□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第235回配信分2008年10月27日発行 東大阪ものづくり中小企業レポート 〜社長の熱い想いをいかに承継していくか〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●恒例の?年1回のIT経営塾勉強会工場見学会は、10月25日(土)に東大阪市の 上田合金株式会社を訪問。総勢14名の団体で見学に訪れ、そのべたべたの中小 企業のものづくり現場の現実を、あますところなく見せていただきました。こ の会社は、日経新聞などにも紹介された、知る人ぞ知る有名な企業です。中央 線高井田駅徒歩10分の東大阪ものづくり街のど真ん中です。 ●参加を募ったところ、総勢15名の応募があり、当日地下鉄高井田駅の改札口 に9時50分に集合。車でお越しの1名を除き、全員時間厳守で集合。参加者の 紹介もそこそこに、徒歩で10分ほどの上田合金さんまで歩きました。周囲に は、ねじやボルトの製造業、金属加工業、めっき業、運送業、印刷会社などが ひしめく、ものづくりタウンです。 ●到着もそこそこに、案内役の児見山(こみやま)さんから、いろいろと説明 を受けました。といっても、会議室があるようなレイアウトでもなく、会社の 前の道路に立ってのプレゼンです。道路はトラックや自動車が行き来する、結 構厳しい状況です。鋳造とはどういう技術か、鋳造で製造した製品はどういう 特性があるのか、古代の鋳造の鏡はどう作られたのか・・・。 <10K職場といわれる鋳造業> ●一通りの説明のあと、工場の内部を見学しました。まず、熱い。暑い。一番 奥には、1200度の高熱で、原材料を溶かす「るつぼ」が鎮座しています。重油 を燃やして、1200度に加熱し、そこに原料のインゴット(銅と鉛などの合金の 塊)を投入し、溶融します。そこから、溶けたインゴットを斜めに傾けて、バ ケツのような入れ物に受けます。重さ想定40kgくらいか。 ●ベテランの職人さんは、苦もなくバケツに入れて、それを鋳造物の型に流し 込みます。熱い、重たい、危ない、しんどい。型枠は、中心に製品の空洞があ り、その周囲を砂と特殊な粉末で硬く固め、木枠で囲った鋳型です。そこに ゆっくり、かつ、一定の速度で流し込みます。ここが職人技の真髄。速くもな く、遅くもなく、この速度がベテランの技です。 ●10Kとは、全部分かりませんが、危険、きつい、汚いという「K」がつくフ レーズが並ぶ職場です。それに、熱い、危ない、朝早い、冬は寒いなど、ネガ ティブなことばのオンパレードです。職人さんは10人以上でしたが、みなさん ベテランで、苦もなくやっていますが、さて、これを毎日やってみろと言われ ると、果たして続くかな・・・、と疑問を持ちます。 <本当の東大阪のものづくり> ●上田合金の社長さんは、その技術の高さから多くの表彰を受け、マスコミに も多く登場する「東大阪の鋳物師」と称される、ものづくりの象徴みたいな社 長さんです。古代史に出てくる、銅鏡、銅鐸などのレプリカの製作や復刻もて がけ、知る人ぞ知る「鋳物師」です。70歳くらいとお見受けしましたが、現場 に立つと、それは大きな存在に感じます。 ●製品の用途は、船舶の原動部分に使われる鋳物合金の特殊なバルブの中心部 分が主たる用途です。以前には、需要ももっと多くあり、東大阪では中心的な 存在でした。それが、社会環境の変化から、現在では大きくその需要が減少し ています。それだけに、今後の事業の継続には相当な努力が必要でしょう。事 業承継も非常に厳しい環境とお見受けしました。 ●こういう企業が、この周辺には山ほどあります。話題の橋下知事もここに見 学に訪れたそうですが、現状は何も変わらない。TVでも新聞でも、その技術力 の高さは、何度も紹介されたのに、環境は全然変わらないそうです。結局、自 分で努力するしかない。従業員も、日に日に高齢化し、かといって自動化もし にくい作業です。人のカンに頼るところも、多い。 <今後に期待> ●大きく利益が出る業種業態でもない。しかし、だからといってこの企業が事 業承継できなくて、事業の継続が困難になると、間接的にいろいろなところ に、障害やひずみが出てくるでしょう。代替の企業がまったくないとは言えま せんが、微妙な技術や細かいノウハウの伝承は非常に難しい。まさに、今後、 日本の製造業が直面する課題が、てんこ盛りです。 ●かなりな部分は、機械化、コンピュータ化、ITの利用活用は可能でしょう が、最後の「匠の技」の部分は、最後までIT化できません。ここが、一番の 「キモ」です。表面研磨、溶融物の流し込み、温度制御など、どれをとって も、暗黙知を形式知化にするのに、フィットしない技術です。また、製造ロッ トが完全に小部数でもなく、かといって、大部数でもない。非常に半端なロッ トです。 ●売上や利益の詳細を聞ける状況ではなかったので、それは後日になりました が、決して経営的に楽ではないことは、容易に想像がつきます。また、従業員 の高齢化も、今後当然ながら進むでしょう。そして、昨今の金融危機。周囲に 難題山積ですが、社長の熱い情熱、ものづくりにかけるパッションは、ひしひ しと感じます。こういう企業が、何とか円滑に経営でき、継続できる環境を作 らねばと、感じました。