**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1133回配信分2026年01月12日発行 2026年中小企業の課題は何か 〜賃上げ・人手不足・付加価値アップ〜 **************************************************** <はじめに> ・2026年、中小企業の課題は何だろうか。まず、第一に揚げられるのは「賃上 げ」だろう。大手企業が続々と初任給を上げている。ユニクロの総合職採用で は30万円を軽く超えた。ここまで来ると少々大盤振る舞い過ぎると思えるが、 それでも優秀な社員を採用するとなると賃金を上げざるを得ない。競合が初任 給を上げれば、追随して他社も追いかける。いたちごっこになる可能性が高 い。逆に中小企業は賃上げに苦しんでいる。もともとの給与ベースがそう高く ないので、一気に高額の賃上げをすることは既存社員の給与体系の崩壊を招く ことになる。これを懸念して、賃金を抑えるか、あるいは崩壊は承知の上で優 秀な社員を囲い込むために、切り込むか。これは思案のしどころだ。経営者の 覚悟が試されている。 ・賃上げの原資が確保できるか。今年度はできても、継続して賃上げができる 環境にあるか。1年限りの大盤振る舞いは、逆効果になりかねない。現状の経 営数字、指標を冷静に分析して、設備投資に回す原資の大半を投下できるか。 ここ数年は設備の更新に多額の投資を振り向けた。ここからの5年間は設備投 資に回す資金を賃上げに投下できるか。付加価値に占める人件費の割合を労働 分配率と称するが、この労働分配率のアップをいくらまでとするか。賃上げを して人件費が増加すると、付加価値を高めないと労働分配率は一定にならな い。売上を伸ばすのもひとつだが、付加価値つまり原材料や外注費などの変動 費を抑えないといけない。人口減少に悩む国内で売上を伸ばすのは、なかなか 今後難しい。 ・発注先とかけ合って納品価格を上げてもらう交渉をするのも、ひとつだろ う。原材料も人件費も高止まりしているので説得力はある。しかし説明はでき ても、相手が納得するかは別問題だ。発注先の企業でも、同様の問題があるは ずだ。設備投資をした結果が期待通りできているかの検証も必要だ。設備を導 入する際に時間をかけて検討した費用対効果が、計画通りになっているか。意 外と期待外れという場合も多い。設備の償却分が重たく、投資回収期間が想定 より長くなっていないか。それだと、賃上げの原資が償却分で相殺されている 可能性がある。製造業ではないサービス業、小売業、卸売業などでは、労働生 産性を上げるしかない。時間当たりのアウトプット、作業効率、歩留まり、ミ スの減少など、やることは多い。 <賃上げ・人手不足対策> ・「賃上げ」の次に課題なのは、関連するが「人手不足」への対応だろう。賃 金の水準がもともと高くない中小企業に、募集しても人が来てくれるか。作業 の一部はロボットに置き換えられるかもしれないが、限界がある。狭い倉庫や 工場の中の作業は、簡単にロボットに置き換えられない。意外と可能性がある のが、事務作業だろう。経理、総務、営業事務など、特に女性が担当する事務 作業を効率化できる余地はあるはずだ。最近では、請求書の発行事務をDX導入 して大幅に省力化した事業所も多い。しかし、省力化はできたが人数を減らせ るところまでは至らない。残業時間が減少し、時間外手当の支給額が少し減っ たくらいだ。5名の在籍者数が4名になったわけではない。もっと思い切った 作業の削減が必要だ。 ・人手が足りないなら、足りないように仕事のやり方、中身を変えないといけ ない。多くの品種を切り替えながら製造している工場では、果たしてこれら多 くの品種がそれぞれ収益を上げているのか。意外と品種別の製造原価はわかっ ていない場合が多い。大きな赤字を垂れ流している品種を、時間と手間をかけ て生産している現場もある。店舗別では、赤字の店舗を止めるに止められず、 そのまま運営している。遠方の1軒の得意先にわずかの売上のために、トラッ ク1台を走らせている。それぞれの事情は斟酌できるものの、ここは思い切っ て決断する時期かもしれない。これはトップが決めないと進まない。担当者に 相談すれば、残してくれと言うだろう。意見は聞いても、大所高所から決める ときには決める。 ・本当にこの作業は、この仕事は自社でやるべきか、どうか、真剣に考える。 先代、先々代から綿々とやってきた仕事でも、今の時代に、この経営環境で本 当に自社がやるべきか。今後、3年先、5年先、10年先を考えて、決断するな ら、いま決断したほうがいい。一時的に売上、受注が少し減るかもしれない。 しかし、少しの停滞はすぐにカバーできるはずだ。将来的に、社員数が増える という前提は考えないほうがいい。あるいは、65歳の定年制を見直すのもあり 得る。年齢で雇用を制限するのはおかしいかもしれない。ある企業では定年制 を廃止した。