**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1076回配信分2024年12月09日発行 凋落した名門大企業から何を学ぶか 〜これらを反面教師にして我がこととする〜 **************************************************** <はじめに> ・少し年配の方には懐かしい社名の企業「ユニチカ」が、会社存亡の危機に 陥っている。旧日本紡績という社名で、昭和39年の東京五輪のときに初めて公 式競技に採用された女子バレーボールで金メダルを取った名門企業だ。当時 は、「日紡貝塚」というチーム名だった。その後合併などで社名はユニチカと いう名称に変わったが、相変わらず日本の繊維事業をリードしていた。もとも と、兵庫県尼崎市で創業した紡績会社がルーツだが、全盛期には化学繊維を始 め、多くの合成繊維の製造を手掛けていた。そのユニチカが400億円近い莫大 な金額の債権放棄を金融機関に要請し、繊維事業を身売りして再生を目指すと いう。100年以上の業歴を誇る名門企業に何が起こったのか。なぜ、繊維事業 を身売りしないといけないくらい追い詰められたのか。 ・以前から営業赤字が続き、事業の継続に赤信号が灯っていたユニチカ。いろ いろな再生計画を実行してきたが、根本的に解決できなかったので、今回の繊 維事業の身売りとなった、と社長が弁解した。この事業を切り離すことで、約 4割の売上がなくなる。なくなるが、大幅な赤字は解消できる。つまり、繊維 事業が業績悪化の根本原因であり、足を引っ張っていた。そもそも、紡績会社 がルーツであり、繊維事業は祖業なのだ。会社の出発点を手放さないといけな いくらい、繊維事業は赤字の根本原因だった。最大の要因は中国の安価な製品 がシェアを伸ばしたことだ。ユニチカも高付加価値の利益率の高い製品はあっ た。あったが、販売数量が少なく屋台骨を支えるくらいの売上にはならなかっ た。とうとう祖業である繊維事業を切り離すという苦渋の決断を迫られた。断 腸の思いだろう。 ・100年以上経つと市場も、技術も、経営環境も様変わりする。特に、製造業 はそうだ。製品を作り、販売をする。販売が成り立つには、市場がその製品を 受けいれてくれないといけない。品質、価格、用途など、多くの要素が成り立 たないといけない。小職が所属した三菱の化学繊維事業も、多くは日本での製 造を中止した。最近では主力のアクリル繊維(商品名はボンネル)の製造を中 止した。小職が昭和後半時代に従事していたポリエステル繊維事業は、相当以 前に日本での製造を中止して、海外に製造拠点を移した。しかし、ユニチカは 相当遅れた。その結果、国内での製造を今回断念する事態になった。何が原因 なのだろうか。付加価値が低い事業は、コストが高い日本国内で事業を営むの は不可能になった。手を打つのが遅かったのか。 <多くの一流企業でも経営不振が> ・最近、日本でも一流の企業で、事業の撤退、売却、縮小が相次いでいる。東 芝も大量の社員の希望退職を募集し、事業の再構築を行っている。株式上場を 廃止し、多くの稼げる事業を外部に売却し、資金を捻出し企業の存続を図って いる。これ以外にも、船井電機、日産自動車、ワコールなどが経営不振に喘い でいる。資本主義経済の日本だから、業績のアップダウン、浮き沈みはつきも のだ。高度経済成長時代ではないから、右肩上がりで業績がずっと上振れして いくというのは、至難の業だ。しかし、見事に事業を入れ替えて、ポートフォ リオを再構築し、成長を遂げている企業もある。大企業での筆頭は、富士フィ ルムだろうか。信越化学などもそのグループだろう。中堅中小の製造小売りで いえば、ユニクロ、ニトリ、アイリスオーヤマなどか。 ・多くの書籍、雑誌で取り上げられているので、成功の原因をここで云々する のはおこがましい。意外と目立たないが、中堅企業、中小企業ではこの成功事 例は多い。特に、老舗企業が多い京都地区では、祖業から見事に脱皮して、新 しい事業領域で花を咲かした企業は多くある。少し大きな規模では、京都での 製造業の草分けである島津製作所。成岡の祖父が創業者である二代目島津源蔵 さんの秘書をしていたという関係なので、歴史沿革には詳しいが、当初は学校 や企業で使う理化学機器の製造業だった。そこから、X線レントゲン撮影機に 始まり、多くの精密機器、分析機器の製造事業に進出した。関係会社で、日本 電池(のちのGSバッテリー、現在のGSユアサ)、日本輸送機(のちのニチ ユ、現在の三菱ロジェネクスト)、大日本塗料、京都科学などのグループに成 長した。 ・OMRON(前の立石電機)は、もともと大阪の企業だが、太平洋戦争の空襲を 避けるために京都の右京区、御室に移転してきた。当初、電気部品の製造業 だったが、自動券売機や自動改札機の開発に成功し、現在ではソフト開発を含 め総合的な電子電機製品製造業になっている。ただ、最近中国市場の急速な冷 え込みが影響して、業績が急降下し希望退職の募集という苦しい状況に陥って いる。これほどの大企業でも、世界的な市場の動向を正確に予測することは難 しい。