**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第1147回配信分2026年04月20日発行 税理士事務所は企業のかかりつけ医ではない 〜試算表・決算書を正しく作成するのがミッション〜 **************************************************** <はじめに> ・税理士事務所は、その企業をどう判断していたのだろうか。過去5年続けて 赤字決算だった。それも、特殊な要因の赤字ではない。主たる事業がじり貧に なり、事業の転換がうまくいかなかった。少しは新しいことも始めたが、準備 不足や運営の不備があり、ことごとく失敗に終わった。すべて経営者の責任と も言えないが、それでも5年続けて営業赤字なら、これはやはり抜本的に見直 さないといけないだろう。しかし、赤字補填の融資は続けて承認された。しば らくは担保物件もあり、保証協会の保証枠もあった。メガバンクは融資から 徐々に退いたが、その分地元金融機関が面倒を見てくれた。税理士事務所の担 当者、責任者も何も言わず黙々と試算表や決算書は作成してくれた。大きな赤 字の数字が並んでいたが、何のアドバイスもなかった。 ・決算書ができる少し前に、顧問税理士が会社に来て、決算内容の簡単な説明 はしてくれた。その時点でも、決算の説明は、売上の昨年対比、経費内容、消 費税の納付金額の説明に終始し、事業内容、財務内容の問題点の指摘などは一 切なかった。ないので、代表者の乏しい知識では質問もなく、簡単に説明は終 了し、代表者は申告書に押印した。後日、法人税や消費税の納付書が送られて きて、法人税は均等割り分だけだから、すぐに納付できたが、消費税は高額に なり一括で納付できなかった。止むを得ず、交渉し分割払いにしてもらった。 そのうち、毎月の給料の支払いも厳しくなり、社会保険料の滞納も始まった。 自身の役員報酬は、自宅の住宅ローンの残債がまだ多額にあり、削減すること はできないので、そのままだ。 ・通常の事業活動で、理由にも依るが、2年続けて営業利益の赤字はイエロー カードが1枚出る状態だ。3年続けて営業赤字になれば、普通その事業の存 続、継続は難しいと考えるのが常識だ。この企業は5年続けて営業赤字だった のだが、なぜか事業活動は継続できた。ひとつはコロナ特別融資があった。さ らに多くの補助金や助成金、家賃補給金など、支援メニューをフル活用し、莫 大なおカネがもらえた。それが事業の改善に使われず、それまでの赤字補填や 未払金の穴埋めに使われた、相当多額のおカネが政府や自治体から入ったが、 結局どこに消えたのか分からない。コロナ融資も、あっという間になくなっ た。砂漠に水を撒くごとく、消えてしまった。しばらくコロナ融資の返済はな かったが、昨年の4月から徐々に始まり、もう返済は難しい。 <要求しないと何も出てこない> ・従業員にはこの間の資金的な事情は、全く分からない。ただ、数名の従業員 がこの2年間で職場を去った。全員、中途採用だから人の出入りは結構ある。 なので、入社、退社があってもあまり気にしていない。さすがに経理を担当す る奥さんだけは、この間のおカネの事情は逐一把握しているので、月末を迎え ると胃が痛くなる。20日を過ぎると、仕入の支払い、給与資金の準備、月末の 経費支払いなどで、台所は火の車だ。自分たちのさほど高額でもない役員報酬 は一時的に未払にして、翌月の大口売掛金の入金でようやく払うことができ る。毎月、この繰り返しだが、さすがにこれはもう続かないと、夫の代表者に 意見をした。しかし、代表者はご機嫌が悪く、アドバイスや意見にも耳を傾け なかった。案の定、月末の支払いに行き詰まった。 ・仕方ないので、虎の子の個人の預金を取り崩し、何とか穴埋めした。おそら く、今回の補填分が戻ってくる可能性は、極めて低い。年齢的に老後を考えた 資金ストックだったが、かなり減ってしまった。代表者や自分の年齢から考え て、後継者のことが気がかりだが、候補者はいない。娘二人はもう嫁いで孫が いる。娘の二人の夫は大企業のサラリーマンと公務員なので、自分たちの商売 を継いでくれる可能性は皆無だ。従業員も、最近の売上実績などを知っている し、ボーナスも満足に払えていない現状を知っているので、まず難しいだろ う。現状の多額の借入金を肩代わりして、事業を譲り受けてくれる知り合いが あるだろうか。ないだろう。そう思うと、このまま続けることがいいのか、疑 問が湧いてくる。事業の継続に疑義がある。 ・税理士事務所からは、何も言ってこない。問い合わせや質問がないと、何の 反応もない。金融機関に提出する必要がある場合、遅くれての試算表をリクエ ストすれば、数日後に試算表は届けてくれる。しかし、この数字が経営の実態 を表しているのか、ぴんと来ない。金融機関に提出が義務付けられているの で、提出はするもののこれがどのように評価され、今後の返済などにどう影響 するのか、非常に不安だ。現在は、返済停止中で利息のみの支払いだ。約定で は、半年ごとに返済停止を見直すことになっている。延長の都度、保証協会の 追加の保証料の支払いがある。