**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1085回配信分2025年02月10日発行 中小企業の経営者の悩み:その2 〜未来が見えないので不安が募る〜 **************************************************** <はじめに> ・中小企業経営者の悩みはつきない。昨今では、第一に給料のアップがある。 今年の賃上げ闘争が始まったが、5〜6%台の高い賃上げの要求がぶち上げら れた。日銀の金利も上がることが決まり、物価高で実質賃金が目減りする中で の賃上げは必須の状況だ。大企業の大卒初任給が30万円台になるという報道も ある。最低賃金は平均でほぼ時給1050円前後だ。これで今年の賃上げが5%に なると、年間での人件費のアップは非常に大きい。従業員は手取りで計算して いるだろうが、会社としては基本給のアップは残業時間単価、退職金の算定基 準、社会保険料の標準報酬等級など、多くの関連する費用のアップに直結す る。給与を5%アップすれば、関連の費用も含めると6〜7%くらいの人件費 の増額になるはずだ。 ・これだけ物価の高騰があり、実質賃金が目減りする中で、給与水準の見直し が待ったなしの課題だということに異議をはさむ気は毛頭ない。しかし、経営 的な観点からすると、人件費の増額は経営にはボディーブローのように、じわ じわマイナスの影響が押し寄せる。売上が伸びない、粗利が増えない中で、労 務費や人件費が徐々に増えていくのは恐ろしい。一度上げた水準は、よほどの ことがないと下げられない。下げるとすれば、自分や一族役員の報酬しかな い。自分の報酬は一時期の60%くらいに抑えている。こんな状況に陥るなら、 以前勤めていた大企業を辞めなければ良かった。父親の社長に転職を促され、 実家の商売に戻ってきたのが15年前で32歳のとき。その後代表者になり報酬は 増やしたが、コロナ禍で大きく減らさざるを得なかった。現在もそのまま据え 置いている。 ・従業員の雇用を守るという大義名分、錦の御旗のため、ずっと我慢してきた が、子供も大きくなり、これから教育費などに相当の費用がかかる。とても現 在の報酬では間に合わない。従業員の中では、多少の出来高払いをプラスして いる人もあり、ボーナスも支給しているので、年間総額では自分を上回る社員 もいる。このままずっとこの状態でいけるとは思えない。社員の給与を年々5 %前後上げるとなると、7年くらいで倍になる計算だ。人件費が倍になるとす ると現在のままでは確実に赤字になる。付加価値の高い差別化された製品が簡 単に生まれるとは思えない。それなりに努力はしているものの、そう簡単なこ とではない。現在の自社の技術、経営資源では限界がある。どこかでブレーク スルーしないとできないが、全くイメージが湧かない。 <今でも売上と同じ借金がある> ・もうすぐ50歳になり、あと10年で後継者問題が浮上してくる。現在、長男が 16歳で高校1年生。次男が14歳で中学2年生。とても、現在後継者候補などと 考えられる年齢ではない。今から、高校を卒業し、大学を経て、社会人にな り、自分が転職した32歳になるのに、あと15年くらいかかる。まだ、その時点 では60歳を少し超えたくらいだから、まだ現役で頑張ることはできるが、自社 の事業がどうなっているか、全く想像がつかない。現在従業員が20名前後で年 商が4億円。赤字になったり、黒字になったりで、父親が事業を興した45年 前、1980年昭和55年は高度経済成長の真っただ中だった。売上は毎年右肩上が り、従業員も一時40名で現在の倍くらいいたという。当然売上は8億円くらい だった。 ・そこからバブルがはじけ、業績は急降下。何とか持ち直したと思ったら、次 はリーマンショックで、また急降下。悪いことに、景気がいい時期に工場を移 転し、広い敷地の郊外に移った。結局、その際の借入がいまだに残って経営を 圧迫している。当時の判断として間違っていると言うのは簡単だが、果たして 自分が社長だったらどうしただろうか。受注はどんどん増えて売上も右肩上が りで、とても当時の設備では追いつかない。市内の狭い場所で、機械がところ 狭しと並び、とても増産できる状況ではなかった。そこに、郊外にできた新し い工業団地への誘致案件が持ち上がり、結局多額の借入をして移転した。土地 は倍になり、工場も拡張。多額の投資も、このままなら10年で返済できると 思っていたら、バブル崩壊。 ・バブル崩壊後、5年くらいは我慢していたが、ようやくドン底から這いあが り、軌道に乗ってきたと思ったら、リーマンショックで暗転した。そこからま た苦難の道が始まったが、何とか持ちこたえて借金も徐々に少額ではあるが返 済し、現在の売上と同じくらいの借入まで返済した。しかし、現在の借金を完 済するまではまだ20年かかる。自分の年齢と社長の在籍を考えると、交代する までに完全に返済できる目途は立たない。少しは運転資金の借入が残ってもい いのだろうが、果たしてそこまで気力が持つだろうか。それまでに、高齢の父 親である会長が引退するだろう。