**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1078回配信分2024年12月23日発行 人間は60歳を超えると急に老化する 〜企業は30年で老化を防ぎ新陳代謝しないといけない〜 **************************************************** <はじめに> ・最近読んだ書籍によると、人間の老化を研究している専門家の見解では、人 間の老化のメカニズムは非常に複雑で、いまだに解明できていない領域が多い のだと。吉森保(よしもりたもつ)阪大医学系研究科特任教授によると、「私 たちは、なぜ、老いるのか?」という問いに明快に答えられるだけの科学的な 見解は、いまだに解明されていいない。根本的な理由は分からないというのが 本音のようだ。多くの生物は老化して、最後に死を迎えるというプロセスを踏 むが、アフリカの砂漠にすむハダカデバネズミという動物は、成長のピークを 迎えた後も老化せず、ある日突然パタッと死を迎える。平均寿命は30年だ。吉 森教授の専門は細胞生物学。細胞には、そもそも秩序を維持する装置がいろい ろと備わっていて、それらがきちんと働いている限りは、理論上老化は起こら ない。 ・しかし、ほとんどの生物は老化して死を迎える。ハダカデバネズミのように 老化しない生き物の方が圧倒的に少ない。そう考えると、過去の進化の過程 で、何らかの理由で「老化が獲得された」と考えるのが妥当だと言う。実際 に、免疫機能の研究では、老化が何らかの意味を持つ場合があることも知られ ている。細胞が老化する現象を「細胞老化」といい、細胞一つひとつの老化を 意味するが、細胞が不可逆的に分裂しなくなる状態を指す。細胞の老化と、個 体の老化は異なる。通常は混同されて使われているので、混乱を招いている。 人間が老化するのは、細胞が老化するのだと誤解されている。細胞の寿命は人 間より短く、肌が入れ替わるのと同じだ。二度と分裂しない細胞(老化細胞と いう)が体内で増えると、個体の老化現象が促進することも分かっている。 ・老化細胞を取り除くという薬やワクチンの研究が大流行だが、老化細胞は細 胞組織の修復に役立っているという研究もあり、「老化はこれらが原因だ」と 単純にひとつの原因ではなく、非常に複雑な現象だという。いろいろな要因、 要素が集まって老化というプログラムが進行するので、これを抑えたら全部止 められるというものは、そもそもないようだ。ある医学者は、「老化という現 象は健康の劣化である」と断言し、老化は病気ではないという説を吉森教授は 提唱している。老化という現象を完全に止めることはできないが、相対的に遅 くしたり、緩和したりすることは可能だ。細胞の仕組みの中の、「再利用」と 「防御」の機能を活性化させれば有効だということも、徐々にわかってきた。 再利用は部品の定期的な交換であり、防御は常に備えていることだろう。 <企業は30年で老化が始まる> ・吉森教授の研究では、人間はガンを含めた加齢性疾患(年を取ることに伴っ て生じる病気)の発症率が60歳を過ぎると、目立って上昇するという。老化の 特徴的な現象も12個あり、どの生き物も一部の例外を除き、年齢を重ねると、 この特徴的な現象が現れる。企業では、どうだろうか。経営者一代は、おおよ そ30年。40歳で一念発起創業して、70歳で次世代に譲るというのが理想的なパ ターンだろうか。ところが、人間は60歳から老化の特徴的な現象が現れるとい う。30歳からでは起こらない。しかし、おおよその寿命は長く見ても90歳前後 だ。現在の医学では、不老長寿の媚薬はないから、必ず人間は死ぬ。しかし、 企業は死んでは困る。30歳であろうと、60歳であろうと、90歳であろうと、生 き続けないといけない。 ・経営者一代30年と言うのは、中小企業でのおおよその平均値だ。大企業で は、おおよそ6年前後か。長くて10年。10年以上同じ人がやっている大企業も あるが、それはカリスマ経営者がほとんどで、現場のトップ、経営のトップ、 対外活動のトップなど、役割を変えて長く在籍する。実際に、経営の第一線で バリバリやるのは、40歳くらいから70歳くらいの30年間前後だろう。そして、 次の30年を託せる経営者にバトンをつなぐ。30年と言うと、例えば平成が30 年、昭和が60年少しだったからおおよそ30年の2倍。30年間経営の第一線にい ると、あまりにその間多くのことがあり、その変化に対応しているとあっとい う間に30年が経っている。その間経営状態を常に上昇気流に乗せ、企業価値を 高め、規模も大きくするという離れ業は難しい。 ・受け取って10年は先代から承継した事業の掌握に追い回される。やっと自分 の経営ができるのは、その次の10年か。そして、最後の10年は次の世代に承継 するための環境づくり、準備、段取りだ。そして、最後の10年のうち5年目で 承継し、残りの5年は承継後の組織の融和に注力する。これが理想だが、なか なかそうはいかない。人間の老化が60歳から顕著になるのと同様に、30年間が 平穏無事にすむとは思えない。世界的な大事件、大きな出来事、国内の大事 件、大きな出来事があり、自分の会社でも30年間では何か大きな出来事があ る。