**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1118回配信分2025年09月29日発行 中小企業経営失敗の研究:その4 〜事業計画を作らない〜 **************************************************** <はじめに> ・よく、事業規模、業種業界に関係なく、事業計画を作ることをお勧めしてい る。高齢の経営者の方の中には、そんな計画なんて無意味!と取り合ってもら えない方もある。そもそも計画なんて必要ない、自分の頭の中にあるのが計画 だと、豪語してはばからない方も多い。中小零細ならそれも仕方ないかと諦め るが、従業員が10名を超えて来たら、大まかでもいいので、今後の方針や方向 性は示すべきだろう。そうでないと、羅針盤や航海地図のない船に乗っている ようなものだ。船長の気の向くままに船の舵を取られたら、たまったものでは ない。運命共同体ではあるかもしれないが、やはりこの船はどの港を目指して 航海するのかを乗組員全員に知らしめる必要があるだろう。分からないと、不 安で仕方ない。いつ、気が変わるか分からない。 ・事業計画というと大げさだが、あまり難しく考える必要はない。数字より、 おおまかな方向性だ。現在の事業をとことん伸ばすのか、あるいはその周辺領 域に進出するのか、全く違うジャンルに進もうとするのか。代表者、社長の頭 の中にあるイメージを、文字化する、見える化する。文字にするのが苦手な人 は、考えていることをしゃべって、別の人に文字に起こしてもらえばいい。ま ずいのは、代表者の頭の中が空っぽのときだ。何も考えていないというのが最 悪だ。しかし、事業計画の概要を文字にしようとすると、いやでも考えるだろ う。父親から受け継いで、自分の代でどう事業を切り回そうとしているのか。 全部でなくても、その一部でもいいので従業員にわかるようにすることは大事 だ。船はどこの港に向かっているのか。 ・向かう港によって、積み込む燃料、食糧、備品、消耗品などが大きく異な る。ロスアンジェルスに向かうなら、途中の寄港地はハワイのみか。相当長期 間の航海が必至だ。シンガポールに行くなら、途中は無数の港に寄ることがで きる。香港、ハノイなど大都市の港にも簡単に立ち寄れる。当然、積む荷物の 内容は大きく異なる。事前に、それくらいの目的地は明らかにしないといけな い。行先が分からず、どこへ立ち寄るのかも分からないまま、港を出るくらい 不安になることはない。しかし、現実には多くの中小企業で、簡単な事業計画 すらない、作成しない企業が多い。経営者曰く、「そんなものは作っても無駄 だ。状況はころころ変わる。不確定なことが多すぎて、作っても役に立たな い」と。そうだろうか。 <過去を省み、現在を踏まえ、未来をイメージする> ・事業計画というと非常に難しく、大層なものに思えるが、実際に我々がお勧 めするのはそんな大げさなものではない。一番大事なことは、そもそも自社の 事業は何のためにあるのか、どういう目的を果たすためにあるのか、何を目標 として運営するのか。このような、多少理念的な、哲学的な内容が大事だ。い きなり売上の数字や、利益の額を考えてはいけない。最終的にはそのような数 字にたどり着くのだろうが、最初は少し数字から離れて、創業の時点から現在 までの歴史を振り返り、いろいろな出来事を乗り越えてきたことに想いを馳せ るのもいいだろう。事業が長く続いていたら、その間に多くの出来事があった はずだ。決して順風満帆でここまで来たのではないだろう。社会の荒波にもま れて、アップダウンも激しくあったはずだ。 ・祖業はどういう事業だったのか。現在と同じか、または全く違うビジネス だったか。以前はAという事業からスタートしたが、時代の変化と共に自社の ビジネスも大きく様変わりした。今は、Aから離れてBという事業がメインだ。 あるいは、しつこく同じ分野の事業に拘り続けて、Aという事業を深く堀り下 げている企業もある。全く異なる分野に進出し、成功した場合もあるが、当初 は良かったがそのうち衰退した事業もある。それに応じて、得意先も会社の場 所も、大きく変わった。創業時点から残っている社員はもういない。会社が出 来たときのことを話しても、ピンとこない社員がほとんどだ。この際、会社の 沿革、歴史もきちんと残しておくことも必要だろう。事業計画は、過去を省 み、現在を踏まえ、将来をイメージするものだ。 ・過去は済んだことだ。しかし、数字や資料では歴然とその軌跡は残ってい る。現在は、過去の延長線上にある。しかし、3年後、5年後を考えると、果 たしてこの延長線上に自社のビジネスは存在するのだろうか。事業を取り巻く 環境は、この30年で一気に変わった。バブルがはじけ、リーマンショックがあ り、大震災があり、コロナパンデミックがあり、何とか現在まで生き延びた。 市場、顧客も、社員も大きく変わった。何より生活パターンが大きく変化し た。人口減少というキーワードは昔にはなかった。中国が成長し、アメリカと 覇権を争うという時代は想像もつかなかった。