**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1108回配信分2025年07月21日発行 倒産件数徐々に増える 〜意味があったのかゼロゼロ融資〜 **************************************************** <はじめに> ・最近の成岡の仕事内容を分類してみると、いくつかのパターンがある。ま ず、業績がそれなりに順調で、既にコロナ以前と同じくらい、いや企業によっ てはコロナ以前より成長している企業グループがある。業種はさまざまで、製 造業もあれば、卸売業、小売業、サービス業と多岐にわたっている。特定の業 界に偏重しているとは感じられない。強いて言えば、半導体関連に何らかの形 でかかわっている業界は、総じて順調だ。半導体製造装置周り、半導体検査装 置周り、使用するユーティリテイ周りなどだろうか。中小企業だから、これら のほんの一部の部品、部材などを製造、供給している企業だ。特殊なバルブ、 特殊な膜やフィルター、特殊な装置の部材の一部などだ。ニッチな市場で規模 は大きくないが、独自の強みを持つ。 ・ご存じのように台湾のTSMCという企業が熊本県に大規模な製造工場を建設 し、一部は稼働開始した。さらに増設の計画がある。日本企業も、北海道で新 工場の建設を開始し、近いうちに稼働を始める計画だ。AIの普及、活用が進 み、多くのデータセンターが各地にできつつある。それらに高性能の半導体を 供給するために、世界中で半導体製造業のラインが稼働している。その恩恵を 大きく受けている業界は、いま絶好調だ。ただ、このピークがいつまで続くか 保証の限りではない。もう少し先になると、意外と設備投資のピッチが鈍るか もしれない。簡単に右肩上がりが未来永劫に続くとは思えない。増産要請をど こまで受けるか、判断に迷うところだろう。どうしても、需要と供給には波が あるし、アップダウンはつきものだ。 ・好調な業界は、主に製造業が多い。地元京都の大手企業でも、多少業績の浮 き沈みはあるが、それでも世界の市場が相手だから、極端な上下はない。自動 車業界のように、一次下請けからピラミッド構造になっているわけではないの で、小規模な中小企業でもナショナルブランドの大企業と直接口座を持ち、取 引をしているケースが多い。それぞれの中小企業が、それぞれの特徴を発揮 し、独自の技術で大企業の製品を支えている。どこでも製造できるような簡単 な部品ならいざ知らず、非常に高精度で特殊な形状をしていて、大量ではない が、他社ではなかなかそのコストでは造れない。納期、精度、品質、コストな どの重要な要素をその中小企業がカバーしている。そういう企業は、コロナ禍 が収束すると、すぐに業績は回復した。 <伝統産業、工芸系の企業が厳しい> ・特に困窮している業界は、伝統産業系ではないか。糸偏の業界、つまり織 物、染め物などの製造業、加工業の業界の回復は一向に兆しが見えない。西陣 織の帯地製造業、着尺製造業、その周辺の業界だ。これらの業界のサプライ チェーンは長い。絹糸の製造から始まり、最終の仕上げまで多くの職人さんが 関わる。それぞれの工程は細かく分かれ、中小企業というより零細企業が多 い。法人になっていない事業者も多く、個人事業者が多い。作業場と自宅が混 在していて、前がお店で後ろに住居がある。通りに面している店舗で商売はさ れているが、奥には個人の生活基盤がある。どこまでが事業で、どこからが個 人なのか、切り分けは難しい。事業規模も小さく、非常に古臭い商慣習に縛ら れている。コロナ禍明けでも、一向に業績は上向かない。 ・工芸関係も同様だ。仏壇製造周り、指物関連、竹細工、手造り木工家具、金 襴、袱紗、京人形、装束、祭事関連など、さすが京都という事業が目白押しだ が、いずれも衰退産業に近い。じっとしていると需要がないので、需要を掘り こし、ニーズを新たに作る必要がある。和装業界なら、着物を着ていく場がな い。インバウンド観光客に安価な合成繊維の着物をレンタルする業界は忙し い。しかし、本格的な和装を着ていく場は、いま、よほどのことがないと一般 にはほとんど縁遠い。お茶席、パーティ、新年会、謝恩会、結婚式、叙勲祝賀 会などだが、昨今ではそう頻繁にあるものではない。コロナのあと、このよう な人が集まる機会を設けることが減った。大人数が一堂に会して、密な状態で 会食、飲食をするというイベントが減った。この影響も大きい。 ・飲食店も、業績が戻りつつあるお店、事業者と、相変わらず低迷している事 業者との明暗がはっきりしてきた。低迷している事業者を見ると、コロナ前と 後でも、ほとんどやっていることは同じで、変わらない。提供しているメ ニュー、サービスなども、ほとんど同じだ。かえって、原材料、包装資材の値 上がり、人件費のアップなどで、提供する価格が20%近く高くなっている。当 然、消費者の財布のひもは固くなる。価格を上げたが、売上は低迷し、利益は かえって減りつつある。コロナの間、開店休業に近かったが、確かにゼロゼロ 融資は有難かった。