□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第183回配信分2007年10月29日発行 将来の役務提供を約束するビジネスは慎重に 〜NOVAの破綻に見る未経過売上の錯覚〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ●NOVAが経営破綻した。更正法を申請したらしいが、対象者と負債の金額が多 すぎて、更正が果たしてできるか、予断を許さない。この莫大な負債を背負っ て、この事業を立て直すだけのパワーとポテンシャルがある企業が、果たして あるだろうか? 時間の猶予は1ヶ月ばかりと聞いている。 ●特に、役務サービスの提供をビジネスにしていると、金銭感覚が狂うのだろ うか。筆者も、以前に勤務していた出版社企業で、多少似たような経験をして いる。将来の数年間にわたるサービスを提供することを保証して、先に一定の 金額をいただく。当然、将来にわたり提供する責任が生じるが、本当に、3年 先、5年先にどうなっているのかは、不透明なところもある。 ●設備投資に資金が要るのは分かるが、役務の提供には形が定まらないものが 多い。形が決まらないと、具体的な投資の内容が決まらない。世の中はどんど ん変わるから、一元的なサービスは、すぐに陳腐化する。だから、おいそれと 大きな投資ができない。約束した役務サービスをすべて完全に履行するには、 大きなリスクが伴う。また、3年先、5年先に終わってからの継続更新も、問 題になる。 ●これが国家単位であるのが、年金問題だ。20歳くらいから年金をかけだし て、65歳から受給するという、気の遠くなるような将来における役務の提供 を保証する制度である。医療保険や健康保険は、いまいまの病気や疾病、ケガ などへの負担と給付だから、まだ、分かりやすい。年金は、一定の高齢になら ないと支給がないから、余計に分かりにくい。 ●将来の役務の提供を約束し、費用は将来にわたり発生するが、代金はおおむ ね先行して入ってくる場合が多い。経理上は前受け金扱いになり、まだ提供し ていない役務に対するお金は、売上に計上できない。売上は役務が履行され て、初めて売上になる。現金はあるけど、売上にはあがらない。 ●損益は悪くても、現金が先行して入ってくるから、一見、資金繰りは楽に感 じる。PLは赤字でも、CFは大きくプラスになる。かなり大きく資金繰りに寄与 する。本来は、将来に対しての役務の提供保証をしているのだから、後の費用 のためにお金を取っておかなければいけない。ところが、現実は、なかなかそ うはいかない。 ●以前成岡が担当していた事業は36ヶ月の期間にわたり、役務を提供すること を約束する商品=サービス=役務の提供だった。開始時点から、3年先までの 間のリスクを背負って、代金は先払いである。かなりリスクの高いビジネスで ある。しかし、利益率も高い。CFには大きく貢献する。しかし、売上は経過し た分のみである。 ●どうしても、手元資金に余裕が出てしまう。それを将来のための特別会計だ と考え、手をつけないのならいいが、悲しいかな、資金繰りに余裕がないと、 目先の運転資金に消えてしまう。そうなると、悪循環に陥り、そのうちに資金 が枯渇する。これを解消するには、新規に出店して、新しい市場=顧客=生徒 から調達する。 ●おそらく、想像だが、その繰り返しだったのだろう。なので、全国に教室を どんどん展開していった。資金繰りとのマッチレース、追いかけっこになる。 限りない消耗戦であり、終わりのない戦いだ。当然、体力が落ちてくると行き 詰る。誰がどう考えても、分かるのに。そんなことは、本来あり得ない。あり 得ないが、あり得ないことが、起こるのが世のなかだ。 ●信用を築くのは気の遠くなるくらいの時間がかかるが、なくすのは一瞬だ。 食べ物製造業が、最近の偽装では目立つが、他の業種業界でも、似たようなこ とはあるはずだ。公にならないだけのものもある。姉葉事件以来、構造計算の 精査が厳しくなり、時間がかかり、建築物の認可が滞り、資材の発注が激減し ているという。 ●経営不振には、必ず何らかの原因がある。事前に、症状と兆候が出ている。 それを見落としている。あるいは、軽く見ている。他人事と思っている。人ご とと思っている。自分には関係ないと思っている。役員が複数いたり、管理職 がそこそこいると、誰かは気がついている。しかし、トップが裸の王様になっ ていると、そのアラームがトップに認識されない。 ●いや、ときには、うるさいことを言うなと、一喝されて終わりになる。そう なると、誰も、現場で起こっている真実を言わない。モノ言えば、唇寒し、で ある。これが、慢性化したり恒常的になると、危険な状態に陥る。そして、そ のうちに、危機的状態になる。NOVAは直前まで、海外のファンドから資金調達 を繰り返していた。それが、挙げ句に、この有様だ。 ●誰が責任を取るのか。企業の倫理観はないのか。常識を疑いたくなる。勝ち に不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし。とは、楽天野村監督の好きな ことばだが、まさに経営も同じ。原因はおそらく単純で、明快だったと思う。 そして、誰もが気が付いていた。しかし、結果は逆に出た。こういう現象は、 まさに経営の現場で起こりやすい。肝に銘じるべきことだ。