**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1075回配信分2024年12月02日発行 収入(売上)の増加をあてにした計画は危うい 〜抜本的に支出を減らす覚悟を〜 **************************************************** <はじめに> ・新政権の誕生から速攻で解散を敢行し、一世一代の大博打に挑んだが、ご存 じの通り惨敗した石破政権。少数与党に転落し、自公では何も決められない、 通らないという状況になった。首班指名では、決選投票にまで持ち込まれ、辛 うじて体面を保った。アンチ石破票が全部一人の野党党首に流れれば、首班指 名の結果は変わっていた。しかし、久しぶりに緊張感のある展開になり、実質 的な国会として恥ずかしくない討議がされるのではないか。現に、予算委員長 は野党に譲り、103万円のカベに関しても国民民主党と合意文書の調印に結び 付けた。以前とは見える景色がだいぶ変わってきたのは間違いない。今後、山 積する課題に対し、どのような方向が打ち出されるのか、非常に興味深い。国 会議員も真剣に仕事をするだろう。 ・まず、ご存じの103万円のカベ議論で、少し前に進んだ。自公政権と国民民 主党との間で合意文書の締結まではいったが、この後どうなるのかは見通せな い。一番肝心な財源の手当ての見通しがつかない。財務省は徴収できる税金が 1円でも減るのは、イヤなのだ。現在の日本の財政は破綻している。借金が山 のごとくあり、いわば借金地獄なのだ。予算のうちの3割くらいは国債の返済 (償還)に充当されている。いわば、家計で言えば、500万円の夫の収入が あっても、ローンの返済で150万円が出ていくのだ。実質7割しか使えない。 やりくりも限界がある。なので、またぞろ国債を発行し、借金が増える。消費 者ローンの繰り返しに近い。このまま後世にツケを持ち越してもいいのかとい う議論は、筋が通っている。孫子の代に借金は残したくない。財源はまだ藪の 中だ。 ・103万円から上げれば、確かに手取りが増えて、消費は増えるだろう。学生 も、主婦も、手取りが増えれば、旅行にも行くし、多少のぜいたく品も買うだ ろう。飲食店は客が増えるし、スーパーやデパートの個人消費も伸びるだろ う。そうなると、消費税の総額も増える可能性が大きい。しかし、安定した財 源ではない。また、割を食って都道府県の地方税の実入りが減るという試算が 出ている。この減った分を何とか国が手当てして欲しいというのが、各知事の 言い分だ。減税の影響が地方にはマイナスになるという。消費が増えるのは予 測でしかない。確実に財源を確保してもらわないと賛成できないと。言い分は 理解できるが、国も地方も、国会も地方議会も、知事も総理大臣も、とにかく 今後縮小する日本国のおカネの手当てをきちんと見通しをつけておかないとい けない。お互いに責任をなすり合うのは良くない。 <収入の増加をあてにした計画は危ない> ・収入が不確かなら、少しでも歳出を削減すればいい。住民サービスを安易に 削るわけにはいかないが、足元の歳費、経費を削減すればいい。国会議員、地 方議員の定数を3分の1程度減らせばいいではないか。給与、報酬、歳費、交 通費など、多額の費用が浮くはずだ。民間企業ならとっくに手を付けているは ずだし、借入金の返済が苦しいなら、まず役員報酬から手を付けるのが普通 だ。売上が増える計画と言うのは、ある意味あてにならない。確実に新製品が 出て、それが間違いなく売れるという保証はない。ならば、固定費を減らすほ かに方法はない。原材料を減らすとまともな製品ができない。歩留まりを良く すると、多少原材料の効率は良くなるが、劇的に改善するわけではない。無か ら有は生まれない。 ・103万円にしても、106万円にしても、減税につながるなら財源、つまり原資 をどうひねり出すのかを明らかにしてから言うべきだろう。ない袖は振れない のだから、そんな理屈は子供でもわかる。ぶち上げてから、おカネの手当ては あとで考えようというのは、厳しく言えば、ある意味無責任だ。精緻な計算は 無理だが、概略の方針だけでも決めておかないといけない。頑張って売上を伸 ばして、それで返済原資を捻出しますというのは、再生案件では通らない。過 去の高度成長の時代ならそれでも通用しただろうが、いまの縮小する市場では 売上が伸びる計画は難しい。良くて現状維持だろうか。目指すのは、売上規模 を大きくするより、粗利や付加価値を増やすことだろう。それなら、最終の利 益が増える方向になるはずだ。 ・売上を伸ばそうとすると、どうしても経費が増えるはずだ。経費が増えない で、売上だけが増えるのはご同慶の至りだが、現実はそうはならない。まし て、昨今は人件費を増やすことを至上命題のように言われている。年率で5 %、いや、7%くらい上げて欲しいという政府の意向だが、そんなことが簡単 にできるとは思えない。働き手が減り、中途採用してもなかなか応募者がな い。しかし、在籍者の賃金は上げないといけない。上げないと他の企業に人材 が流出する懸念がある。また、新規の採用がままならない。