□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第276回配信分2009年08月10発行 赤字の責任は経営トップにある 〜他人のせいにしていては業績は回復しない〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●巷の経営書には、よく赤字は悪であると書いてあることも多い。確かに、企 業経営をしていて、赤字にはなりたくない。赤字とは、売上から諸般のすべて の費用をマイナスした結果だから、それが赤字だと、1年間頑張ったことが、 結局何もならなかったということになる。もっとも、経営の状態にはいろいろ なことが起こるから、いつも同じ状態で経営できているわけではない。天変地 異も起これば、今回のインフルエンザのように、どうしようもないこともあ る。予想ができないことも、ままある。 ●リスクマネジメントとは聞こえがいいが、危機にどう対処するかは経営者の 考え方次第だ。常に備えよ、も正しいが、本当にいつ来るか分からない天変地 異に常時完全な形で備えるのは、難しい。故事に「杞憂」というフレーズがあ るが、もしかしたら天が落ちてくるかもしれないと心配して備えるという意味 だ。無用の心配ということだろうか。かように、危機に備えるというのは難し い。そのリスクの頻度と影響の大きさを推測しないといけない。場合によって は、何もしないというのも正しい答えかもしれない。 ●「予防に勝る対策なし」。「備えあれば憂いなし」。理屈はわかっている が、ことはそう簡単ではない。特に、企業が順調で成長していると錯覚してい る間は、ほとんど手を打てていない。脳天気に、利益をどう使おうかと思案し ている。未来に向けて積極的に投資をしていかないといけない時期に、飲食や 遊興に、利益を浪費する。いつかは、そのつけが出てくるのだが、そのときは 分からない。投資より消費、消費より浪費が始まる。順調なときに、次の対策 が打てている企業が、必ず成長する。 <売上はそもそも変動するもの> ●売上の減少に歯止めがかからない。一生懸命努力をしているように感じる が、全然効果がない。効果が出る前に、売上の減少の速度が大きいから、プラ ス要因よりマイナス要因が大きいから、差し引きしてマイナスになる。今まで もぎりぎりで利益が出ているような企業、つまり損益分岐点が高い企業は、少 しの売上の減少で赤字に転落する。実際に商売をしていれば、10%くらいの売 上の減少は当然のごとく起こり得る。ずっと右肩上がりなどというビジネスは 昨今では、ほとんどお目にかからない。 ●しかも、昔に比較してその減少の割合と速度が速い。あっという間にどんど ん売上が目に見えて落ち込んでいく。ぼやぼやしていると、毎年10%以上売り 上げが低下すると計算上5年くらいで半分の規模になる。当然売上が減少して いく間は、赤字になるだろう。なかなか下げ止まらない。3年間赤字が連続す るとその事業部をとりつぶすという社内ルールを作っている企業もある。2年 目で手を打って、3年目で効果が出て黒字化する。ようやく、単年度黒字に なって、それから過去のマイナス分の取り返しが始まる。 ●赤字の元凶が何であるのかをきちんと把握しておくことは極めて大事なの だ。単に一過性で売上が減少したのか。今年度だけ特別に費用がかかったの か。将来を考え、多くの新入社員を採用したからなのか。意図的に投資や費用 をかけて、何か大きなアクションを取って、その結果赤字になったというな ら、それはそれで理由が明確だ。一番困るのは、原因がどこにあるのか、わか らない企業なのだ。いや、もっと辛口に言えば、社員は気が付いているが、 トップが把握していない場合が多い。 <赤字の原因を徹底的に探す> ●健全な赤字の事業部を持つことも、ある意味大事なことだ。すべての事業部 が順調なら、そのうちどこかの部門の賞味期限が切れておかしくなる。そのと きに、将来に向けて備えておく事業が必要なのだ。最初は投資期間だから、多 少の赤字には目をつぶる。赤字の原因がはっきり分かっている場合は、ある意 味いいのだ。問題は、どこが悪いのか分からないというケース。製品なのか、 事業部全体の構造なのか。また、探す方法が見つからない。どうしていいか分 からない。 ●細かいデータがないというケースもある。過去にはそんなことは気にもしな かった。世の中がずっと右肩上がりだったから、それに適当に対応していれば よかった。得意先が勝手に成長していたから、それに併せて成り行きで対応し ていれば、毎年売上が伸びてきた。ところが、どっこい、最近は全く様変わり した。得意先の成長も望み薄。自社での努力を怠ってきたから、さあどうしよ うとなっても、効果的な対応策が出てこない。そもそも、企業の中にそういう 空気、雰囲気がない。みんなのんきにしている。 ●赤字の原因の事業部や製品を探り出すには、相当な時間やエネルギーが要 る。事業部ごとに原価や費用を合理的に按分したり、配賦したりする仕組みが 要る。製品ごとに細かく配賦するには、相当に細かい作業が必要になる場合も ある。しかし、ここをいい加減にしていると、最後まで原因が特定できない。 最悪は、違う原因を一生懸命つついて、一番優先的に手を打たないといけない 部分を通り過ぎてしまう。個人的にいやな思いをする場合も出てくるが、そん なことを言っている場合ではない。 <すべてはトップの責任と覚悟する> ●赤字の原因を他人に転嫁するのは簡単だ。誰それが悪かった、世の中が悪 かった、自民党が悪かった、小泉が悪かった、市況のせいだ、業界が悪い、最 後には消費者が悪いということになる。では、それがどうしたというのか。他 人のせいにしていてどうなるのか。その環境でも立派な業績を挙げている企業 もあるではないか。もっと悲惨なのは、従業員や役員のせいにする。営業が悪 い。製造部門が悪い。管理部門が悪い。あの常務が能なしだった。魔女狩りの ように、極悪の犯人探しが始まる。 ●しかし、従業員や役員のせいにしても、その役員を選んだのはどなたか。従 業員を採用したのは、誰か。最終は、すべて企業トップの責任ではないか。 トップという地位は、何があっても最後の責任をとる立場なのだ。だから、企 業の代表者なのだ。最後の尻拭いは全部自分がする。業績悪化の責任は、すべ て自分にある。そこから反省が始まらないと、企業の成長や再建はあり得な い。他人のせいにしている間は、成長は止まっていると考えた方がいい。むし ろ退歩しているかもしれない。 ●赤字の解決は、トップがすべては自分の責任と覚悟したときから始まる。そ こから始まると対応は早い。それが、他人のせいにしているうちは、どうも解 決に時間がかかる。まずは、原因を探すことから始まるが、原因が何にせよ、 最終の責任は全部わがことにある。世の中のせいにしても、結局どうしようも ない。愚痴を言っても始まらない。いつかは景気が良くなるだろうという「春 待ち型」の経営をしていても始まらない。いつかは「春」は来るだろうが、未 来永劫に、あなたの企業に「春」は来ないこともある。