□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第239回配信分2008年11月24日発行 内向きの合意形成という無駄なエネルギー 〜営業を市場ではなく社内に向けて行う愚かさ〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●以前に、社内営業ということばが流行した時期があった。営業を、市場や外 向きにやらずに、内向き=社内に向けて行いという意味だ。お客さんに向けて するのが営業だと思っていたら、意外と社内のコンセンサス作りにエネルギー がかかることが多い。いや、実は、市場に向けて活動する以前に、社内に向け ての活動に、くたびれている。 ●何か、新しいことや、革新的なこと、作業の改善や手法の改良など、何でも いいが、とにかく、何か新しいことが始まるときに、人間は必ず抵抗、つまり 拒否反応を示す。どうしても、何か新しい異物が体内に入ると、抗原抗体反応 が起こり、アレルギーや蕁麻疹が起こる。ひどいときには、全身に発疹が出 る。熱が出る。 ●どうしても、同じ状態でいるほうが心地よい。気楽で、難しいことを考えな くても、いい。人間とは、本来、そういう動物なのだ。摩擦や抵抗がないと、 球体は転がり続ける。運動エネルギーは、消耗することなく、どんどん転が る。昨日より、今日、今日より明日が同じであるほうが、安心だ。気楽だし、 リスクがない。本来、人間とは保守的な動物だ。 <非常にくたびれる社内営業> ●誰かが、どこかの部署や部門で、新しいことが始まるときは、必ず、まず、 社内の抵抗に会うことが、多い。いや、必ずと言っていいほど、どこかから反 対の大合唱が起こったり、足の引っ張り合いがある。ひどいときには、会議に 諮る前に、案がつぶれる。それがいやだから、発起人の担当者は、必死に社内 に向けて営業しないといけない。 ●確かに、新しい案には、どこかの部署にしわ寄せがいく場合がある。みんな 仲良く、お手てつないでというような、ハッピーなことは、なかなかない。ど こかの部署が割りを食う。そういうときに、猛然と社内から反発が起こる。そ の激しい反発を乗り越えるために、非常にエネルギーがかかる。野党と戦う前 に、与党内で意見調整に手間取る。 ●大学しかり、医療機関しかり。考えてみれば、日本のほとんどの組織で見ら れる現象だ。アメリカの民主党の候補者指名争いは、確かにそうだが、一度決 定したら、納得感は高い。決定後は、その結論に粛々と従う。それまで、堂々 と激論しているから、決定はスムースに受け入れられる。面従腹背が得意な日 本とは、だいぶ異なる。 <事前の根回しは日本的な慣習> ●「根回し」という、なんとも日本らしい言葉がある。よく読めば意味不明だ が、フィーリングは理解できる。事前の内部での合意形成という意味だが、本 来堂々と議論して、納得を得るより、事前に工作をして、結論は既に出てい る。討議の場は儀式と化し、時間がもったいないくらいの、不毛な討議が行わ れる。形式的な議論が続く。 ●確かに、事前に「根回し」しておけば、楽でいい。時々、事前の根回しと違 う意見を言う、奇特な人もいるとは思うが、たいていは事前に合意した結論に 従う。もっとひどい場合は、形式的な議論さえないことが多い。日本の国会な どは、この典型だろうか。日本に民主主義が育たない土壌があるのだろう。税 金で運営されている国会なのに。 ●多くの人の前で、堂々と意見を戦わすというDNAがない民族かもしれない。 議論ということ、自体が感覚的にない。意見もなければ、質問も出ない。こう いう国民性で育つと、海外に行って自己主張の塊みたいな外国人と、対等に議 論することが不得手になる。農耕民族だから、周囲の協力なしには、コメが作 れなかったからだろうか。 <社内営業より社外営業へ> ●本来、営業やマーケティングは組織の外部へ向けた活動であるべきだ。お客 様は会社の外にいる。社内にお客様がいるわけではない。しかし、なぜか合意 形成するのに、莫大なエネルギーをかけて社内に営業活動が行われる。費用は 発生していないかもしれないが、時間が莫大に消費される。これを変えるに は、トップの大号令しかない。 ●意思決定のプロセスをオープンにすればいい。根回しなどが入る余地のない 公開の場で、ものが決まる。会議を公開にして、だれでも参加できるようにす ればいい。自由に発言して、トップが即決即断する。新入社員のアイデアなど が、次々と採用される。先輩社員が困る。しかし、それが組織に活力を与え る。社内営業など、もっての他という雰囲気が生まれる。 ●基本的には、組織の風土や規範による。そんなことはとんでもない、という 雰囲気があれば、自然に社内営業はなくなる。それは、トップが作るしかな い。そもそも、自社のお客様は誰であるのか、という基本的な命題が明確に なっているか。内部の合意形成にかけるエネルギーを、少しでも外部に向けれ ば、かなり結果は変わってくる。