退職金をそれなりに出せる財政状態ではな い。年金もそれなりにあるから、退職金は少額で我慢してもらうしかないか。 <自分自身の本気度が足りなかった> ・現在の売上、粗利、経費、利益を維持するのは、何とかできるかもしれない が、成長を目指すのは難しい。成長とは何ぞやという基本的な命題に対し、明 確に答えられる見識もなければ、頭もない。以前は、売上をとにかく増やすこ とが至上命題だった。売上さえ増やすことができれば、利益は確実についてき た。しかし、最近の原材料費の高騰、電気代の高止まり、人件費の急増では、 売上だけを増やしても利益が追い付かない。売上を増やすのは、規模を大きく するだけだ。規模は縮小しても、利益が増えればいい。減収でも増益になれば いい。現在の粗利は30%しかない。売上はそのままか、多少減っても粗利が40 %にできるビジネスを展開できればいいが、そうは簡単ではない。ずっと考え ているが、なかなかアイデアが湧かない。 ・今から10年くらいの間に、次世代に承継する前に、道筋だけはつけておかな いといけない。今まで、いろいろとトライはしてみた。補助金を申請し、認定 されて新しい設備を導入したことも一度ではない。しかし、その事業はあまり ぱっとせず、そのうちにしぼんでしまい、担当した社員も離職した。少しは貢 献してくれたが、もうひとつの柱になることはなかった。本業が忙しく、自分 自身も最初はどっぷり浸かって一生懸命やったが、そのうちに本業が忙しくな り、トラブルが起こってその対応にかまけている間に、じり貧になった。やは り自分自身の集中度合いが足りなかったのだと、今更ながら反省している。そ う簡単に、柱になる事業が育つことはないと達観した。それ以来、どうも新事 業が育たない。 ・やはり本気度合いが足りないのだろうと、最近気が付いた。優秀な社員を一 人100%専従させて、自分自身も80%くらいはその事業に集中しないと成功し ないと悟った。そうするための準備ができていなかった。時間も、資金も中途 半端な投入だった。当初はかなり入れ込んだが、次第に社員に任す時間が増 え、自分がそこから逃げてしまった。20名前後、売上4億円の中小企業だか ら、やはり社長の自分が何もかも責任もって進めないといけない。この10年間 でもう一つの収益の柱を立てないといけない。しかし、あまり時間はないと 焦っている。あるいは、友人か知人と共同で出資して新会社を作り、そこで新 しい事業をしてもいいとも思っている。個人で出資したら、仮に失敗しても会 社に迷惑をかけることにはならないだろう。自分だけの責任で済む。 <将来が見えない不安がある> ・父親が創業し、自分が承継した会社を、自分の代で終わらすことは忍びな い。売上、利益とも抜群というわけではないが、事業価値が全くないとは思え ない。数字でみれば、パッとしないかもしれないが、20名の従業員の生活を支 えている。長男が継いでくれるかどうか分からないので、大学を卒業する前後 で本人の意思を確認する必要がある。今の雰囲気では、父親の会社を積極的に 継ごうという意思は感じられない。それなら、外部の第三者企業に後を託すの もひとつの方法だろう。今の従業員では、代表者をする気概のある社員はいな い。無理に押し付けるのは良くない。それなら、雇用を守ってもらえるなら、 外部の知らない企業でもいいと思っている。規模が数倍大きく、技術がある企 業なら、今の会社の価値を活かしてもらえるのではないだろうか。 ・それにしても、長男でも、外部の企業でも、それまでにもう一つ柱になる事 業を育てないといけない。完全に収益の柱になっていなくても、道筋だけはつ けておかないといけない。現在営んでいる事業は、早晩じり貧になるだろう。 成長の見込みが薄い。人口減少が確実視されている世の中では、今の事業はじ り貧になるのは間違いない。競合他社も同様だろう。市場は広いとはいえ、同 業、競合が多くあり、そのまま10年後、20年後に全部が生き残っているわけで はない。最近送られてくる信用調査会社の資料では、倒産件数が過去最大に なっている。倒産の可能性はほとんどないが、このままの状態で続けていても 意味はない。成長が見込めないなら、次世代に継いでもらっても苦労するだけ だ。何か収益の柱を作らないといけない。 ・日本全国に300万社以上ある企業の99%は中小企業だ。多くの中小企業の経 営者は、同様の悩みを持っているはずだ。政府は多くの中小企業施策を打って いるつもりだろうが、肝心なところが抜けているのではないか。今後の、10 年、20年、30年の国のビジョンが見えない。万博をどう成功さすか、北陸新幹 線はどこを通すか、など言わば目先のことにかまけている。一番大事な、息子 たちの世代にはどのような国になっているのか、したいのか。それが見えない ので、大きな投資や決断をする気にならない。未来が見えないと、気持ちが積 極的にならない。会社に出たら明るい顔をしないといけないが、どうも心の底 でたまっているヘドロが処理できない。あと5年くらいで大きな決断の場面に ささかかりそうだ。胸突き八丁だろうか。そう考えると、熟睡できない夜が続 く。