**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1139回配信分2026年02月23日発行 真面目にやってきた中小企業経営者は何を間違ったか 〜売上の数字しか見ていないので実態が分かっていない〜 **************************************************** <はじめに> ・前号で真面目な中小企業経営者が陥る落とし穴のような状況を書いてみた。 このような経営者の方は存外多いのではなかろうか。では、なぜこのような状 態になったのだろうか。原因の第一として考えられるのは、会社の実態を数字 で正確に把握していなかったことだ。こういうと反論もあるだろうが、中小企 業経営者の把握している数字は、売上がほとんどだ。頭の中の数字は、売上オ ンリーと言っても過言ではない。過去5年間くらいの売上や、過去最高の売上 を達成した時期と額などは完璧に覚えている。初対面の経営者の方と話しをす ると、貴社の売上はどうですかと聞けば、ほとんど、いつ、いくらの売上が ピークだったとすらすらと出てくる。こちらがびっくりするくらいだ。ただ、 売上の総トータルの数字だけだ。 ・ここ数年はいくらくらいになっている、という直近の売上数字もほぼ正確 だ。ただ全体の売上数字はいいが、その中身に関しての知見、分析はあまりな い。得意先別、商品別製品別、業種別、地域別などというファクターで把握し ている経営者は少ない。減少している売上の原因、理由、背景、仮説などは、 ほとんど聞けない。あるのは、売上の絶対値の数字だけだ。これでは何も分か らない。現象面の数字だけで、どうして増えたのか、減ったのかは藪の中だ。 意外と営業担当者別の数字は記憶している場合が多い。退職したA君の売上分 が減った、などという言い訳はよく聞く。しかし、それでは対策の打ちようが ない。病気の治療に当たる医者と同じで、症状から疾患名を想定し、その疾患 に対応した治療を施すことができない。 ・決算書や試算表では、売上の中身の詳細は分からない。経理ソフトから吐き 出せるデータや手元のエクセルなどのデータから、いくぶんか加工して切り口 を決めて判断できる材料にする作業が必要だ。実は、これが苦手な経営者の方 が多い。代表者の年齢が70歳を超えると、パソコンを自在に操れる方はあまり お目にかかれない。簡単に言えば、数字に強くない。奥さんは経理を担当して いるが、おカネの出入りを見ているだけで、分析までは手が回らない。税理士 事務所も、そんなことは関係ないと無関心だ。結局、社内の誰もが売上の数字 だけを指標に、右往左往している。営業会議では、社長から売上を伸ばせ、上 げろと言う号令が出るだけだ。具体的な対策は、現状のデータから導かれる仮 説がないので出てこない。 <売上しか指標がない> ・たまに、公的機関が主催するセミナーや講演会、WEBで流れるオンラインの セミナーなどに参加するが、聞いて終わりになる。持ち帰って、検討し、自社 の現状からどう改善すればいいかを考える意識にならない。そのときボルテー ジはいったん上がるが、一晩寝て目が覚めると忘れてしまう。あまり大事なこ とと意識されていない。意識が変わらないと行動も変わらない。かくて、毎 日、毎週、毎月、毎年、同じことの繰り返しになる。意識が変わるとすれば、 かなり大きな衝撃的な出来事が起こらないと難しい。社内や経営者の中からで はなく、外部からの大きな圧力がかからないと難しい。あるいは、別の企業に 勤めていた息子さんが戻ってきて、あまりに旧態依然とした会社の実態を見て 改革に乗り出したとか。 ・中小企業の社外の利害関係者は、仕入先、得意先、金融機関だ。この3つが ほとんどだ。しかし、仕入先からみれば自社は取引先、得意先だから、あまり 大きなプレッシャーはかからない。むしろ、得意先だろう。たまに、大きな取 引先からクレームや値引き、取引額の減少などのアクションが飛んでくること がある。しかし、これも通常の商取引の範囲内の出来事だ。自社の内部の財務 に関し、注文がつくことはまずない。まして、財務内容は公開していないから 外からでは分からない。金融機関とは、正常な借入、返済が続いているなら、 強烈なプレッシャーもなく、決算後に決算書を持参し、業況の説明をすればそ れで終わりだ。業績がまずまずなら、折り返しの借り換えには応じてくれる し、その際に融資額の水増しをしてくれる。 ・売上に対して借入が多いとか、財務内容が悪いとかは、外からでは分からな い。たまに、新規に取引が起こった場合、信用調査会社の担当者が訪問調査に 来ることはある。それでも決算書の開示までは強制されない。口頭で適当に話 しておけば、それでことは済む。つまり、財務内容の開示は株主以外には通常 行わない。中小企業の株主総会は、ほぼ形式的なもので外部の株主はほとんど いないから、財務内容の公開は身内のごく一部に限られる。業績のアップダウ ン、借金の増減、設備投資結果の詳細な内容報告は、ほぼ皆無だ。形式的に議 事録を作成し、印鑑を押して、提出して終わり。