**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1122回配信分2025年10月27日発行 中小企業失敗の研究:その8 〜金融機関との付き合い方を間違う〜 **************************************************** <はじめに> ・中小企業のステークスホルダー、つまり利害関係者の中で最も影響が大きい のは金融機関だろう。上場大企業では株主になるが、所有=株主と経営=代表 者がほとんど同じなのが中小企業だ。だから、株主は利害関係者に入らない。 まれに、数名に株式が分散している業歴の永い企業もあるが、それは珍しい。 古い時代には、株式会社を設立しようと思ったら、発起人が7名以上必要で、 その発起人達がそれぞれ出資をして株主になるケースが多かった。その場合 は、複数の株主がいることになるが、ほとんど最近ではそういう企業は少な い。なので、株主は利害関係者から外すと、残るは仕入先、得意先、従業員、 そして金融機関ではなかろうか。仕入先は仕入、得意先は売上で常に利害関係 者になる。従業員は、ある意味身内だ。 ・金融機関との関係をいかに円滑に保つか。このことに神経を使っている経営 者の方は多い。製造業では必ず設備投資に対する融資が必要になる。卸売り、 小売業でも、運転資金、設備投資などに一定の融資が必要になることが多い。 サービス業ではいろいろな種類のサービス業があり、それぞれの業種でいろい ろなケースの金融機関からの融資を必要とする。日常の生業(主たる事業)で は運転資金が必要となる場合が多い。仕入れ代金の支払い、設備や建物の大型 補修や改築、得意先からの売掛金の回収が円滑に進まないなど、とにかく事業 を営むということには資金が必要になることが日常茶飯事だ。すべてのおカネ が自前の自己資金で賄えるという企業もあるが、それはごく稀なケースで非常 に珍しい。普通なら月商の数か月分くらいの借入はある。 ・自分の企業、事業だけの責任なら自己責任の範囲だが、日本全体の問題、世 界経済の事情、為替レートの乱高下、天災などの天変地異などは、不可抗力の トラブルだ。これは事前に準備のしようもないし、突然起こる場合も多い。コ ロナパンデミック、高温続きの異常気象、トランプ関税ショックなどもこの類 だ。多少の準備ができないでもないが、ほとんど回避することは不可能だ。自 社の努力の範囲を超えている。その場合は、政府の援助や低利子の融資に依存 することになる。これに引き換え、自社の努力不足で資金難に陥る場合は厄介 だ。このケースの資金不足の穴埋めを金融機関に求めると、ほとんどの場合簡 単に融資の承認が下りない。当然、日常の努力不足、放漫経営、経費の乱脈、 身内への脇の甘さなどが指摘される。 <足りない運転資金は借りにくい> ・取引先からは、仕入、売上の関係以外は、経営の中身まで立ち入った介入 は、まずない。資本関係があれば別だが、普通の商売上の付き合いの場合、財 務の数字も公開していないし(信用調査会社からの非公開の情報入手という手 段はあるが)、そこまで介入するのはよほどの場合だ。売掛金の回収がはかど らず、同業者からリスクが高いという評判が流れてきたときだ。通常、普段通 り仕入代金が払われ、売掛金の回収が行われている場合は、経営上の介入はな い。しかし、金融機関との関係がぎくしゃくすると、資金繰りに支障を来すこ とになりかねない。月末の資金繰りに赤信号が灯ることになると、慌てて金融 機関に運転資金の借入を申し込む事態になる。急な融資の要請であり、非常に 心証を悪くする。 ・資金繰りは企業の生命線だ。そもそも、金融機関からすれば運転資金の急な 融資申請はおかしいはずだ。相当以前から分かっていることではないか。突然 の大口売掛金の回収不可能だとしても、予兆はあったであろう。昨日起こっ て、今日資金繰りに行き詰るはずがない。そんな危うい綱渡りの資金繰りをす ること自体、経営のレベルを疑われる。こうなると、数か月先までの資金繰り 表を至急提出してくれということになるのだが、これがすぐに出てこない。出 てきたとしても、信頼性に乏しく、本当にこうなるだろうかと疑問を抱かざる を得ない。つまり、日常からあまり精密な資金繰りをきちんと行っていなかっ たのだろうという想像になる。おそらく、いわゆる「どんぶり勘定」というや つだ。アバウトで適当にやっている。 ・本来運転資金というのは、正常に企業活動を営むために、月商の数か月分の 現金を手元に保有していなくてはいけない。商売、ビジネスというのは、何が 起こるか分からない。突然の大口売掛先の倒産、仕入先からの至急の支払要 請、設備機械の突然の故障やトラブル、従業員が引き起こす交通事故処理、製 品や商品の思いかけない不具合の発生、システム障害による事業のストップな ど、何が起こるか予測がつかない。なければそれに越したことはないが、起 こったら致命的なことにもなりかねない。