**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1084回配信分2025年02月03日発行 社会保障制度の抜本的な改革を 〜このままでは日本から若者がいなくなる〜 **************************************************** <はじめに> ・高齢化と少子化が止まらないわが日本。ある経済専門のサイトに興味ある数 字が載っていたのでご紹介する。某週刊誌にも、以前ダイジェストが掲載され ていたので、ご覧になった方もあるだろう。まず、日本はいったい現在何にお カネを使っているのだろうか。現実を冷静に眺めてみる。一家の家計に例える と、おおよそだが、3分の1が医療費や高齢両親のための年金負担、介護費用 負担だ。次の3分の1で年収をはるかに超える額のローンの元金と利息の返済 に充てている。残った3分の1で生活上の必要な資金、食費、住居費、光熱 費、教育費などに使っている。毎月、毎年の収支は大赤字だ。赤字の補填を借 金でカバーして、同時に返済もしている。消費者ローン地獄と変わりない。カ ツカツの状態で家計をやりくりしている。 ・実際の金額はどうだ。一般会計予算と特別会計を合わせると約320兆円にな る。そのうち、116兆円あまりが年金、医療、介護などの社会保障費に充てら れている。国債の償還(返済)と利払いでおおよそ118兆円。残った90兆円弱 で公共事業、教育、子育て、経済対策、エネルギー、防衛などあらゆる予算を カバーしている。非常に財政的には厳しい状態だ。普通の家計なら破綻してい ると言ってもおかしくない。しかも、平成以降一般の家庭の経済は、どんどん 悪くなっている。平成6年1994年には1世帯当たりの平均所得は664万円だっ た。ところが、18年後の2022年令和4年には524万円になった。140万円も下 がっている。しかも、毎年下がっている。原因は、経済の低迷と、税金の増 加、社会保険料の負担増だ。 ・平成6年1994年には所得税と社会保険料負担が117万円だったのが、2022年 令和4年には134万円を超えた。所得は減って、負担は逆に増えている。家計 で言えば、ご主人の収入が勤務先企業の業績悪化でカットになった。給与も カットされ、賞与も減った。所得が減ったにも関わらず、所得税、消費税は増 え、社会保険料の負担も増えた。奥さんがいくらパートで稼いでも、一家の大 黒柱であるご主人のサラリーが減ってしまったのでは、どうしようもない。支 出の節約も限界だ。最近では、食料品を中心に多くの商品の値上がりが続いて いる。以前ならスーパーで買い物をしたら、おおよそこれくらいで済むだろう と思っていたのが、足りなくなった。8000円でお釣りがあると思っていたら足 りない。何かが狂っている。 <社会保障制度は確実に破綻する> ・国全体に話しを戻すと、社会保障に使われているおカネのうちで、年金や高 齢者医療、介護に関する費用が3分の2を占めている。金額にして84兆円。子 育てに関連する費用は10兆円くらいだ。日本の社会保障の仕組みは、「賦課方 式」だ。現役世代が納付したおカネを、高齢者に支給している。また、特に75 歳以上の後期高齢者の医療費に関しては、全体17兆円の金額のうち、本人負担 は1割だ。40%に当たる約7兆円は現役世代が支払うおカネでカバーされてい る。つまり、後期高齢者の医療費は若者世代の「仕送り」で成り立っている。 さらに、この状況は今後ますます悪化する。高齢者がピークを迎える2040年に は、日本人のうち3人に1人が65歳以上になり、その数は4000万人。社会保障 費の総額は190兆円にまで膨れ上がり、現在の60%増しになる。 ・ここまで来ると、国の財政は確実に破綻するはずだ。この手厚い社会保障制 度を続けることは不可能ではないかという懸念が各所から挙がっている。ま た、現役世代がこの負担増加に音を上げる、悲鳴を上げて、日本から脱出する のではないかと心配されている。これは世代間搾取ではないかという主張も、 あながち間違っているとは言い難い。どうしてこのようないびつな形になった のだろうか。これは、古くは昭和時代の政治に遡らないといけない。昭和36年 頃にぶちあげられた「所得倍増論」。池田勇人内閣の看板政策だった。当時 は、若者の人口が増え、戦中を乗り越えた貧しい世代が高齢期を迎えていた。 高齢者も人口の6%くらいだった。手厚い年金も医療制度も、十分運営でき た。古き良き時代のことだ。 ・そして昭和48年1973年に田中角栄が「福祉元年」をぶちあげて、老人医療の 無料化を打ち出す。東京都で革新都政を担った美濃部亮吉氏が高齢者医療を無 償化したことがきっかけだ。自民党は大いに危機感を抱いた。手厚い社会保険 制度は、以前は機能したが、昭和が終わり、平成が過ぎ、令和になって完全に 破綻への道を歩みだした。人口構成がこれほど急激に変わるとは想定できな かった。急速な高齢化は想像以上に高齢者の増加を招き、少子化の急激な進展 は、若年層の人口減を引き起こした。