**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1073回配信分2024年11月18日発行 トランプ新大統領とどう向き合うかver.2 〜想定外の変化には当面様子見がいいか〜 **************************************************** <はじめに> ・先日の大統領選挙の圧勝を受けて、1月20日の政権交代を見据えて、トラン プ新政権が動き出した。勝利演説の際も、アメリカ国民が大きな権限を与えて くれたと叫んだ。上院、下院も多数をとり、大統領と合わせてトリプルレッド (3つとも共和党という意味)を達成した。従来は、大統領=行政と議会=立 法府はねじれ状態だったが、これで解消した。悪く言えば、したい放題、好き 放題に政治を動かせる。いくつかの主要な閣僚候補者が発表されているが、何 やら暴風雨が吹き荒れそうな予感がする人事だ。まさに、強大な権力を握った わけだが、取引(ディール)主体の運営になるので、非常にリスクが高く、危 うい。新政権の施策に対応することになるが、ある人に言わすと「予測不可 能」なので、準備も難しいという。 ・不動産業の出身で実業家だから、もともと政治家ではない。バランス感覚が あまりなく、自身のビジネスに有利か、不利か。儲かるか、儲からないか。損 か、得か。このような判断基準になるだろう。世界の情勢をにらんでの判断で はなく、アメリカにとってそれは損か、得か。自分のビジネスにとって、いい か、悪いか。このような物差しで多くの施策が決まっていくなら、将来的には 相当危ういことになる。アメリカの失業者を救済し、労働者層の支持を取り付 けるなら、どういう決定がいいのか。メキシコからの不法移民を取り締まり、 強制送還する。彼らが、アメリカの労働者から雇用を奪っている。自動車産業 から雇用を奪っているのが他国からの輸入車だから、これに高い関税をかけれ ばいい。国内産業の保護に走る可能性が高い。特に、目の敵にするのが中国か らの輸入品だ。だから関税を高くする。 ・投票してくれた大半の人が高いインフレで生活が苦しくなっていると感じて いる。この4年間で生活が厳しくなったと感じ、民主党政権への批判票が多く トランプ氏支持に流れた。日本の総選挙で、国民民主党の主張である「手取り を増やす」というスローガンが分かりやすかったので支持を集めたのと同様 に、「生活を良くする」という主張が多くの国民に受け入れられた。これに反 し、ハリス氏の主張はトランプ批判が多く、それ以外の主張は理想であり、生 活実感に迫るものがなかった。具体性に欠け、多くの支持を集めるのに苦労し た。それくらい、アメリカの国民のバイデン政権に対するクレームは大きい。 ウクライナにおカネを投じるより、我々の生活を楽にしてくれという主張には 説得力がある。その力がトランプ政権誕生の原動力になった。 <金利と為替変動に注意> ・これからどうなるかは、全く予測を許さない。ある商社の方に言わすと、予 測不可能だから、出たとこ勝負で万端準備をしても仕方ないと諦めムードだっ た。前回の時も、事前に主張していたことと真逆の決定をし、朝令暮改を繰り 返した。突然、無理難題を言い出したり、北朝鮮のトップと会談すると言い出 したり、毀誉褒貶が激しかった。その都度、株価は乱高下し、為替も振り回さ れ、外交も経済も混乱した。ヨーロッパの安全保障におカネを出したくないと ゴネたり、日本にもっと防衛にカネを出せと脅迫し、したい放題を繰り返し た。反対を唱えるスタッフを簡単に解雇し、イエスマンを周囲に配置したの で、余計にワンマンが際立つことになった。今回の現在公表されているメン バーは多少ましかもしれないが、それでも何が起こるか分からない。 ・確実に言えることは、保護主義に走ることだ。自国の産業の保護を目的に、 高い関税をかけて自国の産業を守ろうとする。これは日本の産業、特に自動車 産業にとって大きな痛手となる。前回の時も、トヨタの社長が慌ててアメリカ 国内への投資の増額を決定した。メキシコで生産して、アメリカ国内に輸入す る車にも高い関税がかけられるだろう。ただでさえ、トヨタ以外のメーカーは 業績が芳しくないのに、追い打ちをかけられるようなものだ。中国からのEV車 にも高い関税がかけられるとなると、中国経済に与える影響も相当なものにな る。日本国内の製造業への影響は必至だ。部品メーカーなどは、設備投資を手 控えるという方策に出るだろう。機械装置製造業、金属加工製造業などへの影 響は大きい。中小企業の業績悪化の原因になる可能性が高い。 ・インフレの抑制に金利を上げるだろう。金利はFRBの専権事項だが、大いに 口を出すだろう。FRBのパウエル議長は、トランプ氏が何を言っても辞めない と啖呵を切った。おそらく金利の問題で政権とFRBはぎくしゃくするのではな いか。アメリカの金利の動向は、為替レートに直結する大きなテーマだ。イン フレ傾向が強まると、当然FRBは金利を上げると言い、その時期に関しては相 当揉める可能性が高い。当然、それに連動して投機筋の為替への影響が出るか ら、当分円ドルレートは乱高下を繰り返すのではないか。