結果で云々するのは簡単だが、じゃあ自分でやってみろと言われると、 果たして可能だろうか。昔に比べると、市場の移り変わりの変化率、速度が早 すぎて、舵取りが追い付かないのが実態だろう。あるいは、多少変化に鈍感に なっていたのかもしれない。企業規模が大きくなると、必ずこのような現象が 現れる。 <中小企業では祖業に拘らない> ・中堅企業、中小企業では、京都は特に製造業で祖業から出発し、現代にマッ チした製品や技術サービスを提供している企業が多い。特に具体的な社名は挙 げないが、100年近く続いている企業では、その大半は祖業ではなく、そこか ら派生した事業を主力で営んでいる。中小企業は規模が小さいから、方向転換 が容易にできる。時間も費用も、あまりかからない。工場設備の入れ替え、人 材の採用、事業場所の移転、技術開発、営業体制の変更など、代表者のツルの 一声で決まる。朝令暮改も日常茶飯事で、方針の変更、方向転換も頻繁にあ る。事業計画も精緻なものはなかなかできないので、毎年都度変更しながら進 めている。一度決めたことに固執していたのでは、討ち死にも、死人も、累々 と山のごとくになる。 ・その代わり、間違ったら即アウト。乾坤一擲の大勝負が外れると、会社の清 算も覚悟しないといけない。最悪破産になると、代表者は個人破産も覚悟し、 全財産がなくなる可能性がある。個人保証をしているケースが多いし、自宅も 借入金の担保に入っていることがある。まさに人生を賭けて勝負しているの だ。後戻りはできないので、決めたら進むしかない。しかし、間違ったと思っ たら、すぐに引き返す勇気を持たないといけない。これらができるには、常に 新鮮な情報をキャッチし、市場の動向に細心の注意を払うことが大事だ。代表 者が独りで全部はできないので、側近に優秀なスタッフがどれくらいいるのか も重要なポイントだ。親族、一族、遠縁などの血縁者や、中途で入社したベテ ラン社員の質が問われる。 ・異色な外部からの人材の登用、中途でのヘッドハンティング、金融機関や官 公庁在籍者の転職など、多種多様な方法で人材の補強が必要だ。特に、事業領 域を変えようとするときは異分野の人材が欠かせない。祖業から派生した分野 でも、やはりノウハウはなかなか蓄積しない。経験値でカバーしようとする と、相応の時間がかかる。技術的に見通しが経つまでに、市場のニーズが変化 する。そうなると、ほぼ出来上がった時点で手遅れになる。DNAが異なる人材 が既存の組織に入ると、免疫機能が作動して異分子を排除する方向に働く。新 しい人材は微妙にその雰囲気を察知して、組織から出ていくケースも多い。そ うなると、その分野への進出が頓挫する確率が高くなる。人材への投資もムダ になるし、かけた時間は戻ってこない。 <凋落した大企業を反面教師に> ・大企業において長い期間が経過し、事業がどんどん棄損していく例を最近よ く見かける。祖業がダメになり、代わりの事業が育たない。そのうちに、世の 中が急激に変わり、さらに事業価値がなくなっていく。経営陣が大声で叫んで も、なかなか従業員に届かない。そのうちに、危険水域に到達し、船が沈みだ す。そうなると、人材や資金の流出が止まらない。従業員は自分の所属する大 企業が、まさかここまでヤバイとは思っていない。気が付けば、大変な事態に 陥っている。しかし、自分の懐が痛むわけではない。とうとう、行き着くとこ ろまで行ってしまい、希望退職の募集や最悪法的処理になる。現在の経営陣は 責任を取って退任。新しいスポンサーの下で再建を図ることになる。こうなる と、修羅場だ。 ・そこに至るまでにもっと危機感を持って、再建できなかったか。おそらく、 大企業の場合は経営陣の悲痛な叫びが末端まで届かなかった。中小企業は、サ イズが小さいから声は届く。しかし、組織サイズが小さいので、あっという間 に人材がいなくなり、再建など間に合わない。1年も経たない間に、資金繰り が成り立たなくなり、倒産の悲劇に至る。要するに、事業が順調な間に、いか に未来に危機感を持って次の事業の芽を見つける努力をするのか。資金がある 間に次の投資をするのか。その時、必ず出てくる声は、「どうして事業が順調 な今、そんなリスクのある投資をするのか?」という非難の声だ。心地よいお 湯に浸かっている人からすれば、いまのままでいいではないか、という現状維 持の声だ。これが蔓延すると、誰もリスクを取らない。 ・リスクのある投資からでないとリターンはない。危険を冒すからこそ、果実 は大きい。冒険するから、充実感がある。難しいから挑戦する。山が高いほ ど、やる気が起きる。しかし、こと会社経営、事業運営となると、途端に腰が 退ける。手が出ない。一歩前に進めない。そのためには、日ごろの準備が必要 だ。急に言われても、心構えができていない。段取りがつかない。おカネが足 りない。24時間、365日、事業の未来を考えて、いつも、今のままではダメだ と心がけることだ。事業が順調なときこそ、危機感を持つ。凋落した大企業 で、このいい意味の危機感が持てなかった。厳しい外の風に当たる勇気がな かった。そうなると、いずれその事業は行き詰る。そうなってからでは遅い。 世間に反面教師はたくさんある。勉強し、学ぶ素材には事欠かない。