□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第201回配信分2008年03月03日発行 次の世代へのバトンタッチは変革の大きなチャンス 〜事業承継は第二創業とイコール〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ●最近、事業承継のお話しを、よく耳にする。一口に「事業承継」というが、 中小企業にとっては、死活問題だ。簡単に、解決のつく問題ではない。大企業 なら、いざ知らず、所有と経営がほとんど分離されていない中小企業にとって は、たとえ親族に承継するにしても、大変な問題だ。これを、うまく乗り切ら ないと、とんでもないことが起こり、あれよあれよという間に、業績の低迷が 始まり、事業継続が困難になる。いったん、この負のスパイラルに入ると、脱 出が難しい。 ●だいたい、30年に1回巡ってくる大きな経営課題だ。30年×3代=90年〜100 年。京都府には、「京都の老舗」企業を表彰する制度があって、既に2000社近 い企業が表彰を受けている。基準は、100年以上経営が継続していること、創 業の理念に基づき経営がなされていること、きちんと会社や組織として継続さ れていること。残念ながら、準備が出来ていなくて、突然の経営者のトラブル や急死で、崩壊した企業も多い。 逆に、100年以上続いていることは、すごい ことだ。 ●100年以上続く最大のポイントは、事業をどううまく次世代に承継していく か。いや、承継していける環境を作れるか。見た目では、親父から長男へのバ トンタッチの場合、そうややこしくないと思われるかもしれないが、世代間の ギャップは予想以上に大きい。親子というと、20年から30年くらいの年齢差だ から、ものの考え方が、圧倒的に異なる。議論はかみ合わないし、親父はいつ まで経っても、役員というより、親子というフィルターでものを見る。 ●この、事業承継という問題は、なかなか、従業員や親族以外の役員からは、 切り出しにくい問題なのだ。特に、親子で承継するとなると、意外と心底、腹 を割って話していない。まして、ここに、兄弟やそれ意外の親族が絡むと、大 変複雑な様相を呈することになる。兄弟に夫や妻が存在し、またその子供達が 従兄弟同士で存在すると、話しは非常に複雑になる。もつれた糸を、ゆっく り、ゆっくり、ひとつひとつ解きほぐす。非常に我慢強い忍耐の要る作業だ。 それに、遺産相続などの財産分与や財産承継などが加わる。 ●徳川御三家という仕組みは、非常によく考えられた将軍職の承継システム だ。適切な嫡男がいないときには、傍系の御三家(紀州、水戸、尾張)から後 継者を選抜する。8代将軍徳川吉宗は、紀州から選抜されたのは、有名な話し だ。そして、吉宗が優秀だったので、改革が始まり、徳川時代の栄華が、さら に発展した。ときとして、一軒おいた隣からもってくることが、非常に効果的 なことがある。これは、その典型例なのだ。 ●とにかく、家督を相続するという観点ではなく、事業を、会社を、ビジネス を、どう後生に引き継ぐが、大事だ。まず、経営者は、代表になった途端に、 次の後継者のことを考える。誰もが、長男が後継者と思っていても、意外と本 人にその気がないことも、ある。 長期の借入金を組む場合でも、10年先、20 年先などとなると、この社長さんの次は、いったい誰が会社を切り盛りしてく れるのだろうかと、金融機関は不安になる。至極、当然な話しだ。 ●血統の継続には、混血が好ましい。アメリカは移民の国であり、いろいろな 血統が混ざり合っている。だから、強い。 日本は、比較的純粋培養で育って いる人が多いから、外国などで、ぽんと掘り出されると、非常に不安を感じ る。またそれが、ストレスになる。競馬のサラブレッドと同じで、ハイブリッ ド=混血が血統を活性化させる、素晴らしい方法なのだ。血統がうまく混ざる と、非常に強い。代々、継続している企業で、純粋な世襲で来た企業などは、 ほとんどないはずだ。 ●そして、家憲や家訓には、はっきりと、必ずしも血統の継続を要しないと、 明記されている。出来の悪い息子がいる場合は、外に投げ出すようにと書いて ある。大企業でも、一族を完全に排除して、立派に事業承継されているところ も、多い。自動車のホンダなどは、社名に創業者の苗字がなされているくらい の家業から始まった企業だが、社内では部下の仲人すら、してはいけないこと になっている。派閥ができることを、極端に嫌うからだ。 ●母親が判断を間違う場合も、多い。うまくいかなかった例も、枚挙に暇ない くらいある。長男より、姉に養子をもらって承継させたほうが、よほど正解 だったのに、というケースも、ざらにある。しかし、そのときは、そうは思わ ない。誰もそういう風に思っていても、切り出せない。まして、母親が必死に なっていると、もう、どうしようもない。それくらい、同族、親族間の承継で すら、難しい。選択肢が少ないときは、余計にプレッシャーがかかる。 ●ここは、冷静になって考えるのが、一番だ。思い込みはいけない。他に選択 肢はないか。もし、そうするなら、今から何を準備するのがいいのか。どうい う経験を積ませばいいか。可愛い子には旅をさせよ、とはわかっているが、本 当に厳しい旅をさせていない。ぬるま湯の旅が多い。大学を出て、大企業に数 年間いたくらいでは、世の中の厳しい環境は、分からない。修羅場を経験して いない。大きな意思決定の場で、責任持った回答をしたことが、ない。 ●そして、お金の心配をしていない。資金繰りは、親父の責任範囲という、非 常に恵まれた中での承継が多い。個人保証の問題があるから、金融機関も、お いそれと、次の代表者に保証をということが、簡単にできない。お金の心配が ない、経営など有り得ない。経営には、利益より収支が大事なのだ。その収支 を、ほとんど責任逃れていては、本当に会社を切り盛りしているとは、言い難 い。では、どうすれば、本当の事業承継ができるか。 ●随分前から、時間をかけて、あらゆる重要な場面、場面に一緒に立ち会う。 そして、重要な意思決定の背景を、とくと教える、伝える。なぜ、こういう判 断になるのか。ここで、一番大事なことは何か。優先順位は。リスクの対策 は。次善の策は。こういう、至極日常当たり前に経営者の方がやっていること の、基本を順次体得するまで、きちんと伝える。落語の師匠と弟子のように、 阿吽の呼吸ではいかない。極めて、ロジカルに対応する。 ●そういう経験を順番に、地道に積み重ねると、自然と判断の基準が出来上が る。企業の、風土や空気が理解できる。ものの価値判断の基準が明確になって くる。そうならないと、本当の意味での経営の中心軸が分からないし、また、 分からないまま承継しては、いけない。理解はできても、わかっていても、出 来ることとは違う。出来るようになるまで、仮免許でもいいから、厳しい環境 での判断の経験をつむしかない。そうやって、成長した企業は、こつこつと承 継してきた。そして、100年以上継続している。