□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第301回配信分2010年02月01日発行 事業承継成功の秘訣シリーズその3 〜資産内容を良くしておくことが必須〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●ご子息であれ、親族であれ、従業員であれ、特に創業経営者から次の経営者 へのバトンタッチほど難しいものはない。まして、創業経営者がやり手で、一 代で創業し築き上げ、財をなしたとなると、さらに状況はやっかいだ。企業経 営者の一代は、だいだい30年前後だから今から遡る30年前、つまり1980年とい えば、昭和は55年。48年のオイルショックをやっと抜け出して、なんとか成長 軌道に戻った時代だ。さあ、これから成長するぞという実感が、非常に身近に 感じられた時代だった。 ●そういう時代背景の下に創業社長が会社を設立した。当初は大変だったが、 当時勤務していた会社も成長軌道に乗っていたし、世間全体がそうだった。頑 張れば頑張っただけのリターンがあった。汗をかけばかいただけの果実がゲッ トできた。とにかく、得意先も成長したから、その後ろを必死になって追いか けた。追いかけて、追いかけていれば、気が付けば自社も同じ成長軌道に乗っ ていた。失礼ながら、あまり難しいことを考えなくても、ひたすら前を向いて 走り続けていればよかった。 ●そして、10年くらい経ったときが昭和の終わり、平成の始まりだ。昭和天皇 が亡くなり、世は平成へと移った。まだバブルの時代だったから、どんどん資 産価値は膨らみ、土地を始めとする資産価値は上昇していった。そういう時代 のときは、金融機関はどんどんお金を貸した。お金で不動産などを買わない と、馬鹿にされた。曰く、他社はみなさん投資をしていますよ。おたくも乗り 遅れないようにしてくださいと。そんな言葉が常識でまかり通る世間一般の風 潮だった。成長から膨張に移っていた。 <借りてものを買ってもいずれは返済できる> ●簿記や貸借対照表を見る力のある方ならお分かりと思うが、左側の総資産と 右側の負債と自己資本を加算した合計は、必ず一致する。そうすると、お金を 借りた分は負債だから、何かを買ったらそれは形を変えて何かの左側の資産に 化ける。たいていその時代は、固定資産つまり土地や建物、不動産、ゴルフ場 の会員権などに形を変えて会社の資産となった。数年くらい持っていれば、バ ブルの時代だから必ず資産価値は上がった。その時点で売却すれば損はしな い。そんな単純な図式が横行した。 ●借入れの反対語は返済だ。投資の反対は配当、またはリターンだ。借りたお 金は、利息も要るが必ず返済が伴う。当時は返済は心配なかった。なので、本 業と関係ない不動産や固定資産に投資した。会社の資産が増えることは、必ず しも悪いことではないが、それは本業と無関係でははなはだ困る。筆者が在籍 し役員をしていた出版社でも、私募債を発行してまで14億円で本社ビルを購入 した。当時は、それが当然のごとくで誰もそういう投資を疑問に思わなかっ た。筆者も結果的に役員会で賛成した。 ●その借入れの返済が始まったときに、その重たさがずっしりとのしかかっ た。本社ビルが美しくなって、従業員はハッピーになったがはたしてそれがど のくらい生産性特に、出版社だから知的生産性の向上に寄与しただろうか。は なはだ疑問だが、当時は大真面目でそれが正しい選択だと考えた。金融機関 も、どんどん資産価値を増やすことに手を貸した。どうぞどうぞと、どんどん お金を貸してくれた。お互いに返済は間違いなくできると、信じていた。ま た、そうでなかったらそんな金額を借りるはずもない。 <いずれ返済できるが返済できないときどうなるか> ●返済できなくなることを想定していないから、全然対策を考えていない。会 社は必ず成長(膨張)すると信じているから、いつかは返済の原資、キャッ シュが生まれると考えている。ところが、環境が変わるとそうはいかない。成 長が停滞になると、途端に資金繰りが苦しくなる。現金商売のビジネスもそう だ。流通、スーパー、デパートも同じだろう。お客様が現金で買ってくれてい るうちは、お金は回るがいったん収縮局面に入ると、逆の循環になる。現金が 入ってくるから錯覚する。 ●重たい資産を重たい借入で充当すると、事業規模を収縮するときに、たいへ ん困難を伴う。個人の生活で言えば、住まいの規模を小さくするときだ。転勤 や異動で引越しを限りなくしたが、広い所へ引っ越すのは簡単だ。たいていの ものは、そのまま持っていける。しかし、狭い所へ異動するのは大変だ。3割 くらいのものを捨てないと、入れないし置けない。となると、重たい、大き な、広い資産を持っていると身動きとりにくい。外部からの資金=借入で買っ た資産を、捨てていかざるを得ない。すごいムダが発生する。 ●そんな状態を想定して借入を行い、資産を増やしていないから、そんな場面 になるとどうにもならない。昔、筆者が免許証を取って自動車産業が成長した 時代は、車を買い換えるときは、ほとんど次は大きなサイズの車を買った。こ ういうのを、当時は「乗りあがり」と表現した。会社も同じで、次は必ず大き くなると錯覚した。なので、借入を増やしても資産を増やした。そういうとき に、人材や将来の知的資産の充実に投資をしていれば、今はこんなことをして いなかったかもしれない。しかし、全部、「れば」「たら」の世界だ。 <分相応の資産と負債> ●事業規模、売上、キャッシュフロー、人的資源、将来ビジョンなどから考え て、どれくらいが自社の事業規模、総資産であるかは重要な数字だ。しかし、 創業経営者の方は、上述のような環境で創業し、事業規模を拡張してきたか ら、総資産より売上規模なのだ。事業価値は規模を大きくすることだった。そ のために借入を行い、個人保証を付け、連帯保証をしてまで、借金をして会社 の規模を大きくした。その後始末が出来ていない状態で、後継者に承継すると なると、かなり難儀だ。 ●承継される側は、なんでそんなに借金が多いの?と単純に考える。売上以上 の借入金がある会社は、ごろごろたくさんある。もっとひどい企業では、売上 の2倍くらいの借入金がある。もっとも、中小企業は社長が個人で大きな個人 資産を持っていて、それを担保に提供しているケースもあり、金融機関からす れば保全されているのだ。しかし、後継者はそうはいかない。さて、事業承継 が迫ってきて、この保証の問題や担保の提供の問題を解決しないと前に進まな い場合がある。非常に困った課題だ。 ●考えてみれば、そういう状態にした後で、後継者に資産も負債も承継しない といけない。個人財産の相続の問題も発生する。スムースに引き継ぐために は、事業の分相応の資産であり負債であるべきだ。膨張したつけの多額の負債 を、後継者の双肩に押し付けるのも、いかがなものかと思う。事業の魅力も必 要だが、現状の負債を軽減しておかないと、誰も引き受けてがないという最悪 の事態に陥る。京都の老舗は、その点偉い。あまり規模の拡大を追わずに、 粛々とやってきた。それが正解だ。