**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1109回配信分2025年07月28日発行 混迷深まる政局 〜少数与党と多数野党でこれからどうなるのか?〜 **************************************************** <はじめに> ・参議院選挙の結果がご存じのようになったが、石破首相が開き直って続投す ると発表したので、この表明に党内外からブーイングの大合唱が起こった。身 内からも辞めるべきとの厳しい叱責が飛び出し、党内他派閥からも辞任の声が 高い。某大新聞が、首相辞任と一面トップで報道し、号外まで出た。世紀の大 誤報というセンセーショナルな表現が駆け巡った。誰から出た情報か知らない が、全くの誤報ではないだろう。各県の自民党幹部や若手の議員からも、声高 に辞任の要求が出ている。政局はさらに一層混迷を深めることとなった。トラ ンプ関税も一応の決着を見た。8月の政治日程が片付けば、おそらく辞任する 公算が強い。マスコミからは、いくつかの選択肢が提示されているが、どうな るか魑魅魍魎としてきた。誰もこの先が読めない。 ・野党の一部からは、企業経営に例えて、衆議院選挙、都議選挙、そして今回 の参議院選挙で3回続けて惨敗したのを、3期連続して大赤字を出したことに なぞらえて、普通の企業経営者なら責任を取って辞任すると主張した。数名の 総裁候補者の名前は世間では騒がれてはいるが、誰になっても一枚岩での一致 団結は難しいだろう。かと言って、昔のように党を割って外に出て新党を起ち 上げて、野党と組んで連立政権を目指すという気骨のある政治家もいない。以 前は、びっくりするような組み合わせの与野党連合のようなケースもあった が、同床異夢の集まりだったので簡単に瓦解した。防衛、税制、外交などの基 本方針が異なる政党が、目先の欲で一緒になっても長続きしない。一時的な同 棲ならいいが、ずっと一緒に暮らすとなると難しい。 ・過去に多くのサプライズの組み合わせもあったが、やはり根本的な部分でミ スマッチが起こると、国の方向が迷走する。海外から見たら、いったいどう なっているんだと揶揄されるのがおちだ。ヨーロッパでは、連立政権という形 が多い。単独政党で多数を占めることが難しい場合、少数政党が集まって妥協 できるところは妥協し、連立政権という形を作る。基盤は弱いが、案件ごとに 妥協できるところは妥協し、妥協できないところは進まない。ある意味、牽制 が働き、時間はかかるが常に正常バイアスがかかるという長所もあるだろう。 極端な右、左の政策は取り得ない。ただ、妥協の産物だから中途半端で中道な 内容になりかねない。日常の些細な案件ならいいが、国の大方針を転換するな どという大きな意思決定は難しい。 <今回の選挙結果は劇的だった> ・今回の参議院選挙の結果を受けて、日本の政治体制はどのように動くだろう か。選挙期間中のTV討論やメディアでの報道を聞いても、いまひとつ今後の日 本の10年後、20年後、30年後のグランドデザインを描ける政党は見つからな い。選挙となると、物価、米価、ガソリン税、消費税、食料品の高騰など、日 常に直結するテーマの論戦が多かったという印象が強い。庶民の関心はそのよ うな課題だが、防衛、外交、社会保障、少子化、人手不足対策など大きなテー マに関しては、あまり深い論戦はなかった。終盤戦になって外国人労働者の問 題が取り上げられたが、これも深まらないまま投票日に突入した。当然、票に 結びつかない憲法改正などは、蚊帳の外だ。アメリカのトランプ関税に対する 対処に関しても、特に目だった主張はなかった。 ・衆議院でも参議院でも、少数与党という形は自民党が1955年(昭和30年)に 結党以来初のことだという。歴史的にも今までなかったことだ。見方によって は昭和から平成にかけての70年間で前代未聞のことが起こった。従来与党、特 に自民党に投票していた若年層の人々が完全に離反した。低所得にも関わら ず、この物価高に苦しんでいるのに、政治は何もしてくれない。特に、この層 は税金、社会保険料の負担が大きい。低所得者ほど消費税が重くのしかかる。 エンゲル係数が高いから、いくら食品にかかる消費税に軽減税率が適用される とはいえ、最近の値上がりは非常に大きい。CVSでのコーヒーの価格が、提供 が始まったときは100円だったのが、今は140円だ。実に40%も値上がりした。 ・新しい政党の躍進と、既存の古い体質の政党の凋落が、非常に対照的に表れ た今回の選挙結果になった。古い政党を支持する人は、高齢化が進み、支持層 に拡がりが見られない。前回3年前の選挙結果と比較すると歴然だ。それに反 し、若者にターゲットを絞り、SNSなどのメディアで支持の拡散を図った政党 は躍進している。この層は、新聞やTVという従前のメディアをあまり信用して いない。偏重があり、偏向があるという理由で、SNSでの情報を重要視する。 この傾向は最近特に強くて、昨年の兵庫県知事選挙の結果が象徴的だ。新しい NETメディアの拡散する影響は計り知れない。