本人の希望と体力、能力に応じて、柔軟な働き方を取り入れた。 給与体系も変えればいい。変えないものと、変えるものとを、明確に切り分け る。その作業が必要だ。 <対象市場の見極め> ・今の自社が生業としている市場を、どう見るか。果たして、この市場で、今 後もずっと勝負するのか。得意先の業種、業界を、一度時間をかけて調べてみ ればいい。自動車業界及びその周辺の業界が売上の8割を占めているかもしれ ない。あるいは、半導体業界の得意先が売上の半分かもしれない。この半導体 の好況はいつまで続くと見るか。小売業では食品業界が得意先の大半という企 業もある。食品業界は不況には強いが、人口減少の現在の環境で、今後伸びる 要素があるか。老人対象にビジネスを展開する企業では、まだ20年間市場は伸 びるが、その後停滞することは明らかだ。では、どうするか。中国への輸出で 生き残っている企業では、昨年の中国との摩擦で、今後の動向に非常に不安を 感じるはずだ。 ・過去の自社の歴史を調べてみると、改めて得意先の変遷が大きいことがわか る。50年前に先々代が創業したときの得意先は、1社もいま残っていない。 1975年、昭和50年に祖父が創業したときは高度経済成長の真っただ中。亡く なった父親の2代目に交代した平成10年はバブル景気崩壊のどん底だった。大 きく得意先の企業も変わった。下請けからの脱出を目指して、自社製品の開発 に注力したが、なかなか市場に受け入れてもらえなかった。しかし、10年前に 現在の3代目の社長になってから、自社製品の売上が徐々に伸びてきた。小売 業では、仕入販売という従来のビジネスモデルから徐々に変えて、提携先とオ リジナルの独自製品を共同開発し、この製品の売上が伸びてきた。何より、粗 利率が大きく違う。 ・50年前の創業時点と比べると、変わらなかったのは社名だけか。事業所の場 所も、移転して現在の場所は3か所目。創業家が株式を保有している状態は同 じだが、ビジネスモデルは大きく変わった。祖業の事業は続けているが、売上 全体の2割しかない。残り8割はこの20年くらいで伸びてきた業界、得意先 だ。しかし、これもいつまで続くか分からない。つまり、安定して続いていく 事業、製品、ビジネス、得意先は、何もないということだ。変わり続けること が生き続けることだ。変わり続けるために何が必要かと言えば、変わり続ける という意志だろう。次々に新しいビジネスに手を出すことを奨励しているので はない。単に、収益だけを目指せば、墓穴を掘ることも多い。売上、利益より 大事なものは何かを探さないといけない。 <徳川家康の関東転封に学ぶ> ・売上、利益より大事にしているものは何か。それが明確か。今の時代、環境 で事業の存在価値はあるか。それが社員に浸透しているか。取り組むものはこ れで、やらないものははっきりしているか。周囲から勧められて、なんとなく 儲かりそうで始めた事業はないか。けじめをつけられないまま、漫然と続けて いる事業はないか。社員の能力が問題ではなく、自分自身が意識する会社の方 向性がはっきりしているか。目標は売上の数字だけになっていないか。売上数 字以外に追いかける目標は何か、それを社員にきちんと説明しているか。気が 付けば、何もはっきりせず、漫然と昨日と同じ作業を続けていないか。何よ り、自分自身が変わっているか、成長しているか。振り返れば、この1年間何 をしてきたか。 ・事業を、会社を、続ける、続けようと思えば、変わるしかない。しかし、変 わるときに間違うことも多い。売上、利益だけを追い求めて、一番大事なもの を忘れている、見落としている。自分自身では気が付かない。社内に投げかけ られる人材はいるか。あるいは、自分の身近に親身になって相談に乗ってくれ る、悩みを聞いてくれる人はいるか。困ってから探しても見つからない。常に そのような意識で行動していないと、幸運の女神は微笑まない。徳川家康が小 田原の北条氏を攻め落として、その後三河、駿河から関東8州に転封(国替 え、領地替え)になったときに、譜代子飼いの家臣はこぞって反対したが、家 康はこの関東への国替えが自分の意志、方針に合致していると決断した。江戸 は現在東京となった。 ・日ごろからの自分の考えがあった。信長、秀吉を見てきて、肌で感じたのは 国の統治を安定させることだ。信長の力ずく方式も、秀吉の褒美方式も、結局 終わってみれば誰もついてこなかった。乱世に終止符を打ったのは、遠い未来 を見据えた姿勢だった。仏教にも通じ、周囲の諫言にも謙虚に耳を傾け、議論 を遮らず、多くの意見を聴く。しかし、決断はする。あるいは、いま決めない ほうがいいという場合は、敢えて結論を先延ばしする。決断できないのではな い。いま、決断しないことが最善なのだという信念がある。そして、そのチャ ンスが到来すれば果敢に決断する。基本の軸がぶれないから、間違わない。そ れが260年徳川政権が続いた理由だ。しかし、260年経過すると、世界の潮流に 乗り遅れた。外圧に屈することになった。