□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第256回配信分2009年03月23日発行 強みである企業文化を継承する難しさ 〜あの「技術のソニー」が苦しんでいる〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●1950年代の初めに、東京通信工業として創業した「ソニー」。その創業の理 念は、海外の企業に真似されないような、新しい画期的な商品開発だった。 テープレコーダーの開発、トランジスターラジオの開発、トリニトロン方式の カラーテレビの開発、そしてウォークマンの開発は、ソニー得意の新しい開発 ドラマだった。特にウォークマンの普及は、あっという間の出来事だった。 ●当時のオーディオの常識は、重厚壮大でシックな応接まで聞く、というのが 一番常識的だった。それが、いきなり再生しかできないプレーヤーで歩きなが ら好きな音楽を聞くというのは、かなり常識はずれだった。しかし、この普及 で新しい文化の礎ができたと言っても過言ではない。そして、「技術のソ ニー」という確固たるブランドが、不動のものとなった。 ●ソニーが日本の企業だということを知らずに、海外の人はソニーは日本では ない国の企業だと頭から思い込んでいた人も多い。ウォークマンの売り出しの 当初は、日本では全く売れずニューヨークに行って拡販をした。先にアメリカ の市場で火がついて、その後日本に逆輸入された。それくらい、画期的な新し い市場を創る製品の発売は難しい。 <しかしDNAは次第に変化する> ●今でこそ、電車に乗れば若い人の大半は携帯をなぶっているか、ヘッドフォ ンで音楽を聴いている。通勤のときに歩いている人のかなりの数が、イヤ フォーンで何かを聴きながら歩いている。いまや、圧倒的に歩きながら音楽や その他の音情報を再生して聴くという文化が根付いた。20年前には考えられな かったことだ。それが、いまや当たり前になった。 ●もちろん、市場の変化、特に若い人のライフスタイルの変化、女性の職場進 出、住宅環境の変化、インターネットの普及など、様々の要因がこの変化の根 底にある。しかし、結果オーライとはいえ、こういう画期的な製品を輩出する 企業文化とは、本当に偉大なものだ。一朝一夕には生まれない企業のDNAが、 そうさせる。遺伝子が根付いている。 ● しかし、その後ソニーは、家電メーカーから金融や映像ソフトに至るま で、「事業拡大」のプロセスを突き進んだ。保険会社や銀行、レコード会社や 映画会社、映像ソフト会社までも傘下に連ねる一大企業になった。その結果、 経営の多角化に伴って、扱うプロダクトラインが大幅に広がり、広範囲な業務 管理や企画能力を必要とするようになった。 <変質した企業文化のリセットは難しい> ●企業文化が、当初の「技術のソニー」から少しずつ変質したのは、このあた りからだ。それがきっかけとなって、企業文化の変容が組織全体に大きな影響 を及ぼすようになり、かつての「技術のソニー」の企業文化は、次第に存在感 を薄めることになった。経営の多角化が招いた古き良きソニー文化の変化に多 くの人は気づいていたはずだ。 ●では、多くの人が気が付いていた「企業文化の変容」の流れを変えることは できなかったのか。最大の原因は、株主の求める企業価値を大きくする、その 方法を間違ったことだ。経営者の期待される役割が、企業の所有者である株主 から預託された経営資源を有効に活用して、企業価値を極大化することだと、 勘違いした。 ●企業の所有者が株主であることは、論理的には正しいが、問題はその方法論 だ。ソニーのケースで言えば、世界的なブランドを確立した後、事業を外延に 向かって拡大した。当時の経営者は、「そうすることが最も有効な経営戦略 だ」と認識していたのだろう。それによって同社の戦線は拡大し、特定の事業 分野に対する依存度は低下することになった。 <拡大しては切り捨て集約することを繰り返す> ●そうこうしているうちに、アップルがiPodを世に出した。本来、こういう製 品はソニーが手がけるべきものだろう。しかし、そちらに経営資源はフォーカ スしなかった。かって、K社がペンタゴン経営と称して多角化をして、最終的 には産業再生機構のお世話になった。事業の多角化が間違っていたとは思わな いが、止める事業も同時に決めないといけない。 ●そして、本来の自社の強みは何かと、再度足下を常に見つめることを怠らな いことだ。成岡も以前に在籍していた出版社で、無計画にジャンルを横に拡大 し、一敗地にまみれた。戦線の拡大は悪くはないが、一定期間に見直してリ セットをかけることが必要だ。反省し、レビューして、作戦を練り直す。いい ときに、しっかり総括する。 ●あの、世界の一流企業のソニーですら、こういう至極当たり前のマネジメン トサイクルが、きちんと回らない。いろいろな事情があるだろうが、トップが 決断しないことには、企業文化は変わらない。好調の時に危機感を抱き、次の 手を果敢に打つ。撤退や中止の決断も、立派な経営判断だ。そして、そもそも の自社の企業文化の原点を強化する。