しかし、あくまでも補填に消えて何も残らなかった。売上 の減った分のカバーのみに消えて、コロナ明けの事業改善の投資に回らなかっ た。かえって、休業補償的なおカネだったので、生活費の補填以外にも消え た。 <破産する企業が増えてきた> ・いろいろな統計数字を見ていると、コロナゼロゼロ融資は2025年2月末の統 計では、累計の件数は264万件、金額は約45兆円となっている。ざっくり割る と1件あたりの融資額は2,000万円弱になる。原資はほとんどが赤字国債だろ う。融資を受けた事業者の2020年7月以降2025年6月末までの倒産件数は 2,272件。2024年単年度の倒産件数は、567件。2025年上半期の倒産件数は316 件で。このままで推移すると、前年を上回る倒産件数になる。明らかに、事業 を継続できない事業者が増加しつつある。倒産は法的処理なので、これ以外に 廃業、休業した件数はわからない。個人事業者、法人事業者を足すと、相当数 の事業者がコロナ明けに事業を止めた、止めざるを得なかったという実態が見 えてくる。 ・AIでゼロゼロ融資の総括を聞いてみると回答では、導入当初は倒産防止、抑 制に一定の効果があった。しかし、コロナが落ち着き、返済が始まると、でき ない企業が続々と現れた。加えて、物価高、人件費の高騰、人手不足、原材料 の高止まり、金利のアップなどで、逆風が強烈に吹いてきた。納品価格を上げ てもらう交渉に応じてくれた事業者は、価格アップで何とか凌いでいる。しか し、付加価値が少なく、以前から収益力が乏しい事業者は、この三重苦、四重 苦でとうとう首が回らくなってきた。返済はもう相当の期間ゼロにしてもらっ ている。金利だけは払っているが、それでも資金繰りは厳しい。返済の見通し は立たないが保証協会の保証が100%あるので、金融機関は金利を払ってくれ ている間は、無理な返済は求めない。生かさず、殺さず、だ。 ・毎月、月末前になると、社長や一族でおカネを融通し、何とか月末を乗り越 えている。役員一族からの借入金も、相当な金額になっている。まだ、給料の 遅配はないが、このままの資金繰りだと夏の賞与もゼロになりそうだ。見切っ て退職する社員も出るかもしれない。若い社員は、まだどこでも雇ってくれる だろうが、50歳以上のベテランの社員は再雇用してくれる企業を見つけるのが 大変だ。夏の賞与が出なくても、仕方ないと諦めて、この企業に残る選択をし ている。金融機関に半年ごとに資金繰りの予想数字の資料を出しているが、予 定通りに収まったことは一度もない。資料を作るのに時間がかかり、精度も次 第に乱暴になっている。果たして、この資金繰りの資料で信用してもらってい るのか、不安だらけだ。 <立ちいかない企業は退出止む無しか> ・ゼロゼロ融資の申込のときは、ほとんどノーチェックで融資が下りた。失礼 ながら金融機関は、まともな審査をしなかったのではなかろうか。緊急度が優 先し、申請書類の内容まで見る時間もなく、膨大な件数を裁かないといけない 状況だったので、これは致し方なかったか。しかし、本来存命の可能性が極め て低い事業者まで、このゼロゼロ融資で生き延びた。失礼な言い方では、こう いう企業を「ゾンビ企業」という。「ゾンビ」とは死者が蘇生した(生き返っ た)状態を指す。「ゾンビ企業」の特徴は、慢性的な赤字で、多額の負債を抱 え、借り換えや減額返済で延命している。また、政府の補助金や助成金に依存 し、今後の経営改善の見込みが薄いという状態だ。これらに該当する事業者 は、結構多いはずだ。 ・金融機関も、担保を十分取っており、保証協会の保証がついて、事業者が倒 産してもあまり痛まないので、無理に返済を強要しない。寝た子を起こさない ように、黙ってそっとしておく。2年から3年で担当者も、支店長も変わるか ら、そのまま引き継いで放置する。道路に放置された車を、誰も片付けないの と同じだ。いったん、俎上に上げると何らかの対応をしないといけない。金融 機関が潰したという風評は困る。自ら手を挙げて、自然死するなら別だ。ある いは、見込みのある事業は他社に引き継いで、見込みのない事業は粛々と清算 に持ち込む。今なら、なんとか外部に迷惑をかけないで、清算、廃業できるな ら、それも選択肢のひとつになる。しかし、事業を止める決断は、なかなかで きないものだ。 ・日本の中小企業の生産性が低い理由のひとつに、企業規模が小さすぎるとい う指摘がある。300万社以上ある中小企業は、高度経済成長時代に急増した が、これら多くの企業を養えるほどもはや人口減少する日本で体力はない。一 定の規模の事業者に集約する方向は間違いではない。そういう企業に人材が移 動し、さらに生産性を上げることができれば、賃金も増やすこともできるだろ う。事業は突然止めることはできないので、数年先を睨んで考えておく。止め るタイミングが年に1回しかない事業もある。いったん受注を受けてしまう と、その受注は確実に納品しないといけない。得意先に突然のお知らせは、混 乱を招く。事業は進むより、退くほうが難しい。