**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1124回配信分2025年11月10日発行 コメ騒動の本当の原因は何か? 〜異常気象と実態数字の把握ができないこと〜 **************************************************** <はじめに> ・コメの価格高騰が収まらない。新米が出回り、いくらか安くなるのかと思い きや、意外と高止まりしている。ときどき、スーパーへ買い物に付き合うが、 棚のコメ価格を見てもそう安くなったとは思えない。TVのニュース番組でも、 新聞やNETメディアの報道を見ても、当初の期待に反して新米が出回っても価 格はほとんど下がらない。当初、古米、古古米などを放出し、価格を少しでも 下げるアクションを取ったが、新米が出回れば下がると予想されていた。とこ ろが、現実はどうもそうではなさそうだ。高市政権で就任した新しい農水大臣 は、前の大臣と真逆の方針を打ち出した。これが政府の正式な方針、方向だと すれば、ほぼ180度の転換だ。いったいコメ政策の方針はどうなっているのだ ろうか。迷走すると、困るのは生産者と消費者だ。 ・いくつかの論文、レポート、社説などを紐解くと、どうも諸悪の元凶が違っ ていることに徐々に気が付いた。諸悪の根源は、2つ。1つは異常気象。1つ は数字が実態を正確に表していないことのようだ。この2つの大きな要因が、 令和の米騒動の原因のだと言われている。今までは、卸売業者がコメを隠して いる、JAが悪い、などとの説がもっともらしく喧伝されていた。感覚的にはそ うだろうと思っていたが、諸悪の根源はどうもそうではないようだ。全くシロ ではないだろうが、真犯人はどうも他にいるようだ。もちろん、それを漫然と 指をくわえて見ていたわけではないだろう。しかし、想定外の異常気象と、過 去からの慣習で疑いを持たなかった数字のマジックに踊らされていたというの が真相のようだ。 ・農業に従事する人口、特にコメ農業従事者の激減も原因のひとつではある。 政府が減反政策を掲げ、コメを生産する農地の転用を促した。そもそも、コメ の生産には非常に手間と時間がかかる。儲けが少ない割に、かかる費用は大き い。なので、減反政策の促進に相まって、コメ農家の減少が顕著になった。コ メ以外へ、付加価値が高く、利益率の高い果樹、野菜などへの転作が奨励され た。気候変動にあまり左右されない品種の栽培に転向された農家も多い。ある いは、農業法人を設立し、民間企業が参入する場合は、コメよりも野菜、果物 などが多い。イチゴに特化した果樹園、希少野菜の栽培に取り組んだベン チャーなど、コメ以外の品種への進出例は結構多い。近隣の滋賀県でも、イチ ゴ農家が最近目立つようになった。 <夏場の異常な気象が原因> ・異常気象は、ご存じのように夏の猛暑続き。京都などは、猛暑日と熱帯夜が 1年のうちに60日以上あるという灼熱地獄だ。この異常気象は地球温暖化のな せる業なのだが、これがコメ問題の第一原因だ。つまり、夏の異常高温続き で、水は足りないし、気温が高すぎて従来のコメの生育に適さない日本の気候 になってしまった。これは誰の責任でもない。過去、中学などで習った地理で は、日本は温暖化気候で四季があり、コメ生産に適した国だと教えられた。水 と空気はダタで、河川が縦横に走り、農業用水に困ることはない。3月から5 月にかけて水田に田植えを行い、9月から10月に刈り取る。一番の大敵は台風 だった。9月ごろの稲刈りの季節に台風がやってくるのが一番辛い。せっかく 実ったイネが、軒並み倒れる。 ・大型の台風さえ来なければ、コメの生産は何とか維持できた。ところが、こ こ10年くらい夏場の異常高温が続いている。以前なら、たまにそういう年度が あってもおかしくないと感じたが、最近では4月末の大型連休が終わると一気 に暖かくなり、そのまま夏に突入する。6月末には梅雨の時期にも関わらず、 気温が35度を超えるという異常事態が起こる。そのまま3か月くらい高温が続 き、雨が降らない。梅雨入りしたが空梅雨という現象になり、雨ごいが必要な 事態になる。40度に近づくという異常な猛暑が続き、コメの生育に赤信号が灯 る。コメは、まだハウスでの栽培は聞いたことがない。一部の野菜や果物は、 ハウス栽培が主流になりつつある。暴風雨が吹き荒れない限り、ハウスなら一 定の条件で栽培が可能だ。 ・ただし、エネルギー費用は高くつく。一定の温湿度を保つために、多くの燃 料を使い、電気代がかかる。それを払ってもお釣りが来るくらいだ。路地もの という外の地面に植えて生育さすというパターンは、今後廃れていくだろう。 最近では、下の空間で魚を養殖し、その水を循環させて、上段の棚で植物を生 育する。魚の養殖で利用した水を、植物の生育に再利用する。一石二鳥も極 まっている。一時期、植物工場がブームになったが、かなり淘汰された。しか し、LEDが普及し、太陽光発電を利用することで、原動原単位を下げることが できる。しかしコメの生育に適応さすのは難しい。