□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第185回配信分2007年11月12日発行 京都駅前近鉄の取り壊し始まる 〜事業性の有無が企業の存続を決める〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ●今年2月に閉店した旧近鉄百貨店京都店(京都市下京区)の解体工事が進ん でいる。土地と建物を所有する大手家電量販店のヨドバシカメラ(東京都)が 建て替えを決めたためで、JR京都駅前のシンボルとして親しまれてきたビル が姿を消そうとしている。ヨドバシカメラは、建物が老朽化しているため、全 面改築を決めたという。 ●すでに周囲はフェンスで覆われ、内部の設備などの撤去が行われているほ か、屋上では取り壊しも始まっている。解体工事は来年3月末までの予定で、 同社はその後、跡地約9700平方メートルに新店舗を建設するが、規模や出 店者、開店時期などは「現在、計画中」(広報部)としている。 ●旧近鉄百貨店京都店は地上8階地下3階、延べ約6万5000平方メート ル。1920(大正9)年に京都物産館として建てられ、31(昭和6)年に 丸物、77(同52)年に京都近鉄百貨店となるなど、京都駅前を代表する地 元百貨店として親しまれた。この間、増改築を繰り返し、重厚でしゃれた外観 は、京都駅前にふさわしい雰囲気だった。 ●普通の百貨店とは少し趣が異なり、1階と2階の間に「中二階」というスペー スが西側にあり、食堂や歯医者さんが入居していた。筆者も昔、その歯医者に 通院していたことがある。また、画廊風のギャラリーがあり、単なる買い物ス ペースではない独特の雰囲気があった。一方では、旅行客が多く入店してい た。 ●近鉄時代には、6階にパソコンのソフマップが入り、一時期はかなり集客も 出来ていたようだ。しかし、他のフロアーの客数が伸びず、とうとう、その使 命を終えることとなった。大きな原因のひとつに、京都駅ビルが完成したとき に、駅の西側にできた「伊勢丹」デパートの存在が大きい。結局、この「伊勢 丹」にやられた。 ●その立地の良さもさることながら、品揃え、雰囲気、飲食街の充実、ブラン ドの選択、値ごろ感。どれをとっても、近鉄の勝ち目はなかった。さらにLサ イズ服の品揃えなど、ニッチな領域でも勝負にならなかった。この東京資本 に、永年の地元商業が敗れた。盛者必衰の理である。では、なぜ近鉄は敗れた のか。 ●まず、第一はコンセプトの不統一である。各階に有力テナントが入っていた が、店全体の統一感が感じられなかった。ターゲットも、ばらばらの思いだっ たように感じる。第二は、ブランディングの失敗。近鉄という老舗ではあった が、ブランド価値を提供することなく、中途半端なブランド訴求で終わった。 ●第三に、誰がターゲットなのかを決められないまま、終わってしまった。旅 行客なのか、一般消費者なのか?旅行客なら、南となりの京都ステーションデ パートが、いまいちぱっとしないなかで、善戦健闘している。ここは、明確に 旅行者が基本ユーザーである。それ以外は、あまり見かけない。 ●結局、消費者からの評価が受けられなかった。大きな赤字が連続していたの だろう。むしろ、いつ止めるのかに興味と関心があった。市場から評価されず に、赤字が連続するということは、事業性が極めて乏しいということだ。事業 性があって、世間から一定の評価を受けておれば、赤字が何期も連続するはず がない。 ●赤字が連続し、キャッシュフローが生まれないのは、利益が出ていないから だ。要するに、事業性がないということだ。そういう企業は、そのうちにご臨 終を迎える。もちろん、何らかの努力改善は必要だし、頑張ればなんとかなる 企業も多くある。 ●しかし、どう逆立ちしてみても事業性のない場合は、延命は難しい。むし ろ、延命することがいいかと、考えないといけない。市場は、消費者は正直 だ。少し長い目で見れば、おおむね、結果は明白だ。延命しても意味がない場 合は、逆に、いったんリセットしたほうがいい。撤退するのは、勇気が要る が、決断するのは経営者だ。 ●事業性の有無が企業の存続を決定する。規模が大きいから、存続できるわけ ではない。環境の変化に適応でき、市場からきちんと評価され、事業性を認め られた企業のみが存続するのだ。事業性が毀損し、売上が低迷してきた企業の 経営者は、真摯に問いかけることだ。決して他人のせいではない。自分自身の 問題だ。