□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第253回配信分2009年03月02日発行 知る人ぞ知る伊豆修善寺温泉花月園 〜温泉旅館が鉄道模型マニアのメッカに変身〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●小学校のころ、結構な鉄道マニアだった。いまで言う「てっちゃん」だっ た。時刻表をいつも見ては喜んでいた。あげくの果てに、鉄道友の会に入会し て、鉄道ファンが定期購読する雑誌をふたつも読んでいた。小学校の5年生く らいだったろうか。京都の河原町四条に有名なカメラ店があって、そこの3階 に鉄道模型を走らせるフロアーがあった。いつも、よく行っていた。 ●友人にも鉄道ファンがいて、ちょうど小学校の6年生のときに新幹線が開業 した。その前に、鉄道友の会の会員に特別に、新幹線の試乗会があり、たまた ま運良く抽選に当たった。鳥飼基地と京都の間を往復する試乗会だったが、時 速が200kmを超えたときには、正直興奮した。当時、テスト軌道を踏み固める のに、阪急電車が新幹線の軌道を走った。 ●京都と大阪の境界付近の島本町辺りでは、阪急電車と新幹線が併走している が、これはその名残だ。当時の国鉄の軌道は、狭軌(狭いレールの間隔)だか ら、標準軌のレールは私鉄だった。だから、新幹線のテストレールは当時の阪 急電車が踏み固めた。そんな時代だったが、新幹線が走り、名神高速道路が出 来、東京オリンピックが開催された。 <鉄道模型を走らせる> ●鉄道の模型は、おもちゃならいざ知らず、本物は非常に高価なものだ。サイ ズも2種類あり、本物そっくりで極めて精巧にできている。とても当時の小学 生のお小遣いで買える代物ではない。だから、いつも四条河原町のカメラ屋 で、もの欲しげに眺めていた。特にドイツ製の模型は精巧で、垂涎の的だっ た。先般、その会社も民事再生になったが。 ●たとえ模型を買っても、走らせる場所も、レールもない。だから、もし買え たところで飾っておくしかなかった。自由自在に走らせることができたら、ど んなに楽しいだろうかと、心が躍った。しかし、そんな場所はなかった。結構 広い場所が必要で、普通ではそんな場所はなかなかなかった。しかも、単に レールがあればいいというものではない。 ●伊豆の修善寺に花月園という旅館がある。成岡は実は泊まったことはない が、その世界では知られた旅館だ。ここのご主人も鉄道模型マニアだ。旅館自 体も古く、以前は何という特徴もない旅館だった。そして、環境の変化と共 に、伊豆の温泉への旅行客も次第に減少していく。それで、今後どうしようか と、かなり悩んだという。 <思い切って徹底してみる> ●そこで、どうせジリ貧になるなら、徹底して趣味に徹そうと、このご主人は 自分の趣味にかけた。つまり、旅館の中を大改造して、自分の持っているすべ てのレールや機材、資材を並べて一大パノラマを大広間に作り上げた。鴨居の 壁をぶち抜き、空間にレールを敷設し、そこを縦横無尽に鉄道模型が走り回っ た。写真で見ると、それは壮観だ。 ●初めは自分の趣味の世界だけだったが、クチコミでどんどん鉄道模型ファン に拡がった。宿泊した鉄道模型ファンが、本人のブログにいっぱい書き込ん だ。ブログの威力は絶大で、あっという間に多くの鉄道模型ファンの知るとこ ろとなり、全国からファンが集う場所に変身した。お客さんには、お父さんと 息子の組合わせも多いという。 ●温泉はもちろんあるが、夕食はない。近くの食事どころで勝手に食べるらし い。なにせ、大広間は鉄道模型の大パノラマで、レールが所狭しと敷かれてい る。足の踏み場もないくらいだ。宿泊客は、自分のお気に入りの模型をいっぱ い持参して、心行くまで走らせて楽しんでいる。それを、またブログに書き込 む。それを見た人が、泊まりに来る。 <自社の強みを徹底的に掘り下げる> ●たまたまのラッキーかもしれないが、中途半端にせずに、徹底的に強みを特 化することに絞り込んだ。結果オーライの側面もあるが、あれもこれもと拡げ ないのが良かった。そして、徹底的に顧客中心の思想を貫いた。当初、こんな に評判になるとは思わなかっただろうが、軸がぶれずにとことん深く掘り下げ た。これが成功のキーワードだった。 ●多くの経営資源を持たない中小企業は、間口を拡げないほうがいい。尖った 分野に特化して、徹底的に強みを掘り下げる。他社に真似できない、追随を許 さないくらい、突き抜けないといけない。中途半端ではいけない。小さい池 で、大きな魚を養殖しようと思えば、池を深く掘ることだ。決して、池の直径 を長くとらないことだ。狭いほうがいい。 ●小さい池を深く掘り、大きな魚を養殖する。三角形の面積は、底辺×高さ÷ 2だから、底辺が狭いなら、高さを広くとる。これが成功の秘訣だ。この旅館 くらい、飛びぬけると、こうやってお客さんが、他人が勝手にあそこはすごい と宣伝してくれる。自分が宣伝、PRするより数倍効果がある。一番のマーケ ティングの極意は、お客さんが営業することだから。