**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1117回配信分2025年09月22日発行 中小企業経営失敗の研究:その3 〜会社組織の耐用年数を意識する〜 **************************************************** <はじめに> ・どんなものにも、どんな制度、システムにも、「耐用年数」というものがあ る。人間の身体も、機械設備も、組織の運営方法も、同じやりかたや同じ使い 方では長期にわたる使用年数には耐え難い。人間で言えば、昔は人生50年。一 昔前までは70年か。最近では100年と言われている。事実、いま生まれてくる 子供たちが成人になり、中年になり、老人になる70年、80年先には平均寿命が 100歳近くになっているという計算だ。あながち、間違いではない。それだけ 耐用年数が延びるとすると、いろいろなことが変わってくる。成り立たなくな る制度やシステムも多いはずだ。つまり寿命の延びとともに、変えないといけ ないものがある。人間なら、年齢と共に、食生活、仕事との向き合い方、運 動、休息の取り方、リフレッシュの仕方などだ。 ・人間でもそうだから、まして形のある機械装置、建物、車両、IT設備など は、耐用年数ということを十分理解したうえで対応しておかないといけない。 税務的には減価償却という方式があり、多くの資産では耐用年数が税務的に決 まっている。一般的には残存価値は耐用年数終了時点でほぼゼロになる。耐用 年数以上に使っても法的には問題ないが、故障が起こる確率が増え、突然不調 になることもあり得る。すぐに代替が用意できるならいいが、ことはそう簡単 ではない。車なら一時期レンタカーでもいいかもしれないが、会社の心臓部で あるサーバなどがダウンすると、それだけで業務がストップする。製造業なら メインの製造機械が急に故障したら、受注している製品の製造、納期が間に合 わない。得意先に言い訳は通用しない。 ・そのために、保全=メンテナンスという考え方が重要だ。つまり、日常円滑 に業務が行えるように、あらゆる会社の資産をいい状態に保っておくというこ とだ。これが意外と疎かにされていることが多い。おカネがないから、設備機 械を故障するまで使う。車両も頻繁に不具合が起こるが、仕方がないので使い 続ける。パソコンやサーバ、タブレットなども同様だ。形のある資産は目に見 えるので、比較的判断しやすい。故障したら困るのは自分たちだ。すぐに修理 ができればいいが、昨今のマシンはITの塊なので、どこがどうなっているのか 分からないことが多い。基板を変えないといけないとか、マザーボードが故障 したとか、センサーが不具合とか、理由不明の故障も結構頻繁に起こる。交換 部品もすぐに手配できない場合が多い。 <経営資源の耐用年数を知る> ・飛行機や電車など大量の人間を安全に輸送する使命のある機械設備は、予防 保全という考え方を採用している。一定の時間数、年数、走行距離などの基準 があり、それを超える以前に定期的に保守作業を行う。車の車検と同じだ。以 前、ブラジルに出張に行ったときに、道路に放置してある車が多いので、地元 の人に聞いたら当時ブラジルでは車検という制度はなかった。故障するまで乗 り続け、故障すれば捨てていく。今はどうか知らないが、それが普通だった。 しかし、飛行機や新幹線、鉄道車両ではそうはいかない。一般の製造業の装置 でも、多くの法的規制があり、法定点検という検査を受ける義務がある。特 に、危険物を扱ったり、高い圧力をかけたりする装置では、非常に厳密な法定 検査がある。相当期間、稼働を停止し、分解し、検査する。 ・以前在籍した化学繊維製造業では、特殊な高温圧力容器が多くあり、ほぼ1 年ごとに法定検査を受ける。一か月近く稼働を停止し、室温まで冷却し、分解 し、部品を交換する。その間製品の製造はできない。ラインが10系列ほどあ り、12か月に一度点検が回ってくるから、毎月どこかの系列は停止し、ひと月 装置を止めて分解、補修、組立、検査を行い、稼働準備をする。実質的に検 査、補修は約10日間。前後の作業、段取りに結構時間と労力がかかる。大きな 装置を分解すると、部品だけでも多い。それを搬出、搬入するスペースも要 る。隣の系列は、高温、高圧で製品を製造しているから、これに支障が起こっ てはいけない。外部に持ち出す扉も、クレーンも考えてレイアウトしてある。 安全に、故障なく、1年近く製品を製造するために、多額のコストをかけてい る。 ・機械設備にコストはかけるが、それ以外の資産には意外と保守にコストをか けない企業が多い。保守は現状維持だから、成長、改善、改革するには、耐用 年数以前にもっと費用と時間をかけないといけない。外部環境はどんどん変わ るから、それに対応する投資も必要だ。機械装置の保守、改善にはおカネをか けるが、人間や制度、システムに関しては意外とお粗末な組織が多い。設備に も耐用年数があるように、人間にも耐用年数がある。常にそれを意識して、ブ ラッシュアップしていれば、能力の伸長は無限大ではないか。