**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1113回配信分2025年08月25日発行 様変わりする仏事(ほとけごと) 〜法事・お墓・仏壇・お盆・送り火〜 **************************************************** <はじめに> ・みなさん、今年のお盆休みはどう過ごされただろうか。暦のめぐりで、企業 によっては8月9日の土曜日から8月17日の日曜日までの9連休にされたとこ ろもある。製造業のような機械を動かして、モノを造るという事業所の場合 は、細切れにモノ造りをするより続けて操業したほうが品質も安定するし、オ ペレーションもうまくいく。休んで、また稼働し、休んで、また稼働するとい うアップダウンを繰り返すより、連続して操業したほうがやりやすい。また、 サービス業のような業種では、この連休のような人が休みの時の方が忙しいと いう商売もある。銀行も、役所も、お盆だからと休まない。連休にできるとい うのは、ある意味有難いことだと思わないといけない。休んでいても、会社が 成り立っているのだから。 ・13日がお盆の入りで、16日がお盆明けになる。冥途、あの世から先祖の霊が 仏壇に戻ってくるのがお盆の入り。お盆期間中は仏壇に滞在し、お盆明けにま た冥途に戻る。この間は、毎日先祖の好物を仏壇に供え、お経をあげて先祖に 感謝の気持ちを表す。禅宗系では、この期間はお墓に先祖の魂はいないことに なる。なので、お墓参りをするのは意味がないから、お墓の清掃、掃除に出向 く。墓石を洗って磨き、供花用の器を洗い、周辺の草抜きをして、きれいにす る。墓地には多くの虫、やぶ蚊などがいるので、防虫スプレーは欠かせない。 長袖、ジャージを着て、完全武装で臨まないといけない。身体中虫にさされて 大変なことになる。以前は、蚊取り線香まで持参したこともある。熊は出ない が、やぶ蚊は多く出没する。 ・春、秋のお彼岸はお墓に先祖の霊がいるから、これは真面目に墓参りに出向 く。3月と9月だ。それ以外は、親父が死んだのが6月、お袋が死んだのが10 月で、奇しくもどちらも16日だったので、偶数月の16日前後には必ず墓参りを している。お墓が金閣寺の参道の横にある墓地なので、右京区太秦の自宅マン ションから車なら10分くらいで行くことができる。途中で供花一式を買って、 売却した実家の近所に路駐して(この辺りは路駐ができる)、徒歩5分くらい で墓地に着く。枯れた供花を捨てて、水を変えて、墓石を少し掃除して、線香 をあげて簡単なお経を唱える。この間、10分くらい。平坦な道だが、夏場は結 構汗をかく。お墓の年間管理料を払っているので、周囲の掃除は常にしてくれ ている。 <成岡家の墓終いは決まっている> ・親父が死んで約20年、お袋が死んで約6年経過した。親父の法事は、1周 忌、3回忌、7回忌、13回忌と滞りなく行った。その後、法事は行っていな い。お袋の法事は、1周忌、3回忌と行って、以降は行っていない。もともと 親戚の少ない家系で、親父の兄弟も全員亡くなり、お袋は一人娘だったから、 ほとんど来てもらう親戚筋の人数は限られる。それも高齢になり、独りで遠方 から来ることができる人はいない。成岡の子供、すなわち故人からすれば孫だ が、ほとんどが遠方にいるので、都合をつけるのが大変だ。また、亡くなった 祖父、祖母とはあまり親交がなかった。なので、お袋の3回忌を行った後、親 戚全員に丁重な手紙を送り、今後法事は行わないと宣言した。その代わり、京 都にいる成岡が偶数月に必ず墓参りをすると決めた。 ・正月、春、秋のお彼岸と偶数月となると、ほとんど毎月墓参りをしているよ うなものだ。数年に一度の形式的な法事をするより、ほぼ毎月命日近くに墓参 りに行く方が、よほど故人は喜ぶはずだ。あまり縁のなかった遠い親戚をわざ わざ京都に呼んで、金閣寺で法事をして、その後近くの料理屋でご飯を食べる という旧態依然とした法事の形式は、もう意味がない。参加者も故人のことを 知っている人も、少ない。それなら、京都にいる自分がほぼ毎月、きちんと墓 参りをして、ときにお墓の清掃も行い、線香をあげて手を合わせたほうが、よ ほど故人は喜ぶだろう。このことを、金閣寺の事務長にお話ししたら、もう法 事はされないのですかと、問いただされた。昔なら、13回忌以降、23回忌、33 回忌、そして最後は50年で法事のおつとめは終わる。 ・成岡当人がこれだから、自分の子供たちには、法事などして欲しいとも思わ ない。また、長男は遠方で自営業をしているから、お墓参りもままならないだ ろう。成岡家の墓終いの計画も、きちんと考えてお寺に伝えてある。自分の3 回忌までは近い身内で行って、その後は永代供養をして、共同埋葬塚に入れて もらう。その時点で、成岡家のお墓は終わりにして、墓地は金閣寺に返納す る。墓地にお墓は約100基あるが、最近このように墓終いをされる遺族が増え たようで、かなり空き地が目立つようになった。全体の2割くらいは空き地に なっている。