**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1072回配信分2024年11月11日発行 トランプ新大統領とどう向き合うか 〜世界情勢は激動と混沌へ〜 **************************************************** <はじめに> ・長い選挙戦が終わり、アメリカの次期新大統領が決定した。事前の予想通 り、拮抗した選挙戦は投票日まで続き、白熱の戦いとなった。結果はご存じの 通りトランプ氏の圧倒的な勝利となった。上院、下院の選挙にも共和党が勝利 し、これで大きくアメリカの新しい政治体制が動き出す。もっとも、来年の1 月20日までは民主党のバイデン現大統領が執務に当たっている。政権移譲チー ムの引継ぎ、ワシントンスタッフの総入れ替え、就任式などがあり、落ち着く のは100日、3か月くらいかかる。その間に、同盟国の首脳が訪米したり、大 きな国際会議があったり、落ち着かない。世界第一の強国のトップが交代す る。日本への影響は必至だ。どれくらい大きな変化が起こるのか、想像もつか ない。 ・過去には数回僅差での決着もあったが、今回ほど事前の下馬評では拮抗して いるというケースも珍しかった。しかし、フタを開けてみると結果は予想外の 大差がついた。原因に関しては諸説言われているが、ここでその原因を云々す る気はない。結果の分析は専門家に任せて、それより今後この選挙結果に基づ いて、どのようなことが起こるのかを考えておいた方がいい。日本の産業、経 済に与える影響は大きいはずだ。それが、中堅企業、中小企業に、じわりと浸 透してくる。あるいは、何かが一気に変わり、大きな地殻変動が起こるのか。 想定の範囲内の出来事もあれば、想定外のことが起こる可能性もある。前回、 2016年から2020年の4年間のトランプ時代には、おおいに世界が振り回され た。常識では考えられないようなことが頻繁に起こり、おおいに世界は動揺し た。 ・アメリカ国内では、この選挙を通じて大きな分断が起こっている。以前は政 党間の主張の相違は乗り越えられる範囲だった。しかし、今回のトランプ氏・ ハリス氏の主張は、真っ向から対立している項目が多い。何よりも前回の時も そうだが、トランプ氏の判断基準は、「損か得か」だ。ビジネス感覚で物事を 判断する。それはそれで、ある意味わかりいいが、世界のパワーバランスは 「損か得か」の考えだけでは対応できないはずだ。これを基準にすると、世界 情勢は大きく動くだろう。アメリカを偉大にするというビジョンはわかるが、 アメリカだけが偉大になってもらっては困る。独り勝ちを目指すのではなく、 バランスの取れた判断ができないといけない。果たして、それが可能だろう か。不安な気持ちの方が強い。 <外交関係が様変わりする> ・ウクライナの停戦も近未来に実現すると事前に吹聴している。ロシアの領土 征服を認める代わりに、トランプ氏はロシアとどういう取引をするのか。もと もとトランプ氏は、ロシアとの関わりを指摘されてきた人間だが、つい先日も ロシアに有利になるような発言をして、世間を驚かせた。「相応の資金を負担 しないNATO加盟国に対しては、ロシアに好きにするように言う」として、アメ リカはウクライナがロシアに侵略されても、防衛しない趣旨の発言をして、バ イデン大統領やNATOトップから批判された。軍事資金の提供を縮小するなら、 ウクライナの軍隊は持たないだろう。事前の発言通り、短期間で戦争を終わら す可能性はあるが、決着のイメージは誰もが持てていない。ゼレンスキー大統 領は不安でいっぱいだろう。 ・中東問題はどうなるか。ガザ地区に侵攻したイスラエルに関しては、アメリ カ国内にいるユダヤ人の献金と票がトランプ氏にとっては最重要であり、むし ろイスラエルを強く支持する側に回るはずだ。イランなど周辺諸国との関係 も、一層の緊張状態になる可能性が高い。当分、出口の見えない交渉が続き、 そのうちにさらに戦闘が激化するかもしれない。北朝鮮への対応も予測不可能 だ。前回は、自身が乗り込んで外交交渉にあたったが、際立った進展はなかっ た。取引をしてビジネスにつなげようとしたのだろうが、そう簡単にビジネス ライクにことは運ばなかった。体制の維持を保証しない限り、解決の出口は見 えない。日本や韓国に、防衛費で一層の財政負担を求めてくるはずだ。応分の 負担をせよと。 ・中国との関係はどうなるか。中国からの輸入品に60%もの関税をかけると脅 かしているが、果たしてどこまで本気でやるか。アメリカと中国の貿易額は、 輸入、輸出双方で非常に大きな額だから、高額の関税をかけると双方の貿易に 支障が出ることは間違いない。半導体製品、電子部品などの扱いも焦点だ。ア メリカにあまり強引に圧力をかけると、それでなくても中国の国内経済は不動 産不況から大きく傷んでいるので、さらに傷口に塩を塗るなら、逆に大きな反 抗パンチを繰り出さないとも限らない。台湾に侵攻するのは急には起こらない だろうが、それでも緊張状態は続くだろう。米中の緊張が高まると、中国と日 本との関係も、良くなるイメージはもてない。