□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第217回配信分2008年06月23日発行 旧態依然とした出版業界は沈没していく 〜過去の慣習を積極的にブレークする〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●以前から出版業界に身を置いていた者としては、最近の出版業界の沈没状態 を憂える者の一人だ。特に、最近書店で配本する書籍を上梓して、さらに深刻 な状態が、よく理解できた。版元の出版社にいたときと、著者として書籍を上 梓したとでは、だいぶ受け止め方が異なる。このままでは、出版業界は、沈滞 の一途をたどることは、間違いない。 ●この業界のことをご存じない方も多いと思うので、出版流通の業界のことを 少し書いてみる。書籍や雑誌を企画制作している出版社(業界用語で版元とい います)は、全国に約4,000社ある。80%が東京に一極集中している。最大手の 講談社から始まり、本当の弱小の個人企業ほどの出版社まであるが、 大半は小企業だ。2人や3人でやっているところも多い。 ●この4,000社の出版社が、書籍や雑誌を企画制作し、そのできた書籍や雑誌 を中間流通ルートで問屋機能を発揮しているのが、「取次ぎ」といわれる会社 だ。ご存知の方もあると思うが、「トーハン」や「日販」という大会社を筆頭 に10社ほどある。しかし、ほとんどの流通を、この大手2社が押さえている。 4,000社のメーカー次に2社の問屋。そして、20,000軒以上の中小から大きい書 店までが、連なる。 <どこかおかしいビジネスモデル> ●上記の20,000軒の書店には、コンビにはもちろん含まれない。いまや、雑誌 は書店よりコンビニのほうが販売数は多い。そして、最大の問題は、この流通 がい「委託販売」であるという点だ。版元の出版社は、書籍を書店に預ける格 好になる。出荷された書籍は、売れたのではなく、預け在庫として書店に置か れている。市中在庫なのだ。ここを錯覚する。 ●そして、委託された書籍は、長くて3ヶ月間、短かったら1週間くらいで書店 の店頭から姿を消す。そして、数日後に版元に「返品」として返ってくる。平 均の返品率は40%を超えているはずだ。100冊出庫して、60冊売れて、40冊が返 品となる。そして、3ヵ月後くらいに実売数で精算される。非常に気の長い話 しだ。制作開始から精算まで、相当な時間がかかる。 ●取次ぎの機能は、配本と集金、精算だ。その機能のために、相当な中間マー ジンが取られる。実際に、現時点でどれくらい実売数があるのか、非常に予測 が立ちにくい。見込み生産をすると、在庫になる確率が高い。なので、初版部 数は相当厳しくコントロールされる。少ない部数だと、とても全国の書店に配 本することは、有り得ない。 <しかし商慣習は変わらない> ●配本と精算が一体化するためには、問屋機能の集中化が欠かせないかもしれ ないが、自主的に流通さすことは難しい。返品が怖いから、版元は次々と「新 商品」を市場に流さないといけない。止まると赤字が、どっと膨らむ。なの で、どんどん本を作る。書籍の新刊発行点数は、右肩上がりで増加している。 中小の書店は、どんどんつぶれる。 ●以前に、雑誌にCDを付けて配本しようとしたら、業界から痛烈なクレームを いただいた。CDを「付録」だというのだ。付録の価値は本体の一定割合以下と いう公正取引委員会の定めがある。それに抵触するという。版元が、直販した らお目玉をくらった。何か、新しいこと、今までと違うことをやろうとする と、足を引っ張ることは、多かった。 ●そんな中、老舗の良質な出版社が潰れたり、衰退したりしているのが顕著 だ。最近では、一時時代の寵児と言われた「ぴあ」の経営が行き詰った。某大 手印刷会社の支援を受けて、再生を図るという。コンビニのセブンイレブン は、上記のような流通の旧態依然さを見て、自社のネットワークだけの専売の 書籍の制作に踏み切った。 <変えなければいけないもの> ●このままでは、一層の活字離れ、少子高齢化、ネット社会の発展などの要因 から、どんどんこの業界は沈没していく。そのためには、業界の常識を破るよ うな、当たらしい仕組みと、新しい切り口の企画、版元・取次ぎ・書店が一体 となった流通の仕組みの構築、従来の慣習に囚われないアイデアの実現が必要 だ。新しいことに取り組むには勇気がいるが。 ●過去に所属した出版社では、実はそんなに大手ではなかったから、結構斬新 なことができた。業界の常識を少し穴を開けることもできた。いま、書店で週 刊で分冊百科といわれているジャンルなどは、その類だ。価値が定着すれば、 なんということはないが、そこまでには様々な抵抗がある。抵抗勢力もいる。 アゲインストの風が吹く。 ●少々の軋轢は、どんなときでもある。それも、当初の計算のうちだ。少しの 反対で、矛先を収めるなら、初めからやめたほうがいい。どんなことをしてで も、やってみせるという、意気込みがなければ、岩に穴は開かない。時代の変 化は、そういう気概をもったところから、急激に始まる。旧態依然といている からこそ、穴を開けるチャンスは大きい。リスクも大きいが、リターンも大き い。