24時間、365日休まず情報は駆け 巡る。フェイクな情報もあるが、それを割り引いてもなお余りある。NETで 育った世代には、非常に有効だった。 <自民党のドタバタで解決しない> ・今回2025年の参議院選挙の結果は、歴史に長く刻まれる出来事だ。ただ、3 年後には今回非改選の参議院選挙が間違いなくある。衆議院も解散があると総 選挙になる。地方自治体の選挙もある。多くの選挙で民意を反映する機会があ るが、これらの選挙の時に今回躍進した政党が、どのような結果を出し、どの ような政策を打ち出し、どのような将来ビジョンを描けるのか、今のところ未 知数だ。保守政党が内部抗争で分裂した政党ではないので、期待値は高いが、 高いだけに相応の結果が出せないと今回の支持層の多くが離反する可能性があ る。短期間で結果が出ない、出せないものが多いが、それでも新しい動きは起 こるだろう。その結果如何で、また大きな地殻変動が起こる可能性がある。日 本国も、少し変わりつつあるのか。 ・少数与党と、多くの野党との部分連合になるだろうから、自民党の総裁が誰 になるにせよ、ひとつの意思決定に時間がかかることは避けられない。考えて みれば、現在国会は開かれていない。予算を審議する通常国会が6月に終わる と、不定期に開く臨時国会、総選挙後の首班指名などを行う特別国会は開催が 決まっていない。少数与党が野党と部分連合を組むなら、年中国会を開催しな いといけないのではないか。与党の一存で何でも決まった時代は、今後もう やってこないのか。事前の調整、意見のすり合わせなどに手間取り、以前の3 倍くらいの時間がかかるのではないか。それなら、通年で国会を開催し、常に 大事なことは審議している状態を作り出すべきだろう。そうでないと、いった んお開きになった国会を再度招集するのは面倒だ。 ・月末までに自民党は両院議員懇談会をするという予定になっている。この 「懇談会」というのが曲者だ。普通は、両院議員総会となる。総会となると正 式な機関なので、総裁の決定などの重要事項を決めることができる。一定の人 数の開催リクエストがあれば開催はマストだ。今回は、それを避けて、まず いったん「懇談会」となり、一部にはガス抜きとの批判もある。総裁、幹事長 以下の役員は誰も辞任しないという。若手やベテランからは、これでは収まら ないとのブーイングが既に多く表明されており、どういう展開になるか予断を 許さない。ハプニングが起こるか、臭いものに蓋をして終わるか、はてまた土 壇場で劇的なドラマが起こるのか、野次馬的に言えば非常に興味津々だ。この ような修羅場で、誰が、どのような行動に出るか。 <憂国の士が出るか> ・どの政党とは限らないが、若手で有望、優秀な憂国の士が出てくることを期 待したい。この難局は50年に一度の剣が峰だろう。戦後のシステムが崩壊し、 人口は増加するという前提が崩れ、経済成長は止まり、賃金の上昇が物価の上 昇に追いつかない。国の借金はGDPの200%以上になっている。企業経営の数字 で言えば、売上の倍以上の借金があるということだ。普通なら、破産寸前だ。 ただ、個人資産が莫大にあり、それを加味すると破綻まではいかないという見 立てになる。企業なら、代表者の土地、建物、個人資産が担保に入っているの で、破綻しないという理屈になる。しかし、国際的な評価は年々悪化してい る。国債の格付けも徐々に劣化している。収入より支出が多いので、常に資金 収支がマイナスだ。 ・島国で原材料に乏しいので、円安になると輸入物価が上がり、特に食品の値 段が高止まりする。食料自給率がカロリーベースで40%だから、食品材料の半 分以上は輸入に頼らないといけないという苦しい事情がある。食料安全保障と いうキーワードまでが出てくる昨今だ。アメリカからも、コメが足りないなら アメリカから買えばいいと矢のような催促だ。欧州や中東で紛争が勃発する と、原油やガスの輸入に支障が出る可能性がある。おおごとだ。金属材料も、 レアアースも、大半は輸入に依存している。運河や海峡の通行に支障が出る と、目も当てられない。希少な材料を高い価格で購入せざるを得ないので、付 加価値の高い加工をしないと商売にならない。自動車が代表的だが、この輸出 にクレームをつけられている。 ・今回論争になった減税か、給付か、という議論も大事だが、それよりこの人 口減少、高齢化が激しく進む日本の2030年、2040年、2050年のグランドデザイ ンが見えない。いま、2025年だから、2050年まで25年ある。現在、45歳の議員 が70歳になる。60歳以上の議員は、80歳を超える。参議院は解散がないから、 6年間腰を据えて政治に取り組めるはずだ。今回当選した若い議員が、与野党 を問わず、日本の未来、行く末にどのような絵を描いてくれるのか。選挙で は、票にあまり結びつかないテーマは訴えない。名前の連呼に終始し、とにか く顔を売ろうとする。しかし、次の選挙では結果が問われる。1年生議員には 厳しいが、国税を使う立場で矜持を見せて欲しいものだ。そういう人が出てこ ないと、日本の未来は暗い。