今でも未解決の課題が山積して いる日中関係だが、一層険悪になる可能性がある。 <経済も相当変わる> ・移民に対する強硬姿勢は、公約のポイントなので、不法移民に対する強制送 還が始まる。抵抗する人に対して、相当強い姿勢で臨むだろう。場合によって は、警察、軍隊を動員するという事態になれば、国内の混乱に一層の拍車がか かる。メキシコ国境などから不法入国する移民があとを絶たないので、この不 法移民のために多くのコストがかかり、職が奪われ、正常な市民生活に大きな 支障を来しているというのが、トランプ氏の主張だ。移民の問題は他人事では ない。確かに、ヨーロッパでも多くの国が移民問題で悩んでいる。ドイツ、フ ランス、イタリア、イギリスなどのG7の主要国でも、この移民問題は頭が痛 い。日本もいずれこの問題は避けては通れない。トランプ氏がこの移民問題に どのような対処をするのか。強硬に出れば逆効果になる。 ・アメリカのインフレが再燃する可能性がある。事前に公表されている経済政 策は、インフレにつながるものが多い。アメリカ経済に再びインフレをもたら せば、金利がまた上昇に転ずることになる。ドルが高くなり、世界中の通貨が また安くなる。アメリカだけではなく、世界中が再びインフレの波に襲われる ことになる。これまでにトランプ政権がとってきた政策や新たに公約として掲 げている保護貿易や大規模な規制緩和、減税による個人消費の拡大は、その結 果としてインフレの圧力が高まることになるだろう。中国からの輸入品にかけ る高い関税はインフレ再燃の要因になる。60%という関税はあり得ないと思う が、輸入品の価格高騰につながることは間違いない。日本の自動車産業の輸出 にもブレーキがかかるだろう。 ・大規模な規制緩和が実施されるだろう。規制緩和によって景気が良くなり、 株価が上がる。個人消費も拡大し、景気が一時的に良くなることは間違いな い。経済が意図的に成長に転ずれば、自然にインフレが始まる。その結果とし て、インフレは再度の利上げを招き、株価低迷、個人消費の低迷をもたらす。 関税引き上げや規制緩和による増収などを背景に、先行して行われるのが「減 税」だ。ポピュリズム(大衆迎合主義)政治の典型的なパターンだが、大幅な 減税は個人消費を押し上げて、一時的には景気が良くなりインフレが再燃す る。トランプ氏は、減税=国民の支持率が上がることを信じているので、この 流れは止まらないはずだ。大衆に迎合することで人気を得たので、この流れを 止めるわけにはいかない。 <日本にとっては不安がいっぱい> ・日本との関係が極端に変わるとは思えないが、現在の石破政権にとってはや りにくい相手だろう。とにかく、アメリカが有利になる取引交渉になるので、 理屈や合理的、常識的な説明、会話は成り立たない。アメリカに有利、トラン プ氏に有利な取引は進めるだろうから、前回のときに北朝鮮と取引したよう に、何が起こるか分からない。中国との貿易戦争も激化すれば、台湾問題も再 燃するだろう。足腰が弱い日本政府で、果たして対等に交渉ができるだろう か。急激な意思決定に振り回わされる。USスチールの買収案件も頓挫するかも しれない。為替も円安が一層進むと思われる。日本経済に与えるマイナスの影 響は無視できない。大企業の業績が芳しくないと、その下に位置する中小企業 の業績に直結する。全体の景気に悪影響が及ばないか。 ・投票結果はかなり拮抗すると思われたが、フタを開ければ意外な大差で決着 した。この結果を素直に受け入れられない人も多いだろうが、結果は結果とし て甘んじて受け入れないといけない。目の前で起こっていることは事実なの だ。想定外の事態かもしれないが、これを前提にいろいろなプランを練り直 し、再検討する必要がある。アメリカの国民がもっと常識的な選択をすると 思っていたが、結果はそうならなかった。しかし、この事実を覆すことはでき ない。少なくとも今後4年間は、アメリカ大統領はトランプ氏だ。この4年間 で、世界がどう変化しようが、自社の企業業績を安定的に成長軌道に乗せるの は、経営者のミッションだ。アメリカの大統領がトランプ氏になったのを、業 績悪化の理由にはできない。従業員に説明しても納得しない。 ・8年前から4年間、トランプ氏は大統領だった。この間、世界情勢は混沌と していた。あまりに急激に多くのことを変えたから、世界は相当揺れ動いた。 そのトラウマがあるので、不安は隠せない。NATOや貿易協定、気候変動の枠組 みからの離脱など、多くの人々がその意思決定に驚いた。今回、本人も前回失 敗したことを二度犯すミスはしないだろうが、取り巻き、周囲にどれくらいモ ノを言える人を揃えられるのかがポイントになるだろう。国務長官、国防長 官、財務長官、特別補佐官など主要な閣僚にどういう人物を充てるか。イエス マンばかりを集める可能性がある。そもそも不動産の事業家だから商売には長 けている。しかし、政治は商売ではない。あるときは、損をしてでもやらねば ならないことがある。正しいことを正しくやらないといけない。果たして、そ の覚悟があるか。迷走は混乱を招くだけだ。