□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第303回配信分2010年02月15日発行 事業承継成功の秘訣シリーズその5 〜可愛い子にはカネの苦労をさすこと〜 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ <はじめに> ●事業を、会社を引き継いで一番不安で心配なのは、カネの問題だろう。簡単 に言えば、資金繰りであり、資金調達の問題だ。いくら会社の株式を後継者本 人に集中しても、現実の資金繰り、資金調達がうまくいかなければ、あっとい う間に会社は存続の危機に瀕する。おそらく、ご子息に、あるいは一族のどな たかに事業を承継するときの、一番の大きな問題、課題は、このカネに関する 不安、疑問、心配をどう払拭できるかだ。しかし、多くの中小企業では、これ がうまくできないから、ぎくしゃくする。 ●ふたつ問題があって、 (1)現在の社長が後継者にカネに関する教育をきちんとしてこなかった (2)後継者と目される人もカネに関してはノーテンキで関心を持たなかった こういう状況が現実には非常に多い。そして、いよいよ事実上の事業承継とい う段階になってから、大いに慌てる。しかし、教育という抽象的なものは、そ う簡単に結果は出ない。また、承継されるほうにもそんなにこの分野に関して 知識や実戦経験があるわけではないから、右往左往するしかない。そして、お 互いにフラストレーションがたまったまま、その日を迎える。 ●現場の作業や段取り、人の手配や技術的なことに関しては、昨今の若い方の ほうが、飲み込みは早いし手も器用だ。そして、何よりもITに詳しい。メール もすかすか出来るし、人によってはCADやCAMも駆使できる。また、ご自分で ホームページの簡単な更新くらいはできる。一方、現在の60歳を超える社長さ んは、依然として電話かFAXでしか連絡がつかない。お互いにすれ違い、すれ 違いが続くと双方にイライラが溜まる。そして、情報の共有ができなくなり、 最後は人間関係もおかしくなる。 <理屈では分からないカネの苦労> ●現在の社長も、実際の資金繰りは番頭さんか奥さんし任せている場合も多 い。また、一族ではないが優秀な専務さんか常務さんに任せている場合もあ る。しかし、大半はご自分で銀行と掛け合い、足りなくなったときは自分のお 金を投入し、それがたまって役員借入金という形で貸借対照表に載っている。 実際、これは中小企業では自己資本勘定と同じなのだが、決算書ではそうはな らないので、大きな債務超過に見えてしまう。毎月、毎月月末近くになると、 経理担当者に今月はいくら足りないのかを聞いている。 ●一方、息子さんのほうは現場の仕事が忙しい。今日の段取り、明日の段取り に追いまくられ、そう簡単に時間を空けられない。目先、目先の売上にアテン ションが行っていて、会社全体の資金がどう、お金がどう、今月いくら足りる の足りないのということは、気にはなれど、実際自分が何ができるかといえ ば、ほとんど無力であることを知っている。なので、心配ではあるが現実には 逃避せざるを得ない状況に身を置くことになる。周辺も気を遣って、そう簡単 に情報を伝えてくれない。 ●じっさい、20日くらいになってくると月末の資金繰りに胃が痛む毎日が始ま る。給料の手当て、月末の支払い、手形の決済、売掛金の回収など気が休まる ことがない。資金繰りに心配のない会社は、この時期に社長が営業活動や社内 の改善、改革に十分な時間が取れて対策が打てる。かたや、月末に向けてトッ プの関心は、お金の心配、この一点に集中する。どちらの企業が今後の伸びし ろがあるかといえば、それは一目瞭然だ。これが、毎月毎月継続すると、たち まち大きな差が付いてくる。非常に辛い状態だ。 <カネのことが出来て初めて経営者> ●創業社長が会社を興した昭和40年から50年後半くらいは、オイルショックが あったとはいえ、日本全体の成長が確実に読めた時代だった。少々無理な投資 をしても、数年先には必ず回収できる自信があった。それが、いまはどうだ。 ちょっとした投資でも、資金がないからできない。業績を伸ばそうとすると、 まず資金が必要だということが理解できていない。なので、現実の資金手当て の目処がなく、売上が増加する計画が堂々と出てくる。この資金はどうして調 達しますか?という質問に答えられない。 ●とにかく、事業と資金とは、切っても切れない関係にある。両者は一体で考 えないといけない。しかし、その経験がないと本当にぴんと来ない。よって、 この解決策は月末の資金繰りを自分で乗り切る経験をするしかない。経験を積 まないうちに、いくら現在の社長が後継者にレクチャーしても、おそらく理解 できない。肌感覚で実体験として会得するしかない。こういうことに気をつけ ないといけない。こういうことに手を打っておかないといけない。こういうこ とはしてはいけない、などなど。スポーツと同じで理屈より現場だ。 ●しかし、一定の理屈も必要だ。勉強して、いくぶんか知識を持っていない と、それこそ暗闇での手探り状態になる。筆者も一時期だが親会社の役員をし ながら、子会社の社長を数年していた。しかし、これは勉強にならない。親会 社が資金の面倒を見ていたから、心配なく資金調達は出来た。だから、この ケースは勉強にならない。本当に資金繰りのことがわかるのは、自分自身で予 測し、調達し、支払い、回収する、返済する。そういうことをどれだけ現場感 覚を大事にしながら経験したかということだ。 <はやくカネの現場に自分の足で立つこと> ●売上のこと、利益のこと、材料の手配段取り、現場の人のやりくり。そいう ことは、事業の仔細だからノウハウの承継もやりやすい。しかし、経営で一番 肝心なお金のこと、特に収支の見通しと資金繰りに関しては、びっくりするく らい次代の後継者が無知と経験の乏しいことに、愕然とすることが多い。一番 の教育は、実際に自分でバッターボックスに立つことだ。バットを自分で振る ことだ。実戦経験がないと分からない。いくら練習場で真っ直ぐに球が打てて も、本番のコースではなかなかそうはいかない。 ●経営には、突然の予定外の出来事も多く飛び込んでくる。あてにしていた入 金が土壇場で先送りになることも多い。昨今の経済環境だから、得意先が上場 企業だからと安心していては危ない。受取手形も簡単に金融機関で現金化でき るとは限らない。安い原材料が倒産会社の倉庫から大量に売りに出されること もある。買うチャンスだが資金の目処が立たないから買えない。そうこうして いるうちにビジネスチャンスを逃す。そういう例が、実にビジネスの現場には 多く存在する。だから、カネのことを修得しないといけない。 ●当月の月末での資金予測も重要だが、半年先、1年先も大事だ。今日は何と かなっても、未来が不安だらけではいけない。どうもそちらに注意が向くと、 現場の仕事が疎かになる。そのうち、大きな案件を失注したり、ポカが起こ る。それが最悪クレームにつながる。大事なことは、早くカネの実戦経験を積 むことだ。しばらく、月末の資金繰りに関し自分でやってみる。保護者のいる 間に実際やってみる。実際にやってみると、いかに入金の予測が難しいか理解 できるはずだ。出て行くカネは読めても、入ってくるカネが読めない。そんな 単純なことも、わかるはずだ。