**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1146回配信分2026年04月13日発行 金融機関は貴方の企業の事業内容はわかっていない 〜金融機関の担当者は事業内容が分からない〜 **************************************************** <はじめに> ・前々号で金融機関の担当者が融資先企業の事業内容がよくわかっていないこ とが多いと書いた。異論、反論のある金融機関の方もこのメールマガジンの読 者におられるかもしれないが、現実はこれに近いはずだ。昔は、金融機関の担 当者も足しげく企業に足を運んだ。経理の事務室に上がり込み、雑談をしばし 交わし、経理担当者とコミュニケーションを図った。バイクで訪れて、集金を して、黒い大きなカバンに現金や小切手、手形を受け取って、バイクの前のカ ゴにカバンを投げ入れて支店に戻った。この何気ない日常の会話、事務所の空 気、雰囲気で企業の実態がよくわかる。社長に会わなくても、偉い人に面談し なくても、その企業が何を考え、今後どういうことにおカネを使おうとしてい るのか、よく分かった。 ・ところが、昨今はまず外回りの営業担当者が極めて少ない。小さな支店だ と、1名か2名くらいだ。1人で50社以上を担当するのだろう。単に預金集め や融資の案件に限らない。政府補助金の案内に始まり、保険や証券商品への勧 誘、住宅ローンなどの個人融資、子会社が扱う商品、リース事業や人材派遣事 業の案内など、非常に多岐にわたる。地元の某信用金庫のポスターを見ている と、預金残高に占める融資残高の割合は6割前後しかない。1億円預金を集め ても、事業に対する融資は6000万円ということだ。では、それ以外の集めた預 金はどうなっているのか。それは、国債などに投下されているはずだ。日本政 府が発行し、日銀が引き受けた以外の国債などを買い込んでいる。安全な資産 だ。利息も結構つく。 ・金融機関が以前ほど預金を集める活動をしなくなったように感じる。従来 は、賞与時期や4月新年度などには、必ず預金獲得キャンペーンなどを行って いた。しかし、それも所属する支店の周辺環境で、業務内容が大きく異なる。 住宅地にある支店なら周辺に企業がない。商店街なら、小規模なお店ばかり だ。逆に、工業地帯にある支店なら周りは工場ばかりだ。しかし、本社は別の 場所にあるかもしれない。工場には出納の担当者はいるが、財務の担当者はい ない。地方の駅前の支店では、またお客さんの層が異なる。このように金融機 関と言っても、所属する支店の置かれている環境は千差万別だ。配属された支 店での業務は大きく異なる。企業への事業性融資を担当し、審査する機会は意 外に少ないだろう。事業内容が分からないのも無理はないか。 <とにかくいろいろ忙しい> ・融資先、得意先の決算書、試算表などの資料はあるが、ほぼそれ以外の事業 内容に関する資料はない。昨今ではホームページがある企業は多いが、それも 差しさわりのない情報しかない。従業員数や売上高などが書いてある事例は少 ない。決算書も当然年に一度しか入手できない。代表者の1年間の事業内容の 推移を聞いても、ぴんと来ない。最近では、さらにその決算書を機械に通し、 スキャナーで読み込むと、たちどころに立派な帳票、資料が自動的に作成され る。AIが分析までしてくれて、担当者はそれを読むだけだ。全く事業の実感が ない。また、経済産業省がガイドラインとして作成したローカルベンチマーク という指標もある。売上高の増減、営業利益率などの推移をみる。レーダー チャートまで自動的に出てくる。 ・自分自身で数字を入力しないで、スキャナーで読み込ますだけだ。結果はた ちどころに出てくる。時間はかからないし、手間もかからない。しかし、出て きた結果に対する実感がない。他人が作った数字の表をもらったのと同じだ。 以前は決算書や試算表の数字を自分でエクセルの表に入力していた。自分で数 字を入力すると、おかしい部分に必ず気が付く。以前と勘定科目や項目が変 わっている場合もある。異常な数字が記載されていたら、必ずそこで立ち止ま る。しかし、スキャナーで読み込んで、表が自動的に出てくると、眺めるだけ になる。自分で考えることをしなくなった。大きく異常値があれば、流石に気 が付くだろうが、微妙な数字の変化は見過ごすことが多くなった。なにより、 時間がない。担当する業務が多く、いちいち立ち止まれない。 ・以前なら融資先、得意先の企業にお邪魔する頻度、時間もそれなりにあっ た。社長にたまにお目にかかって、最近の業況などのお話しを聞く時間もあっ た。しかし、最近では受け持ちの企業数が倍になり、いちいち細かく見ている 時間がない。気が付かない子細な変化を見落とすことが、しばしばある。あ れ、おかしいな、と感じても、時間がないからそのままやり過ごす。本当な ら、経理担当者に電話でヒアリングし、もう一度訪問して確認する必要がある が、そこまで手をかける時間がない。作成しないといけない稟議書、提出しな いといけない社内書類などが山ほどある。