さすがに人間だ から、フィジカルの面では限度があるだろう。いくらレベルアップを図って も、ここから先は大きな成長は期待するのが難しいという限度はあるだろう。 しかし、それを一律に勝手に決めてはいけない。 <基本をきちんと徹底する> ・耐用年数を伸ばすには、常に点検し、メンテナンスすることが大事だ。故障 の予兆はないか、どこか不具合が起こっていないか。いつも現場を巡回し、異 常がないかを確認する。漫然と現場を歩いても、分からない。それなりの問題 意識がないといけない。自社の現場だけを見ていたのでは、問題意識はなかな か生まれない。違うものと比較することが大事だ。同業他社、異業種、異なる 分野の情報からは、多くのヒントがある。常に、外部から新鮮な情報が入るよ うに、窓やドアを開けておかないといけない。単なる遊びからは難しい。意識 して、そのような人、組織、団体などと接触、交流することが大事だ。同業者 同士は商売敵、競争相手が多いから、なかなか本音の核心を突いた会話は難し い。違う環境の同世代からの情報は有意義だ。 ・経営者一代で30年だが、組織の耐用年数はもっと短い。数年で陳腐化する場 合もある。営業体制も、経理のシステムも、顧客情報の管理も、あらゆる企業 や組織は常に流動的にしておかないと、じっとしているとあっという間に耐用 年数を超えてしまう。危険なことは、経営者自身が、この耐用年数が来ている という不都合な事実を認識しない、認めない、自覚がないことだ。見ているの だけれど、気が付いていないのか。見ているふりをして、見ていないのか。周 囲の人間は、意外と問題点に気づいていることが多い。特に、現場の人間はそ うだ。それが、うまくトップに吸い上げられる仕組みがない。また、あいつが 文句を言っていると、簡単に片づけられている場合が多い。実に、的確に問題 点を指摘してくれているのだが。 ・組織や人の耐用年数は、測るのが難しい。人は年齢や経験年数でもないし、 単にフィジカルでもない。適当なパーラーメータ(媒介変数)は決められな い。要は、意識の問題だろう。組織が退廃するときの兆候と症状は、変化を嫌 うことだ。昨日までやっていたことと、同じように今日も過ぎればいい。それ が、普通だ。変わると疲れるし、特に未経験の場合は、気持ちが前向きになら ない。安易に流れ、難しい課題を先送りにする。現場が毎日新しいことに取り 組んでいるという組織は少ない。経営陣が方針を決め、それを実現するための 手当てを行い、プランを作る。それが経営陣のミッションだ。併せて、耐用年 数を超えて稼働するには、正しい基本、基礎がしっかりできていないといけな い。あるいは、基本動作を繰り返し反復する努力が必要だ。 <現場を知ることが第一歩> ・人間では耐用年数を超えて、ブラッシュアップする意識づけが必要だ。それ には、まず経営者自身がそう意識し、覚悟し、行動を起こさないといけない。 経営者自身がその課題を避けている限り、組織の耐用年数は短い。企業経営に は、課題が次々と出てくる。ひとときも安心してのんびりしている暇はない。 それがいやなら、その立場を変わった方がいい。楽しめるくらいの気持ちの余 裕がないといけない。緊急度の高いものは、一時期集中してもいいが、見通し がついたら現場に任せばいい。自身は、いま緊急ではないが、将来重要となる であろう重たい大事な課題に取り組むべきだ。5年後、10年後の経営幹部は誰 がいるのか。現在の設備は順次更新していかないといけない。どのような設備 投資が正しいのか。誰も教えてくれない。独り悩むしかない。 ・まず、現場の点検が大事だ。現場の人、設備、システム、やり方などに不都 合はないか。その気になってよく見れば、必ず問題点は見つかるはずだ。見つ からない場合は、目が節穴だと自覚したほうがいい。一度、リセットして、 まっさらな気分で見直してみる。あるいは、外部から違う目で見てもらう。消 費者が直接購入したり、経験したりするビジネスでは、現場の意見を反映する チャンスは多い。お客さんからのクレーム、指摘、アンケート、モニターから の意見などは、非常に参考になる。分かりにくいのは、産業用資材などを製造 する業種だ。その製品が、どこで、どのように使われ、評価がどうなのか、わ かりにくい。耐用年数が迫っているという意識が持ちにくい。そして、組織が 突然機能停止に陥ることになる。 ・現場の状況をどう点検するのか、それに注力すべきだ。会議を何回開いて も、現場の真実は伝わりにくい。ニッサン自動車も、ご多聞に漏れず組織の耐 用年数を超えて現状維持に陥った。そして、危機に瀕して大掛かりな外科手術 に踏み切らざるを得なかった。定期的な予防保全は大事だ。そこに、コストと 時間とエネルギーをどうかけるか。一定の収益がきちんとないと、予防保全は 難しい。赤字が続くと、ここに費用をかけることができなくなる。そうなる と、ある日突然機能停止に陥ることになる。耐用年数を超えて継続するには、 変わることだ。そのためにどうするのか。それを考え、実行するのが経営者の 最大のミッションだ。現地、現物、現場が大事だ。