□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第295回配信分2009年12月21日発行 おもてなしの心がサービスの原点 〜究極の接客は教育と研修から〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●先週のNHKの番組「るそんの壷」で、最近躍進著しい居酒屋チェーンの紹介 があった。ご覧になった方もあるかと思うが。そのチェーン店の名前は「ちり り」という。実は、京都の弊社オフィスの近くにもあり、以前に利用したこと がある。こういう居酒屋を、天下のNHKがビジネスの番組で堂々と紹介するの は、非常に稀だし、珍しいことだ。よほどの理由がないと、放送しないはず だ。それが日曜日の朝8時という、比較的早い時間の番組だったが、これすべ てこの企業のよいしょ番組なのだ。 ●この番組は主として関西に在住する企業で、非常に特徴的な、かつ革新的な 事業を展開している企業を紹介する。大企業もたまにはあるが、多くは中堅中 小企業で、そのユニークな活動は、非常に参考になる。以前は放映範囲が関西 に限られていたが、最近では番組の評判が高いのか、徳島、福井なども放映の 地域に入っている。紹介する企業は、当然放映地域の中小企業だ。番組の時間 は25分間でそう長くない。土田アナウンサーと男性のコメンテーター、取材の 女性レポーター、そして当の企業の社長さんが登場する。 ●放映が関西に限定されているとはいえ、天下のNHKが堂々とその企業の特徴 や差別化された企業活動を、全編これよいしょで放送する。これほどの企業広 告はないし、これに勝るパブリシティはないだろう。これに取り上げてくれた ら、数億円くらいの広告宣伝価値があるだろう。現に、京都では久御山の中小 企業でも、この番組で紹介され、その後訪問や問い合わせの客数が圧倒的に増 加した。やはりテレビの影響力は、改めてすごいものだと感心した次第だ。全 部が結果には結びつかなかっただろうが。 <銀行の対応> ●先日弊社の銀行通帳を記帳すると、全然思い当たらない入金振込み1,240円 が記帳されていた。しばらくほっておいたが、気持ち悪いので該当を探した が、どうも思い当たるふしがない。仕方ないので、口座のあるMS銀行の支店に 電話して聞いてみることにした。珍しく夕方オフィスにいたので、16時くらい だったろうか。かかった先は、そのMS銀行のコールセンターだった。お客から の問い合わせなどを一手に集中してさばいているセンターなのだろう。その出 た女性のオペレーターに用件を伝えた。 ●そうしたら当然口座のある支店に転送することになった。しばらくの呼び出 し音のあとで、その支店の担当の女性が出た。そして、曰く「お客様のご用件 はなんでしょうか?」と聞いてきた。「さっきコールセンターの出た女性に細 かく丁寧に全部説明しました。聞いてくれていませんか?」と聞いたら、振込 みの問い合わせだとだけ反応した。こちらは、長い時間かかって、用件を細か に伝え、やっと該当のところに回ったかと思ったら、また初めから用件を言え という。俄然、頭に来た。 ●きちんと聞いていないのかと質問したら、どうも全然伝わっていない。頭に きて、上席の男性を出してもらい、マニュアルやシステム、スクリプトの有無 などを問い合わせたが、全然要領を得ない。いったい教育や研修はどうなって いるんだと、疑いたくなるような状態だ。馬鹿らしくなって、いいかげんに 切ったが。これくらいお客を馬鹿にした話はない。全然顧客目線になっていな い。お客の立場に立って全然考えていない。むしろ、MS銀行のほうが探して やっているという態度を感じた。これでは、ダメだ。 <るそんの壷で紹介された居酒屋では> ●TV番組の放映なので、多少割り引いても、この居酒屋の教育やおもてなしの 接客サービスは、非常に素晴らしい。まず、何よりも徹底した顧客目線に立っ ている。お客が満足を通り越して、感動するくらい心をこめたサービスを提供 する。所詮居酒屋だから、どこも同じだと思っていたら、大間違いだ。主役は アルバイトの女性たち。お客が比較的年齢の近い女性が多いという事情はある が、彼女たちへの企業側の教育も素晴らしい。社長が自ら講師になり、千利休 のおもてなしの心から講義する。 ●入り口から入ったところにわざと段差をつけ、従業員が丁寧にお客に危険を 説明する。そのための仕掛けなのだ。トイレを尋ねられたら、必ず前まで誘導 する。お客の一人が当日誕生日だと聞いたら、さっそくデジカメで撮影のプレ ゼントをする。原価を割ってでも喜ばれるスイーツを開発する。お客の一人が 風邪気味だとの会話を聞きつけたら、生姜湯のサービスを無料でする。評判の スイーツの大きなお皿に、従業員独自の判断でチョコレートに気の利いた文字 を即興で書いて出す。大喜びされる。 ●これは全部マニュアルに書いてあるのではない。実は、ほとんどその場その 場の従業員の判断で行っている。そのために、たかがアルバイトではない、徹 底した教育と訓練。それは、本当にそこまでやるかというくらい徹底してい る。社長さんは40歳すこし過ぎたくらいでまだ若いが、たいしたものだ。大手 の居酒屋チェーンと対等に伍してやっていくには、何が大事かと一生懸命考え た末に、差別化の原点はおもてなしの接客サービスだと気が付いた。そして、 そこに経営資源を集中投下することに決めた。 <銀行と居酒屋の極端な差はなんだろうか> ●かたやお客をぞんざいに扱う金融機関。お客をお客と思わない、その態度。 かたや徹底しておもてなしに徹する中小企業の居酒屋。この歴然とした差は いったいどこから生まれるのだろうか。それは、一重にトップの、企業の姿勢 そのものだろう。MS銀行のことばかりこきおろして申し訳ないが、金融機関は ここ10年間、合併、合併を繰り返し、支店の統合、廃合を繰りかえしてきた。 そのため、非常にアンバランスな状態が生まれ、旧●●銀行系の支店と旧△△ 銀行系の支店とが統合されている。 ●企業風土、文化の違いは、そう簡単には溝は埋まらない。そこもひとつの大 きな問題点だ。かたや、中小企業から出発し、先発大手の企業を目標に、ひた すら自社の特徴に磨きをかける中小企業がある。社長が自ら先頭に立って、ア ルバイトの従業員の教育に、とことん情熱をかける。従業員の教育をしようと 思えば、講師も実践の経験が必要だし、なにより自分で一生懸命勉強しないと いけない。このトップの偉いのは、それを他人任せにしないことだ。自ら率先 し、実行する。 ●採用したあとは、配属した部署の責任だと言わんばかりに、ほったらかしに する企業も多い。東京ディズニーランドも、この居酒屋チェーンも、アルバイ ト女性の応募が多いという。ここで働いていましたということが、その人の誇 りになるような、そんな企業を目指したいものだ。それが、世間で言うブラン ドであり、お客が感動し、それを周囲に伝え、聞いた人が誰かに伝える。まさ に、接客サービスの原点はおもてなしの徹底した心がけなのだ。京都で代々老 舗と言われる企業も、実はこれで生きている。