**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1114回配信分2025年09月01日発行 少子化で変わる業界:その2 〜医療業界にはどのような影響があるか〜 **************************************************** <はじめに> ・子供の数がどんどん減ることで、医療業界も変わりつつある。まず、単純に 子供の患者数が減る。産婦人科ではお産の数が減る。もともと産婦人科と言う のは、お産が中心であまり医者仲間では人気がないと聞いている。クリニック 、すなわち開業医だがお産は入院が必要なので、最低限数名分の入院用の部屋 とベッドが要る。病院とは20床以上のベッド数がある医療機関という定義だが 、産婦人科で病院を標榜する医療機関は非常に少ない。京都市内でも数か所あ るか、ないか。以前北山通りにあった有名な産婦人科病院は閉院に、市内中心 部にてクリニックで開業されている。成岡の長女のお産にお世話になった産婦 人科病院は、近年閉院された。少子化で閉院されたのではないと思うが、詳細 は分からない。 ・地方では産婦人科の開業医がどんどん少なくなって、都市部で住んでいる人 が、実家に戻ってのお産が厳しくなっている。初めての子供の出産は、住み慣 れた実家でお母さんが傍にいてくれるほうが安心だ。しかし、実家は住人の少 ない地方都市で、産婦人科の開業医はいない。地方の公立病院も産婦人科の診 療科目はない。車で1時間以上離れたもう少し大きな街に行かないと産婦人科 の医院はない。実家に戻ってのお産をどうしようかと迷っている。初回なので 非常に不安があり、実家の母親を頼るしかないが、地元に産科医院がないこと が一層の不安をかきたてる。産婦人科は、お産という突然の医療行為があるの で、時間のコントロールが難しい。遠方へ出かけるのも難しいし、海外への出 張もままならない。人気がない診療科目で、なり手が少ない。 ・1年間の出生数が70万人を下回った。つまり、お産の数がそれだけ減ったこ とを意味する。以前200万人以上あった時代から、約3分の1になった。ビジ ネス的に言えば市場が3分の1に縮小したことになる。当然、この市場でメシ を食っていた人たちは、事業を縮小するか、業態転換するか、何らかの対応策 を打たないと、廃業する羽目になる。多くの産婦人科病院は、医院やクリニッ クに規模を縮小した。入院ベッドは必要だが、20床以上の規模を維持すること は難しい。広い敷地を売却し、市内中心部に移転しテナントビルの中に入って 婦人科として開業されている方が多い。近い将来、お産の数が増える見込みは まずない。産婦人科医も、当然人数は減ってくるだろう。悪循環だが、厳正で 不都合な事実を受けいれるしかない。 <小児科医のなり手がない> ・子供を対象にする小児科医も、近年なり手が少ない。子供、なかんずく幼児 の医療行為は会話が成り立たないので、非常に難しい。以前は、母親が専業主 婦で家庭内での子供の様子がよく観察されていた。近年は共働きだから、幼稚 園か保育園に預けるので、日常の様子が間接的なまた聞きになる。本人の主訴 の表現も稚拙なので、「しんどい」とか「お腹が痛い」とかしか分からない。 どう「しんどい」のか、どう「痛い」のか、僅かな表現の機微を察知して想像 するしかない。付き添いのお母さんに聞いても、要領が得ない。そして、子供 の症状は急変する。さっきまで元気だった子供が、突然ぐったりする。熱が あっても、あまり感じないので、非常に高熱になるまで訴えない。気が付け ば、手遅れ気味になることが多い。 ・小児科も夜間の突然の急患が多い。少子化で、子供が一人という母親も多 く、実家のお母さんからは離れているので、症状の急変に慌てる。保険診療点 数の制度も、小児科などの分野に手厚いわけではない。時間はかかる、急患は ある、往診はしにくい、会話には根気が要る、などなどの理由で小児科が敬遠 されるのも、仕方ない事実だ。最近、街中を歩いても、小児科を先頭に記載し 標榜する開業医は少ないことに気づく。内科、小児科、という表記ならまだい いが、小児科単独という開業医はほとんど見かけない。大病院には診療科目は あるが、この症状で紹介状もなく大病院に駆け込むのは気が退ける。もう少し 様子を見ようと経過観察しているうちに、大事に至るケースもある。 ・近年、食べ物が複雑多岐にわたり、アレルギー症状というのもよく見かける ようになった。レストランでもオーダーする際に、よく聞かれる。子供の症状 では、アレルギーが結構怖い。それまで一切症状がなかったのに、突然発症す ることがある。極端なケースは、アナフィラキシーショックだが深刻な場合 は、命に係わる。しかし、初めての症状だと分からない。小児科医はこれらの 症状を聞き取るのに、大きな努力を要する。情報が断片的で少ないから、判断 を間違いやすい。単に子供が好き、可愛いというだけで小児科を選択すると、 大きな荷物を背負うことになりかねない。