**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1121回配信分2025年10月20日発行 中小企業失敗の研究:その7 〜中途採用でよく起こるミスマッチ〜 **************************************************** <はじめに> ・ほとんどの中小零細企業では、新しい人材の獲得、確保を中途採用に依存し ているはずだ。定期新卒採用をしている中小企業と言うのは、従業員がおおよ そ50名以上の売上10億円以上の中堅企業ではなかろうか。それ以外では、特殊 な条件がある場合、例えばベンチャー企業であるとか、規模は小さいが大手企 業の子会社であるとか、例外はあるだろう。一般論では、中小零細企業におい て定期採用で特に大卒新卒者を採用するのは、非常にハードルが高い。日本で は4月にしか定期新卒者が入社しない。欠員ができた部署の補充や、急に人材 が必要となった場合、4月までのんびり待てない場合は、中途採用せざるを得 ない。この場合、いくつかの方法があって、どれが最適であるかはその時の状 況に依る。 ・昔は、一般的にはハローワークに求人票を出すのが普通だった。ところが、 昨今はハローワークに求人票を出しても、ほとんど求職者からの応募がない。 わずかにあっても、ほとんど採用には至らない。仕方なく、有料の媒体を使う ケースや、人材紹介会社に依頼することになる。あるいは、一定の短期間だけ の助っ人なら派遣会社に派遣社員を依頼することもある。派遣会社の場合はと もかく、ハローワークであれ、人材紹介会社であれ、有料の媒体であれ、中途 採用であることには違いない。これ以外にあるとすれば、現在の従業員からの 紹介、縁故だ。これは比較的強力だ。ある小規模だが老舗の京都の企業で、お じいさんからお父さん、その息子まで3代にわたってその企業で働いたという 一家がいた。そういう企業は素晴らしい。 ・代々、その企業で親族が働いている場合、次の世代の親族が働いてくれる企 業は、会社の雰囲気、文化、空気、風土が素晴らしいからだ。これらの無形の 価値は、口で説明がうまくできない。比較的勤続年数が長い社員が多くいると いう事実しか、応募者に伝えられない。長く勤めている従業員が多い企業は、 いい悪いはあるが、企業の運営や統治が一定のレベルにあると思っていい。逆 に、短期間で退職する従業員が多い、俗に言う「出入りの多い」企業は人心が 安定しない。長く勤めるのが一概にいいとは言えないが、新しい人が入っては 辞め、入っては辞めるとなると、組織の空気が澱んでくる。将来向けて一生懸 命教育しても徒労に終わり、かけたエネルギーや投資が実らない。人が入れ替 わることに依る活性化効果はあるが、マイナスも多い。 <能力より人物の評価が重要> ・そこで中途採用となるのだが、これがなかなか難しい。何が難しいかと言え ば、短時間の面接でその人物の能力、人柄、性格などをきちんと見抜いて判断 することが困難だ。応募者のキャリアは、履歴書や職務経歴書でおおよそ判断 がつく。企業によっては、面接の待ち時間に簡単な試験や性格診断テストをす る。面接も複数の幹部で行い、職務に関してはある程度の判断ができ、評価も 可能だろう。配属予定の業務にも依るが、おおよその見当をつけることはでき ないことはない。営業のスキル、能力を見極めるのは少し難しい面があるが、 担当する製品、商品は採用する側がわかっているのだから、その判断の尺度を 持っているはずだ。あと、保有する資格などで判断できる場合もある。そう難 しいことではないだろう。 ・難しいのは、その人の「人となり」だ。つまり人物評価だ。性格に始まり、 日常習慣、ものの考え方、判断基準、常識、行動のクセなど、多岐にわたる。 生まれ育ちから、親の職業、兄弟姉妹、教育環境、家庭での躾だ。小学校、中 学、高校、場合によって大学進学などの過程で、いろいろなことがあったはず だ。その多くのできごとから、現在の本人の性格形成ができている。これらが 意外と重要なのだが、短時間の面接で理解するのは不可能に近い。また、昨今 では個人情報保護の観点から、あまり微に入り細になる質問はNGになってい る。詳しい家庭環境は突っ込んでは聞けない。また、その発言が真実かを確か める方法がない。虚偽の作り話をされてもわからない。想像するしかない。実 は、この「人となり」が大変大事だと思っている。 ・その人が中途採用で入社して、予定されているポジションに配属されて、日 常仕事している場面を想像してみる。誰かの隣に座って、執務する様子を思い 浮かべる。上司と仕事の会話をしている光景を思い浮かべる。会議に参加して いる情景を想像する。そこで違和感を覚えないだろうか。すんなりイメージで きるか。納まりがいいか。会話は弾んでいるか。活発に動いているか。朝通勤 で顔色は明るいか。そのような情景を想像し、違和感がないかを想像してみ る。どうも納まりがよくないと感じたら、その人の採用は止めたほうがいいか もしれない。