コメに限って言えば、簡単 にハウス栽培ができない。この異常気象で、安定的にコメを生産する手法、技 術、品種改良が追い付いていない。 <実態の数字が把握できていない> ・コメ生産の2つ目の大きな問題点は、生産、流通、消費という実態の数字が 正確に把握できていないという事実だ。まず、生産。作況指数などという指標 はあるが、極めてアバウトでいい加減だ。サンプルの水田を選んで、チェック する。たまたま選んだ田んぼの作況が悪ければ指数は悪化し、良ければ良好と のご宣託が出る。しかし、全国に散らばっている水田の作況が、わずかのサン プリングで正確にわかるわけがない。しかし、農水省は後生大事にこの方式を ずっと採用していた。どれくらい今年の新米の生産ができるのかという、非常 に大事な数字が、かなり乱暴な方法でずっと行われていた。前農水大臣に就任 した小泉氏が、この精度の悪い数字のマジックに気が付き、これを廃止すると 宣言した。やっと伏魔殿に手が付いた。 ・中間の流通在庫の把握もできていない。いま、どこにどれだけのコメがある のかという中間段階の数字が、皆目見当がつかない。問屋流通機構が複雑なの はわかるが、それでも最近ではリアルタイムに物流を把握するシステムは相当 進化している。追跡し、トレースするシステムも、QRコードやバーコードなど の活用で、いとも簡単にできるはずだ。要するに、どこにどれだけ、どういう 状態であるのかという数字を精度よく把握すると困る人が出てくるのだ。商売 の邪魔になる。市中在庫のコントロールで、利潤を稼いでいる事業者もある。 食糧安保を叫ぶなら、今まで聖域で手あかがつかなかった部分にメスを入れな いといけない。そういう業界ほど、新規参入を排除し、利権をむさぼる事業者 が跋扈するのだ。 ・消費量の予測はもっと難しい。業務用と個人消費用がある。飲食業や宿泊業 で消費される業務用は、それぞれの企業で来年度の事業計画、予算を作成する ので、天変地異がない限り、おおよその推計はできるだろう。個人消費用は価 格の変動で、上下の幅が大きい。価格が下がれば消費量はおのずと増えるし、 価格が上がればほかの炭水化物に消費が転換する。例えば、パン、麺類の消費 が増えるという現象が起こる。小学校の給食ですら、これだけコメの値段が高 騰すると、パンやうどんに切り替える自治体が続出した。インバウンド観光客 の消費も影響する。CVSでのおにぎりや弁当の売れ行きも大きく影響する。し かし、個人消費はある程度過去のデータがあるはずだ。ただし、これからは人 口減少が激しいので、全体の個人消費量は減っていくだろう。 <コメ生産の明確な方針が決まらない> ・つまるところ、異常気象への対応も手遅れ、肝心の実態の数字の把握も後手 に回り、何一つ満足にコメの生産をコントロールできる指標がない。確かに、 コメの生産は時間と労力がかかる。前年の生産から、翌年生育する苗の原料を 確保する。田植えの前に水田に水を張り、苗を機械で田植えして、夏場の水の コントロールを厳密に行い、酷暑の中で雑草刈りを行い、秋に一斉に稲刈りを する。労働集約型の典型のような産業だ。しかし、新しい生産技術の革命も始 まっている。水田に種を直に撒く「直播」方式。ドローンを飛ばして肥料や農 薬を散布する。GPSを活用した機械のオペレーションなど、昨今の技術の進歩 には目を見張るものがある。ただ、設備投資に多額の費用がかかり、年に収穫 が1回だから、再現性を見るのに時間がかかる。 ・中学校の社会の授業で、高知県では2期作といって、年に2回コメを作ると いう方式があることを習った記憶がある。夏場の灼熱地獄を逆手にとって、3 月田植え6月収穫、7月田植え10月収穫という連荘方式をテストしている地域 もある。暑さに強い品種の開発も進んでいる。ドローンを飛ばして、上空から 直に種を撒くという方式を試みている事業者もある。しかし、これらが活用で きるのは広い農地、田んぼがある場所に限られる。分散した小規模農家には、 これらのシステムを全部は活用できない。農地の集約を促進することが重要 だ。農地という特殊な土地の管理は、農業委員会などが行い、厳密な規則が適 用され、規制がかかっている。これらのしばりを外すことも重要な施策のひと つだろう。勇気をもって改革に当たらないといけない。 ・足りないときは臨機応変に輸入する。余ったときには、適宜輸出に回す。コ メ農家が安心してコメを生産できるようにしないといけない。今回のように農 水大臣が変わった途端に、増産が減産に180度変わると、コメ農家はやってい られない。農水省、JA、コメ農家、その他周辺の業界も一致団結して、コメの 生産に協力する体制を作らないといけない。減反政策が失敗だったと石破前首 相が反省した途端に、次の政権の担当大臣が違うことを言い出す。いったい、 真面目にコメの生産を安定さすことを必死で考えている政治家がいるのか。選 挙の時だけ、美辞麗句を並べても現状は一向に良くならない。大英断を下す時 期が近付いている。誰がそれをやるのか。火だるまになっても、やり切る覚悟 が要る。目先の利権で動いたり、判断することだけは避けたい。