支店に戻ってやることが多い。残業 は制限されているので、退社時間は守らないといけない。とにかく時間がない ので、きめ細かい仕事にならない。 <皆目見当がつかない事業もある> ・小売業、卸売業は、まだ実態がよくわかる。分からないのは、製造業とサー ビス業の一部だ。製造業は、製造している製品、部品に馴染がない。原材料 も、文系の自分には縁遠い。製造する機械も、全く分からない。何がすごいの か、この企業の強みはどこにあるのか、皆目見当がつかない。何度聞いても、 馴染みのない専門用語が飛び交うので、次第に話題を避けるようになった。ま して、現場に足を踏み入れたこともない。少し離れた場所にある工場現場を一 度見てみたいと思うが、なかなか切り出せない。決算書や試算表は、都度きち んともらっている。しかし、数字だけの書類では、企業の実態は見えてこな い。業績もそんなに悪くないし、融資に対する返済もきちんとできている。表 面的にはなんら問題はない。 ・サービス業でも、美容院や料理店などはよくわかる。日常使う消耗品を扱っ ていれば、売っている商品に親近感がある。しかし、同じサービス業でもソフ トウエアのプログラミングを行なっている企業などは、そもそもやっている事 業自体が皆目見当がつかない。その製品での売上の金額がぴんとこない。投資 に対する償却もよく分からない。製造原価は、ほぼ人件費=労務費だけだ。そ の他の経費も地代家賃などで、大きな経費はほとんどない。付加価値に占める 人件費の割合が労働分配率だが、それが異常に高い。費用のほとんどは人件費 に該当するものだ。これだけの売上、収入を作るのにこれだけの人員が必要だ という理由が分からない。そういうものだと言われればそうなのだろうと、納 得するしかない。 ・京都によくあるバイオ系の企業やベンチャー的な企業となると、もっとわか りにくい。事業内容の説明を聞いても、ちんぷんかんぷんだ。むしろこういう 企業は融資より、投資だろう。支店の担当者が判断できる限界を超えている。 本店の特殊な部署で担当してもらうのが正しいだろう。そう思うと、自分の担 当ではないと思ってしまい、何を聞いても頭に入らない。そもそも出てくる専 門用語が難しすぎる。文系の自分には最も苦手な分野だ。たまたま担当として お鉢が回ってきたのだが、運が悪かったとしか思えない。早く異動転勤して、 担当から外れたほうがいいと思うと、案件の中身を理解しようと身が入らな い。投資に対するリターンは当分見込めないから、これは金融機関としては別 の扱いになる案件だ。支店の担当が受け持つ案件ではない。 <短期間で異動を繰り返す> ・30年前と経済環境、社会環境が様変わりした。人口減少などという言葉は、 当時はなかった。ITやAI、ECやSNSというキーワードもなかった。WEBサイトと いう言葉が、ようやく社会で認知された時期だ。インターネットが普及し始 め、ISDN回線から光ファイバーに徐々に切り替わった。通信速度がダントツに 早くなり、動画の配信というビジネスが始まった。レコードからCDへ、CDから デジタル配信のダウンロードへと変化した。紙の印刷物が徐々になくなり、 PDFからクラウドサービスに変わりつつある。金融機関も窓口を縮小しつつあ る。ATMもどんどん減らし始めている。紙の通帳の発行も有料になった。個人 の新規口座の開設も、どちらかといえば嬉しくないようだ。口座のメンテナン スにはコストがかかる。 ・企業数は、そう大きくは変わっていない。大企業の割合は依然として少な く、中小零細企業が大半だ。地域金融機関の得意先は、メガバンクが相手をし ない地元の中小零細企業が融資先で、そのほとんどが売上30億円未満、従業員 100名以下だろう。設備投資の金額も1億円未満が大半だ。社長以下、数名の 役員で経営を切り回している。たまに、新進気鋭の若手経営者が経営する業歴 の短い企業があるが、そういう企業の事業内容は比較的わかりにくい。カタカ ナ系の専門用語が飛び交う世界だ。実態がつかめない事業内容で、事務所に出 向いても、決算書の資料を見ても、業歴も短く、何回聞いてもよく分からな い。支店の中の先輩社員に聞いても、有益なアドバイスをしてくれる人はほと んどいない。自分では限界を感じる。 ・そうしているうちに、同期の仲間が一人、二人と退職していく。入社後3年 間で3割の同期生が退職した。後輩も入ってはくるが、後輩の面倒をこまめに みるほど時間の余裕がない。勉強しないといけない領域はどんどん拡がる。取 得しないといけない資格も多くある。語学の勉強は自主的にしないといけな い。そうしているうちに、配属されて3年目で異動、転勤の辞令が下りた。一 週間以内に次の配属先の支店に異動する。引継ぎの時間はほとんどない。次の 担当者と同行し、経営者に面談できる企業は少ない。事業内容を口頭で簡単に 説明できる相手先は限られる。支店長も、代理も、次長クラスの幹部も同様に 異動、転勤がある。これで得意先企業の事業内容を、よく理解せよと言う方が 無理だろう。これが実態なのだ。