**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1125回配信分2025年11月17日発行 社会インフラの老朽化が止まらない 〜限られた財源を投資するトリアージが必要か〜 **************************************************** <はじめに> ・一度あることは二度ある、二度あることは三度ある。よく聞く言葉だ。ある 事象や現象には、それだけで終わってしまう単発の事象と、連続して起こり得 る事象の予兆ととらえることの、二つの見方がある。道路の陥没事故、橋の老 朽化、トンネル壁の崩落、上下水道管の破裂などは後者だ。ハード面のトラブ ル以外に、ソフト面での生活面の支障が目立つ。荷物が希望した時間に届かな い、火葬場で数日待たされる、病院の診療科目から産婦人科がなくなった、挙 げればきりがない。少子化の影響に重なり、1960年代から70年代にかけて急激 に整備した社会インフラの老朽化が進んでいる。この1960年代は昭和35年から 始まる年代で、昭和39年に開催された東京五輪のために多くの公共インフラ設 備が整備された年代だ。 ・高速道路にとどまらず、都市部の道路、上下水道、電力設備、鉄道網など、 多くの社会インフラが建設され、我々の生活は飛躍的に向上した。住宅環境 も、戸建て住宅、大規模集合住宅などに多くの技術的な進化がみられ、リビン グ、風呂、トイレなどの生活全般に大きな進化が刻まれた。しかし、その多額 の投資をした社会的なインフラが、投資後50年から60年を経過し、多くの危機 的な場面に直面している。ご存じのように、今年1月埼玉県で道路の陥没事故 が起こり、死者も出た。いまだに完全復旧の目途が立たない。その後、京都市 内でも主要国道の交差点付近で水道管の老朽化による出水事故が起こり、一時 国道が通行止めになった。老朽化した大型建物の建て替えも、建築資材の高 騰、人件費の上昇で、計画が頓挫している案件が出始めた。 ・地方では、多くの橋梁、つまり橋の老朽化が激しい。橋脚などに亀裂が入 り、補修が間に合わない。隠れた部分が損傷していると、発見が難しい。最近 の技術の進歩により、非接触の点検方法で多くの不具合個所の発見が可能に なったが、補修するとなると多額の費用がかかり、通行止めにする期間も長 く、生活面の支障は大きい。少子化で、ただでさえ年度の予算が縮小する中 で、道路や橋の補修に多額の予算を割けない地方自治体が多い。ある村では、 とうとう橋の補修を諦めた。その橋を利用していた村民には、迂回するためか なりの負担を強いられるが止むを得ない決定だった。限られた資金を、どう使 うか選択肢は多くない。今後、このような限られた選択肢を強いられる地方が 多く出てくるだろう。そのうち、都市部にも波及するはずだ。 <不便を受容する> ・ハード面の老朽化の深刻さは、数字が物語る。例えば、全国の道路橋約70万 か所のうち、建設後50年を超えた橋の割合は2030年には半数以上に達する。ソ フト面の課題で何より深刻なのは人手不足だ。老朽化が進むインフラを点検・ 補修する技術者は、少子化、働き方に対する価値観の変化、いわゆる「2024年 問題」による労働時間規制などの影響で激減している。労働力を補うためにDX 推進に踏み切ろうとしても、旧来の縦割り型組織が障壁になり、システムの刷 新や連携・統合、データの利活用などが遅々として進まない。結果として、本 来注力すべき業務である顧客サービスや品質の向上などに手が回らなくなり、 鉄道や行政窓口での待ち時間増加といった小さな不便が社会の中に積み重なっ ていってしまうことになる。 ・多くのお役所では、新規で作成・取得される公文書の過半数をいまだに紙が 占めている。各現場で情報が独立して管理され、部門間の連携に電話やメール が必要とされ、非効率な体制も数多く残る。こうした多数の要素が絡み合う根 深い課題に対し、ハード面の整備は建設会社、新制度設計は官庁、ITシステム はベンダーといった縦割りのアプローチでは、部署ごとの最適化は図れても、 全体最適は遅々として進まない。インフラ管理の現場では、長年蓄積された属 人的なノウハウが重要な役割を果たしているケースも多い。そうした現場の実 態を捉えないままに新しい技術を導入しても、業務フローに馴染まず、根本的 な効率化につながらない事態になりかねない。このような実態は、実はほとん どの官公庁や出先機関で多く存在する。 ・空の玄関口である空港も、島国日本の大切な公共インフラだ。近年、空港を 取り巻く環境は大きく変化している。インバウンド需要の増加により旅客数は 増加の一途をたどる一方で、人材の確保は困難さを増している。ピーク時には 保安検査場に長蛇の列ができ、旅客の待ち時間が長時間化する事態も頻発。人 手不足と業務負荷の増大により、検査の質を維持しながら利便性を高めること が喫緊の課題だ。しかし、保安検査の民間への実施主体変更には深刻な人手不 足の課題がある。航空会社から保安検査業務を引き継ぐにしても、その業務を 担う人材そのものが不足している。