**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1100回配信分2025年05月26日発行 新農水大臣が既得権益を壊せるか? 〜制度疲労に陥っている多くの古いシステムをどうする〜 **************************************************** <はじめに> ・前農水大臣の失言で、令和のコメ騒動が新たな局面に入った。次に指名され た小泉新大臣が、既得権益をぶっこわすとぶち上げた。さあ、どこまでやれる か見ものだ。つまり、現在のコメ騒動の元凶は、JA農協組織と農水省との癒着 であると断言したのと同じことだ。このシステムを作ったのは自民党であり、 農水系の議員たちだろう。減反といいながら、莫大な国費=税金をばらまいて 農業をダメにした責任がある。加えて、農業者の高齢化による事業者の減少も 止まらない。そもそも、コメを作っても、作っても赤字であること自体がおか しくないか。以前、ある農業関係者に話しを聞いたときに、言われた言葉が忘 れられない。曰く、「コメ作りで一番儲かるのは、何もしないことだ」と。こ の言葉がすべてを表している。 ・当時、不勉強だったので、あまり意味がよく分からなかった。コメを作らず に、休耕田にして耕作放棄地にすると、補助金か奨励金か、名称は別にして多 額のおカネがもらえるのだ。つまり、減反に協力すればするほど、何もしなけ ればしないほど、おカネが入ってくる仕組みになっているのだ。もともと、日 本のコメの生産現場では非常に厳しい状況が続いていた。農家のコメ作りの報 酬があまりに低い、少ない現状が当たり前のように報道されてきた。政府の減 反政策により、海外に比較して非常に生産性が低い状態で放置されている。稲 作農家の95%は赤字経営だ。農水省の資料や統計によると、耕作面積が約20ヘ クタール弱くらいの広大な土地(1ヘクタールは昔の1反で300坪)を所有す る農家なら、おおよそ年間300万円くらいの黒字になると言われている。 ・減反を奨励し、高い米価に誘導する政策は、本来小さな面積で細々と農業を 営む「ゾンビ農家」を温存してきたことになってしまった。欧米では、零細規 模の兼業農家は農家と認定されていない。コメ農業の担い手にもならない。フ ランスでは農政の対象にすらならない。しかし、日本の政治家は農家の票が欲 しいから、農家の生産性が低いことや、国際的に価格競争力がなく輸出に回さ なくても、保護することで温存してきた。国は税金を投入して減反政策を奨励 してきたのだが、生産や流通を自由化してコメの値段を下げて輸出に回すよう にしていれば、今回のようなコメ不足にも対応できたはずだと識者は訴えてい る。もともと、日本のコメ農家は2017年まで政府が実施してきた減反政策によ り、補助金を受け取って成り立っていた。その背景には、JA=農協の存在があ る。 <JAという既得権益組織がカベ> ・もともとコメは1970年代の前半まで、ほとんど農協=JAが指定業者となり、 ほぼ100%の流通を支配していた。現在でも、約半分近くがJAの流通網でコン トロールされている。今回備蓄米の放出があったが、末端の小売店まで行き渡 らないのは、このためだ。一般の庶民の感覚では、なかなか理解納得できない ことだ。販売価格の自由化も遅れに遅れて、1972年に初めて自由化された歴史 がある。農家が自由にコメを販売できるようになったのは、それから20年以上 経過した1995年からになる。コメを消費者に販売することも認可が必要な時代 が長く続き、「新食糧法」に切り替わったからできるようになった。さらに、 自由化されたのは2004年からだ。それまでの間、長く流通を抑えていたのはJA だ。既得権益が大きかった。 ・自由化されて20年以上経過しても、なお40%以上の物流をJAが握っているの は、農水省の利権とJAの利益が一致しているからに他ならない。このようなコ メの流通・販売が不透明な中で、政府はコメ農家を守ると称して実質的な「減 反政策」を続けてきた。毎年3000億円前後の財政負担を行って、農家に補助金 を払い、生産を減少に誘導し、消費者に高額のコメを買わす政策なのだ。減反 政策そのものは2017年に形式上廃止されたが、転作補助金などと名称を変え て、実質的な減反政策は継続されている。本来ならば、コメを大量に生産し て、輸出に回せばいいのだが、日本のコメは量販市場では価格競争力がなく、 売れない。輸出できるほど、大量のコメを生産出来ていれば、食糧危機の際に は輸出を減らして国内に回せばいいだけだ。 ・どうして現在でも、実質的な減反政策を継続しているかといえば、コメの価 格が決まる流通の仕組み、システムが歪んでいるからだ。その背景にある巨大 なJA=農協という組織の存在がある。選挙で票が欲しい農水系の代議士、政治 家とJA=農協とが利害が一致するので、癒着が起こる環境が出来上がってい る。ひとつの組織が永年、流通の半分近くを握っているという異常な状態が永 く継続しているという事実が、今回の令和の米騒動の元凶なのだ。この異常な 状態に風穴を開けて、米騒動の収拾を新大臣が図れるか、正念場だ。