そのための安全パイとして、月商の 数か月分の現金は手元にないと不安だ。製造加工業では材料を相当先行して仕 入れ、加工した製品の売上は数か月先になり、売上代金の回収が仕入れ代金の 支払いより後になる事業も多い。 <定期的な情報開示> ・金融機関と有効な関係を日ごろから結んでおくには、適宜正しい情報開示が 欠かせない。月次の試算表も3か月分、四半期分ごとでいいからまとめて提出 しておく。単に届けるだけでなく、簡単な業況の説明をしておく。10分程度で いい。トピックスがあれば、それも金融機関担当者の耳に入れておく。業界の 動向、同業者の動き、消費者の傾向など、事業に関連する生きた情報を伝えて おく。経営陣に対する信用、信頼の醸成に努めておく。そうすれば、代表者の 言うことに信ぴょう性があり、突然の状況の変化にも理解を示してくれる確率 が上がる。日ごろご無沙汰を決め込んでいる企業の代表者が、突然の資金繰り を説明に行っても、なかなか真剣に聞いてくれない。 ・月次の試算表をコピーして持参しても、その内容がわかっていないと、説明 のしようがない。試算表は前月末残高が左側に、真ん中に貸し方と借り方、右 側に当月残高という表示になっているので、複式簿記的には正しいが、これを きちんと説明するのは結構難しい。まして、この月次試算表を元に、今後数か 月先までの資金繰りを説明するとなると、別の資料が要る。口でいくら説明し ても、金融機関は何らかのエビデンス(証拠書類)がないとダメだ。代表者の 言うことを信用しないわけではないが、上司に稟議書をあげるにはそれなりの 書類が要る。企業側から、責任のある立場の人が保証する企業としての数字の 資料が要る。それがないと、運転資金の融資を稟議する申請書を担当者が書け ない。急いでいるのに、時間がかかることになる。 ・売上と原価、経費と利益が記載されているのが損益計算書だが、特に金融機 関が見るのは冗長な(ムダな)経費が支出されていないか、という点だ。社業 にあまり関係ない、非効率な費用が冗費されていないか。人件費にムダはない か。事務所経費にロスはないか。営業経費に費用対効果が薄いものはないか。 販売管理費の合計額が、以前に比較して大幅に増加していないか。人件費の合 計額が増えていないか、などなどは数字なので一目瞭然に判別できる。人件費 が増えている理由が、明確にわかっているなら、特に問題ないかもしれない が、代表者が原因、理由と結果をきちんと把握していないと、それは質問への 回答に明確に出てしまう。答えの中身の内容より、どの程度実態を把握してい るのかが問われる。 <金融機関を味方に> ・これ以外に、金融機関が注目するのは、公費と私費の区別だ。私用の費用を 会社の費用で落としていないか。これは総勘定元帳を細かく見ないと分からな いので、一見では分からない。しかし、出張と称して私用の旅行をしていた り、家族の会食を交際費で処理していたりすることは、往々にしてありがち だ。他には、業績の推移。商売には浮き沈みがつきもので、右肩上がりでずっ と業績が順調というのは望むべくもない。大事なことは、業績のアップ、ダウ ンの背景、経過、理由、原因などの分析だ。そして、今後の見通し。現在が好 調だから、ずっと続くとは思えない。次に来る谷間はいつごろか、それはどう してか。回復の見通しはどうか。これらを明快に、理路整然と説明してもらえ ると、信頼感は一気に高まる。 ・情報公開、公費と私費の区別、業績の見通しなどが大事だ。できれば赤字も 1年で終わって欲しい。2年目の赤字が回避できないなら、3年目は確実に黒 字化して欲しい。資金収支もプラスに転じる確固たる見通しを披露して欲し い。それらが、きちんと頭に入って、常に社業の趨勢に関心があり、社員の動 向に目配りがされているなら、現在の業績が多少落ち込んで、一時的な運転資 金の融資要請があっても、日常の信頼感があれば、特に問題ないだろう。とこ ろが、日ごろからご無沙汰で、金融機関の担当者や支店長などの上席と人間関 係がなく、数字の中身の把握と理解が乏しいとなると、これはなかなか緊急の 運転資金の融資には応じられない。急に頼みに行っても、過去から現在までの 事態の説明をするだけでくたびれる。 ・つまるところ、金融機関との相互理解ができていないと、必要な時に必要な 資金が供給されないという事態に陥る。決して金融機関は、敵対的な存在では ない。接し方さえ間違えなければ、逆に力強い味方のはずだ。経営的なアドバ イスもしてくれる。支店長や担当者も、その企業を何とか業績を良くして、成 長軌道に乗せようとするはずだ。それに反して、融資の申込にすんなり合意が 得られないのは、相手側の理解が足りないか、そもそもその企業をわかろうと していないからだ。これは多分に企業側の責任であることが大きい。金融機関 の支店や末端組織は、数年で人が入れ替わる。交代の都度、説明を要するのは 面倒だが、懇切丁寧に理解を促す努力が大事だ。日ごろの、日常のこまめな活 動が、いざという時に役立つ。相手を味方につけることが大事だ。