売上があまり増え ることが期待できない中で、賃金やそれに伴う社会保険料の負担が増える。そ の他の営業的な経費も増えるだろう。粗利から差し引く固定経費が増えると、 当然のことながら最終の残る利益が減る。 <思い切って変わればいい> ・今回の103万円のカベ、106万円のカベなどが、議論の俎上に上がっただけで も評価するべきか。永年の懸案事項だったが、誰も正面から言い出さなかっ た。今回も総選挙で国民民主党が4倍の議席を獲得し、自公で過半数を取れな かった結果だ。ある意味、僥倖と言えないわけではない。それくらい、この ハードルを変えるのには敷居が高かった。財務省、自民党税調、政府税調など の機関や組織を動かすことが、これほど大変なことだと、改めて知った。民主 主義を前提にした制度の場合、根幹を変えるには途方もないエネルギーと時間 がかかる。なので、一度根本的な部分を決めるなら、相当な時間をかけて、未 来永劫に自信がある結論にしないといけない。二大政党制になると、そうでは ないだろうが。しかし、10年以上前に一度失敗した経験がある。 ・民間企業なら、代表者が交代したり、親会社の考え方が変わったり、経済環 境が急変したりすると、意外と簡単に基本方針も変えられる。逆に、必然的に 変えないと生きていけない。その昔、富士フィルムという会社がデジタルカメ ラの出現で、90%以上の売上を占めていた銀塩フィルムの売上が急速にしぼん だ。会社存続の危機を迎え、経営陣は果敢に手を打った。フィルム事業からの 段階的な撤退と、それに代わる事業への経営資源のシフトだ。化粧品、医薬品 などへの進出が成功し、圧倒的に事業内容の入れ替えに成功した。トヨタも祖 業は織機の製造だ。豊田自動織機という会社も、まだある。そこから自動車産 業へシフトした。ホンダも二輪メーカーから4輪へ進出した。ヤマハは二輪、 マリンスポーツ、楽器、音楽イベントなどへと多角化した。 ・変わらないと生き残れないからだ。座して死を待つしかない。大企業は規模 が大きいので、そう簡単に事業の転換、入れ替えは難しいが、しかし、成功し ている多くの企業では、そのポテンシャルが高いので、時間をかけて事業の転 換を行っている。おおよそ30年経つと、経営環境は様変わりしている。 Windows95がリリースされた1995年から来年で30年経つ。当時、携帯電話はガ ラケーだったし、パソコンもブラウン管のデスクトップが全盛だった。現在の スマホは、当時の32ビットパソコン以上の性能がある。NET環境もまるでな く、電話回線につないで非常に遅い回線でやりとりしていた。ブラウザーはモ ザイクで、電子メールではなくパソコン通信だった。それでも、非常に便利な ツールが生まれたと実感した。 <変わるに憚ることなかれ> ・30年が経営者の平均在籍期間とすれば、経営者一代で様変わりする経営環境 にどう対応するかは非常に難しい課題だ。30年後の世界、経営環境を読み解く のは難題だ。技術の進歩はどこまで進んでいるのか、想像がつかない。しか し、明らかになっていることはいくつかある。一つは、日本では人口が確実に 減ることだ。子供の数が減り、働き手が減る。高齢者も増えるが、30年くらい 経つと今度は高齢者の数も減ってくる。それをカバーするので、外国から働き 手の人材を受け入れるしかない。そうでないと、バスや鉄道は動かないし、荷 物も届かない。医療は待ち時間が途方もなくかかり、手術待ちの患者が溢れる だろう。学校の数はどんどん減って、いまは足りない教員が余剰になる。農業 従事者が減るので、農業、漁業、畜産物の生産高は減るだろう。 ・製造業は売上を伸ばすことは難しい。総額より、利益をどう伸ばすかが大事 だ。10億円の売上で、粗利が30%なら3億円の粗利があるので、売上が10億円 が8億円に減っても、粗利を40%に伸ばせればいいのだ。規模の大きさより、 収益力の向上を目指す。業種によっては、やはり規模を追求しないといけない かもしれないが、今後人口が減少するので、事業規模を拡大することは日本国 内では難しい。全く未知の未開の市場を創造するなら別だが、今後そのような 市場が多く存在するかという疑問がある。SONYが当時ウォークマンという新製 品で新規の市場を想像できたという逸話は、そう簡単に転がっているとは思え ない。それより、人口や働き手が減ることで、不便になるサービスに進出する ことだ。 ・今後、廃業する中小企業、お店、店舗が増えるだろう。300万社以上ある中 小法人が今後全部生き残るとは思えない。A社とB社があって、B社は廃業し従 業員の7割がA社に移籍する。B社の顧客のうち半分はA社に引き継がれ、残り は他社に分散する。B社の建屋は解体され、設備は売却され、敷地は更地にな り、別の用途に転売される。そうやって、次第に淘汰選別が進み、30年経てば 環境は様変わりする。変わることには勇気が要るが、果敢に変わることにチャ レンジした企業が生き残る。じっとして、過去からの事業にのみ執着している と、気が付けば周りの環境は大きく変わっているはずだ。103万円の税制も、 専業主婦の時代ではなくなったのだから、思い切って変えればいい。新むるに 憚ることなかれだ。変わることを躊躇うなかれだ。