**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1143回配信分2026年03月23日発行 中東危機に中小企業はどう備えるか 〜平時から事業を磨く努力をしていれば慌てる必要はない〜 **************************************************** <はじめに> ・大きなリスクが襲い掛かっている。ご存じ、中東の戦争による危機だ。まだ 子細は不確かだが、中東方面からの物資の輸入、運搬が途絶えるかもしれな い。石油関連の原材料の調達に支障が出ている。物資によっては、ほぼ100% 近く中東から輸入している物資もあれば、豪州(オーストラリア)や東南アジ ア、アメリカ、中南米方面をメインに輸入している物資もある。ただ、加工品 を輸入している場合と、なまの原材料に近い物資とでは、その後の工程、輸送 経路に大きな差がある。資材の調達と言うのは、簡単そうに見えるが結構複雑 なのだ。その間に多くの商社や代理店が入ることも多い。相当先の需要を見越 して物資を運んでいる。海路中東からだと数週間は優にかかる。運ぶコストも 半端ではない。計画的に行われている。 ・成岡が在籍していた化学繊維製造業の配属された事業所で製造していたのは ポリエステルだったので、原料はエチレングリコールとテレフタル酸だ。これ は、原油を輸入して、分離してナフサにし、いろいろな石油製品に精製され、 さらに一部加工される。これらは、ほとんど海岸線に近いコンビナートに立地 する化学製品製造会社で製造される。テレフタル酸は粉体で大型10トントラッ クに積んでフレコンバッグ形態で、エチレングリコールは液体なのでタンク ローリーで運ばれる。フレコンバッグはいったん倉庫に格納し、エチレングリ コールはタンクローリーから貯蔵タンクに移し保管する。いずれも一定期間の 在庫を保有する。毎日膨大な量を生産しているので、そう大量の在庫を抱えて いるわけではない。 ・意外と細かく必要なのは、副材料だ。触媒の金属粉末、添加物、活性剤、油 剤など、主原料ではないが必須の副材料も多くある。酸化チタンなどは日本国 内で調達可能だが、それ以外はほとんど海外からの輸入に依存している。当 時、ポリエステルはいったんチップ状のペレットと呼ぶ2〜3ミリの粒状形態 にして、そこから溶融して化学繊維、フィルムなどに加工される。加工の工程 では、多くの電気や水、熱媒(高温の油)などが使用される。とにかく、原油 を輸入し、そこから多くの工程を経て製品が製造、加工される。化学繊維は、 そこから紡糸、延伸、延撚、製織、染色などの複雑な工程を経る。どの工程 も、電気、水を大量に消費する。原材料のほとんどを海外から調達し、電気な どの動力も海外からの調達がないと作れない。 <海外依存度の高い日本では不可避> ・ほとんどの工業製品は、割合は別にして国内原材料で100%完成するものは ないだろう。農産物はカロリーベースで60%は輸入だ。鉄の原材料である鉄鉱 石、アルミの原料のボーキサイト、銅、錫、亜鉛などは海外からの輸入に大き く依存している。また、島国日本なので、輸送の90%以上は海上輸送だ。これ に為替の変動が加わる。世界的な投機的思惑買いが絡む。アパレル産業では、 東南アジア、中国で生産加工し、完成品で日本国内に輸入する。日本国内で生 産している製品もあるが、原材料のルーツをたどるとほとんどが海外からの輸 入に依存しているものが多い。平時は何も考えず円滑にこのサプライチェーン が回っているが、こと今回のような戦時になると途端にこのチェーンのどこか が切れる。復旧の方法がない。 ・中小企業が逆立ちしても、いち企業ではいかんともし難い。暴風雨が収まる のを待つしかない。いつ暴風雨が収まるかは不透明なので、ふたつ考えておか ないといけない。まず、待っている間に何をするか。次に、収まった時点でど うダッシュするか。待っている間は、売上は減るだろう。材料が入ってこない ので生産減になって売上が減るのか、市場がシュリンクして売上が減るのかで 意味は違う。いずれにしても、オイルショックやコロナパンデミックの時のよ うに、生産調整をするしかない。減産なのか、仕入を絞るのか、いずれかだ。 その時点の従業員をそのまま雇用すると赤字額が大きくなるので、雇用調整助 成金の受給を考える。助成金や補助金は政府や自治体が決めるので、簡単にあ てにはできない。 ・補助金や助成金は、都道府県や市町村で支給方法や金額が異なる。その時点 にならないと、いくら、いつから、支給条件などは分からない。逆に、内部留 保の現預金が多くあったり、外部に積立金があったり、有価証券を売却出来た りして、現預金を持っている、作れる企業は、あまり拙速に動かないほうがい い。火事場で慌てると、間違うことが多い。慌てて動いて、二次災害を起こし てはいけない。運転資金の捻出に心配のない企業は、どっしり構えて動かな い。少々の売上の減少には目をつぶる。確かに赤字になるかもしれないが、そ の赤字分はカバーできるだろう。