**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1080回配信分2025年01月06日発行 日産とホンダの経営統合はうまくいくか? 〜お互いに主張を譲らないと失敗になる可能性が高い〜 **************************************************** <はじめに> ・年末に日経新聞がスクープした日産とホンダの経営統合のニュースには驚い た。いつかはこういうことがあるだろうとは思っていたが、意外と早かった。 昨年の8月にEV事業での提携を発表していたので、いずれもっと近い関係にな るだろうとは想像していたが、見合いからデート、婚約、結納と一気にことは 進んだ。当分、デートを重ねて相互の性格や気質を見極める期間を持つだろう と思っていたが、そんな時間はもうないとばかりに、最終的なゴールを明示 し、突き進む姿勢を明確にした。事情はいろいろとあるだろうが、日産の経営 状態が想像以上に深刻なのではないか。中国とアメリカ市場で苦しんでいると いうのは公知の事実だが、実態はもっと厳しいのだろう。 ・日産とホンダによる経営統合も視野に入れた協議は、台湾の鴻海精密工業が 日産に株式取得を打診したことで加速したようだ。事情に詳しい関係者のNET 情報では、スマートフォンの受託生産で急成長した鴻海は、EV製造参入も進め ており、世界各地の拠点で自動車生産ラインの投資が進行中だ。経営不振で大 きく下落している日産株を取得すれば、自動車製造のノウハウなどを取得でき る可能性がある。関係者の一人は、鴻海が関心を持っているのは工場などの設 備だけではなく会社全体だと述べた。日産が交渉に応じたか拒否したかなどに ついては明らかになっていない。日本経済新聞は、鴻海が日産に興味を示した ことで、台湾企業による買収の可能性を懸念した日産がホンダとの合併に向け た動きを加速させたと報じた。 ・鴻海には、以前日産のトップに近いポジションにいた人物が入社し、その人 物がニデック(旧日本電産)にも在籍していたことから、電気自動車の生産に 前のめりだと以前から情報が流れていた。これらの環境変化を経済産業省が危 惧して、水面下で統合を早める動きを画策したのではないかと、疑心暗鬼の報 道が流れている。いずれにしても、経営で苦境に立たされ株価が下落している 日産を、台湾の電子部品メーカーである鴻海からガードし、なんとかホンダと の統合に持ち込んだというのが事実だろう。おそらく将来三菱自動車も取り込 んで、トヨタに対抗できるグループになって欲しいというのが本音ではない か。そうなると、乗用車では日本市場で二大グループが存在することになり、 非常にすっきりした形になる。それはそれでいいのではないだろうか。 <この経営統合はうまくいくだろうか> ・この経営統合はうまくいくだろうか。日産は足元で業績が急速に悪化し、昨 年11月に生産能力の削減や9000人のリストラを行うと発表した。魅力に欠ける 商品ラインナップは消費者の人気を失い、世界全体での生産の20%削減する計 画も示した。アメリカの工場では、生産高を50%にまで落とすという。ホンダ の時価総額は日産の4倍以上だが、生産台数は日産よりわずかに多い程度だ。 ホンダは経営統合を含めさまざまな選択肢を検討しているとしているが、交渉 では優位に立つ。日産や三菱自の長年にわたる提携相手で、日産株の多数を保 有する筆頭株主である仏ルノーの対応も、今後のあらゆる合意において鍵とな る。事情に詳しい関係者によると、ルノーは今回の交渉を、日産が苦境から脱 する可能性があるとして、前向きにとらえているという。 ・疲弊している日産をホンダが救済したというのが現状だ。一方の経営がうま くいかなくなり、他方が合併救済に乗り出すというのがよくあるパターンだ が、その場合は救済される側が救済してくれた側に完全に支配下に置かれるこ とが必要だ。救済されたのに、大きな顔をしているとうまくいかない。メガバ ンクの合併でも、三井と住友の合併はうまく運んだ。三井が圧倒的に力のある 住友の言うことを聞いたので、システムの統合もほとんどトラブルなく終わっ た。ところが、みずほの合併は、第一勧銀、富士銀行、日本興業銀行というそ れぞれがプライド高い名門同士の合併だった。当然、それぞれがそれぞれの立 場を譲らず、システムの統合も木に竹を接いだようになり、その後何回もトラ ブルを引き起こした。 ・人間同士の結婚にも釣り合いというものがあって、うまいバランスが当事者 間にあればいいが、双方が主張を突っ張ると、意外なところで綻びが出る。シ ステムも、業務手順も、人事も、組織も、店舗の統合も、難しい。逆に、救済 的な合併だと、否応なく有無を言わさず一方が完全に主導権を握ることにな る。地元の金融機関で言えば、京都中央信用金庫がみやこ信用金庫を救済合併 したのは、それにあたる。みやこ信金が破綻したのを、中信が救済した。だか ら、軋轢はあったが、うまくいった。逆に、北部地域の5つの信用金庫が合併 し京都北都信用金庫が存続したが、これは当初から難儀した。