□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第211回配信分2008年05月12日発行 経営者必ずしも事業家ならず 〜局面ごとに異なるスキルが求められる〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ●新規事業の立ち上げとは、なかなか難しいものだ。まだ、本業に関連した新 規事業ならいいが、これが本業とかなり遠くに位置する事業だと、その困難さ は想像に難くない。筆者も前々職の出版社のときに、いくつかの新規事業の立 ち上げを担当したが、かなり難航したものが多かった。中には、本当に無謀と 思えるようなものもあったが。 ●我々診断士は、どうしても評論家になりがちなので、あまりリスクの大きい ビジネスへのいきなりのチャレンジは、お勧めしない。やはり、本業の周辺 で、今後有望で、かつ、ニッチな領域で、また、まだ誰もがあまり手をつけて いないもの。そして、その企業の強みが生かせるもの。顧客がスイッチするコ ストが高くつくもの・・・・。そういう常識的なことを考える。 ●また、投資とリターンのシュミレーションも重要だ。入るを厳しく、出るを 多目に計算して、収支のバランスを計算する。どうしても、当事者が計画を作 成すると、その辺が甘くなり勝ちだ。公的機関のシュミレーションは、だいた いこれが原因で破綻するケースが多い。ばら色の未来を、どうしても描きたが る。悪いとは言わないが、自分で保証し、自分の責任でやるなら、そうはなら ない。 ●それと大事なのは、人材だ。自分がカバーできる範囲はどこまでか。自分が やるほうがいいのか、誰かに部分的にせよ、任せるか。所有と経営、執行とマ ネジメントの分離をするか。するなら、どういう人物をつれてきて、やっても らうか。それ以前に、そういう人物を探さないといけない。そんな簡単に、レ ベルの高い人材が、ごろごろしているとは思えない。 ●人材探しも、起業するときの大事なテーマだ。金や太鼓で呼んで来るならま だいいが、今からそういう人材を探すとなると大変だ。事業の企画が持ち上 がったときに、だいたいのところがイメージできていないと、その計画は絵に 描いた餅になる。企業規模が大きいほど、この人材の調達が、キーポイントに なる。 ●事業の実現可能性を検証したり、市場調査をしたりすることも、必須のアイ テムだ。なにも、時間とお金をべらぼうにかけたり、コストの高い調査会社や 広告代理店に依頼する必要は、ない。自分が疑問に思ったことを、丁寧に丹念 に、少しものの分かった人物に聞いてみる。あるいは、いくつか、本当に当 たってみる。 ●ヒアリングとかインタビューとか、言葉の遊びはどうでもよくて、本当にこ のビジネスが立ち上がったときに、想定される顧客が、どう反応するかは、事 前にきちんと調べる。また、日本人は総論賛成、各論反対が多いから、商品や サービスなら、本当に真剣に「売り」をかけてみる。そうすると、本音が聞け る。上っ面では、分からないことが多い。 ●市場が見えていても、届かないことも多い。ターゲットにリーチできない、 何らかの要因が厳然としてあることもあった。法的に不可能ということも、あ る。競合商品がないから、これは企画として楽勝と思ったら、実は対象とする 市場があまりに小さいから、競合がなかったということも、あった。とにか く、少し動いてみると、いろいろなことが分かる。 ●机上でのシュミレーションをいくら繰り返しても、現場で分かる事実のほう が、はるかに重たい。既に、継続している事業を経営されている方は、実は、 全くゼロからの立ち上げを経験した経営者とは、また、少し、マインドが異な る。平時に強いのと、乱世に強いのとでは、スキルもDNAも大いに異なる。こ れを、間違えてはいけない。 ●政治の世界では、昔、平時の●●、乱世の■■とか言われることが、よく あった。これは、確かに当たっている。ソフトバンクを、孫さんが立ち上げた とき、彼は、あるときは社長になり、あるときは会長になり、あるときは事業 部の責任者になり、いろいろと役割を変更した。その間、社長を外部から連れ てきたりした。局面、局面で、うまく役割を変えた。 ●中小企業では、そうは簡単にいかないが、そのことを知っておくことは、大 事だ。定常状態に入っている企業の経営と、何もないところから立ち上げる事 業の経営とは、全く別ではないが、やはり、相当な部分では、異なる。特に、 どんどん変化する想定外の事態に対し、意思決定のプロセスをきちんと確立し ておかないと、いけない。 ●人間誰しも迷うことは、多い。それは、必ずしも悪くない。ただ、迷って結 論を出さないのが、一番悪い。また、自分たちの見える範囲だけの情報や条件 で、結論を出すのも、リスクが高い。環境は、どんどん変化している。いま、 決めた決定も、実行に移す段階では、2年先ということもある。見えない場合 は、非常にリスクが高い。 ●やってみて、修正の利く範囲でスタートして、検証しながら徐々に拡大して いく。しかし、製造業の場合は、設備投資の関係から、そうはいかない場合も 多い。一度、スタートすると、ある程度の規模までは、行かざるを得ない。そ れなら、かなり綿密に市場調査や事前のシュミレーションが必要だ。それなし では、羅針盤なく荒海に船出することになる。 ●未知の事業をゼロから立ち上げるケースと、定常状態に入っている企業活動 をマネジメントする能力とは、実は似ているようで、相当に異なる。自分がど ちらが得手か。どちらも可能か。むしろ他の人間にさせて、所有と執行を分離 するか。対外的な格好よりも、実際のビジネスの場面で、どういう選択肢が最 善であるのか。新事業成功の秘訣は、案外、こういうところかもしれない。