職場での雰囲気がよくないという印象があるなら、敢えて採用に 踏み切るのはいかがなものか。せっかくの応募者であり、なかなか応募者がな いが、無理に採用に踏み切るのは良くない。 <求める人物像が明確か> ・求人側にも問題がある。求める人物像が明確になっているか、どうか。単に 作業ベースで欠員ができたのなら、その作業を担ってくれる人がいれば、それ でいい。やっかいなのは、将来の幹部になって欲しいというような幹部職、管 理職を採用しようというときだ。管理職、幹部職になるのは、まだあと5年か ら10年後だ。その時点のその人の成長などは期待値でしかない。その時点での 企業のビジネスがどうなっているか、想像できるか。明日のことはおおよそわ かるが、来年度、3年先、5年先は果たしてどうか。周囲の従業員も年齢を加 えてくる。代表者自身も年を食う。建物も古くなれば、ビジネスモデルも陳腐 化しているかもしれない。新規事業で全く異なる事業を始めているかもしれな い。 ・求める人物層が不明確な場合が多い。不明確なので、採用の決定要素がなん となく向いている、優秀など、あいまいな場合が多い。例えば、経理部門の責 任者を探している。現在担当の人が60歳を超えて、数年後に退職の時期を迎え る。創業以来、社長の片腕として間接部門を担ってきた。過去の会社の歴史、 経過も全部頭に入っている。トラブルの際にも、前面に立って会社を守ってく れた。事故の際には後始末に奔走してくれた。金融機関への融資の折衝にも同 行し、説明してくれた。口は堅く、要らないことは一切言わない。寡黙で社内 の人気はないが、信頼感は高い。このような人物の後任を求めるのは難しい。 求める人物像が明確に描けない。非常に採用面接の現場では苦労する。小さな 懸念が後日大事に至る場合もある。 ・応募者がその業務に長けている場合、それがプラスになるときとマイナスに 作用するときがある。事務的な業務の場合、比較的前職の経験が生きる場合が 多い。ところが営業の場合、前職の経験やノウハウ、人脈を持ち込まれると逆 に混乱する場合がある。採用した企業にはその企業なりのやり方、方法、ノウ ハウがある。それを無視して、前職の経験で押しまくられると現場が反発す る。特に、管理職、マネジャなどを中途採用した場合、それまでの企業文化、 慣習などを壊す。壊すことを求められての採用ならいいが、ソフトランディン グを期待しての中途採用なら軋轢を生む。トップダウンで、有無を言わさず、 強引に突破するなら別だが、ほとんどの場合業績にマイナスの影響を与えて、 人心が乱れる原因になる。 <トップが深く中途採用に関わる> ・幹部職の採用か、中堅社員の採用か、一般社員の採用か。職種は何か。理由 は何か、欠員の補充か、部署の改革を期待しての採用か。その求めるニーズを 実現するための人物像と能力、スキル、キャリアはどうか。そういった原理原 則をきちんと整理して、中途採用にかかる中小企業は少ない。ほとんどが、急 いで、準備も間に合わず、慌てて、採用活動に走る。応募者が少ないと、選択 の余地がほとんどない。時間がないから、少ない選択肢から選ぶしかない。費 用も相当かけている。紹介会社からの紹介なら採用までは費用はかからない が、いったん採用となると年収の35%くらいの手数料を払うことになる。10年 前くらいなら、求職者も多く、応募者も多かった。今は、応募者も少ない。少 ないパイを取り合う状況になっている。時間が迫っている。 ・そうなると、多少不適合、不本意でも採用の決定をしてしまう。もちろん条 件のすり合わせで破談になることもある。待遇、休日休暇、勤務時間、残業の 有無などが大きな決定要素になる。そんなことは二の次で、とにかくこの企業 で働きたいというモチベーション満々の人など極めて少ない。難しいのは、採 用してからしばらくしてこの採用は失敗だったと判断する場合だ。三通りの答 えがあるだろう。ひとつは社内に配置転換してその人材を活かせる職場がある か。もうひとつは本人と懇切丁寧に会話をして自主的な退職を勧める。最後に 教育訓練などを行い、その仕事に適応できる能力を身に着けてもらう。いずれ も中小企業では難しい課題だ。採用後の対策は後手に回る。採用の時点で極力 ミスのない採用を心がけるべきだ。後日の修正は難しい。 ・一般社員、幹部社員にかかわらず、中途採用者への入社後の手厚いフォロー が重要だ。入社後の定期的な教育機会の提供、組織内への融和、円滑で高頻度 のコミュニケーション機会、社外での社会活動参加など、社業以外のアクショ ンも大事だ。今後の労働市場では、まず対象者が減少する。ロボットやAIに置 き換えられる業務ならいいが、人が判断し行動し結果を出す仕事は、人が財産 だ。そういう社員、従業員を中途採用でしか採用できない中小企業では、トッ プがいかに中途採用に真剣に関わるかが大きなポイントだ。採用での自社の説 明、紹介、面接、合否の判断、入社後のアフターフォロー、教育訓練の機会提 供など、中途採用へ多くのエネルギーをかける。トップがこれを怠ると、中小 企業の中途採用はうまくいかない。