腹が固まら ず、方針が迷走し、その都度右往左往した。外部に引き継いでもらうことを依 頼した直後に、やっぱり長男に承継すると言い出したり、廃業すると言い出し たり、周囲はその都度振り回された。ようやく、知り合いの方に法人を設立し てもらって、その企業に引き継いだ。 ・迷われる気持ちも分からないでもないが、30年経営して最後の最後の決断 だ。今日、明日のことではない。今月の売上がどうこうという話しではない。 相当先を見て、相当以前から、どうしよう、どうしようと、悩んだ挙句、決断 する。決断するまでに多くの情報を集める。集めて、自分一人では決められな いだろうから、信頼できる外部に相談する。セカンドオピニオンを取るべき だ。当然、家族、親族の意見もあるだろう。事業を止めることも選択肢のひと つだ。継続が前提だが、最悪止めることも選択肢として残しておく。続ける場 合と、止める場合、両方ともにメリット、ディメリットがあるだろう。損得で はなく、正しい選択をしないといけない。損か、得か、という物差しではな く、社会的にも、地域的にも、最善の選択を目指さないといけない。 ・そういう意味では、次の世代への承継は、最後の大仕事だ。30年経営を担っ てきて、最後の最後の大きな決断になる。この一大事をきちんとやることが最 後のミッションだ。時間がかかることを考えれば、代表者に就任した時点か ら、事業承継は始まっている。次の世代にどのように事業を引き継ぐのか。今 までの経験では、その意識を自覚するのが、あまりに遅すぎる。もう、ゴール まであまり時間がない中で、多くの選択肢を考えるので、余計に迷走する。基 本は、継続することで、まず、親族に誰か後継者がいることが前提だ。ご自分 の子息なら最も近い親族だが、もう少し範囲を広げてもいい。子息が高校生、 大学生の頃から、ドラフト1位は誰かという意識をずっと持っていないといけ ない。早く意識をすること。これが成功の秘訣だろう。