**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1145回配信分2026年04月06日発行 中東危機に備える:その2 〜腹を括る・我慢する・空いた時間を有効に使う〜 **************************************************** <はじめに> ・3週間前に同じタイトル、テーマでこのメールマガジンを書いたが、その後 大きく情勢が変わってきた。数週間で終わると踏んでいたが、楽観的な予想は 外れた。この令和の中東戦争は長引くだろう。大きな影響が出るに違いない。 2020年から3年間続いたコロナパンデミックからも相当のショックを受けた が、今回の第三次オイルショック(そう呼んだ方が相応しい)はそれ以上のイ ンパクトになるに違いない。あいまいな記憶だが、前回の1973年(昭和48年) の第一次オイルショックは半年くらいでおおよそ収束したのではなかったか。 同じように中東の戦争で原油の供給が途絶えたのだが、復旧したら意外と早く 回復した記憶がある。しかし、数年後にまたぞろ第二次オイルショックが起 こった。だが、これは早くリカバーした。 ・第一次オイルショックの教訓から、その後の技術開発は省エネ一本に絞られ た。また、原子力への転換も進んだ。エネルギー原単位(単位製品を製造する 際に消費される電気や油の量を表す)を徹底的に分析し、いかに原単位を下げ るかに集中した。現場的な工夫もさることながら、生産性の向上、作業効率の アップ、工程の見直し、生産方式の変更など、できることは何でもやるという 精神で取り組んだ。多額の投資が要る場合もあれば、現場の少しの工夫で改善 できるものもあった。高熱配管の保温材の見直しなどは、現場改善活動の最た るものだ。生産方式の変更は、バッチ方式から連続方式への転換を行った。こ れには数年かかり、大規模な投資と前工程の抜本的な改革になった。細かい工 夫と大胆な変更を次々に行った。 ・もともと日本の当時の電気代単価は非常に高かった。当時のアメリカの4倍 くらいだったと記憶している。後日、アメリカジョージア州の提携工場に出張 に行って、先方スタッフと製造コストの比較をしたが、この電気代では勝てな いと驚嘆した記憶がある。日本のエネルギー基本計画の見直しが始まり、原子 力の割合が年々増加、国内に多くの原子力発電所が建設された。まだ、太陽光 発電などというしろものは登場していなかった。屋根に乗せるのは太陽熱温水 器くらいだった。地球温暖化という兆しはあったのだろうが、まだこれほど世 界的な問題、課題になっていなかった。異常気象という言葉もなかった。夏は 暑くても、32度Cくらいの最高温度だった。給水やクーリングタイムという言 葉もなかった。社会環境が違っていた。 <今後いろいろと支障が出てくる> ・さて、今回の第三次オイルショックだ。まず、原油の備蓄が意外と少ない。 245日分あるうち、半分くらいはいわゆる通常在庫だ。本当の備蓄分は100日超 える分くらいだという。5月連休明けくらいまでに収束の見通しがついて、ホ ルムズ海峡の通行が自由にならないと、かなりリスクが高くなる。まだ、使用 制限、配給制限という事態には至っていないが、そうなる可能性は高い。ナフ サが少なくなり、ガソリン、軽油、重油が徐々に足りなくなる。あらゆる業 種、業界に影響が出る。国民生活レベルで分かりやすい例では、銭湯の営業時 間が短縮され、定休日が1日増える。クリーニング屋では受取量の制限が始ま る。ガソリンスタンでは満タンはできなくなり、給油量の制限がかかる。宅急 便の配送にも支障が出始める。多くの資材の運搬に遅れが生じる。しかし、現 時点ではまだそこまで重大な影響は出ていない。 ・深刻な影響があるのは製造業の生産だ。原材料の供給に制限がかかり、製造 業の稼働率が徐々に低下する。90%の稼働だった生産ラインが、70%の稼働に 落ちる。当然コストは高くなり、生産性は低下し、収益力は落ちる。3年続け て5%台の賃上げベースアップの影響がじわりとボディーブローのように効い てくる。総じて物価は上がり、経済成長は低下し、不況の中でのインフレとい う悪影響が出始める。原材料の90%を海外から輸入する日本での影響は深刻 だ。東南アジア諸国でも、同様の影響が出る国と、出ない国で明暗が分かれ る。中国では影響はそう大きくないので、中国経済に与えるダメージは小さ い。中国経済の沈滞は、逆にこの第三次オイルショックで大きくカバーされ る。アメリカ経済の落ち込みと逆の結果になる。 ・石油由来の工業製品の生産量は、大きく落ち込むだろう。なにせ、原油が 入ってこないのだから。電気を起こす発電は代替方法がないでもないが、石油 由来の製品は急に代替はできない。食品を包むトレー、ラップから始まり、医 療用のほとんどの製品や医薬品、樹脂やゴム製品、化学繊維製品、工業用や建 設用の資材など、多くの工業製品は欠乏してくる。住宅や建物の建築建設計画 にも支障が出る。自動販売機は間引きが行われ、商品の補充が間に合わなくな る。おおよそ、日常生活を徐々に縮小する我慢の生活スタイルに移行する。