為替の平均水準をど れくらいで来期、来年度の予算、計画を立てればいいのか非常に悩ましい。中 小企業でも、輸出、輸入が多い企業では、1円のレートの変動で相当の損得が 出る。アメリカとの貿易でなくても、中国との貿易に関しても影響が出る。 <中国との関係がどうなるか> ・石破政権はまともにトランプ氏と話しができるだろうか。先日の5分間の電 話会談の様子が報道された。とてもこの程度では判断できないが、あまり期待 するのは酷というものだろう。故安倍首相とはゴルフを通じて人間関係ができ ていたが、石破首相はアンチ安倍で登場したわけだから、関係構築の入り口は 難しい。英語も得意ではないだろうし、鳥取県の地方からの首相だから、果た してどうか。周囲の側近や大臣で固めて、団体戦で戦う方が得策だろう。個人 プレーでカバーするというより、集団で立ち向かうのがいいだろう。むしろ、 防衛分野には見識があるから、この分野での交渉には力を発揮するのではない か。駐日アメリカ軍の費用負担の増額を間違いなく求めてくるだろうから、こ の交渉にはパワーを発揮してほしい。 ・過去共和党政権では、アメリカは戦争を開始したこともないし、拡大したこ ともほとんどない。多くのアメリカが戦争を始めたのは、意外と民主党政権の ときだ。第二次世界大戦への参戦は民主党のルーズベルトだったし、ベトナム 戦争へ進んだのは民主党のケネディ政権だった。ベトナム戦争を終わらせたの は、共和党のジョンソン大統領だった。戦争では、軍事産業は儲かるかもしれ ないが、それ以外はビジネス的には得にはならない。泥沼の戦いになり、時間 がかかり、得るものは少ない。そういう意味での損得で考えると、ウクライナ 紛争を短時間で片付けると啖呵を切った気持ちも分からないではない。欧州の 紛争に多額の費用を投入することに対する疑問は大きく、欧州のことは欧州で 片付けろと言うことだろう。NATOへの関与も、おカネも、薄らいでいく。 ・イスラエルへの支援は課題になる。ユダヤ世界から多額の資金が供給されて いるから、イスラエルへの支援を縮小するのは厳しい。中東問題の方が、トラ ンプ政権にとっては頭痛のタネだ。中国と台湾の問題も、きれいな決着にはな らないから、にらみ合いながら現状維持で行くのではないか。中国とアメリカ の貿易戦争が多少はこじれても、それが原因で米中が台湾をめぐって軍事衝突 になるとは思えない。そんなことをすれば、流石に世界は大混乱になるとわ かっているはずだ。その虚をついて北朝鮮が暴れだす可能性もある。韓国はそ うなったら大変だから、自制にかかるだろう。果たして、石破政権がどれくら いリーダーシップを発揮できるか。はなはだ、心もとない限りだ。置いてきぼ りになるかもしれない。よほど周囲で脇を固めないといけない。 <予測不可能だから様子見> ・いまのところ、申し訳ないが、中小企業に関する影響の度合いは推し量れな い。日本では、関係なく金利は徐々に上がるだろう。急に上がると国債の償還 に支障を来すから、少しずつ、少しずつ、上がるはずだ。アメリカのインフレ 進行に伴う金利の変動で、為替レートはどうなるか分からない。アメリカが本 当に日本からの輸入品に10〜20%の関税を課すなら、少しは経済成長に水を差 すことにはなる。しかし、楽観的だが影響は軽微だろう。川下の中小企業に波 及するには、時間もかかるし、影響も薄まるはずだ。むしろ、中国との関係が 悪化したり、中国経済の不振が大きくなったり、長引いたりするほうの影響が 大きいのではないか。あるいは、中東の紛争が拡大し、原油の価格が暴騰し、 ガソリンや燃料の値段が上がる方の影響が大きいだろう。 ・予測不可能な事態に備えるには、ムダなおカネを使わないということだ。身 構えるから、不安要素の方が大きい。今の日本も、将来不安が大きいから若い 世代が結婚しない。将来に希望が持てて、経済も順調なら、積極的に新しい家 庭を持つことを選択するはずだ。それが少ないと言うことは将来不安が大きい のだ。トランプ政権になれば、さらに将来不安が大きくなる。何が起こるか分 からないのに加えて、一度決まったことがいとも簡単にひっくり返る。当分大 型の投資は控えることになるだろう。一部の路線が決まった業界は構わない が、不確定要素の多い業界は、しばらく大人しくしていたほうがいいだろう。 ここをチャンスと考えると、大きな火傷を負うことになりかねない。 ・アメリカの憲法では、大統領任期は、新任、再選を問わず最大2期8年間 だ。つまり、2025年1月20日に就任するトランプ大統領は、以前4年間やって いるから、今回再選だが4年間の任期しかない。2029年の1月に交代するが、 選挙戦は2028年の春ごろから始まる。つまり、実質は3年と少しだ。この3年 間でどれくらいのことが大きく変わるか。次回は民主党が巻き返すこともあり 得る。トランプ新大統領になったので、大きく変わることもあるだろうが、3 年間は短い。慌てて、急にいろいろなことに手を出して、火傷を負うリスクを 考えると、当分様子見するのもひとつの戦略だ。行先の分からない迷路に迷い 込むより、しばらく入り口でうろうろしているのも悪くない。しかし、次のス タートでダッシュできる準備だけはしておくことだ。