近年、コストパーフォーマンスのい い診療科目、時間が比較的自由になる科目を選択するドクターが多いと聞く。 少子化の影響は、ここにも出ている。 <歯科開業医も減っている> ・子供の数が減る、減って行くという事実がある限り、その市場を対象にして いるビジネスは単純に考えるとこれからは厳しい。医療業界で言えば、周辺の 薬剤などだろうか。小児科向けの医療機関用の薬剤、一般の調剤薬局で売って いる薬品などで、小児専用の薬品類だ。あと、昔はワクチンの接種が必須だっ たのが、いつの間にか任意になり、学校でのワクチン接種はなくなったのだろ うか。乳児、幼児、小学校の低学年でのワクチン接種が、何が義務で、何が自 由か分からないが、市場が縮小しているなら、対象者が減るので当然使用量は 減少する。生産ロットが減るので、コストアップは避けられない。小児難病系 の疾患に対する薬品の研究開発、製造も、次第に縮小してくるだろう。将来の 市場がシュリンクするのだから、仕方ないか。 ・歯科医も、かなり子供の患者が多かったので潤った時代があった。最近で は、学校での指導も行き渡り、小児の歯科患者数が激減しているという。小児 の患者に来てもらうと、母親などの家族の患者につながる。評判を聞きつけ て、母親から家族全員、祖父母まで拡がることも多い。幼児だと付き添いのお 母さんの歯科診療まで拡大する。最近は個室的な歯科クリニックも多いので、 子供の患者の次に母親まで治療する。歯科医は、近隣でなくても評判や紹介で 続くことが多い。一度患者になると、ずっとその歯科医にかかることが多い。 高齢になると義歯、入れ歯などは、最初に治療にあたった歯科医にずっと関わ ることになる。あまり浮気はない。 ・歯科開業医が減っているという。以前は、歯科クリニックの数はコンビニよ り多かった。現在でも、診療所の数は約92000か所あり、コンビニ全体数より 多い。駅で見る交通広告看板には、歯科診療所の広告が多かった。駅からのア クセスが至便な立地が優先され、郊外では駐車場の台数が問題になる。午後の 診療時間も、15時くらいからが多かったのは学校の放課後に来院する子供の患 者に対応することから、その時間帯にしている歯科診療所が多かった。近年で は、子供の数が減り、高齢者が増えたので、歯科診療所の診療時間帯、曜日、 立地なども大きく様変わりしている。歯科に限らず、都市部に偏在し、地方で は少ない。開業歯科医師数は微増で、勤務歯科医師数は増えている。市場の縮 小と連動している。 <少子化は働き手の減少につながる> ・少子化と医療業界の関係を考えると、まず少子化の影響で医療従事者が減っ て行く。医師、看護師はもちろんのこと、薬剤師、技師などの専門職を志向す る人材が減って行く。特に、地方での医療従事者数の減少に歯止めがかからな い。過疎の地域は、もっと大変だ。医療サービスの質はどんどん低下し、地域 医療も成り立たなくなる地方が出てくる。いや、現状では既に崩壊になりつつ ある過疎地医療をどうするかが大きな課題になっている。少子化は当然高齢化 とセットで現象的に表れている。医療業界の崩壊が進むと、その影響で少子化 が進行するという、負のスパイラルに陥る。卵が先か、鶏が先かという議論か もしれないが、少子化が進行すると、将来確実に医療業界の疲弊につながるこ とは間違いない。 ・某シンクタンクの試算によると、人口7万人の地方都市では少子化高齢化の 進行で、2040年には人口が4万人に減少する。年齢では、2人に1人が65歳以 上の高齢者になる。65歳以上の高齢者の人数は、既にピークアウトしている が、医療・介護ニーズは逆に増加する。急患患者数は減少するが、慢性期患者 数は増加する。介護需要も同様にしばらくは増加する。医療機関数では、一般 診療所(クリニック)が減少し従事する開業医の年齢は70歳を超える。同時 に、かかりつけ医が受け持っていた機能の一部が公的な医療機関へ移行せざる を得ず、従来の構図が成り立たなくなる。病院の外来医療が苦しくなり、基幹 医療施設、つまり公的な医療機関(市民病院や公的病院)などの経営が難しく なる。赤字の公的医療機関が増えると予測できる。 ・これほどの少子化が進行すると、将来働き手の不足があらゆるところで発生 する。機械化で置き換えられる労働力はまだいいが、医療、介護などという究 極の人的サービス業は、そう簡単なことではない。特に、この地方都市のシ ミュレーションでは看護師数の不足が顕著になるという試算が出ている。看護 師数の充足ができないので、医療施設の閉鎖も現実に起こっている。これらに 対応するには、相当の大ナタが必要だろう。法律を改正し、施行まで時間がか かり、新制度に対応するには日本では10年かかる。2025年から10年後に対応が 可能になっても、その時点でさらに想定より事態は深刻になっている可能性が 高い。事実、国の人口推計より早く少子化は進行している。農業と同じだ。政 治の慧眼が必要だ。