開催時期も決算から2か月前 後経過しているので、切迫感がない。もう、今期の営業は始まり、目先の課題 に対処し、終わった話しに関心はない。 <危機意識は内部から生まれない> ・前号でも書いたが、会社で一番数字を把握しているのは、経理担当者の奥さ んであり、税理士事務所の担当者だ。しかし、奥さんはおカネの出入りの出納 を担当しているだけで、財務内容をにらめっこしているのではない。税理士事 務所は会社の経理担当者から出された数字の資料から、試算表を作成するのが 仕事だ。その数字が経営的にどういう意味を持ち、どういう課題が起こってい て、どういう対処が最善かというのは、範疇外だ。試算表を毎月作成し、決算 後に決算書を作成し、それに基づき税金の申告書を税務署に提出する。納付書 を作成し、会社がきちんと税金を納付する。そこまでが業務だ。顧問料をきち んと払ってくれればそれでいい。不要な発言をして代表者の機嫌を損ねたくな い。顧問先を失うようなバカな真似はしない。 ・となると、社内、社外で、経営に口を出せる、出す人は誰もいない。通常、 業績に陰りが見え、財務内容が悪化してくると、何らかの改善、改革に着手し ないといけない。身体でいえば、微熱が続いて体調が悪い。食欲もなく、疲労 感が抜けない。そういう状態だ。しかし、そう簡単に医者へはいかないのと同 じで、多少業績が悪くても、またそのうち挽回できるだろうと簡単に考える。 そういうときもたまにはあるが、一過性なのか、かなり深刻で重症なのかは、 経営者の判断、見識による。社会の動き、環境の変化、消費の動向、技術の革 新などを見ていると、これは大きな地殻変動が起こっているのか、たまたまの ことなのかを判断しないといけない。そこで、ほとんどの経営者は自社に都合 の悪い材料は、切って捨て、無視して、やり過ごす。 ・100回に1回あったことを大変だと思うか、100回に1回だから無視するか は、ひとえに経営者の見識や性格、経験に依る。ご自身の交友関係、つきあい の範囲にも関係する。同じ業界の人、同業同士は、本音で語り合えることは少 ない。むしろ、異業種の人、同年代の人の方が、本音で語れる。しかし、それ もその人の偏った意見だと思わないといけない。よほど大事な決定をする場合 は、広くセカンドオピニオン、サードオピニオンを求める必要がある。それ も、異なる見方を提示してくれる人がいい。反対意見もあるだろう。常識的な 意見しか言わない人もある。すべては、その人の経験と知識に基づいた意見 だ。必ずしも正しいとは限らない。多くを聞くと、逆に迷路に入り込む。わか らなくなり、結論を得るのに時間がかかる。 <経営者自身が自分で数字を扱う> ・多くの優秀な社員、幹部を抱え、一般株主が参加する株主総会を開く大企業 でも、間違うことがある。いや、間違うことも多い。なので、中小企業で間違 うのは当たり前だ。まず、経営者の頭の中をリセットしないといけない。過去 の成功例が詰まっていると、新しいことを入れる隙間がない。過去の成功例 は、「その環境の下で」という条件付きだ。環境が変われば、当然成功例も変 わるし、成功確率も変わる。過去に成功した経営者は、どうしても過去の栄光 を捨てきれない。捨てるには勇気が要る。また、不成功、うまくいかなかった 事例から学んでいない。不成功の原因は他人のせいにして、忘れることに努め る。この不成功(必ずしも失敗ではない)から学ぶことは多い。しかし、人間 のやることだ。同じ失敗を二度繰り返す。 ・誰も社長に辛口の進言をしない。機嫌を損ねると睨まれるから、いやなこと はいいたくない。黙っている。社員は経営者ではないから、そこまで踏み込ん で諫言しない。給料やボーナスが減るのは嫌だから、覚えが目出度いのがい い。となると、社長にモノが言えるのは一族、家族だけか。一番身近なのは、 後継者と目される子息か。候補となる子息が会社にいないとどうなるか。余程 自覚のある経営者以外は、ほとんど裸の王様になってしまう。気が付かないま ま、3年、5年と経過すると、病巣は拡がり、もう手が付けられない状態に なっていることが多い。1年や2年の失敗、業績の悪化はどこにでもある。大 事なことは、その症状や兆候が出た時に、気が付くか、つかないか。ほとんど 気が付かないで、見過ごしてしまうケースが多い。 ・毎日、毎週、毎月、自社の課題を意識しているか。問題点を探しているか。 気を抜いた途端に、間違いは起こる。少々の間違いは誰にでもある。完ぺきな 人間はいない。だったら、間違いの方向に行っていないか、常に見直す勇気が 必要だ。プロ選手にはコーチがついていることが多い。少し離れた位置から見 てくれて、アドバイスしてくれるスタッフがいないと、間違いやすい。ティー グラウンドで、アドレスが少しずれていても、本人には分からない。あとで画 像をみせてもらうと、確かに右を向いている。経営とはそういうものだ。それ を修正できるのは、日ごろのルーティンだ。この指標、この数字と決めて、そ れを常に自分でチェックする習慣をつけることだ。実際に自分で数字を扱わな いと、実感が伴わない。もらった試算表ではわからない。