平均年齢が伸びたのはいいが、検査制度 の充実で、以前なら自宅で死亡していた高齢者が医療機関で延命処置が行われ ることで、莫大な医療費がかかるようになった。健康寿命という言葉がどこま で意識されているのかわからない。 <政治家が変わらないといけない> ・うまく社会保障改革が進んでいるのは、オランダだという。オランダは、 1980年代から徐々に医療介護保険の制度を、保険料制度から社会保障目的税に 変えた。そして、目的税だから個人負担に切り替えた。負担が増えた人には、 企業に給与の増額を義務付けた。税金なので所得が少ないなら負担も少ない が、給付は保証される。この切り替えでパート労働者の年収のカベという制度 がなくなった。日本の社会保障は、過度の保険料に依存している。保険料だか ら、低所得者ほど負担割合が高く、現役世代ほど負担が重たい。保険料で社会 保障が充実しても、子育て、教育にはおカネが回らない。特に、教育に投資が できないと未来を担う人材が育たない。そうなると、結果的に経済は成長しな い。 ・オランダは自由主義社会であり、EUにも所属している。日本との関係も深い 国だ。成岡も若い時代に数回オランダに出張、滞在したことがある。製造業に いたときに、技術提携していた世界的な企業グループの本社がオランダのアム ステルダムにあり、国際会議の出席で数回訪れた。小さな国で、面積は日本よ り狭いはずだ。ドイツ、フランスなどに囲まれ、言葉も、ドイツ語、フランス 語、英語、オランダ語が話されている。第二次世界大戦ではドイツ陸軍の戦車 が畑の向こうから地響きを立てて一列で行進してきて、国土を蹂躙された。 ヒットラーにとことんやられて国土は灰燼に帰した。戦後復興し、工業でも農 業でも、サービス業でも世界的な企業を輩出した。いい国だ。立派な国だ。 ・国会議員は、エッフェル塔の前でバカなポーズの写真を嬉しそうに撮るよ り、オランダに数か月滞在して社会保障制度のいいところを徹底的に勉強して きたらどうか。優秀な官僚を留学させてはどうか。制度の移行には相当な年数 がかかるだろう。社会の合意形成にも時間はかかる。その間、紆余曲折もある だろう。政治体制、社会環境の変化もあるだろうから、相当長期の視点を持っ ていないと途中で腰砕けになる。胆力のある、腹が座った政治家が出て、この 社会保障制度の改革に一生を賭けるくらいでないと難しい。目先の新幹線の通 過に関する損得や、賄賂まがいの裏金で右往左往するのではなく、国の未来、 将来を見据えた見識のある人は出ないか。仮に、そういう人がいれば、党派に 関係なく国民は応援するはずだ。 <徳川家康に学べ> ・これができるのは政治の世界だ。若者が政治に興味関心を持ち、現役世代の 声が大きくならないと事態は変わらない。高齢の長老が支配する現在の政治体 制を変えないと、この矛盾は解消しない。選挙制度の改革で面白い意見があっ た。選挙権のない子供を持つ親に、子供分の選挙権を与えたらどうか、という 案だ。これは、一理ある。子供一人に一票でなくてもいい。半分でもいい。選 挙で選んだ議員が考えるのは、未来であり今後の世界だ。ならば、選挙権がな い子供を持つ親に、子供分の選挙権を与えるのは理屈が通るのではないか。仮 にそうなれば、選挙の結果は劇的に変わり、議員の平均年齢も下がり、女性の 議員は増え、政党間の議論も若者世代の進出で、未来に向けた議論が活発にな ることが期待できる。そうするべきだろう。 ・不都合な真実を正直に語って、世代間の利害を公平に調整し、万民が安心し て暮らせるようにしないといけない。そうでないと、若い人が日本の未来、将 来に失望して、海外に逃げてしまう。シンガポールやアメリカに渡って、現地 で起業して、現地でビジネスを展開して、現地の住人になる。それほど、現状 では日本の未来は暗い。「楽しい日本」などと脳天気に国会で語っている場合 ではない。不都合な真実や不都合な将来への打ち手を選挙で訴えるだけの矜持 のある政治家は、誰一人いない。みんな票が欲しいから、綺麗ごとを並べて、 耳障りのいいことしか言わない。社会保障制度に踏み込んだ発言をする候補者 は皆無に近い。しかし、少し数字に明るく、強い人なら簡単に分かることだ。 シンプルに考えればいいだけだ。 ・高齢化が急速に進み、子供の数がどんどん減っていく。小学校の廃校が増 え、統合され、老人施設に生まれ変わる。高齢者の疾病者が増えるが、ドク ターも看護師も、医療スタッフも足りない。救急車を動かす人も不足だ。賢く 縮まることは大事だが、最低限の生活インフラも確保できなくなる。下水管の トラブルで道路に大きな穴が開いた。高速道路も橋梁も、多くの社会インフラ が老朽化していく。いつか大きな橋が落ちるかもしれない。国は人口1億人で 下げ止まることを目指しているが、本気でできると思っているのだろうか。若 い人たちが、今後に希望が持てる社会のグランドデザインを描くこと、それに 道筋をつけることが最大のミッションではないか。徳川家康が若いときに、戦 国時代を終わらせて、「厭離穢土、欣求浄土」という大きなビジョンを掲げた からこそ、江戸260年の世が築けたのだ。