過去の分とある程度相殺されるが、新しく払う 追加分が意外と多額でびっくりする。元金の返済がないので、支払う利息は一 向に減らない。もう、累計で相当額の利息を払っている。 <企業のかかりつけ医ではない> ・3月末に決算を迎え、5月連休明けくらいには決算書ができるだろう。同時 に、赤字だから均等割りの法人税と消費税の納付書が回ってくる。均等割りの 法人税は7万円前後で済むが、消費税はそうはいかない。現状の事業規模なら 数百万円になる。前期は、この消費税が納付できず、延滞したので数回の分割 払いにしてもらった。延滞税は初犯なので、免除してもらったが、今回の分割 払いをさらに延滞すると14.6%の法定利息がかかる。このままの事業内容で は、今後業績が大きく挽回できる目途は立たない。と言って、大きく変えるに はリスクが高い。結局、この赤字の期間、何も変わっていないことに気がつい て、愕然としている。どうして顧問税理士や担当の税理士事務所から有益、有 効なアドバイスがなかったのか。 ・素直にこの疑問をぶつけてみたが、意外な答えが返ってきた。曰く、税理士 事務所の役目、役割は税金の計算を間違わないこと、正しいこと。そのための 決算書であり、試算表なのだ。決算書の内容にいちいち悶着をつけることはし ない。前年同月と比べて、増えたか、減ったかは自動的にコメントがつくが、 それくらいだ。企業の経営は経営者に委ねられているのだから、その経営内容 にいちいちクレームをつけ、アドバイスをすることは税理士事務所のミッショ ンにないと。これは意外だった。当方の誤解があったのか。当然、毎月の経営 数字を見てくれているという立場なので、経営内容に関しても理解されている こととばかり思っていた。しかし、そうではなかった。つまり、誰も経営数字 の精査をしていないということだ。 ・税理士事務所は、いわば、企業の「かかりつけ医」だと思っていた。月次の 試算表が定期診断の結果であり、血液検査の結果であり、年に1回の決算書が 精密検査の結果だと思っていた。健康診断で異常数値が見つかれば、さらに精 密な検査があり、産業医や保健師の指導がある。その指導通りにするかしない かは別にして、少なくともこうしなさい、こうしないといけませんよ、という 指導、指摘はある。ところが決算内容が判明しても、数字の説明はあるもの の、こうなりました、こうなっていますというだけで、意味、理由、分析、原 因の推定、改善の方向などのコメントは機械的には出るものの、税理士個人と しての「かかりつけ医」としての診断、所見はない。辛口のコメントをする と、まずいと思っているのだろうか。 <決算書作成の作業をしているだけ> ・AIの技術が進化するに伴い、将来なくなる職業のひとつに税理士業務が以前 挙げられていた。確かに金融機関でも決算書をスキャナーで読み込めば、たち どころに多くの財務諸表数字やレーダーチャートが出てくる。税理士事務所も 同じだろう。領収書や多くの帳票を読み込ませれば、そのまま仕訳ができて試 算表が完成し、最終の決算書もできるだろう。過去との対比で、増減のコメン トくらいは朝飯前だ。ソフトを買えば、自社でもできることに早晩なるだろ う。決算書も自動的に出力され、税金の納付書作成も可能だ。勘定科目の仕 訳、資産と経費の分かれ目など、多くの課題はあるが、解決できないことでは ない。むしろ、社内の経理担当者のレベルが問題になるか。簿記の資格くらい は取っておいて欲しいことになるだろう。 ・そう考えると、数字を見て経営の中身を考えることは、社長、経営陣の最大 のミッション、仕事になる。以前からもそのはずだが、税理士事務所からも何 らかのサジェッションがあると勘違いしていたフシがある。それは、実は誰 も、どこからも、ないのだ。自分自身で数字を見て、その信ぴょう性、妥当 性、異常値かどうか、変化の推移、どのような兆候や症状の前兆か、などを考 えないといけない。実は、これをするには一定の時間、余裕、知識、経験など が要る。また、将来をみた視点からの判断が必要だ。どこに投資をするか。ど ういう人材を採用するか。営業の方式はどう変えるのか。ITやAIをどう活用す るのか。考えないといけない課題は山ほどある。過去の数字を冷静に見つめ、 経営環境を見通し、仮説を立てることが大事だ。 ・すべての税理士さんがこのようなことはないかもしれない。要するに、企業 側が何を税理士事務所に求めているか、リクエストしているか。通常の税理士 業務の範囲内ならいくらの対価、それ以上ならいくらの対価、というおカネの 問題か。税理士業務を依頼する際に、よくこの辺りをすり合わせ、合意してお くことが必要か。委嘱してみて、うまくかみ合う場合と、かみ合わない場合が あるだろう。企業側の一方的な思い込み、誤解もあるかもしれない。税理士さ ん個人の考え方もあるだろう。経営面に立ち入ることが大事だと思っている人 と、それは税理士業務の範疇外だと割り切っている人もあるはずだ。しかし、 「かかりつけ医」と考えるなら相応の診断、所見、分析、提案などがないとい けない。AIで代行できると考えるなら、未来はない。