**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1083回配信分2025年01月27日発行 中小企業の経営者の悩み:その1 〜事業内容はコロナ前とちっとも変わっていない〜 **************************************************** <はじめに> ・いくつかの中小企業で、コロナが明けて業績が回復するにつれて、代表者が 錯覚し、今後に関して悩む場面が増えてきた。その最大の理由は、たまたま売 上が回復し、利益が戻ったこと。その原因、理由を確かめないで、単に自社の 経営がうまくいったのだと錯覚している。確かに、コロナで苦しい時期があっ た。3年連続して赤字になり、金融機関からコロナ融資を受け、政府からの補 助金、雇用調整助成金でなんとか凌いだ。店を長期間閉めていたが、その間多 額の補助金、助成金をもらった。有難かったし、助かった。無利子、無担保、 無保証で多額のおカネを貸してくれた。融資の返済も、何度も延長を頼めば、 金融機関も保証協会も応じてくれた。売上、利益は戻ったが、いまだに返済は 減額し、期限の延長を継続している。 ・売上が戻ったひとつの理由は、同業他社が多く廃業したことだ。同業者の多 くは、代表者がそれなりに高齢だった。70歳を超える事業者が多く、この時点 で廃業すれば周囲に迷惑をかけないということが最大の理由だ。後継者がいな いことも大きな理由のひとつだ。工場の借地契約の期限が到来したこともあ る。設備も老朽化が激しく、事業を継続するなら多額の設備投資が要る。ま だ、この先10年、20年と、借入の返済に追いまくられるのは避けたい。今な ら、借入は残ってはいるが、現金と会社の資産を処分すれば、債務超過ではな いから何とか清算、廃業できるだろう。仕入先、得意先に迷惑をかけることも ない。従業員には申し訳ないが、迷った末に廃業を決断した。従業員の再就職 先を探すために汗をかく覚悟だ。 ・このように同業者が廃業したので、市場に隙間が開いた。そこの一部をも らったので、その分売上が伸びた。得意先が設備投資をこの間控えていたの で、最近急速に注文が増えた。棚ボタの注文が多く入り、現場はそれなりに忙 しい。人手は足りないが、募集しても応募がないので、諦めて現状の人員で残 業をしながら乗り切っている。働き方改革の影響はあるが、土曜日出勤もあ り、従業員の手取りは確実に増えている。この冬の賞与も結構多額に払うこと ができた。借入返済の条件変更中だが、そんなことはお構いせずに大盤振る舞 いした。金融機関の担当者から嫌味は相当言われたが、意に介さないで無視し た。金利は上げてくる可能性はあるが、とことん交渉して頑張るつもりだ。事 業の継続を図るには、当然だと割り切っている。 <業績は戻ったが> ・次第に現金がたまってきて、それなりに資金繰りは楽になりつつある。仕入 れが一部先行するので、完全に手放しで楽観できないが、以前ほど資金繰りに エネルギーを費やす時間は減った。その分、気分的には楽になり、休日に取引 先とゴルフに行く気分にもなった。自分の車もベンツの新車に変えた。社員旅 行も復活し、夏の賞与もそれなりに出せるだろう。次は、カットしている自身 の役員報酬を元に戻す番だ。あまり一気にやると金融機関への印象が悪くなる ので、順番にやるつもりだ。特に、金融機関とコベナンツ(経営の重要事項に 関する事前協議と了承を得る約束)を結んでいるわけではないので、事後承諾 でもいいだろう。半期ごとの報告だから、次の決算まで数字の資料の提出はな いので、分からないはずだ。 ・業績が改善した理由は、明確には分からないが、受注が堅調で一時期より増 えたことは間違いない。固定費はそれなりにあるが、受注が増えても材料費が あまり増加することはないビジネスモデルなので、それなりに利益が増える。 多くはコロナで得意先が手控えていた設備投資による受注増だ。自社で開発し たオリジナル製品はない。どちらかと言えば、黙って辛抱、我慢して、ひたす ら嵐が通り過ぎるのを待っていたら、運が巡ってきたようなものだ。確かに、 最近の繁忙期を人員の増加なしで乗り切っているので、利益が出ているのは確 かだ。あと、材料や工賃のアップで値上げが少しは認められたことも大きい。 生き残り勝で、値段が通るようになってきた。有難いことだ。この好調がいつ まで持続するか不安だ。 ・請負仕事なので、受注があれば仕事は増えるが、自社で製品が創れるわけで はない。自社製品があればいいのだが、現在はない。自社製品で売上を作ると なると、開発、仕入、製造、販売、物流、回収など、多くの業務がある。何よ り、材料を先行して購入して、製品を製造し、いったん在庫を抱え、営業が販 売し、製品を出荷し、売掛金の回収も行わないといけない。現在は、請負だか ら受注した分を製造し、製造した分は全量納品し、代金は納品した分だけきち んと振り込まれる。大手企業だから、貸し倒れの心配は、まずない。安心て製 造し、納品できる。来月末には確実に代金が振り込まれる。