□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第282回配信分2009年09月21発行 インフルエンザ対策はできているか? 〜現実に起こったときは大丈夫か?〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●先日、O大学の職員の方々に向けて「危機管理・リスクマネジメント」の研 修講師をさせていただいた。一般企業向けのこのテーマの研修はいろいろとさ せていただいたことがあるが、大学職員の方向けにはあまり経験がない。従っ て、今回は相当事前の「仕込み」を行った。いろいろな資料を調べるのはもち ろんのこと、このテーマを専門的に研究している大学の先生にもお目にかかっ た。おかげで、当方も随分勉強になった。新しいテーマに取り組むのは大変だ が、それはそれで意義がある。 ●一番関心の高いテーマは、何といってもインフルエンザ対策だった。それ も、時期的にこれから後期の授業が始まり、さらに秋口から入学試験、選抜試 験が始まる。そして年明けから、さらにセンター試験や本番の入学試験が続 く。ここが一番の正念場なのだ。入試を担当される部署の職員の方も、もちろ ん参加されていたが、何となく真剣さ、顔色が違っていた。その責任の重さ と、ことの重大さが、ひしひしと伝わってきた。ぴりぴりしたものがあった。 ここで何か起こると致命的だから。 ●最近、東京でも某損害保険会社がこの内容に関するセミナーを開催したら、 ものすごい人数が集まったという。今年の秋の大流行の兆しを受けて、他人事 ではなくなった。ここで対応を間違うと、企業や組織にとっても致命的なこと になりかねない。先日、NHKTVで首都圏直下の大地震の番組を放送していた が、企業ではBCPを作成している企業がまだ少ないと言っていた。BCPとは、 Business Continuity Plan の略だ。日本語に訳せば、「事業継続計画」と なる。あまり納まりのいい表現ではないが。 <経営への影響を最小限にする> ●3文字熟語だから、何か非常に難しいことのように思えるが、決してそんな ものではない。至極当たり前の危機対策なのだ。しかし、転ばぬ先の杖という 諺にもあるように、ことが起こってからさあどうしようと慌てても遅い。平時 に十分に対策を考えておく。そして準備をしておく。そして訓練をしておく。 徹底をしておく。情報共有をしておく。備えあれば憂いなし。中小企業は、特 に社員の人数が少なく、仕事が個人単位で割り振られているので、単に一人が 休んだだけで、機能不全を起こすことが多い。 ●段階的には、優先順位をつけて次のように考えるのが、妥当だ。 (1)従業員の感染防止を最優先にする (2)発生段階に応じて複数班による交代勤務体制を編成する (3)業務によっては在宅勤務で対応する (4)流行時期における代替要員の確保を行う (5)中核事業は一定レベルの操業度に落として継続する (6)流行が収まってきた時点で早期に正常な操業に復帰する ●事前にこのような対策を考えていない企業や組織は、対応が後手後手に回 り、流行の拡大に伴い感染による従業員の欠勤が増加し、徐々に操業度が低下 する。そして最悪は事業の停止に追い込まれる。事業の停止だけで済めばいい が、その間競争相手は操業を続けていると、大事な得意先が他社にとられるこ とになる。そして、一度離れた得意先は、なかなか戻ってこないのが普通だ。 これを機会に、自社のシェアが格段に低下する。そして、最悪は、流行が終 わったときには経営の継続が難しくなる。 <対策の立て方> ●まず、企業や組織として優先的に継続する事業と、一時的に休止してもいい 事業とに分別する。 (1)継続すべき事業は何か (2)その事業を継続するために必要な業務は何か (3)制約を受ける経営資源は何か (4)その代替手段はあるのか、ないのか (5)その際の資金の手当てはできるか、できているか ●継続すべき事業を中核事業と表現することが多いが、何が中核事業で何が中 核事業でないかを分別することが意外と難しい場合が多い。非常に単純に、単 一の事業だけを営んで、誰が見てもこれが中核事業だという企業はそれでもい いが、複数の事業を営んでいたり、事業所が複数あったりすると意外と難し い。また、社員も立場によっては判断の基準が異なる。実際には、経営幹部が 相談し、売上高、取引関係、将来展望などの観点から検討し、具体的に特定す る。 ●ただし、単純にある事業を縮小継続し、他の事業を停止するという単純には いかない場合がある。すべての事業規模を縮小し、継続しないとそれぞれが有 機的に結びついている場合もある。要するに、制約された条件の下で営業を継 続するためにはどうすればよいか?という命題にどう答えを出すかだ。これは 企業の実情によって回答は異なる。 <経営者のリーダーシップの発揮が大事> ●なにせ有事なのだ。平時ではない。戦闘モードに突入している状態だ。周囲 の他社も同じ状態だ。ここでの対応を間違うと、致命的なことになりかねな い。ここは、とにかくトップがリーダーシップを発揮する場面だ。決断が必要 な場面が続出する。受注の維持、原材料の手配確保、在庫の管理、物流手段の 確保、支払や決済手段の確保など、いろいろな要素を総合的に勘案し、果敢に 意思決定することが必要だ。どうしよう、どうしようと迷っている場合ではな い。平時から検討しておかないといけない。 ●特に、従業員の出勤状態の確認をきちんと行う。誰が出てこれるのか。も し、中核の社員の欠勤が長引くことも想定される。中小企業は人数が潤沢では ないから、数名の社員の欠勤でもこたえる。もし、トップがそうなったらどう するのか。誰が代わりに陣頭指揮が取れるのか。Aさんが休んだら、全くその 業務のことが分からないという中小企業は、意外と多い。机の中も、サーバー のフォルダーもファイルも、全く分からない。完全にお手上げ状態になる企業 も多いはずだ。 ●BCPというと何となく難しいが、要はインフルエンザの流行という異常事態 に対し、いかにして事業を継続するかということだ。何もインフルエンザだけ には限らない。先日のNHKTVではないが、大地震なども十分想定できる。異常 事態は異なるが、とにかく業務を透明にし、可視化し、誰が見ても分かるよう にすることが必要だ。Aさんがいないと何も分からないでは、始まらない。こ れをいい機会に、一度社内の業務を点検してみる。異常事態が起こってからで は遅い。予防に勝る治療はないからだ。