ソビエト連邦が崩壊し、東西冷 戦が終わった。地球温暖化が急激に進行し、CO2を生み出すビジネスの存在基 盤が揺らいでいる。以前では考えられなかった。 <まず冷静に自社の経営資源の分析> ・事業計画を考えるにあたり、いきなり取り掛かるのは難しい。少し準備に時 間をかけるほうがいい。誰と一緒に考えるかも重要だ。自分一人か、次の後継 者と一緒にやるか。親族の役員がいるなら、そこまで参加者を拡げるのも悪く ない。自分一人で考えるのは難しい、しんどいと思うなら、外部の専門家をア ドバイザーとして加えてもいい。大事なことは、あくまでも当事者意識を持つ 人が考えないといけない。となると、代表者もしくはそれに準じる人になるだ ろう。アシスタントとして経理、総務などのスタッフに手伝ってもらうのはい いが、主体は経営に責任を持てる人でないといけない。作るのも、実行するの も、経営陣の責任においてやることだ。当事者以外は、あくまでも部外者なの だ。それを忘れてはいけない。 ・まず、現在の会社の経営資源の分析を冷静に行ってみる。資金、おカネ、土 地建物、機械設備、人材、組織、対象市場、顧客、製品商品、仕入、営業販 売、マーケティング、広告宣伝、ITシステム、特許、ノウハウ、歴史文化な ど、挙げればきりがない。全部考える必要はないが、自社の経営資源として大 事なものは落としてはいけない。ただ、気を付けないといけないのは、その経 営資源がどのレベルにあるかということだ。自分の会社のことは自分が一番よ く知っていると自惚れてはいけない。自画自賛してはいけない。逆に評価は厳 しく冷静に他社や世間一般と比較して、どうであるかを判断する。意外と、こ れが手前みそになる。他社との比較ができないので、どうしても井の中の蛙に なる。裸の王様になってしまう。 ・自社の経営資源の分析が重要だ。冷静に、自社の財務、人材、設備、組織な どを点検する。辛口に考えたほうがいい。楽観は禁物だ。足りないものが多い はずだ。そこをどのように埋めるか。次に、今後の世の中の変化を考えてみ る。社会的な変化、経済環境、政治的な変化、技術的な革新などだ。意外と世 の中を知らないなと、ここで自覚することが多い。自身が置かれている業界の ことは詳しいが、それ以外の世界のことは無頓着で過ごしてきた。しかし、ビ ジネスは対外的な環境の中で営むものだ。BtoBビジネスをしている場合は、主 要な得意先の企業が置かれている環境変化を考えてみる。地球環境問題、人口 減少や高齢化対策、地政学的な観点、米中対立など、考えるべき切り口は多岐 にわたる。すべてがわかるわけではない。 <どのような事業に集中するか> ・ここまで来たら、これら社内社外の条件を考えて、今後どのような事業に注 力し、どのような事業から撤退するかを考える。ここが最も重要なところだ。 ここを間違うと、ゴルフで言えば違うホールにティーショットを打ち出すよう なものだ。OBどころで済む話ではない。いま、稼いでくれている事業や得意先 も3年後、5年後に同じように貢献してくれるとは限らない。逆に、なかなか 結果が伴わない、出ない事業も、未来では意外と宝の山になる可能性もある。 5年先は難しいので、3年先くらいまでか。そこなら、何とか想像はつく。3 年先を考え、その時点で自社の事業はどうなっているか、どうしたいか。こ の、どうしたいかという経営者の意思、想いが重要だ。成り行きで経営ができ るほど甘くない。意志と覚悟を持てるか。 ・現在の従業員の氏名、部署名、年齢、勤続年数を書いてみる。3年後には、 全員3歳年齢が増えている。ある人は65歳の定年になり、ある人は親の介護で 離職している。ある女性は寿退職しているかもしれない。突然の中途退職もあ るだろう。事故、病気などのアクシデントもないとは言えない。リスクは潜在 的に必ずある。欠員の補充は簡単にはできない。募集しても集まらない。事業 の環境が大きく変わると思われる未来に、現状の社員のままで対応できるか。 考えれば考えるほど、不安が募る。自分の年齢、後継者のことも大きな要因に なる。後継者がはっきりしないなら、3年以内には腹をくくらないといけな い。いつまでも、この重要なことを先延ばしにするわけにはいかない。しか し、結論を出すのは怖い。 ・これらの経営上の重要な事項に、どのような方向で考えればいいかを示すの が事業計画だ。難しい数字の操作は二の次でいい。大事なことは、自分自身の 意思と想い、覚悟の取り方だ。これらの重たい、大事な課題に目を背け、平凡 な日常の繰り返しに埋没することが多い。それを避けて、目を覚ますための事 業計画の検討、作成だ。やってみると、意外と大変な作業だとわかるはずだ。 大変なので、先送りする。いつまでも夏休みの宿題の提出をしない。しなくて も、誰も、何も言わない。追及もなければ、糾弾もない。中小企業の経営者は 外部からの脅威にさらされることが少ない。お山の大将でいても、誰も文句を 言わない。その環境に慣れてしまうと、自ら反省し、次世代に向けての方針を 決めない。そうならないための事業計画なのだ。