永年連絡がつかない墓には札が下げられ、それでも数年音信不通 の墓は、共同埋葬塚へ移管されることになっているそうだ。今後、このような お墓が増えるだろう。 <送り火当日は厳粛な気持ちに> ・仏壇の後始末も悩ましい。実家の大きな仏壇は、実家を売却する際に、お寺 に引き取ってもらう交渉をしたが不調に終わり、当家の場合は大手の仏壇屋さ んに来てもらって、引き取ってもらった。仏像は由緒あるものだったので、お 寺が引きとってくれた。多くあった位牌はひとつにまとめてもらい、その際も お経をあげてもらって、先祖代々の位牌に合体する儀式が要る。現在マンショ ンに住んでいるので、大きな仏壇は置く場所がない。従って、小さなサイズの 仏壇を通信販売で買って、その中に窮屈だが位牌、写真、線香立て、ローソク 台、鐘などを置いている。お盆と年末に全部取り出して、拭き掃除をする。お 盆のときは、13日の前に必ずするようにしている。年に一度、小さいとはいえ 仏壇に戻ってくるための儀式だ。 ・お盆前には、以前は千本通りの鞍馬口にある千本釈迦堂というお寺に、お精 霊迎えに参るというしきたりがあり、必ず家族の誰かがお参りに行っていた。 母親が足を悪くした後は、成岡がそのお役目をしていた。ハガキで案内が来 て、そのハガキを持参してお参りに行くと、先祖のそれぞれの氏名を書いた紙 をいただいて、お寺の裏にある小川のような水の流れに流すのが儀式だ。大文 字の数日前と言うのが決まりなので、日程を都合して行くのが面倒だった。し かし、母が生きていた間は、誤魔化せないので多少日にちはずれても必ず行く ことにしていた。母が亡くなり、法事をやらないことに決めた時点で、その事 務所に行ってハガキ送付の名簿から削除してもらった。これで、ひとつお盆の 行事がなくなった。 ・五山の送り火の当日は、午前中に金閣寺山門の横に設置される「護摩木奉納 所」に出向いて、送り火に使われる「護摩木」に「家内安全」などの願い事を 墨で書いて奉納する。護摩木は集められ、点火までに火床に井形に組み上げら れて、点火を待つ。20時になると、右大文字から順番に点火があり、その送り 火で先祖の霊が家の仏壇からお墓に戻るという。送り火を見ながら、家族全員 で合掌しお経を唱えるのが儀式だ。だから、送り火の日は必ず家で過ごすこと が義務付けられていた。特に、成岡家は8月16日の日に成岡の兄が生まれ、そ の日にお産のアクシデントで亡くなったという不幸な出来事があった。亡く なった兄は、出生届はしていないが名前だけは家族の中ではつけられていた。 送り火は、そういう意味では特別な感慨があった。 <様変わりする仏事> ・高齢化の急激な進行、少子化が止まらないので、このままではお墓の管理、 お参り、法事の実行、仏ごとの実施などが、早晩できなくなる。成岡世代が、 ぎりぎりこれらをきちんとやる世代だろう。次の世代になれば、お墓の維持管 理も難しいし、寺院そのものの存続自体が危うくなるだろう。現在の家内の実 家は浄土真宗の寺院だが、地方都市の田舎で檀家は約200軒だという。200軒だ と、寺院を維持するのがぎりぎりらしい。100軒では不可能で、300軒あると何 とかやっていけるという。しかし、お彼岸のお参り、法事、葬式、宗派のイベ ントなどが現状のままあって、何とか維持できるレベルだ。これが、成岡のよ うに法事はしない、葬式は家族葬で至極質素で簡単になると、果たしてお寺自 体が維持できるか。 ・また、寺院自体の後継者問題もある。家内の実家の寺院は、現在の住職が75 歳、次男が継いでいるがこの人が45歳で結婚していなくて、独身だ。このまま 時間が経過すると、次の世代は住職不在になる。檀家も減るだろうが、それで も100軒は残っているだろう。この檀家さんの面倒を見る人がいなくなる。お 寺も吸収合併のM&Aという時代になるのだろうか。実際に、いくつかの寺院で は近隣の大きなお寺に経営自体を引き受けてもらうケースも出てきている。あ るいは、別法人がその寺院の宗教法人自体を引き受ける場合もあるようだ。た だし、これは宗教法人を承継するというより、宗教法人の赤字を連結して親会 社の節税に利用するという別目的のM&Aと言われている。いずれにしても、経 営、運営のやり方が変わりつつある。 ・先日のお盆特集のTV報道で、お墓参り代行という新しいビジネスが紹介され ていた。遠方の方で、高齢になり身体も悪い。永年連れ添った夫の墓参りがで きなくなった。お墓のある地域のタクシー会社が墓参り代行をしてくれる。供 花、墓掃除、お供え物、お線香などを用意して、墓参りをしてその写真を送信 し、その場で依頼者に電話をかける。一式で1万円と少し。時間より、交通費 などを考えると、遠方なら意味がある。少子化、高齢化、過疎化など、多くの 要素が複合して、仏(ほとけ)ごとも今後さらに大きく変わるだろう。日本人 の宗教観も世代交代と共に、大きく変わるに違いない。終活、葬式、お墓、仏 事など、関連したビジネスにも大きな変化がある。どう見極めるかは、経営者 次第だ。チャンスと見るか、撤退か、変化へ行くか。難しい時代になった。