**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1111回配信分2025年08月11日発行 少子化で変わる業界:その1 〜教育業界への影響は大きい〜 **************************************************** <はじめに> ・最近、多くの女子大学が共学化を発表している。つい最近では、関西の名門 武庫川女子大学が共学化を表明した。逆に、今年になって京都市内左京区にあ るノートルダム女子大学が2026年度からの新入学生募集を停止すると表明し た。かたや名門女子大学が生き残りをかけて共学化に踏み切り、かたや数年後 に廃校にすると発表する女子大学がある。また、女子短期大学がその使命を終 わって、閉校にすると発表した女子短大もある。ここ20年ほどの間に、多くの 女子大学が共学化に踏み切った。女性専業の大学経営では続けるのが困難だと の理由だ。逆に、開き直って京都女子大学は、とことん女子大学で行くと宣言 した。根本には、当然のことながら少子化の影響がある。2024年度に生まれた 新生児は70万人を切った。 ・この赤ん坊たちが18年後に大学生になるとすると、その時点で入学者は激減 する。そこまでに徐々に入学者が減り続け、多くの大学が果たして経営が成り 立つのか、不安になる。現在日本国内には国立、公立、私立併せて700以上の 大学があるが、果たして2050年にどれくらいの大学が存在しているだろうか。 計算上は3分の1くらいの大学が消滅しているはずだ。地方に点在する特徴が はっきりしない大学は、淘汰の憂き目に会うはずだ。現に、文科省は特に私学 大学に対し、存続の条件を厳しくして、淘汰の方針を打ち出した。あからさま に潰すと言えないから、助成金、補助金を出す条件を厳しくした。定員充足率 などの数字で締め上げて、多くの私大をシャッフルする計画だ。大学のトリ アージが始まった。 ・大学が閉校になれば、どのようなことが起こるか。閉校にあたり、数年前か ら募集停止になる。しかし、直近入学した学生を卒業させる責任はある。当 然、閉校の前数年間は赤字になり、閉校前に一定の手元流動性がないと閉校で きない。また、教員、職員の失職は簡単にわかるが、広いキャンパスの土地、 建物が不要になる。教員は他の大学に転籍するか、別の仕事に就業するか。職 員は事務職として一般企業への転職は可能だろう。設備、土地、建物は余る が、他の目的に転用するのは難しい。解体して更地にして、他の用途に建て直 す必要があるだろう。立地が良ければ、引く手あまたかもしれない。京都市内 のど真ん中の池坊短期大学は数年後に閉校するが、この土地の利用価値は高 い。競争も激しいだろう。多くの地権者の意見がまとまるか。 <小学校・中学校・高校も同じ> ・京都市内の小学校は、ここ当分児童数の減少で統合と廃校が繰り返される。 2つの小学校を廃校し、近隣に新しい統合された小学校を作る。廃校になった 小学校は、ひとつは老人施設に、ひとつは文化施設に衣替えする。中学校も同 じだ。私立の中学、高校はほとんどが共学化に踏み切った。女子だけの学校、 男子だけの学校は、今や非常に珍しい。逆に、私学で中学、高校しかない学校 法人は付属小学校を新設した。小学校から大学まで、一気通貫で学校があれ ば、普通の学力なら小学校から大学まで受験なしで行ける。受験がない分、ク ラブ活動、課外活動、趣味の活動などに時間が割ける。そのほうがいいという 親御さんも多い。あくせく暗記中心の受験勉強をするより、したいことをさせ て才能を伸ばした方がいいという親も多い。 ・学校を中心とするビジネスも、周辺には多くある。学習塾を始め、事務用 品、印刷物、クラブ活動関連、教科書や学習参考書の出版など、関連する業界 は多い。文房具を中心に、学校に卸売業を営んでいる京都府の地方都市の事業 者が、最近廃業された。地方都市では児童数の減少が激しく、一時の商い規模 の半分以下に縮小した。文房具以外にも、教科書、事務用品、消耗品などを 扱っていたが、児童数が半分以下になれば当然扱い高も半分以下になる。それ 以外にも、簡単な印刷物の取次や、いろいろな事業を手がけたが、いかんせん 基礎的な数字である児童数が上向く可能性が皆無に近い。今なら廃業も可能な ので、手元資金がまだあるうちに廃業を決断した。自分は、まだ50歳台なの で、他の仕事に転職するという。 ・大学となるとさらに多くの関連事業者がある。京都は特に地方から市内に下 宿する学生が多い。京都市内には14万人の学生がいると言われているが、その 半数は京都市以外から来ている。全員が下宿、寮ではないだろうが、親元から 通学できる人数が5割と仮定しても、約3万人から4万人近くの学生が何らか の形で住むところを確保しているはずだ。ワンルームの学生アパート、マン ション、寮、下宿など、多くの不動産関連のビジネスがある。学生は普通4年 間もしくは6年間で入れ替わるから、不動産仲介業は非常においしい市場だ。 キャンパス内にある学食(学生用の食堂)の運営も、どこかの飲食関連の事業 者に委託されている。