1期だけの明確な理由のある赤字は問題な い。構造的に病気を抱えていない企業なら、正常状態に戻れば業績は回復する はずだ。静かにしておくことだ。 <今回のようなショックも過去たびたびあった> ・問題になるのは日ごろから業績の悪化に苦しみ、今でも四苦八苦している企 業だ。この中東戦争の影響を受けて、業績はさらに悪化するはずだ。今回の赤 字分は補助金や助成金でカバーできても、もともとの赤字を埋める原資にはな らない。結局、戦争がほぼ終結し、徐々に元の状態にもどりつつあっても、一 向に業績の回復はままならない。かくて、終わってみれば全く以前と同じか、 以前より業績は悪くなり、借金は増え、さらに首が回らなくなる。この売上が 減った期間に、次のために手を打てればいいが、助成金や補助金は過去の赤字 の穴埋めに消えてしまい、何も残らない。税金や社会保険料の未納分の納付が できただけだ。本来の税金の使い道になっていない。しかし、厳しいチェック もなく、承認され支給される。 ・つまり、常日頃から業績の安定に心を砕き、何があっても揺らがない企業体 質を作っておかないといけない。試合があるから直前に慌てて練習しても勝て ない。試験があるから、一夜漬けで勉強しても身につかない。病気になって急 に薬を飲んでもすぐに健康にはならない。社会的に価値ある目的を掲げ、実現 可能性の高い目標を設定し、そこに至る道筋を工夫して、改善改良を繰り返 す。企業を経営し、従業員を雇用し、社会的な存在である限り、事業は継続す ることが前提だが、どこかで経営を間違うと赤字が累積し、借金が増え、運転 資金が枯渇し、借金に借金を重ねることで蟻地獄に陥る。幸運もあるかもしれ ないが、今回のような戦争が勃発し、自分の責任ではない大きな弾が飛んで来 ることもある。まともに当たると立ち上がれない。 ・今回のような自己責任ではない経営危機は、過去にも何度かあった。成岡の 社会人経験で言えば、二度のオイルショック、バブル経済の崩壊、阪神淡路大 震災、リーマンショック、金融恐慌、東日本大震災、コロナパンデミックと、 50年の間に10回近い経営危機が押し寄せている。おおよそ5年から10年に一度 くらいの頻度だ。古くは、世界恐慌、関東大震災、太平洋戦争、大型台風の襲 来など、天変地異も含め、同様に数回の大きな異変が起きている。いつの時代 も、自分自身の不徳の致すところ以外での、経営危機というものはあるのだと いう前提でいないといけない。スポーツでもそうだが、絶好調という期間は短 い。雌伏して、我慢して、耐えて、踊り場でしっかり力を蓄えて、次の世代で ジャンプアップする。 <腹を括れば安眠できる> ・つまり、日ごろの心掛け次第だ。欲得に目がくらんで、おカネのことばかり を追いかけていると、いつかはお札のことしか見なくなるし、見えなくなる。 目先の欲に目がくらんで、売上や利益ばかりを追いかける。中小企業ばかりで はない。昨今の大企業の不祥事は、ほとんどそれが原因だ。大企業は一般の株 主や海外の大株主など、他人の目が光っている。それでも、そういうことが起 こる。中小企業なら、なおさらだろう。余程、気を引き締めて、緊張感をもっ て、経営に当たらないと、足腰が脆弱だからあっという間に転げ落ちる。しか し、365日24時間において、ずっと緊張感の連続ではストレスがたまり、身体 にもよくない。適当に休息をとり、気分転換を図り、明日への英気を養ってお かないと、エネルギーが湧かない。 ・経営トップには適度の弛緩が必要だ。利害関係のない人との気の置けない時 間もあったらいい。おおよそ、それは1割から2割弱でいい。残りの時間は、 自社の経営に集中しないといけない。しかし、業績の悪化が連続し、資金繰り に困窮すると、おカネの算段に走り回り、本来の経営に集中、従事する時間が 極端に少なくなる。会社資産のストックも少ない。戦国時代で言えば、しばし 籠城するのに兵糧や弾薬がない。今回の中東戦争のような異常時には、しばし 籠城することがいい。出口が見えないから、何をしたらいいのか分からない。 大事なことは、絶対に会社をこの戦争の影響で潰さないと覚悟を決める。自分 の代で従業員の希望退職募集などの後ろ向きの対応をしないと腹をくくる。そ れを内外に宣言することだ。 ・どうしても難しいときは、自身の報酬を大幅にカットし、役員諸兄の報酬を 減額する。従業員の給料には手を付けない。ただし、ボーナスの減額は致し方 ないかもしれない。あるいは、会社にどうしても必要な資産以外は売却できる ものは売却する。会計上損が出るかもしれないが、資金を作るという意味では 実行できればしたほうがいい。先が見えないときは、無理に投資をしないで、 しばらく籠城する。しかし、出口が見えてきたら、たまったエネルギーをぶつ ける。ジャンプするためには、いったん縮こまることが必要だ。立ったままで はジャンプできない。今回の中東戦争の影響で撤退する企業も出るだろう。市 場が空く可能性もある。絶対に生き残ると覚悟を決めて、腹をくくれば安眠で きる。経営者の安眠は大事だ。