健 常者には我慢耐乏生活はできるかもしれないが、障碍者や高齢者には非常に苦 痛と不自由を強いられる生活が続くことになり、医療施設、介護施設、老人施 設で支障が出始める。 <ドタバタしない> ・今回の中東戦争の終結出口が見えにくくなったことで、長期戦の対策が必要 となった。よく言われているように、戦争は始めるより終わる方が難しい。し かし、これは何も戦争に限らない。すべてのことは、始めるより始末する、終 わることの方にエネルギーがかかる。事業なら始めるより撤退、結婚より離 婚、買うより捨てるほうが面倒だ。コストもかかる。第一次オイルショックの 当時より、国際情勢は大きく変貌しているし、社会環境も様変わりしている。 DXやGXなどというキーワードは当時なかった。大気汚染や水質汚濁などという 環境公害という言葉が認知され始めたような時代だ。また、経済や生活面の変 化速度が違う。情報は瞬時に世界中に伝搬する。フェイクニュースもあっとい う間に拡散する。風評で世の中が動く。 ・事業を継続するには、とりあえず資金面の手当てをすることだ。政府、自治 体が何らかの支援策をしてくれるだろうが、あくまでも自助努力で切り抜けな いといけない。政府や自治体がしてくれる財政面の支援は、低利融資や政府保 証の範囲内での緊急融資だ。しかし、あくまでも融資だ。返済、返還の要らな い補助金や助成金ではない。もし、あるとすればコロナの時のように、雇用調 整助成金や家賃補給金だろう。受注減少、原材料不足での生産調整で、製造現 場の稼働率を60%くらいにまで落とさないといけないという非常事態だ。従業 員の出勤も6割になり、約半数の人は交代で休ますことになる。いわゆる、休 業補償の範囲内の話しだ。抜本的な対策はないと肝に銘じるべきだ。単独の中 小企業でできることは少ない。 ・製造業以外の卸売業、小売業、サービス業などは、戦争の終結、石油供給の 復旧、エネルギー環境の安定化を待つしかない。自社単独ではどうしようもな い。シタバタしても始まらない。仕入商品の入荷が制限されるのだから、売る ものがない。棚に商品が並ばない。まして、配送が1日に3便が2便に減便に なった。顧客も生活の耐乏を強いられているから、購入量が3分の2になっ た。売上の減少は止められない。幸い、粗利率は20%で変動費割合が大きいか ら、固定費を少しでも下げられれば赤字の縮小には大きく寄与する。まず、情 勢が落ち着き、今後の見通しが立つまで事態を静観するしかない。大事なこと は、この不透明、不安定な時期に、おカネ欲しさに欲をかいて、つまらないも のに手を出さないことだ。我慢が大事だ。 <このピンチをチャンスに変える> ・振り返えれば、バブル期に土地や株にあぶく銭狙いで資金を投下した企業は ことごとく失敗し、敗戦処理に苦労した。これが原因で潰れた企業も多くあっ た。老舗企業でも、その後倒産、破産、特別清算で、会社を壊した。今回の第 三次オイルショックも、不可抗力、不可避の事態だ。大企業ならいざ知らず、 中小零細企業は、うかつに動いてはいけない。少々の材料の買い込みや在庫を 増やすことは許容範囲だが、それ以上の背伸びはしてはいけない。自社の努力 でカバーできる範囲を超えてはいけない。むしろ、事業が縮小し業務が空いた 時間を、次に向かって建設的な時間として使わないといけない。工場や事務所 の掃除から始まり、レイアウトの変更、不要な紙の書類の廃棄、遊休スペース の確保、滞留在庫の処分など、できることは何でもする。 ・空いた時間は、データの集約分析解析、システムの改修、得意先コードの統 一など、平時ではできない作業に充当する。定期的に勉強会、研究会、研修会 を開催する。ホームページの改修改編、WEBサイトのバージョンアップ、ECサ イトのリニューアル、営業部門へのタブレット端末の配布など、やるべきこと は多い。この空いた時間を漫然と過ごすか、次のジャンプに向けて力とエネル ギーをストックするかの違いは大きい。外国人労働者の雇用研究、初の新卒採 用へのプロジェクトの立ち上げ、など以前に揚げていた課題をもう一度書き出 し、優先順位をつけ、費用と時間を算出してみる。幹部職員の合宿研修をして もいい。新年度の出だしで、このオイルショックでしばし足踏みするが、どう リカバーするのかを真剣に検討する。 ・石油由来の製品全体が値上がりするのだから、中小零細企業が一人孤軍奮闘 しても、できることはしれている。仕入れ元の企業から値上がりの通知が来て も、交渉の余地はほとんどない。発注してくれる得意先にも事情はわかるはず だ。止む無く値上げの交渉をせざるを得ない。いくらくらいの値上げで妥協す るかは思案のしどころだ。得意先ごとに忖度、斟酌するか。一律に差をつけな いで均等公平にするかは経営者の考え次第だ。悩むところでもある。考えるべ きは、この第三次オイルショックが収束して、平時に戻ったとき、戻りつつあ るときに、値段などをどうするかだ。これは代表者の腹の括り方次第だ。この 時点で、仕入先、得意先との関係性が変わる可能性がある。悩むところだが、 いい機会だと割り切って、思い切って手を打つべきだろう。