夏休みはじめ相当期間の休みがあるが、売店の売上と セットで受託している事業者も多い。 <大学・学習塾・予備校も同じ> ・確実に言えることは、現在約800ある大学が間違いなく今後3分の1は減る ということだ。逆に、このピンチをチャンスに捉えて、地方活性化に寄与する ようなアクションを取るべきだ。具体的には、3分に1減ったとして残った 450校の大学としておおよそ各都道府県に10校あればいい。首都圏周辺の集中 を分散させ、各都道府県に特徴の際立った大学を創設する。それぞれの学府が 際立った尖った教育を売り物にすることが好ましい。地元京都では、芸術系の 大学、食と農業に特徴のある大学、製造技術に特化した大学など、多くの色が 明確な大学がある。単に共学化して、生き残りだけを図るのではなく、本当に 社会に必要な人材を輩出、送る学府になるために、今後何をどう変えればいい か。正念場を迎える。 ・子供の数が減って、シュリンクする事業にはこれ以外にどのようなものがあ るだろうか。学習塾、予備校関連では周辺に印刷物、文房具、学習機材などの 関連事業者が多い。最近では、紙の印刷物が減少し、デジタル化が進みモニ ターやタブレットで学習材料が提供されている。以前は、学習塾のチェーン店 が市内に多くあり、そこで書かれた回答用紙やプリントを集荷、配送する事業 者もあったくらいだ。NET社会の進歩に伴い、そのような事業者もどんどんな くなっていった。いまだに、紙、鉛筆でやっている事業者もあるだろうが、小 学校の高学年くらいは、もうデジタルツールで十分やっていける。放課後の学 習塾系、特に国語、算数などの基礎学力系の学習塾は、生徒数の減少をまとも に受けている。そこで新市場として脚光を浴びているのが、シルバー市場だ。 ・高齢者施設の入居者に、基礎学習系の教材をアレンジして提供している事業 者がある。認知症予防に効果があるとの触れ込みで、脳を活性化するプログラ ムを開発して、高齢者施設で利用することを勧めている。学習結果を競い合う ものではないので、モチベーションの維持に苦労はするが、それでも効果は一 定あるようだ。意外と楽しみで嬉々として取り組む高齢者も多いようだ。子供 が減るなら、増えるお年寄りをターゲットにしてビジネスを考えるのは悪くな い。ただ、学習して成長を促すのではなく、脳のポテンシャルを維持すること が目的になるので、少し内容は空ける必要はあるだろう。学習塾も予備校も、 今後何らかの得意技に特化する必要がある。最近多いのは、医学系大学専門の 予備校だ。あるいは、国家試験系の予備校もある。 <思い切って事業転換するか> ・小学生各学年対象の月刊誌が軒並み廃刊になっている。小学〇年生という月 刊誌は、その年齢の子供の定番だった。本誌と付録がセットで、月に1回書店 の店員が配達してくれる。書店は、この配達でどの家庭にどういう年齢の子供 がいるのかを把握していた。特に、幼稚園から小学校、小学校6年生から中学 校、中学3年生から高校へと進学する際には、新生活、学校生活がどのように 変わるのかを、これら月刊誌で情報収集していた。いまや、ほとんどの情報は パソコンやスマホでゲットできる。これらの雑誌をクラスマガジンというが、 ほとんどのクラスマガジンが休刊か廃刊になっている。この傾向は止まること がないので、復活は難しい。婦人雑誌も同じだが、特に子供を対象にしたクラ スマガジンは日本では未来永劫にビジネスとしてはあり得ない。 ・怖いのは、いま、たちまち、すぐにゼロになるわけではないが、ボディーブ ローのように徐々に、徐々に生徒数の減少と共に売上、収入が減って行く。気 が付けば、20年前に比べて3分の1くらいの売上は減った。経費は増加し、人 件費は上がるのと反比例して売上、収入は減少の一途をたどっている。急激に 減るなら、その事業を半ば諦めて業態転換もするが、徐々に徐々にじわじわと 減って行く方がやりにくい。さらに、20年後を俯瞰すると、さらに半分くらい になりそうだ。思い切って、事業の中身を抜本的に変えることが必要だろう が、そこまでの勇気はない。次の世代の後継者に託すことになるだろうが、自 分の世代の間に道筋だけはつけておきたい。静かなクライシスがひたひたと 迫ってきている。 ・人口減少がもたらす影響は、計り知れないくらい大きい。政府や各都道府県 は少子化対策と銘打って、税金を莫大に投入し多くの施策を実施しているが、 一向に効果は上がらない。人口が減る中で若者たちが将来に不安を抱いている からだ。賃金もなかなか上がらず、住宅価格は高騰し、子供ができたら教育に 多額の費用がかかる。経済成長率は低迷し、物価が上がる方が早く実質賃金は 減少している。成岡の家内の友人の女の子さんが、最近「結婚しない」宣言を して、実家のおばあちゃんと一緒に暮らす決心をしたと聞いた。20歳後半の適 齢期の大阪の企業に勤務する女性だが、一人結婚しない女性が増えた。少子化 の流れはおそらく相当の期間止まらない。子供の数が減るという不都合な事実 を前提にした戦略を考えるべきだ。