さらに、保安検査業務を引き継いだ後も、 航空会社との密な連携は不可欠だが、空港運営会社の多くは組織が縦割りのた め、航空会社とのやり取りが複数の部署で同時並行的に行われている。 <人口が減るという前提で考える> ・各地方自治体の水道事業も、事業そのものが厳しい局面を迎えている。前述 の上下水道管の補修は、遅々として進まない。これにも当然資金、予算が必要 だ。しかし、急激な少子化に伴い、水道の使用量が減っている。トイレの使用 量は技術的な改良で大幅に削減された。それ以外には、高齢化による生活の縮 小に伴い、食事、風呂などに使用する水道水の量が減っている。そうなると、 自治体ごとに縦割り行政で運営されている水道事業が赤字になり、存続の危機 に直面する。某自治体では、大幅な水道料金の値上げに踏み切った。近隣で事 業協同組合を設立し、運営を統合する動きもあるが、それぞれ近隣の自治体が お家の事情で突っ張るので、簡単にOKが出ないし、出せない。自治体ごとに運 営されている消防や警察も、同様の悩みを抱えている。 ・市営住宅なども、建設後50年以上経過し、老朽化が始まると入居者が激減 し、廃墟と化す物件が目立つようになった。外見、内装のリニューアルは費用 をかければ行えるが、交通機関とのアクセスは簡単に改善できない。京都市内 で言えば、洛西ニュータウンなどがこれに該当するか。近くの商業施設が閉鎖 され、買い物難民が続出する。宅配事業者でカバーできる範囲はいいが、その 宅配事業者も人手不足でサービスの質が低下する。配達曜日や時間帯が制限さ れ、住民の生活の質が低下する。古い高層住宅では、2つの階の間にしかエレ ベーターが停まらない高層住宅もまだ結構残っている。お年寄りには非常に生 活しづらいだろう。移転、引っ越しの際にも支障を来す。しかし、簡単に建て 替えは難しい。そのような旧式の社会インフラが、まだ多く残る。 ・1960年から70年代にかけて、高度経済成長の時代を迎え、人口は増加し、五 輪と万博を相次いで開催した。今回も、2021年に2回目の東京五輪、2025年に 2回目の大阪関西万博を行った。一方、冬季五輪は2回目の札幌開催招致を断 念した。これら負のレガシーが残る一過性の投資への余力はない。国際的なイ ベントで投資を呼び込むというプロジェクトは、これで終わりになるだろう。 少子化、労働人口の減少は、想定より大きくずれて急激に進行している。2070 年には、国内総人口の10%が外国人で占められるとの想定数字が発表された が、現実はそれ以上のピッチで外国人人口の増加は進んでいる。2030年には、 多くの自治体で人口の1割以上が、外国人という地域が多く出てくるはずだ。 共生の概念がないと維持できない。 <行政の仕組みを変える> ・社会的なインフラを現状のまま維持することは難しい。どこにおカネを使う のかという、トリアージ(優先順位)を社会インフラの分野にも実行しないと いけない。しかし、国の予算はあくまでも省庁の縦割り単位だ。いくら事業が 多くの官公庁で重なっても、自分の部署で予算を確保することが至上命題だ。 そう考えると、社会インフラの補修、維持、管理に向けては、大袈裟に言えば 行政の仕組みを変えないとできないという結論に行き着く。都道府県単位、地 方自治体での資金配分、予算管理もこのままでいいのかという疑問だらけだ。 道路や橋、上下水道など、生活に必須のインフラが、このように脆く崩れてい くのは非常にまずい。特に、これから国を背負う若い優秀な人材が、日本を見 捨てて海外に流出しかねない。かたや、外国からの人材はなかなか呼び込めな い。 ・人口減少の傾向は改善するどころか、止まらないという不都合な事実を、 もっと深刻に受け入れないといけない。各自治体で、子育て環境改善という政 策を掲げ、競って人口増加を図ろうとするが、全体のパイが増えないと、移住 ではどこかが増えてもどこかが減るから、結局は究極のゼロサムゲームにな る。首都圏近くのある地域だけが若者人口の流入で人口が増えた。住宅環境も 良く、若い世代の移住が多い。逆に、そうなると学校や保育園、幼稚園などの 教育環境を整備しないと追いつかない。恒久的な対策を打たないと、一過性で はカバーできない。他の都道府県から移住するので、出て行かれる地方では人 口減少というマイナスの結果につながる。要は、あちらが立てれば、こちらが 立たずの状態になる。国全体で、総人口の増加が図れないといけない。 ・総人口の増加が難しく、全体人口が減るなら、それに見合った社会インフラ に縮小しないと維持できない。1960年代から、日本中に高速道路を張り巡ら し、大型の橋を山ほど建設し、新幹線を全国に行き渡らせた。まだ、この傾向 は続いている。新しいものを作るなら、古いものは廃棄しないと収まらない し、一定の容量には入らない。賢く縮小均衡を図るにはどうするか。一度、い ま考えている前提をリセットして、ゼロから考え直さないといけない。先達が やってきたことを否定はしないが、社会の前提条件が変わってきた。現状のま ま維持することには、多額の費用が要る。税金で負担できる限界を超えてしま う。その時になってから、慌てていても遅い。今から、社会インフラ維持のト リアージをすべきだ。その計画に添っての行政の仕組みを変えないといけな い。