舞鶴の2つの金 庫、福知山、綾部、そして京都北都信用金庫が存続金庫になり、合併に至った が当初はいろいろな面で運営は大変だったと聞いている。それくらい、合併は 難しい。 <日産に何かを捨てる勇気があるか> ・今回は経営統合のパターンとして、持ち株会社を設立しそれぞれが傘下に入 ることになるようだが、当初運営は難しいだろう。お互いに強みはあるのだ が、それぞれの強みを持ち寄って合成し、従来以上のベクトルになるには平行 四辺形の原則で同じ象限にいないといけない。少なくとも顔が見える関係でな いとベクトルの合成は難しい。それぞれが実家に住むことを主張し続けていれ ば、新居に住むはずの新婚家庭は成立しない。日産は技術にこだわりがある し、ホンダはデザインやマーケティングに長じている。EVでは日産に強みがあ り、PHVではホンダに強みがある。生産台数、販売台数ではホンダが少し上 回っている。また、今後の技術開発のテーマである自動運転などで、相互にソ フトウエアの技術交流が可能だろうか。 ・本当に提携、合併の効果が出てくるには、相応の時間がかかるだろう。場合 によっては数年以上かかると思われる。それまで周囲の環境が許してくれるだ ろうか。中国のBYDやアメリカのテスラなどのEV車は全世界を席巻している。 ドイツではVW(フォルクスワーゲン)が国内工場を閉鎖する可能性を言及する に及んで、労使の交渉が暗礁に乗り上げて大規模なストライキにまで発展して いる。日産も今回経営状態の悪化を公表するに及んで、高額な役員報酬に大き な批判が巻き起こった。従業員の合理化、首切りを行う前に高額の役員報酬の 削減を突き付けられた。どちらかというと、経営状態の比較だけからすれば、 日産がホンダに救済されたと見る向きが多いのは、当然だろう。現実は、その 通りだ。 ・業界の専門家の意見では、2番手と3番手の弱者同士の結婚で、大きな動き というわけではないとコメント。両社が統合してもEVで覇権は握れないだろう と述べた。英調査会社は両社の事業領域に重複する部分も多く、統合に向けて 解決すべき課題は多いと指摘した。外部からの評価は、あまり芳しくない。現 在、多くの方式で動く車を保有するトヨタに対抗できるパワーはないだろうと いう見方が正しいか。また、コストの削減、開発費の合理化などと言うのは、 今日、明日にできるものではない。大規模な工場閉鎖などの荒療治を行えば別 だが、それにはVWと同様に組合からの大ブーイングが起こるだろう。結果的 に、この提携、合併をうまく効果的に進めるには、日産が多くの何かを捨てる 覚悟が要る。車種の統廃合ができるか、が一番の課題だ。 <結局破談になるのではないか> ・一般に、経営統合と簡単に言うが、その過程は並大抵のことではない。提携 から、資本参加に至り、共同事業の推進から事業統合、そして最終的には合併 に至るプロセスには大きな痛みが伴うはずだ。それぞれの企業が、まず重なる 部分の調整を行わないといけない。先ほどの例で挙げた金融機関の統合など は、支店や営業所、最後は本店の整理統合が必要になる。自動車でいえば、車 種の統廃合が必須となる。同じような層のユーザーにそれぞれのグレードの車 を提供していては、ムダが多い。しかし、ひとつの車種の終売というのは、断 腸の思いだ。トップが不退転の決意を持ち、覚悟を決めて、多くの批判、非難 をものともせず、一気呵成に物事を進めないといけない。ワンマン経営者の中 小企業では、それはできるかもしれないが、大企業では難しい。 ・今回の経営統合、提携の案件は、事情はわかるが、どうも外部からの圧力で の苦渋の決断と言う印象が強い。特に、日産側にその兆候がある。今後、交渉 が進むとマイナスの情報が出てきたり、組合側にも不利な条件が提示されたり するだろう。果たして、順調にことが進むとは思えない。そもそもで言えば、 ゴーン改革で日産が立ち直ったかに見えたが、根本的な体質は変わっていな かったか。技術に偏重し、作りたい車を作り、乗り手の使い勝手を重んじず、 市場の動向を見誤った。ホンダは、従来から技術には特化したが、Nボックス などに見られるように乗り手の、特に女性の意向を尊重した。創業者の本田宗 一郎のイズムをしっかり受け継いでいた。日産は、それがなかったか。 ・成岡は多くのM&Aや吸収合併の現場を踏んできたが、企業は生き物であり、 それぞれ独自の風土、空気、文化がある。人間同士の結婚でも、最近は3組に 1組の離婚がある。新卒者の採用でも、3年後に3割の社員が辞める。大規模 な従業員を抱える大企業同士の結婚が、順調に滑り出すには途方もないエネル ギーが要るだろう。果たして、今回、その覚悟があるか。一部の報道では、ホ ンダが日産の財務調査を終えて、半年くらいの間に日産が事業再生の道筋をつ けられなければ、この縁談はご破算になるだろうと言われている。日産の救済 になるなら、ホンダは手を引くということだ。日産にその覚悟があるか。下請 け中小企業への影響は大きい。小異を捨てて大道につく、という矜持が示せる か。正念場を迎えた日産が、乾坤一擲覚悟を示せるか。