夏の参議 院選挙を前にして、庶民にわかりやすいコメという素材に対する政策がうまく できるか。結果によっては、国政の構図に大きな影響を与えることになるだろ う。新大臣が「負けて勝つ」という微妙な言い回しで表現したのも理解でき る。 <社会インフラが維持できなくなる> ・コメを題材に、政府・農協・政治家というトライアングルの利権、癒着構造 が白日のもとに晒されたが、このような構図は現在の日本の随所に見られる。 高速道路や新幹線などの公共投資、社会インフラへの税金の使い方も、ある意 味同じような構図がある。過去、戦後の混乱期を経て、高度経済成長からバブ ル崩壊など、いろいろな経過をたどってきた。いまや、既存のシステムが現状 に合わなくなってきている。制度疲労を起こしている。しかし、この過去から のシステムにぶらさがっている人、団体、組織も多い。人口減少が今後明白 で、働き手が減る。社会保障も支える若者が少なくなり、少ない人数で多くの 高齢者を支えるのは、いかなこと難しい。社会保障制度、医療制度など多くの 社会システムが、間違えば崩壊する危機に瀕している。 ・発想を変えないといけないだろう。人口が増加し、経済は発展し、給料は上 がり、売上が伸びるという幻想は、持たない方がいい。そういうと、夢も希望 もないように感じるが決してそうではない。多くのモノを始末し、効率的に縮 小すればいい。少し前に、某政治家が現在の47都道府県制度を維持していくの は困難だろうと発言したが、まさに正鵠を得ている。議員の選挙制度も、おそ らくこのままでは維持できない。毎回、人口減少地域が問題になり、選挙区の 合併などを繰り返しているが、果たしてこのパッチワークのようなやり方がい つまで通用するのか。地球環境問題から、異常気象が連続し季節に応じたビジ ネスモデルが変わらざるを得なくなった。四季というより、「二季」になりそ うだ。春、秋が極端に短くなり、厳冬からいきなり初夏に移行する。 ・何もかも、この20年くらいで変わらないといけない。2050年に自分が生きて いるか分からないが、少なくとも同じ状態ということはあり得ない。そう考え ると、いま国内で行われている税金を使った投資が、果たして正しいのかを検 証する必要がある。今後は、インフラの維持、メンテナンスに大きな資金が必 要で、新しいインフラを整備する余裕はあまりないのではないか。リニア新幹 線、新規の新幹線構想など、多くの見直しが必要だろう。道路、橋、上下水道 などのインフラの取り換えに、大きなエネルギーが要る。つい、最近も京都市 内の国道で上水道管が破損し、取り換えに時間と費用がかかった。そもそも、 水道事業自体が今後成り立つのか、という疑問もある。住民が非常に高い水道 代に耐えられるか。既にいくつかの地方自治体では水道代の高騰に悲鳴が上 がっている。 <既存のシステムを打破するには覚悟が要る> ・戦後80年経過し、多くのシステム、制度が見直しの時期に来ている。この 間、多くの歴史的な出来事があり、その都度環境の激変が起こり、対応してき た。しかし、前提は人口が増加し、経済はそれに伴って成長するものだという ことだった。誰も、人口が減るという社会を想定していなかった。一定の前提 が崩れると、大きな変化が起こる。オイルショックのときは、石油は海外から 無尽蔵に輸入できるというものだった。それが中東での戦争の勃発で一気に覆 り、省エネ技術が一気に進んだ。バブル経済崩壊の時は、その後の金融再編成 に進んだ。コロナパンデミックのときはリモート革命が起こり、DXというデジ タル革命に進んだ。しかし、わが日本国ではいつも少し周回遅れで対応せざる を得なかった。今回もそうだ。既得権益のカベが高く、険しい。 ・人口減少、農業者の高齢化など、一定の社会現象が既知の事実であるにも関 わらず、それを直視して対応しようとしなかった。ベースには政治の問題があ り、根底に選挙制度のひずみがある。議員は選挙で当選しない限り議員ではな い。選挙民に迎合することを批判することは簡単だが、当事者にとれば死活問 題だろう。地方にいけば高齢化したとはいえ、高齢者の投票率は高い。農家も まだ多くあり、農業者の票をあてにする代議士先生も多くいる。当然彼らの判 断は、農業者がマイナスになるようなことは訴えない。選挙の時に、耳障りの 言い公約を唱えて当選する。週末に地元に戻って会合に顔を出すと突き上げら れる。永田町に戻り地元の意向を幹部に直訴する。この繰り返しだ。 ・基本的には選挙制度を変えない限り、既得権とのしがらみを断ち切ることは できないだろう。区割り、定員、方式など多くの課題があり、変えると不利益 を被る人が必ず出てくる。どんな制度でもそうなるはずだ。企業でも、何かを 変えれば損得が発生する。ワンマンの中小企業ならオーナーのツルの一声で瞬 時に変更は可能だが、これも必ず怨念が残る。不満を持った社員は、いずれ依 願退職するだろう。不満のない制度の変更などはあり得ないと心得たほうがい い。三方よしはいいが、八方美人はいけない。怖がっていては、何もできない し、何も起こらない。覚悟をもって、不退転の決意で既存のしがらみを打ち破 らないと、ブレークスルーは起こらない。周囲に気兼ねをするより、正しいこ とを正しく行う。生き延びるには、これしかない。