しかし、納品価格 は厳しい。原材料も値上がりし、なにより製造する際に使う電気代が馬鹿にな らない。ガソリン代も高いままだ。 <コロナ前と何も変わっていない> ・従業員はコロナの間は、仕事が半分以下になったので、相当の期間休んでも らった。雇用調整助成金も多くもらって、助かった。幸い、離職する従業員は なく、全員復帰してくれた。一昨年の夏くらいから徐々に受注が増えだし、昨 年の春からは一気に売上が増えた。賞与もたくさん払えたし、春の昇給も5% 近くアップできた。これくらい上げて大丈夫かと心配になったが、中途採用で 来てもらった人とのバランスを考えると、5%前後の昇給は致し方ない。社会 保険料も同様に大幅に増加した。果たして、この受注がいつまで続くかの自信 はない。なにせ、自社製品がなく加工賃仕事の請負だから、受注が減れば圧倒 的に固定費の負担がのしかかる。得意先は数社に及ぶが、得意先はすべて同じ 業界だからダウンするときは、一気にダウンする。 ・自社の仕事内容を他の業界に転用、利用するのは難しい。一時期、それも考 えて、いくつか異なる業界にアプローチしてはみたが、少し売上には寄与した が永く続かなかった。現在、業績は好調なので、この時期にいろいろな業界に 再度アプローチし、先行投資をするチャンスだとは思うが、なかなか自分以外 に動ける人材がいないので、自分の足が出ないと新しいことは起こらない。片 腕になる優秀な人材が欲しいが、現在の事業規模、経営内容では望むべくもな い。半ば諦めてはいるが、このままでは将来じり貧になる可能性が高い。かと 言って、人材紹介会社に頼むと成功報酬とはいえ、法外の手数料を払わないと いけない。そこまで投資できる状況にはない。それより、そのうち金融機関が 正常な返済金額を迫ってくるだろう。 ・自分自身の報酬もカットしたままだ。数年間はこの金額で耐えてきたが、ぼ ちぼち限界が見えてきた。しかし、業績が上向いたとはいえ、まだ条件変更中 であり、正常な経営状態ではない。急に返済金額の増加は要求されないと思う が、そう言われても仕方ない状態になった。現在の現預金の状態では、借入金 の返済増額は断らざるを得ない。そうなると、自分自身の報酬アップは、まだ 当面見送らざるを得ないか。この状態がいつまで続くのだろうかと思うと、や るせない気持ちになり、モチベーションが上がらない。独りになると気分が落 ち込むこともある。たまに、気の合う友人の経営者と飲みに行く機会もある が、同様のぼやきを言い合うだけで、気分は休まるが、何の解決にもならな い。会社に出てきたら、社員の前では明るい顔をしないといけない。 <同じ悩みの中小企業は多い> ・祖父の代から続いている企業で、自分自身で三代目。父親も、一昨年他界 し、あらゆる決定は自分ですればいい。しかし、その決定が正しいか、正しく ないか、決めようがないし、判断の物差しもない。税理士さんは相談相手には ならないし、業界団体の集まりは同業者ばかりなので、本音の会話ができな い。金融機関には相談はできないし、悩んだときには不安になる。現在50歳 で、後継者の息子はいるが、まだ高校生だ。将来はIT系の企業に行きたいと情 報系の大学に進学を希望している。自分の会社を継いでくれるか、希望はある が可能性が高いとはいえない。息子がやらない場合、従業員が継いでくるのだ ろうか。その際に、借入金の個人保証までしてくれるだろうか。まだ、15年か ら20年くらい先だが、これも不安の材料だ。 ・いっそ、外部の他社へ引き継ぐこともあり得るか。しかし、現在はまだ債務 超過で、不良資産もあるから、実際の債務超過金額はもっと多いだろう。つま り、株価は1円だ。借入金付きの株価1円で、借入金の肩代わりをしてくれる 企業があるか。自社のビジネスが今後大きく成長が期待できる業界でもない。 いまのノウハウを使って、新しい顧客が開拓できる可能性はあるが、それを実 行するには相当の時間とエネルギーが要るだろう。また、その市場にも当然競 合があり、それを凌駕できる事業価値を創造できるかと言われると、自信がな い。進もままならないし、後退はできない。廃業もできないし、破産は担保に なっている自宅財産がなくなるので、これも選択肢にならない。前門の虎、後 門の狼で、進むも地獄、退くも地獄だ。 ・結局、コロナの間頑張って何とか事業は継続できたが、細々と続けてきただ けではないか。以前と何も変わっていないし、変わり様もない。借金はこの間 増えた。売上は、ほぼ以前と同じ水準に戻った。しかし、事業内容は同じだ。 再構築補助金という魅力的な補助金のお誘いもあったが、はっきりした再構築 に値する事業内容は書けなかった。この短期間にゼロから再構築のイメージは できない。日ごろから新しいことを考えていなかったツケが一挙に露呈した。 社内にそんなことを考えてくれる優秀なスタッフはいない。結局、自分がやる しかないことを、今更ながら痛感した。従業員は頑張ってくれているが、どこ までも従業員だ。そう考えると、急に寒さを感じる。羅針盤のない船の船長の ようだ。このような中小企業が、実は多いのではないか。