災害も、突然やってくるので、予測が立たない。事故もあるかもしれな い。こちらが悪くなくても、とばっちりというのもある。政治体制の変化もあ るだろう。高速道路を80キロでコンスタントにいつまでも走れるわけがない。 <じっとしていると組織は老化する> ・これを飲めば老化を防げる媚薬はない。老化に対してできることは相対的な 対策だ。また、個人の特性、性格、性質、体力、体格、生まれ育ちの環境、教 育などの要素で大きく異なる。しかし、誰にも共通の対策もある。定期的な口 腔ケア(歯磨きと検診)、血液検査、良い睡眠、適度な有酸素運動、禁煙、適 度な間隔を開けたバランスの取れた食事、定期的な排便などだ。当たり前すぎ て目新しくもないが、意外と全部はきちんとできていない。また、継続するの が難しい。毎日同じ環境で過ごしているわけではないので、同じように、同じ 頻度で、同じ内容のアクションを続けることは、実は相当の覚悟と犠牲、努力 と苦痛を伴う。次第に面倒になり、マンネリになり、続ける意思はあるが、行 動が伴わない。安きに流れることが多い。 ・企業では、事業の中身が時代と共に陳腐化する。10年前に稼ぎ頭の事業が、 現代ではあっという間にお荷物になる。次の稼ぐ事業が育っていないのに、も う賞味期限が切れたように赤字の事業に転落する。あるいは、売上の大半を占 めていた得意先の企業が衰退する。企業の命運を握っていた大得意先が没落 し、次の二番手の売上先は極端にシェアが小さい。さあ、どうすると言われて も名案は浮かばず、しばらくの間自社の業績は低迷し、赤字が続き、借入が増 加し、優秀な社員が離散する。一度Bクラスに落ちたチームを建て直すのは大 きなエネルギーが要る。資金、時間、人材、そして運も必要だ。何もしない と、自動的に組織の老化が始まる。若い人材を採用し、教育し、一人前に育て て、会社の未来を担える人材にするのに、10年はかかる。 ・あるいは、小規模な企業だと社長が孤軍奮闘し、最前線で旗を振り、毎日 戦って、なんとか経営状態を維持している。そんな頑張る中小企業だが、社長 に会社の命運がかかっているので、本人に何か異変が起こるとアウトだ。健康 の異変、家族の異変、事故などの異変が起こると、好むと好まざるに関わら ず、否応なく企業は荒波にもまれることになる。業績の浮沈も激しく、大きな 赤字になると資金が枯渇し、少し黒字になっても過去の赤字でできた大きな借 金の返済が間に合わない。一度、大きな赤字が続くと、なかなか挽回が難し い。しかし、社会の変化は激しく、じっとしていると組織は老化し、細胞分裂 できない細胞が体内に多く蓄積する。脱皮し、その老化細胞を捨てられればい いが、脱皮できないとそのうち呼吸困難に陥る。 <組織も老化防止のために細胞分裂を> ・老化を防ぎ、新陳代謝を活発にして、常に若さを保つには、普段からそうな りたい、そうなるべきと、心がけておかないといけない。新しいことがすべて 成功するわけもない。採用した社員が全員優秀で社業に貢献してくれるとは限 らない。身内から足を引っ張る人も出てくる。金融機関は事業の中身を理解せ ず、おカネのことばかりで判断する。過去については徹底的に分析するが、未 来に対しての期待値でおカネを貸すことはしぶる。組織細胞の老化は、経営者 自身の心の中から発せられるネガティブな考えが原因だ。逆境を跳ね返す勇気 と気概、未来への希望とビジョン、10年後を見据えたイメージなどが、沸々と 湧き出るような細胞の活性化がないと、企業の経営を維持することは難しい。 社会全体が右肩上がりで、伸びていく未来は永久にやってこない。 ・いつも、今の状態でいいか、いつまで続くか、そのためにどう細胞分裂する か。頭の中はこれらで一杯にしておかないといけない。日常のことだけに邁進 し、今日、明日のことだけに集中していると、未来のことは考えられない。2 割くらいは頭の中が空いていないと、細胞分裂しても分裂した新しい細胞を収 納するスペースがない。時間の2割、資金の2割、人材の2割を割けるだけの 体制を組めるか。その余裕の2割の細胞が、どんどん新しく分裂していくと、 企業や組織の老化は何とか防げるだろう。2割が贅沢なら、1割でもいい。少 なくとも、自分自身をそういう環境にあえて置くことが大事だ。同じ環境に ずっと浸っていると、気が付かない。環境を強制的に変えることが必要だ。組 織の変更、新事業への挑戦、事務所の移転などは、いい機会になる。 ・人間の老化を止める媚薬は、未来永劫に開発は不可能だろう。遅くすること は可能かもしれないが、なくすることはできない。どうやって相対的に緩和す るかを考えるのが精一杯だろう。しかし、企業の老化はやりようによっては止 めることができるはずだ。経営者自身の考え方、生き様に依る。日常の生活習 慣が健康状態に反映するのと全く同じで、経営者自身の性格、生き方などが経 営に色濃く表れる。自分に似た子供ができるのと同じで、企業も自分の分身 だ。細胞分裂が活発な人は、企業の細胞も活発に分裂するだろう。老化した細 胞をどんどん体外に排出できる人は、事業運営も同じようにできるのではない か。経営者の健康維持は、企業経営の必要条件だ。健康な経営者全員が立派に 企業経営をされているとは言えないが、企業経営を立派に行うには経営者の活 発な細胞分裂が必要だ。